iPhone駆け込み寺

「iPhone 16e」と「iPhone 16」、どちらがお買い得? スペックの違いから考える

 日本時間で2月20日の未明、アップルからiPhone 16eが発表された。命名は新しくなっているが、これはスタンダードモデルのiPhone 16から「少し性能を落として安くした」という性質で、位置づけとしてはこれまでの「iPhone SE」に近いモデルとなる。

 しかし「SE」ではなく「16e」と名付けられたように、これまでの「SE」とはやや異なる位置づけの製品、とも受け取れる。というのも、ちょっと性能が良い。

 ではiPhone SEとはどう違うのか、iPhone 16とはどう差別化されているのか、お買い得なモデルなのか。筆者もまだ実機は手にしていないが、発表された情報を元に解説したい。

「約10万円~」という価格設定

 iPhone 16eの価格は、128GBモデルで9万9800円だ。2022年3月発売のiPhone SE(第3世代)の初出価格が5万7800円(64GBモデル)~だった。単純に比較すると約1.7倍。かなり高くなってしまった。

 米国での税抜価格を見ると、iPhone SE(第3世代)は429ドル(64GBモデル)から、iPhone 16eは599ドル(128GBモデル)からと、日本ほどではないが、アメリカでも約1.4倍ほどになっている。

 日米のiPhone 16eの価格を見ると、“税抜599ドル”が“税込9万9800円”、1ドル151.5円くらいのレートとなる。これはiPhone 16eが発表された瞬間の為替レートに近い。

 一方、iPhone SE(第3世代)が発売された当時の為替レートは1ドル120円弱。iPhone SE(第3世代)の登場当初の価格も、1ドル122円くらいのレートと言える状況だった。そもそも、今回とiPhone SE(第3世代)登場時で為替レートが違うのだ。

 ちなみにiPhone SE(第3世代)が発売された2022年3月は、円安が加速し始めたタイミングだ。翌月には1ドル130円に達し、同年中に1ドル150円まで上がっている。iPhone SE(第3世代)の初出価格は、劇的な円安であらゆる輸入品が高くなるギリギリ直前で、iPhone SE(第3世代)は半年も経たずに6万2800円(64GBモデル)に値上げされた。

 だが、円安だけが悪いわけではない。円安で日本人にとってのドルの価値が上がった一方、アメリカではインフレが進行した。物価と賃金が上昇し、米国の中では逆に1ドルの価値が下がっているのだ。

 つまり何が言いたいかというと、iPhone 16eを高く感じるのは、円安、そして米国で先行するインフレ率、この両方が大きく影響しているということだ。

 ちなみに昨秋発売のiPhone 16の日本での税込価格は12万4800円、アメリカでの税抜価格は799ドルで、1ドル142円くらいのレートで値付けされている。レートの違いから、日本ではiPhone 16の方がお買い得度合いが微妙に高いとも言える。逆に言うと円安が進めば日本のiPhone 16は値上げされる可能性もあったりする。

 しかしインフレと為替レートだけが、iPhone 16eを高く感じられる原因ではない。アメリカでのiPhone SEからiPhone 16eへの価格上昇率は、アメリカでの2022~2024年のインフレ率(約1.15倍)を上回る約1.4倍だ。インフレ率を上回る価格上昇は、iPhone 16eの基本スペックがiPhone SEより底上げされていることにも起因している。

ストレージとFace ID、ディスプレイ――「SE」とは違うのだよ「SE」とは!

 まず、そもそもだが、iPhone SE(第3世代)と異なり、iPhone 16eでは最低ストレージ容量が64GBではなく128GBになった。ここだけでも値上がりの要因だ。

 チップセットは、iPhone 16と比べて、iPhone 16eでは、GPUコア数が5個→4個に減っているものの、スタンダードモデルのiPhone 16と同じA18を搭載している。最新世代のスタンダードモデルと同等のチップセットを搭載すること自体は、iPhone SEと変わっていない。

 ただし、実機で調べないとわからないが、iPhone 16eはApple Intelligenceに対応するために、8GBのシステムメモリを搭載している可能性が高い。発売済みのApple Intelligence対応iPhoneの搭載システムメモリは、筆者がベンチマークアプリで調べた限りではすべて8GBだ。実際に8GBになっているなら、これはコストアップ要因になっているだろう。ちなみにiPhone SE(第3世代)のシステムメモリは4GBである(その半年前に発売されたiPhone 13 Proは6GB)。

 iPhone 16eでは指紋認証のTouch IDではなく、顔認証のFace IDを採用する。Face IDのためのTrueDepthカメラもコストアップの要因となるが、ホームボタン廃止によってディスプレイサイズも4.7インチから6.1インチへと大きくなり、ついでに高精細なOLEDになっている。このディスプレイも大きなコストアップ要因となっているはずだ。

 こうしたiPhone SEからのスペックを考えると、アメリカ価格での429ドル→599ドルへの値上がりは、インフレも加味すれば妥当なところとも言える。

 Apple IntelligenceやFace ID、大画面を搭載せず、もっと安い廉価モデルを作ればいいのに、という意見もあるかと思う。それは筆者もその通りだとも思うが、アップルのプラットフォーム戦略を俯瞰したとき、Apple Intelligenceと大画面は必須だった、ということだろう。

価格差2.5万円のiPhone 16との違いは?

 iPhone 16eの基本スペックは、スタンダードモデルのiPhone 16に近い。ちゃんと差別化できてないのではと心配になるくらい、iPhone 16eの基本スペックは良い。

 チップセットはGPUコア数が減っているもののiPhone 16と同じ「A18」で、ディスプレイも同じ6.1インチだ。ただし、ディスプレイ解像度はiPhone 16の2556×1779ピクセルよりやや小さく、iPhone 12/13/14と同等(2532×1170ピクセル)となっている。

 iPhone 16eのカメラは1個のみで、デュアルカメラのiPhone 16とは差別化されている。このおかげで超広角やマクロ撮影、空間ビデオ撮影などには対応しないが、メインの広角カメラはiPhone 16などと同じ「48MP Fusion」を採用している。

 メインカメラの細かいスペックを見ると、画角26mm、絞り値f/1.6などはiPhone 16と同じだが、「センサーシフト光学手ぶれ補正」が「光学手ぶれ補正」に、「100% Focus Pixels」が「Hybrid Focus Pixel」になっていたりと、一部の仕様表記が変わっている。つまり、iPhone 16より低スペックになっている可能性はある。

 このほか、カメラ関連では、iPhone 16シリーズで右側面に追加された「カメラコントロール」のボタンがiPhone 16eには搭載されない。ただし左側面の音量ボタンの上はスライドスイッチではなく「アクションボタン」となっているので、そこにカメラ起動を割り当てることもできる。

 iPhone 16eのディスプレイサイズはiPhone 16と同じ6.1インチだが、ディスプレイ上部のインカメラ(True Depthカメラ)はDynamic Islandではなく、iPhone 14スタンダードモデルまでと同様のノッチ型となる。

 実はiPhone 14とiPhone 16eを比較すると、ディスプレイの解像度や最大輝度などのスペックが同じで、ついでに本体サイズも同じだったりする。iPhone 16eのディスプレイは、iPhone 14と同じなのかもしれない。

 個人的な感想としては、Dynamic Islandはバックグラウンドタスク表示などが便利なものの、身も蓋もないことを言えば「どちらも邪魔」には変わりない。Dynamic Islandの方が嬉しいけど、そこまで大きな差にはなっていない、と思う。

 iPhone 16eのデザインについては、アップルが公開した動画や写真を見る限り、カメラが1個になった以外にはiPhone 16と大きな差はない……が、カメラ部の出っ張りが小さくなっているようにも見える。ジャケットケースを着ければ背面がほぼ真っ平らになりそうだ。

 カメラの出っ張りが減ったことは歓迎したいが、カメラはサイズが性能に直結するので、モジュール小型化に伴う性能低下の懸念もある。カメラにこだわる人は、発売後の実機レビューなどを待つべきだろう。ただし、そもそもカメラに強くこだわるならProモデルを選ぶべき、とも言える。

 iPhone 16eのボディ素材については、iPhone 16と同じく側面アルミ合金+背面ガラスだが、iPhone 16eのカラーバリエーションはホワイトとブラックの2種類となっている。これによって背面ガラスの着色や在庫管理でコストダウンしていそうだ。

 iPhone 16eのバッテリーの持ちについては、これがなんとiPhone 16よりも良くなっている。

 このほかの細かいポイントでは、「Wi-Fi 7ではなくWi-Fi 6」「超広帯域チップなし(AirTagを方角検知できない)」「MagSafe非対応」などの違いがある。

 あとはiPhone 16eではアップル独自設計のセルラーモデムチップ「C1」を初採用するせいか、あるいはアンテナ実装の都合か、4G/5Gの対応バンドが減っている。日本においては、1.5GHz帯のバンド11とバンド21が非対応となったのは気になるところだ。

 一方で「USB-C」「衛星経由の緊急SOS」といった要素は抑えている。最新世代の基本機能ではあるが、衛星通信機能を省くことなく搭載したのは、ユーザーの安全をユーザー以上に考えていそうなアップルらしい選択だ。

お買い得なのはiPhone 16かiPhone 16eか

 大雑把にまとめると、iPhone 16とiPhone 16eを比べると、iPhone 16はデュアルカメラでMagSafe対応で超広帯域やWi-Fi 7などの通信機能も充実してカラフルなカラバリを選べる。このあたりの違いに2.5万円分の価値を感じるか否かが、どちらを選ぶべきかのポイントとなる。

 その一方でカメラ部分の薄さやバッテリの持ちなど、iPhone 16よりiPhone 16eの方が優れているポイントもある。ここも悩ましいポイントだ。

 ただ、発売後の実機レビューを待つべきとも思うところだ。とくにカメラと新しいモデムチップについては、実機で使い勝手を確認したいポイントである。

 iPhone 16/16eは同じチップセットを搭載することから、iOSのサポート期間は同等になることが予想される。これにより、どちらのモデルも長く使いやすいし、リセールバリューも下がりにくく、長い目で見たコスパはどちらも良好と言える。

 長く使う、という面で言うと、本体価格だけでなくApple Care+の料金もiPhone 16eは若干安い。一方、iPhone 16eのアップル純正修理の料金は、まだ発表されていないが、アップルによる純正修理はiPhone 16でもiPhone 14でも同料金なので、iPhone 16eでも同料金となる可能性が高い。

 なお、やや廉価なモデルとしてiPhone 15も現行ラインナップに残っている。iPhone 15はiPhone 16より1.2万円安く、iPhone 16eより1.3万円高いという、中間の値付けだ。

 しかしiPhone 15のチップセットはiPhone 16/16eのA18より2世代前のA16で、Apple Intelligenceにも対応せず、搭載システムメモリも6GBだ。iOSのサポートも先に打ちきられる可能性が高いので、いまこのタイミングで新品を買うなら、iPhone 15を選ぶのはオススメしにくく、長く使えるiPhone 16/16e以上のモデルがオススメだ。