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5Gネットワークの整備状況から見る「現在地」

 国内では2020年3月より5Gネットワークの商用化がスタートし、3年半が経過した。

 この間、政府はデジタル田園都市国家構想など5G基地局整備の高い目標を設定する一方で、税制優遇などの優遇策を打ち出すことで携帯各社によるスピーディな5Gネットワーク整備を後押ししてきた。今回は、5Gネットワーク整備の現在地から見える課題について考察していきたい。

政府主導で5G人口カバー率は計画を前倒しで達成

 国が推進する「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」で旗振り役の総務省は、5Gネットワークの整備について下記のような意欲的な計画を掲げている。

 もともと政府はICTインフラを早期に日本全国に展開するため、2023年度末を視野に入れた「ICTインフラ地域展開マスタープラン」を2019年6月に策定した。

 その後、2021年2月に岸田総理大臣がデジタル田園都市国家構想の実現に向けて5Gの人口カバー率を2023年度に9割に引き上げると表明したことを踏まえ、総務省は携帯各社に対して、5G基地局の更なる積極的整備や5G基地局数・5G人口カバー率などの2025年度までの計画の作成・提出などを要請した経緯がある。

 総務省は、2022年3月29日に、各社から提出された計画などを踏まえ、「ICTインフラ地域展開マスタープラン」に続くものとして、上記のような「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」を新たに策定した。

 ちなみに「ICTインフラ地域展開マスタープラン」で策定された当時の5G基地局数は2023年度末時点で21万局以上だった。

 デジタル田園都市国家構想の5Gの整備方針では、政府は5G基盤(4G・5G親局)を全国整備する第1フェーズ、子局を地方展開しエリアカバーを全国で拡大する第2フェーズの2段階戦略で、世界最高水準の5G環境の実現を目指すとしている。

出典:総務省

 実質、政府が主導するカタチで整備されてきた我が国の5Gネットワークだが、総務省が発表した「日本全国の5Gネットワーク環境の整備状況」によれば、2022年度末時点の5G人口カバー率はすでに96.6%に達しており、順調に推移している。

劣位にある「通信品質」問題

 一方、現在問題となっているのが、5Gネットワークの「通信品質」だ。

 周知の通り、5Gは最大受信速度が「下り:最大20Gbps、上り:最大10Gbps」、「低遅延通信」、「多数同時接続」を実現する規格で、そのために専用周波数帯としてSub6(3.7/4.5GHz)、ミリ波(28GHz)が携帯各社に割り当てられている。

 しかし、5G向け専用周波数帯だけでは、衛星干渉の問題や高い周波数帯によるカバーエリアの狭さや直進的な電波特性などから達成は困難ということで、携帯各社は既存の4G向け周波数帯を5G向けに転用するNR(New Radio)化を積極的に展開し、何とか「数」を間に合わせてきたという事情がある。

そこで今回、総務省の資料から、2020年度から2022年度の3年間で携帯会社が5G(専用周波数帯)とNR(4G周波数帯5G化)でどのように基地局を展開してきたのかを整理したのが下記グラフだ。

 2021年度末時点で8万8046の5G基地局があるが、このうち5Gが4万3749局(49.7%)、NRが4万4297局(50.3%)となっている。

 当然だが、5G向けと異なり帯域幅が狭い4G向け周波数帯を5Gに転用したNRでは、5Gならではのポテンシャルが発揮できる訳ではない。いわゆる「なんちゃって5G」と呼ばれる所以である。

 なお、上記データは2021年度末時点までとなっているが、NRのほとんどは当初より積極的だったKDDIとソフトバンクの合算値となっている。しかし、2022年度は更にNRの数が増えている可能性がある。

 その理由は、これまで「瞬速5G」と銘打ち5G向け専用周波数帯の基地局展開を推進してきたNTTドコモが、2022年春よりNRを本格化させているためだ。

 結局、デジタル田園都市構想で掲げている目標を達成するためには、NRで数を稼がないと間に合わないということだろう。

 2021年度末の時点で既に5Gネットワークの約半分がNRで構築されており、このことからも「通信品質」に影響を与えるものと考えられる。

 実際、2023年6月に英国Opensignal社が実施した調査によれば、日本の5Gダウンロードスピードは156Mbpsに対し、韓国432Mbps、シンガポール376Mbpsと圧倒的な劣位にある。

 弊社では、外資系のインフラベンダーと定期的な意見交換をやっているのだが、そこでよく言われるのは「日本の5Gネットワークは大丈夫か? 携帯会社は総務省とのオブリゲーション(義務・責任)を優先させるあまり、通信品質を犠牲にしすぎているのではないか」ということだ。

 電波行政を主導する総務省には単に5G基地局の「数」だけに目を向けるのではなく、5Gだから実現できるモバイルネットネットワークの通信品質という「質」についてもしっかり検証していくことを望みたい。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/