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5G本格展開で離陸期を迎えるインフラシェアリング市場
2022年2月1日 00:00
2022年は、「真の5G」ともいわれるSA(Stand Alone)がスタートするなど、5Gの本格展開が期待されているが、その一方でエリアの拡大が課題となっている。
今回は、その解決策のひとつとして今年大きく動き出すとみられる「インフラシェアリング」について考察していきたい。
限界を迎えている携帯会社独自のインフラ構築
携帯会社にとって自前設備によるモバイルネットワーク整備は、競争力の源泉であり、これまで激しいエリア競争を繰り広げてきた。しかし、モバイル市場の競争領域がネットワーク構築からECや決済サービスへと移っているなか、5Gでは戦略的なエリア以外における効率化なインフラ投資が求められている。
5G向けに割り当てられている高い周波数帯(3.7GHz帯や4.5GHz帯、28GHz帯)は障害物に弱く、4G以上に多くの基地局を密に設置する必要がある。加えて、政府は「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、都市と地方のデジタルインフラ整備の格差解消を掲げている。
実際、今年中に割当が予定されている5G向けの2.3GHz帯では、審査項目のひとつに山村や離島など条件不利地域での整備度合いを入れているくらいだ。
そもそも総務省は、5Gの周波数割当に際して、4Gまでの評価軸だった「人口カバー率」から、全国を10km四方のメッシュに区切った4500のメッシュに対して、その地域の基盤となる「5G高度特定基地局」を整備する割合である「基盤展開率」を、5年以内に50%以上を実現するよう求めてきた。
人対人のコミュニケーションが中心だった4Gと異なり、5Gでは人が少ない工場や農場、あるいは自動運転が想定される道路などをカバーすることで、地方の社会課題解決や地域活性化といったデジタルトランスフォーメーション(DX)に活用していきたいという狙いがある。
こうした政府の要望に、携帯各社は総務省に提出した計画を前倒しで対応しようとしているが、一方で昨年からの政府による料金引き下げ要請の影響で、携帯各社の通信料収入は数百億円単位の減収に見舞われている。
インフラシェアリングカンパニーの台頭とブルーオーシャン
携帯会社は収益性の低いエリアでの基地局展開や、多くの基地局数設置の必要性など、4Gまでやってきた独自のインフラ展開手法だけでは、明らかに限界を迎えている。
そこで注目されているのが、基地局のインフラシェアリング事業だ。先行するのが、JMCIA(移動通信基盤整備協会)や携帯会社向けに、通信設備シェアリングを手掛けるJTOWERだ。
JMCIAは、通信のニーズが高いエリアでありながら設置場所が限定されたりするケースに対し、共同で基地局設置をはじめとした環境整備・維持管理などを行うことを目的に、携帯会社が設立した組織だ。
JTOWERは2012年の創業で、当初は携帯会社の独自構築の意向が強く苦戦していたが、総務省が2018年にシェアリングのガイドラインを公表したことなどもあり、NTTやKDDI、楽天モバイルなどの出資を受け、2020年3月期には営業損益が黒字転換を果たしている。
これまで同社は、屋内向けのシェアリング事業を中心に展開してきたが、最近ではNTTから通信鉄塔を購入するなど、屋外ソリューションの強化を図っている。
ほかにも、2021年2月には住友商事と東急が通信インフラの新会社、Sharing Design(シェアリングデザイン)を設立し、5Gを中心とした基地局シェアリングサービスを提供している。携帯会社同士の協業モデルでは、KDDIとソフトバンクが主にルーラルエリア構築のためのインフラシェアリング会社「5G JAPAN」を2020年4月に共同で設立している。
携帯会社としては、当然だがこうしたインフラシェアリングカンパニーの設備を利用することで、5Gエリアが拡大できること、そして独自に設置する場合に比較してコスト削減につながることが活用上のメリットとなる。
現在は、携帯各社の通信設備をそれぞれ一カ所に集めて設置する基地局サイトのシェアリングだが、将来的には1つの無線機を複数の携帯会社で共用するような無線機シェアリングまで発展すれば、コスト削減効果などさらに大きな成果が期待される。
既に「5G JAPAN」向けにエリクソンは、2021年6月にマルチオペレーター無線アクセスネットワーク(Multi-Operators Radio Access Network[MORAN])を供給開始したと発表している。
関係者によれば、無線機シェアリングについては、各社の事情やノウハウ、戦略などもあり、すんなり実現するか難しい点も多そうだが、基地局サイトのシェアリングだけでも、独自に設置する場合と比較して20~30%程度のコスト削減につながるという声も聞かれる。
そうしたこともあり、携帯会社はインフラシェアリングに対して積極的なスタンスへと変化している。
5Gの普及へ向け、「政府」「携帯会社」「インフラシェアリングカンパニー」が一体となり同じベクトルへ向かっているが、それでも現在のインフラシェアリング市場の規模は、年間1.5兆円程度とされる携帯会社の設備投資規模から推測すると1%にも満たない。
その割合がどのくらいまで高くなるかは分からないが、「インフラシェアリングカンパニー」から見るとブルーオーシャンであることは間違いない。5G社会の本格到来へ向け、インフラシェアリング活躍の場は、むしろこれから広がっていきそうだ。