法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「iPhone 16e」、幅広いユーザー層の期待に応えられるか?
2025年3月21日 00:00
ようやく登場した「iPhone SE(第3世代)」の後継モデル
ここのところ、スマートフォンを選ぶうえで、今まで以上に考えなければならないのが『価格』だ。コロナ禍による混乱や半導体不足、物流コストや人件費の増加など、さまざまな要因の影響によって、あらゆる商品の価格やサービスの料金が高くなっているなか、スマートフォンもこれらの影響を受け、価格が高騰し続けている。
なかでもハイエンドやフラッグシップと呼ばれるクラスのモデルは、20万円前後以上が当たり前になりつつあり、各携帯電話会社が提供する『端末購入サポートプログラム』がなければ、なかなか購入できないのが実状だ。『端末購入サポートプログラム』は、クルマ業界で言うところの『残価設定ローン』と同様のしくみで、1年や2年といった一定期間が経過したとき、端末は各携帯電話会社に返却しなければならず、スマートフォンのサービスを継続して利用するには、再び、いずれかの機種を購入する必要があり、ユーザーの負担感は意外に大きい。
こうしたなか、各社はミッドレンジやエントリー、準フラッグシップなど、さまざまな価格帯の製品を充実させ、ユーザーのニーズに応えている。しかし、国内で半数近いシェアを持つアップルは、高価格路線を継続しており、普及価格帯と呼べる製品は、2022年に発売された「iPhone SE(第3世代)」を継続販売するのみで、各携帯電話会社やMVNO各社は安価に販売できるモデルとして、独自に調達したiPhoneの旧機種に頼らざるを得ない状況が続いていた。こうしたこともあって、ここ1~2年は「iPhone SE(第3世代)」の後継モデルを望む声が数多く聞かれ、どんな構成で普及価格帯のモデルが開発されるのかが注目を集めていた。
今回、発売された「iPhone 16e」は、こうした流れを受けて企画されたiPhoneの普及価格帯モデルになる。「SE」という名称こそ、受け継がれていないものの、実質的に「iPhone SE(第3世代)」の後継モデルに位置付けられる。製品の内容と評価については、本稿で解説するが、2024年9月に発売された「iPhone 16」をベースにしながら、アップルが今年4月から国内向けにも日本語対応版を提供する計画のAIサービス「Apple Intelligence」をサポートすることを条件に構成されたモデルとなっている。ただ、普及価格帯を実現するため、ベースとなった「iPhone 16」からさまざまなハードウェアや機能が削除され、全体的に見て、『引き算のiPhone』となっている。この『引き算』の部分を消費者がどう評価するかが最終的に製品を選ぶうえでのポイントになりそうだ。
価格についてはアップルの価格が9万9800円(128GB)からで、各携帯電話会社はアップルの価格に比べ、10%程度、高い価格が設定されている。前述のように、端末購入サポートプログラムを利用することで、実質負担額をおさえられるが、今回は発売直前にソフトバンクとauがMNPでの販売価格で激しい競争をくり広げる一方、NTTドコモと楽天モバイルも価格設定を見直すなど、各社が「iPhone 16e」に寄せる期待感の高さをうかがわせた。
また、今回は主要4ブランドに加え、KDDIとソフトバンクの別ブランドであるUQモバイルとワイモバイルでも販売される。アップルの新製品が当初から別ブランドでも販売されるのは初めてのケースだが、これはUQモバイルやワイモバイルに価格重視のユーザーが多いことに加え、両ブランドが「iPhone SE(第3世代)」を数多く販売してきた実績も関係するようだ。
「iPhone 16」とほぼ同サイズのボディ
まず、外観からチェックしてみよう。ボディは「iPhone 16」をベースにしており、幅や高さ(長さ)、厚さのいずれも「iPhone 16」や「iPhone 15」と同サイズにまとめられている。重量は3~4gの軽量化を実現しているが、これは後述するMagSafe非対応やカメラの数などの影響だろう。全体的に見て、ボディを持った印象は「iPhone 16」などとほとんど変わらない。
一方、実質的な従来モデルである「iPhone SE(第3世代)」と比較すると、幅が4.2mm増、高さ8.3mm増、厚さ0.5mm増、重さ23g増と、ひと回り大きく、重くなっている。「iPhone SE(第3世代)」をどう評価しているのかにもよるが、コンパクトさを評価してきたユーザーにとっては、不満が残るだろう。もっとも『コンパクトなiPhone』としては、2021年発売の「iPhone 13 mini」、2020年発売の「iPhone 12 mini」があるものの、いずれも販売が奮わなかったことを鑑みると、アップルとして、『コンパクトなiPhone』という市場に見切りを付けたのかもしれない。ほかのプラットフォームでもコンパクトな端末は少なくなる傾向にあるため、『コンパクトなiPhone』を求めるのであれば、「iPhone SE(第3世代)」「iPhone 13 mini」「iPhone 12 mini」あたりを早めに確保しておいた方が良さそうだ。ただし、これらの3機種はいずれも外部接続端子がLightning端子なので、「iPhone 15」シリーズ以降、外部接続端子がUSB Type-Cに移行したことを考えると、機能的に制限が出てくる可能性も否定できない。
「iPhone 16e」のボディサイズは「iPhone 16」や「iPhone 15」とほぼ共通であるものの、ケース類は必ずしも流用できない。たとえば、両機種共、背面にデュアルカメラを備えているため、シングルカメラの「iPhone 16e」に装着すると、ケースのデザインによっては背面カメラの周囲が大きく空いてしまう。同様に、「iPhone 16」用ケースについても「iPhone 16e」には右側面にカメラコントロールがないため、この位置も穴が空いてしまう。長く使うことを重視するのであれば、きちんと「iPhone 16e」用のケースを選ぶことをおすすめしたい。
耐環境性能はIPX8準拠の防水、IP6X準拠の防塵に対応する。アップルが公表している「IEC規格60529にもとづくIP68等級(最大水深6メートルで最大30分間)」という表記は「iPhone 16」などと変わらないため、防水防塵については同等と考えて差し支えないだろう。耐衝撃性能についてはこれまでも仕様上、特に表記がなく、今回の「iPhone 16e」も同様だが、ここ数年のiPhoneはかつてのものに比べ、フレームにアルミやチタン合金を採用し、ディスプレイのガラスなどを強化することで、落下時の耐衝撃性能を向上させてきた。
以前は「iPhoneって、画面が割れてる人が多いの?」と言われることもあったが、「iPhone 14」シリーズのころから新機種に置き換わるにつれ、徐々に『割れやすい』『壊れやすい』という印象が薄れつつある。こうしたボディやフレームの強化が今回の「iPhone 16e」にも継承されていると推察され、従来の「iPhone SE(第3世代)」に比べれば、安心して使うことができそうだ。
バッテリーについてはアップルが非公表としているものの、海外の分解サイトの情報によれば、3961mAhのバッテリーが内蔵されていることが明らかになっている。この容量は「iPhone 16」の3961mAhよりも400mAhも多く、単純計算で10%もの増量が図られたことになる。この大容量化は「iPhone 16」がデュアルカメラであるのに対し、「iPhone 16e」はシングルカメラのため、バッテリーを装着可能なスペースが拡がったことに関係する。バッテリー容量が増加したことに加え、後述するモデムチップの変更の影響もあり、「iPhone 16」に比べ、ビデオ再生時間や音楽再生時間などが10~20%程度、ロングライフ化している。
今回、実際に数週間、試用した範囲でも全体的にバッテリーの持ちは良く、新幹線で移動中に動画を再生し続けていてもバッテリー残量の減りは緩やかだったので、バッテリーのロングライフは期待できそうだ。充電については本体下部のUSB Type-C外部接続端子とUSBケーブルで接続し、20W対応のACアダプター(別売)を使えば、約30分で50%まで充電できるとしている。最大7.5WのQi規格準拠のワイヤレス充電に対応する。
電源周りではワイヤレス充電規格の「MagSafe」に対応していないことに対して、不満の声が多く聞かれる。MagSafeは「iPhone 12」シリーズからサポートされている急速ワイヤレス充電技術で、背面に磁気で吸着するアダプターを接続することで、充電ができるほか、外付けバッテリーやカードホルダーなどを装着したり、車載ホルダーなどにワンタッチで装着することができる。MagSafeと互換性のあるワイヤレス充電技術「Qi2」もWPC(Wireless Power Consortium)によって標準化されたため、今後はプラットフォームを問わず、広く普及することが期待されている。
「iPhone 12」シリーズから4年半もサポートしながら、新製品でサポートしないのは些か不親切な印象が残るが、コストダウンのために非対応となったと見られる。ただ、「iPhone 16e」用の市販ケースにはMagSafe対応のものが販売されており、これを装着すると、MagSafe充電器や車載アダプターに装着して、充電できる。筆者も市販のMagSafe対応ケースで利用しているが、今のところ、実用上の不具合は起きておらず、MagSafe対応充電器からの充電もできている。
6.1インチSuper Retina XDRディスプレイを搭載
ディスプレイは「iPhone 16」や「iPhone 16 Pro」と同じ6.1インチのSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)を搭載する。対角サイズは同じながら、解像度は2532×1170ドットで、「iPhone 16」に比べ、縦方向で24ドット、横方向で9ドット、狭くなっている。おそらく額縁のサイズがわずかに大きい「iPhone 14」と同じ構造のディスプレイを搭載しているからだろう。ディスプレイの仕様としてはコントラスト比こそ、「iPhone 16」と変わらないものの、最大輝度やピーク輝度は「iPhone 14」に準拠しており、「iPhone 16」などに比べると、やや明るさが低く、色合いも少し違うように見える。
「iPhone 14」とはディスプレイの上部にノッチ(切り欠き)が備えられていることも共通している部分のひとつだ。ノッチ内には後述するインカメラやFace IDのためのセンサー類などが内蔵されている。「iPhone 16」シリーズや「iPhone 15 Pro」、「iPhone 16 Pro Max」では楕円型パンチホール「Dynamic Island」を採用し、ユーザーの利用状況に応じて、表示をうまく可変させるシステムを採用していたが、ここもコストダウンの影響か、2年半前の「iPhone 14」と同じ仕様を採用している。ようやく「Dynamic Island」が浸透してきたタイミングだけに、この部分もやや残念な印象が残る。
ディスプレイのガラスについては、「iPhone 16」や「iPhone 15」と同じCeramic Shieldを採用する。市販の保護ガラスについては「iPhone 16e」用として販売されているものもあるが、筆者は手元に残っていた「iPhone 14」用のものを貼ってみたところ、レシーバー部分の小さい切り欠き部分を含め、ぴったり貼ることができた。
「Touch ID」から「Face ID」へ
生体認証はディスプレイ上部のノッチ内に内蔵されたインカメラ(TrueDepthカメラ)やセンサーを利用した「Face ID」に対応する。Face IDは2017年発表の「iPhone X」以降のナンバリングモデルや「iPad Pro」シリーズなどに採用されてきた顔認証システムで、一般的な顔認証システムと違い、ノッチに内蔵されたセンサーから顔に赤外線ドットを照射し、それを赤外線カメラで読み取り、顔の凹凸などの立体的な情報に記録するため、顔写真などでは認証できないなど、高い安全性を持つとされる。
決済アプリやクレジットカードアプリ、金融関連アプリなどでもFace IDに対応したものが増えている。コロナ禍では当初、マスク装着時のロック解除ができないなどの制限があったが、2022年に公開されたiOS 15.4からはマスク装着時でもすべての認証ができるようになり、利便性を向上させている。
実は、「iPhone SE(第3世代)」の後継モデルが噂レベルの段階では、「iPad(第9世代)」以降や他のスマートフォンと同じように、電源ボタン(iPhoneではサイドボタン)に指紋センサーを内蔵し、「Touch ID」を採用するのではないかとも言われていたが、「iPhone 16e」が発表されてみれば、「iPhone 16」シリーズと同じFace IDを搭載されることになった。
Face IDはiPhoneだけでも8世代もの間、採用されてきた実績があり、信頼性やユーザビリティに大きな不満はないが、注意が必要なのは、事実上の従来モデルである「iPhone SE(第3世代)」に搭載の指紋認証システム「Touch ID」から移行したことだろう。あらためて説明するまでもないが、Touch IDは2013年に発売された「iPhone 5s」で初搭載された指紋認証システムで、初代モデルから継続して、本体前面に備えられてきたホームボタンに指紋センサーを内蔵することで、ホームボタンを押下するだけで、認証とロック解除ができた。
2017年の「iPhone X」からはFace IDへ移行したものの、ナンバリングシリーズと併売された「iPhone SE(第2世代)」「iPhone SE(第3世代)」では、ホームボタン内蔵のTouch IDが継続して搭載されたため、現在でも「指紋認証が便利」「コレじゃないとダメ」という声も耳にする。
これに対し、やや誤解されている感は否めないが、Face IDは顔情報を登録するため、不安だとする声もある。実際には、Face IDは顔写真を撮って記録するのではなく、顔にドットを照射したときの情報を数値的に記録しているため、高い安全性が確保されており、こうした不安は杞憂に過ぎない。
ただ、ユーザビリティという観点で考えると、必ずしもFace IDが使いやすいとは言えない面もある。たとえば、Touch IDは指紋を登録した指先を当てるだけでロック解除ができるため、手に持っているときだけでなく、iPhoneを机に置いているときなどでも解除がしやすい。これに対し、Face IDは何らかの形でiPhoneのインカメラに顔を向ける必要があるため、机に置いているiPhoneを持ち上げたり、顔をiPhoneの近くに持っていくなどの動作が必要になる。逆に、Touch IDは指先の湿りや油分によって、指紋認証のレスポンスや認識率が変わってしまうが、Face IDは前述の通り、マスク装着時にも認証できるなど、認証動作が環境に左右されるケースは少ない。
Face IDとTouch IDのどちらが優れているとは言い難いが、「iPhone SE(第3世代)」をはじめとする従来デザインのiPhoneで、Touch IDに慣れ親しんできたユーザーには、今一度、Face IDの利便性などを理解してもらう必要がありそうだ。
独自のC1モデムチップを搭載したが、一部の国内向けバンドに非対応
チップセットは「iPhone 16」を継承し、A18チップを搭載する。ただし、「iPhone 16」に搭載されたものに比べ、GPUのコア数が少ないなど、一部の仕様が異なる。
搭載されるメモリー(RAM)は、アップルから発表されていないが、「iPhone 16」シリーズと同じ8GBを搭載する。これは今年4月上旬から日本語対応版の提供が開始される「Apple Intelligence」の動作に必要な条件のひとつとされる。2023年発売の「iPhone 15」シリーズでは8GBのメモリーを搭載した「iPhone 15 Pro」と「iPhone 15 Pro Max」が対応機種であるのに対し、「iPhone 15」と「iPhone 15 Plus」の搭載メモリーは6GBなので、動作対象外となっている。
ストレージは最少容量が従来の「iPhone SE(第3世代)」の64GBに対し、128GBになり、そのほかに256GBと512GBのモデルがラインアップされる。「Apple Intelligence」の動作にはメモリー容量が重要だが、ストレージも一定量、必要になるため、最少容量を128GBに拡大したことは理解でき、256GBも欲しいユーザーが多いだろうが、普及価格帯のモデルで512GBが必要なのかどうかはやや疑問が残る。ちなみに、512GBモデルのアップルでの販売価格は14万4800円で、「iPhone 16」の同容量モデルとの差額は2万5000円となっており、非常に選択が難しい。
ネットワークについては5G NR/4G LTE/3G W-CDMA/2G GSMに対応し、5GについてはSub6のみの対応で、ミリ波には対応しない。いずれの方式も国内の各携帯電話会社に割り当てられた主要なバンド(周波数帯域)に対応しているが、「iPhone 16」シリーズなどと違い、NTTドコモが利用するBand 21(1.5GHz帯)、auが利用するBand 11(1.5GHz帯)に非対応であることが注目される。アップルは2015年発売の「iPhone 6s」まで、Band 11/21をサポートせず、「iPhone 7」シリーズ以降はサポートし続けていたため、10年ぶりの非対応になった。
こうした対応バンドが変更された背景には、今回の「iPhone 16e」がモバイルデータ通信の心臓部であるモデムチップとして、はじめて自社開発の「C1」を採用したことが関係している。スマートフォンのモデムチップとしては、米クアルコム製が圧倒的なシェアを持ち、最近では台メディアテック製を採用するAndroidスマートフォンも増えているが、アップルとしては念願の自社開発のモデムチップ「C1」を搭載することで、特許などのライセンス料を削減できる狙いがある。
アップルが開発した「C1」は、元を辿っていくと、独インフィニオンが開発していた5G用モデムチップがはじまりで、その事業を米インテルが買収し、モデムチップ市場に参入しようとしたものの、開発を断念。2019年にアップルが米インテルからスマートフォン向けモデムチップの事業を買収し、そのリソースをベースに、5年以上の歳月をかけて、今回の「C1」が開発されたことになる。アップルによると、すでに世界55カ国、180以上のキャリア(携帯電話会社)のネットワークで試験をしているとのことで、従来製品に比べ、高い省電力性能を持つという。
ただ、3月にスペイン・バルセロナで開催されたMWCでは、最新モデムチップ「X85」を発表したクアルコムのブースにおいて、アップル「C1」との比較表が展示され、その仕様の差分が一部で話題になった。本誌では石野純也氏の現地レポートに掲載されているので、詳細はそちらを参照していただきたいが、「C1」は帯域幅やキャリアアグリゲーションなどに違いがあるほか、アップリンク時のMIMOなど、米クアルコム製モデムチップのミッドレンジクラスでもサポートされている機能が省かれているなど、マイナス面がかなり目立つ内容となっている。
こうした仕様面の違いがどこまで実用に影響するのかは、現時点では何とも言えないが、ここ数週間、試用した範囲では圏外になるといったことはなかった。ただし、この期間に筆者が移動したのは基本的に都市部のみで、郊外に出たときや都市部のビル内、地下街などでも「iPhone 16」シリーズなどと同じように利用できるかどうかは、未知数だ。かつて、Band 11/21をサポートしていなかった「iPhone 6s」シリーズなどが発売された当時は、複数の周波数帯域を束ねて通信をするキャリアアグリゲーションも提供が開始されたばかりで、ネットワークの構成もそれほど複雑ではなかった。
ところが、現在は国内で利用する主要な通信方式として、4Gと5Gがあり、携帯電話会社によっては4G向け周波数帯域を5G向けに転用したり、キャリアアグリゲーションでも3つ以上の周波数帯域を束ねたり、4G向けの周波数帯域で接続しつつ、5G向けに周波数帯域に接続を切り替えるといった動作も加わっており、モバイルネットワークとの接続性は一段と複雑化している。
アップルが自社製モデムチップ「C1」を開発し、「iPhone 16e」に搭載したチャレンジは評価できるが、こうした状況下において、ネットワーク接続で何らかのトラブルが起きたとき、アップルが携帯電話会社としっかり連携し、対応ができるのかどうかは非常に気になるところだ。ちなみに、アップルは3月4日に「iPad Air(M3)」と「iPad(A16)」を発表しているが、これらのWi-Fi+Cellulerモデルには「C1」が採用されていない。そのため、「C1」はあくまでも普及価格帯モデル向けのモデムチップであり、上位モデルなどにはまだ採用されないという指摘もある。今後、アップルが「C1」をどのようなラインアップに展開していくのかという点にも注目したい。
ホームボタン廃止によるユーザーインターフェイスの変更
プラットフォームは「iPhone 16」シリーズなどと同様、iOS 18がプリインストールされる。すでに、iOS 18.3.2が公開されており、Apple Intelligenceの日本語対応が提供される4月までには、おそらくiOS 18.4も公開されるだろう。
基本的な使い勝手は「iPhone 16」シリーズと変わらないが、「iPhone SE(第3世代)」との比較で言えば、ユーザーインターフェイスがかなり変わることになる。たとえば、ホーム画面に戻るにはホームボタンが廃止されたため、画面の下端から上方向へスワイプする必要があり、コントロールセンターの表示は画面下端から上方向へのスワイプではなく、画面右上から下方向へのスワイプになる。「iPhone 16」シリーズをはじめ、「iPhone X」以降のナンバリングシリーズを使っている人からすれば、「すぐ慣れるから、別に大丈夫でしょ」と言われそうだが、年齢層によってはちょっと面倒なことになるかもしれない。
というのも「iPhone SE(第3世代)」をはじめとする従来デザインのiPhoneは、「ホームボタンを押せば、いつでもホーム画面に戻る」というわかりやすさが評価され、シニアやシルバーといった世代にも広く利用されている。これらのユーザーが今後、端末を買い換えるとき、「iPhone SE(第3世代)」はすでに販売終了となっているため、「iPhone 16」シリーズなど、スワイプ(ジェスチャー)操作を採用した新しいユーザーインターフェイスのiPhoneしか選択肢がないわけだ。
もちろん、これらのユーザーが新しいユーザーインターフェイスに慣れてくれれば、それに越したことはないが、筆者の周りにいるiPhoneを使う高齢者に「iPhone 16」や「iPhone 15」を試してもらったところ、多少まごつきながら操作できたものの、慣れるには少し時間がかかりそうな印象を受けた。対策として、左側面のアクションボタンにホームボタンと同じ「ホームに戻る」というショートカットを割り当てた状態も試したが、これも長押しが前提となるため、今ひとつ操作しやすいとは言い難い。
アップルはこうしたユーザーの継続性をあまり考えてないのかもしれないが、これから数年、徐々にシニア/シルバー世代のiPhoneユーザーが買い換えていく中で、問題が顕在化してくるかもしれない。自分の家族や親しい知人などにシニア/シルバー世代のiPhoneユーザーが居るときは、早めに新しいユーザーインターフェイスのiPhoneに移行したり、他製品への乗り換えなども検討した方がいいかもしれない。
背面に48MPシングルカメラを搭載
カメラは背面に48MP/F1.6のシングルカメラ、前面のノッチ内に12MP/F1.9のインカメラを搭載する。「iPhone SE(第3世代)」は背面カメラが12MP/F1.8だったため、イメージセンサーが大幅に高画素化し、「iPhone 16」の広角カメラと同じ画素数のイメージセンサーが搭載されたことになる。こう書くと、「iPhone 16e」のカメラに期待感を持つかもしれないが、本誌読者なら、よくご存知の通り、カメラの性能は画素数だけで決まるものではない。
まず、「iPhone 16e」に搭載される48MPイメージセンサーは、センサーサイズが1/2.55インチであるのに対し、「iPhone 16」の48MPイメージセンサーは1/1.56インチなので、面積比では約37.5%しかない。つまり、同じ画素数でありながら、イメージセンサーの面積は約1/3強なので、撮影時に取り込める光の量はその分、少なくなり、感度を上げると、ノイズが増えてしまう。イメージセンサーの画素数は4800万画素なので、4つの画素を1つの画素として撮影するピクセルビニングが利用できるため、従来の「iPhone SE(第3世代)」などに比べると、暗いところでも明るく撮影できるが、逆光などにはあまり強くなく、「iPhone 16」との比較ではある程度、差が出てしまう。
もちろん、これまでのiPhoneに搭載され、着実に進化を遂げてきた画像処理技術がA18チップに含まれているため、その分のアドバンテージはあるが、あまり過度な期待は持たない方がいいだろう。
また、「iPhone 16e」の背面カメラは、イメージセンサーの中央部分を活かした光学2倍相当のズーム撮影が可能だが、逆に超広角カメラがないことが弱点だ。焦点距離で表わすと、「iPhone 16」は広角カメラが26mm相当、超広角カメラが13mm相当であるのに対し、「iPhone 16e」は26mm相当のメインカメラのみなので、よりワイドなシーンで撮影するには、かなり引いて撮影する必要がある。たとえば、会食などで集合写真を撮るようなシーンでは画角に入りきらないといったことが起こり得る。
撮影した画像は[写真]アプリで表示し、編集もできる。たとえば、[写真]アプリで表示し、[編集]-[クリーンアップ]を選べば、背景に写り込んだ人物やオブジェクトを消去したり、[マークアップ]で手書き文字などを書き加えるといったこともできる。
Apple Intelligenceを最重要に考えた一台だが……
国内で半数近いシェアを持つアップルのiPhoneは、本連載でも何度も指摘してきたように、ここ数年、高価格路線を推し進めているため、ユーザーも最新機種を選ばず、リーズナブルな旧機種や普及価格帯の「iPhone SE(第3世代)」を購入し、全体的に最新モデルの割合が減る傾向にあるとされる。なかでも「iPhone SE(第3世代)」は発売から3年を経ても根強い人気を保ち続けてきたが、「iPhone 6」シリーズから続いてきた基本デザインは古さが感じられるようになり、後継モデルを期待する声が多く聞かれていた。
今回、発売された「iPhone 16e」は、ネーミングルールこそ、異なるものの、実質的には「iPhone SE(第3世代)」の後継に位置付けられるモデルだ。後継モデルについては、さまざまな噂や憶測が飛び交っていたが、いざフタを開けてみれば、「iPhone 16」シリーズと基本デザインを共通化しながら、さまざまなハードウェアの仕様を抑えつつ、機能性を損なわないように普及価格帯を実現させたモデルに仕上げられていた。
ただ、こうした普及価格帯のモデルは上位モデルに対し、何を継承し、何を省略するのかが非常に難しい。今回の「iPhone 16e」についてはいろいろな見方があるが、アップルとしては、今年4月から日本語対応版が提供される「Apple Intelligence」をサポートすることを最重要視したようだ。本稿でも説明したように、2024年の「iPhone 16」をベースにしながら、MagSafeや超広角カメラ、UWBなどを省略しつつ、ネットワークもBand 11/21非対応などの変更が加えられ、実質的な従来モデルである「iPhone SE(第3世代)」に対しては、ホームボタン廃止、ユーザーインターフェイス変更、Touch IDからFace IDへの移行などの変更がなされている。一般的な用途での実用面でのマイナスはそれほど多くなさそうだが、『引き算』をしたハードウェアや機能にはややもったいないと考える項目が少なくない。
スマートフォンの進化の方向性が、カメラからAIへシフトしつつある状況のなか、「Apple Intelligence」対応を最重要視したアップルの姿勢は理解できるが、正直なところ、まだ正式版ではなく、実力的にも未知数の「Apple Intelligence」に対し、そこまでユーザーが価値を見いだしてくれるかは、やや疑問が残る。
また、価格面についても「iPhone 16」との価格差やライバル機種の価格設定を考えると、もっと踏み込んだ価格設定を検討して欲しかったところだ。各携帯電話会社で併売される「iPhone 14」や「iPhone 15」などの旧機種は同容量で10万円程度の価格が設定されていることから、それらへの配慮があったのかもしれないが、「1ドル=150円」前後の為替レートが続いていたとは言え、ハードウェアの仕様を鑑みると、割高な印象は否めない。
そして、「いずれはなくなる」と言われながら、ついにiPhoneでホームボタンを廃止したことに対し、アップルがあまり何も提案できていないことも残念だ。「iPhone」にしろ、「iPad」にしろ、iOSとiPad OSはスワイプによるジェスチャー操作が主流だが、これまで「iPhone SE(第3世代)」をはじめとした従来デザインのiPhoneが幅広いユーザーに数多く販売され、現在も利用中のユーザーが多いことを鑑みれば、もう少していねいなアプローチがあっても良かったのではないだろうか。
いろいろと気になる点は多いが、「iPhone 16」シリーズ全体としては、もっともリーズナブルな価格で購入できる一台であり、4月上旬に公開される予定の「Apple Intelligence」を確実に楽しめるスマートフォンであることは確かだ。ぜひ店頭に出向いて、2024年9月発売の「iPhone 16」と見比べつつ、自分に適した一台を選んでいただきたい。
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