インタビュー

ソフトバンクが「能登半島地震」エリア復旧作業で乗り越えた困難とは

 1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」からはや3カ月が経った。大規模な災害時では、どうしても携帯電話のサービスエリアに影響がおよび、利用しづらい、あるいは利用できない場所が発生する。

 そうなると携帯各社が取り組むのは「エリアの復旧」だが、実際、どんな流れで進められることになるのか。今回、2月下旬に能登半島地震の被災地全域で応急復旧を遂げたソフトバンクに、復旧に向けた活動の内容を聞いた。

 インタビューに応じていただいたのは、テクノロジーユニット統括エリア建設本部北陸ネットワーク技術部エリア技術部 技術課課長の北市雅義氏と、テクノロジーユニット統括エリア建設本部エリア戦略統括部ネットワーク推進部部長の松本福志氏。

写真:ソフトバンク提供

地震発生、初動にどう取り組んだのか

――まずはお二人の普段の業務から教えてください。

北市氏
 私は、北陸エリアにおける通信サービスのエリアの構築、品質管理・保全に携わっています。

松本氏
 私は東京で、基地局に関するさまざまな業務を取りまとめたり、社内調整をしたりしています。そのなかに、今回の災害に係る対応も含まれています。

――普段、もし基地局になにかあったら、どんな流れで対応されているんでしょうか。

北市氏
 日頃、当社の携帯電話サービスは、24時間365日、東京ともう一カ所で監視しています。停電や通信回線の途切れなどがあれば、基地局に異常があればアラームが鳴るわけです。

 リモートで対応できるのであればリモートで、それで復旧できなければ現地へ作業員を派遣して修理する、というのが通常の流れです。

北市氏

――地震が起きたときは、どういった状況だったのでしょうか。

北市氏
 私は、これまで全国さまざまなところで勤務していましたが、現在は北陸で業務をこなしています。ただ、石川県小松市の出身でして、地震が発生した1月1日は、お正月ということで小松市の自宅に家族と一緒にいたところでした。

 緊急地震速報のあとに最初の揺れ、その後、すぐに社内の障害情報を共有するためのリモート会議システムに入り、基地局の情報共有や地震関係の状況の確認を進めました。そうこうしているうちに、2回目の揺れがあり、津波が来るという情報もリモート会議で共有して。

 その一方で、被災地に近い場所にいましたので、北陸にいるスタッフの安否を確認していきました。その後、協力会社さんを含め、通信サービスの復旧対応に向けた準備、社内外への調整を始めました。

 このとき、リモートで監視しているチームのほうが基地局への影響を冷静に把握していったのかもしれません。

松本氏
 私も帰省先から帰ってきて、ちょうど家族と東京にいました。地震発生時には、まず全国各地の関係者への連絡を試みました。

 北陸以外のソフトバンク社内としては、1月1日ですから、いわば1年でもっとも人が集まりにくい日です。まずは連絡を取っていくことを進めました。地震発生直後は、北陸の状況がわかりませんので、まずは北陸以外のメンバーで連絡が取れる人や、その人数を確認し、翌日以降に対応できる人を集めていったのです。

 一般的に、こうした大規模災害では基地局がダウンする数は、(バッテリーでしばらくは稼働することから)おおむね発災から1日経ったあとなど、時間を置いてから最大になります。

 また、被災の全容もすぐにはわかりませんよね。スタッフ・関係者と連絡を取ったわけですが、ここまでの大規模な地震は熊本(2016年4月、最大震度7を記録)以来で、お正月ということもあって、連絡体制の確立まで、私自身、ちょっと慌てたところはありました。

 それでも会社として当日中に災害対策本部が立ち上がり、現地の情報を集め、復旧体制の構築が始まりました。夜になると連絡体制が確立されました。しかし、「どこで復旧作業をコントロールすべきか」という点に悩みました。現地の状況がわからないものの、おそらく事務所も大変な状況だろうと推測し、金沢に復旧本部を設けることはいったん止めて、名古屋に設置することになりました。

――名古屋ですか。

松本氏
 はい、まずは仮設で名古屋に復旧本部を設置し、名古屋から北陸を支援していく体制になりました。

 ソフトバンクでは、「もしどこか災害が起き、現地事務所が使えない場合、バックアップの地域をあらかじめ決めておく」という方針を採っています。今回は、ちょうど昨年に「北陸の場合、バックアップは名古屋」と決めていたのです。

 そこで、全国各地から復旧作業に関する情報や人を名古屋に集めることになりました。

松本氏

 もちろん、そうした拠点は、被災地に近いことが一番望ましいのですが、初動の判断が被害の最小化に繋がります。不確定要素のある北陸ではなく、まず人や物資を集めるという初動のタイミングで時間をかけないことを優先し、確実に初動対応できる名古屋へ集約することになったのです。これが当時の最適解でした。

――なるほど、まずは1月1日の地震発生直後から、初動にどう取り組んだか、というお話ですね。

復旧作業開始に向け、物資や人をどう受け入れるのか

――まずは復旧作業をするための下準備をする初日だったとのことですが、その後はどんな風に進められたのですか?

北市氏
 私自身は、過去、転勤も多く、その結果として全国各地のソフトバンク内のスタッフで見知ったメンバーがいる状況でした。

 1日中には、そうした繋がりのある各地の人と、松本さんを含む本部の人たちとも連絡が取れるようになったと。

 その後どうなるのか……という点については、過去の台風での被害からの復旧作業を経験してきましたので、「どんな風に応援チームがやってくるのか」といったあたりを想定できました。

 名古屋に復旧本部が立ち上がり、全体のコントロールをしてもらっていましたが、一方で金沢の拠点にも人を集めていく必要があります。

 本部から人や発電機などの物資がどれほど送られてくるのか、金沢にどんどん来るというのは想定できましたので、まずは(金沢側の)班割りと言いますか、役割分担をしていったわけです。

――復旧活動を円滑にしていくには、地味なお話かもしれませんが、ロジスティクスと言いますか、どう受け入れるかという点は、大切な要素ですね。

北市氏
 名古屋の本部で、段取りはどんどん決めてもらっていましたので、私たちは金沢の拠点に入ってリモート会議システムを通じて「いつ、どこに、どれくらいの部材が入るのか」「どこが早く、いつ到着するのか」といった情報を連携し、物資をどこに置くのかといったことをまとめてきましたね。

――復旧作業をするための、発災直後からの立ち上げについてここまで教えていただいたわけですが、今振り返って「ここはよくできた」「この点は今後改善したい」ということはありますか?

北市氏
 発災直後から、被災地域の状況を速やかに判断し、全国で連携して、一気に人と復旧部材を持ってきて、対応する速度は素晴らしかったなと感じています。この初動はうまくいったなと。

 北陸には普段、技術部がありまして、各地の技術部とも普段からよくやり取りしていて、よく連携が取りやすかったです。いざという今回のタイミングで、一気に対応を進められたことは良かったなと。

 一方で、北陸は、これまで災害が少ない地域と言われてきました。私たちも、どちらかと言えば、災害が発生した他の地域へ、支援に行くほうを想定することが多かったんです。

 たとえば、先にお伝えした物資や人の受け入れといった点は、どこに置くのか、もっと事前に決めておくことが必要だったかなと感じています。

松本氏
 「現地メンバーだけで対応しきれない」となれば、すぐに別エリアから支援を呼ぶことになっています。そして、エリア分けをするんです。

 今回も、能登半島を6つほどの地域に分割しました。そして、それぞれのエリアに「このチームは、ここを担当する」と割り振っていきます。いわばリソースを重複させないようにするのです。この判断が今回は早くできたなと感じています。

 担当地域が復旧すれば、残る地域をさらに分割して、チームを再配分して……と繰り返していくのです。

 改善したい点としては、訓練をもっとしておけばよかったなと。特に冬季の訓練ですね。雪に悩まされたこともありましたので……。過去の災害は、台風・水害が多かったこともあり、夏の復旧作業に多くのリソースを割いていました。訓練は重ねてきましたが、想定するパターンをもっと増やしておけば、さらに良く活動できたのかなと。

――なるほど……皆さんの立場からすれば、訓練はどれだけやっても足りないと思われるかもしれませんが、確かに今後へ活かせそうなお話ですね。

リアルタイムで状況を把握

――渋滞など道路事情の難しさも復旧活動を阻む要素になったのでしょうか。

北市氏
 はい、渋滞などの道路事情は深刻でした。

 平時では、能登へ行く際には「のと里山海道」(自動車専用道)を主に利用します。しかし今回は、地震によって通行止めになっていました(3月15日に通行止め解除)。

 渋滞が発生している場所も多く、朝はやく拠点を出発し、現地で復旧作業をしても、宿に戻るのが渋滞によって、翌朝になる、といった時期もありました。

 そうした状況を踏まえて、スタッフの担当をどう割り振っていくか。渋滞は困ったと言いますか、悩まされた部分です。

――被災地周辺で、たとえばテントを張って拠点にする、といったかたちではなくて、金沢を拠点に現地への往復だったと。

北市氏
 もちろん、現場に近い場所で宿泊施設を確保できることが理想です。しかし今回は、現地の宿泊施設はどこも営業していません。水道や電気も止まっていましたから……物資や移動基地局を置く場所、仮設トイレ、はたまた作業スタッフが休憩するような、いわばベースキャンプのような場所は、複数の地点で用意しました。

――テントで宿泊するというのは、冬季ということもあるでしょうが、そもそも環境として難しいですよね。

北市氏
 そうですね。厳冬期ということもあって、安全確保の観点からも、テント泊は難しいと考えていました。宿泊施設は、本社側に交渉してもらって確保していってもらいました。

 長期間での対応になりますし、スタッフの安全も確保しなければいけません。スタッフの安全確保のため、必ず、連絡用の衛星携帯電話を配備しましたし、スタッフの現在地を確認するアプリ「スマートフリート」(車両管理ソリューション)も活用していました。このアプリで、リアルタイムに、スタッフがどこへ向かっているか、どのあたりまでたどり着けたのか、確認できるようになっていきました。

 たとえば、「この道の先は、崩落で進めない」といった情報も寄せられれば、道路の啓開(復旧)を待つことにして、数日後にトライしてもらうですとか……この「スマートフリート」は今回、本当に役立ったアプリです。

 そのほかにも、発電機、衛星通信用のパラボラアンテナ、移動基地局車、ドローンといった復旧機材の場所や稼働状況も地図上で確認できるようになっています。どこに在庫があり、どこで導入済みかわかるので、復旧作業を進める上でも、この仕組みもすごく役立ったと感じています。

――スマートフリートはすでにソリューションとしてソフトバンクの法人向けサービスとして提供されていますが、復旧機材の場所・稼働を把握するシステムも以前から開発済みだったのですか?

北市氏
 はい、そうです。基地局がダウンしていると、それをマップ上に表示させるシステムがありまして、そこに機材の情報も含んでいるのです。

 役場や避難所をカバーしている基地局も、稼働状態だけではなく、「どの復旧部材でサービスを応急復旧できているか」といったことがひと目でわかるようになっています。

 石川県のリエゾン(連絡役)の方とも連携して、どの場所にどれくらい避難されている方がいるのか、といった情報も得て、人が集まってきている場所があれば、そこへ移動基地局車を設置するといった流れで進めていきました。

――1月18日の4社共同会見でも、ソフトバンクの取り組みとして「復旧活動をリアルタイムに可視化」と紹介されていましたね。こうした基地局などの状況をリアルタイムに把握する、という点ですが、タイムラグと言いますか、1日前の情報といったものではないのですね。

北市氏
 はい、自動的にステータスを取得してマップに反映する仕組みがありますので、そこは本当にリアルタイムです。普段から運用に活用しているものになります。

――ソフトバンクのアドバンテージと言えるかもしれませんね。

北市氏
 他社さんの仕組みはわからないのですが、ソフトバンクの場合、ほぼリアルタイムで検知できるものだと思っています。

基地局をダウンさせた要因

――今回の地震では、津波があったほか、大規模な土砂崩れ、あるいは海岸沿いで大きく隆起するといった状況が伝えられました。ソフトバンクの基地局には、どういった被害が多かったのでしょうか。苦労されたことはどういったものですか?

北市氏
 やはり停電と、基地局に繋がる通信回線の断線という被害が多かったです。

 基地局設備自体は、基礎がしっかりしていることもあって、大きく損壊したというのはほとんどなかったです。

 停電については、たとえば、道路と一緒に電柱が崩落して断線しているというケースが多かったです。電力が届かない基地局には発電機を持ち込みます。

 また、通信回線が断線している場合は、衛星通信用のパラボラアンテナを持ち込んで応急復旧します。

 ただ、その後、発電機を動かし続けるための燃料、給油が必要になります。このあたりは結構苦しかった点ですね……。

 厳冬期でしたから、雪で道路の段差やひび割れも見えにくく、危険な状態でした。現地で十分注意して対応していきましたが、除雪機を使いながら基地局に向かった例もあります。

 繰り返しになりますが、降雪は難しかった点です。復旧した後も、たとえばパラボラアンテナに雪が積もると衛星回線が遮断されて、故障アラートが発されます。対応のために、人の手で雪を払う必要もありました。

 防雪シートと呼ぶ部材でアンテナを覆って、雪が落ちやすくしましたし、雪が積もることへの対策としてパラボラアンテナを高いところにかさ上げして設置できるような架台を急遽、制作してもらいました。

パラボラアンテナにも雪が積もる(ソフトバンク提供)

――防雪シートという名の商品があるのではなくて、そういうふうにシートを使った、ということですか。

北市氏
 はい、防雪シートも、かさ上げのための架台も、協力会社と連携して、急遽制作した復旧部材になります。

――厳冬期だからこその経験を経て、その場その場で課題を克服していったことになるんですね。課題を認識して解決策につなげていく、という点も、こうやって話をしていただくとすんなり進んだように思いがちですが、実際はいかがでしたか。

北市氏
 現場が苦労している点を、本社側で考えて対策を導入したといった流れがありました。

 一方で、事前の準備が功を奏した例もあります。たとえばパラボラアンテナも、これまでに軽量化が進められていて、ひとりで背負って持ち運べるようになっていました。これは、過去の災害の経験を踏まえて、車が侵入できないこともあることから、軽いものが開発されていたわけです。

 基地局が落ちている現場のなかに、行けない、たどり着けない場所は多いわけです。当局から道路啓開情報(道路の復旧情報)は共有されるのですが、それ以上に、現場へ実際に訪れて安全に復旧すべき場所まで到達できるルートはないか、確認する作業も繰り返しましたね。

 もし現地入りできたなら、なぜサービスエリアを提供できていないか、原因をまず突き止めます。電力なのか、回線なのか。原因にあわせて復旧用の部材をどれにするか決め、翌日に現地へ持ち込んで復旧させていきました。

 1日経つごとに、現場から復旧できた、電波OKです、といった報告が寄せられるとみんな喜んでですね……そうした中で活動していきましたね。

復旧エリアの通信品質もケア

――1月18日の会見では、基地局復旧後の通信品質にもこだわった、という話があり、印象深いところでした。なにはともあれ電波が届くようにする、ということだけを優先していく考え方も、一応は選択肢としてありそうですが、品質にこだわったと。

北市氏
 特に避難所、役場といった人が多い場所はどうなっているのか、常にチェックしていました。

 応急復旧させた基地局に対して、基地局ごとのトラフィック(通信量)や、接続率といった点は確認するようにしていましたね。

 もし、異常があれば、すぐ対応できるようにしていました。

復旧を終えて

――ソフトバンクでは2月27日に全エリアで応急復旧が完了したと発表しました。今回の経験で、うまくいった点、逆に今後へ活かしたい点があれば教えてください。初動の受け入れ体制についてはすでにおうかがいしましたが、復旧活動についていかがですか。

北市氏
 良かった点として、ベースキャンプとして復旧活動用の仮設拠点を構築しました。ここで、開設した給油所の情報を他社さんと共有しまして、実際にKDDIさんなどに利用していただけました。

 ガソリンを入手するのも困る状況でしたので、各社ごとに給油拠点を確保するよりも、こうした連携は良かったなと感じています。

 今後、強化したい点としては、インフラ各社、政府や県・自治体との連携でしょうか。道路啓開や電力の復旧見込みにあわせていくか。

 (取材した3月19日時点で)まだ暫定対応の場所もありますので、1日でも早く、通信ネットワークを本格復旧できるよう、インフラ各社や政府関係機関、県・自治体との情報の連携を強化したいです。

松本氏
 ソフトバンクとして今回、新たなソリューションをいくつかチャレンジしました。たとえば、発電機です。これまでは5時間ほどで止まるようなものを使っていたのですが、今回は24時間稼働するものを導入して給油回数を減らしました。夜間も携帯電話をお使いいただけるようになり、被災した方々の心のケアにも、少なからず寄与できたのではと思っています。

 ドローン中継局も積極的に活用して、ある程度貢献できたと考えています。

 一方で、さらに良くしていきたい点としてはDXになります。たとえば細かく現地の状況を見ていくと、作業の割当がスムーズにいかず現地で待機せざるを得ないスタッフが生じていたこともありました。限られたスタッフ、物資の活動が本当に最大化できたのか。もっと、ほかにできることがあったのではないか、と自問自答しています。

 「今、この人は何をやって、どういう状況になったのか」という点を可視化することはできているのですが、次に何をすべきか、ここで、人が判断しなければいけない仕組みなんです。ここをたとえば、手が空いた人を自動で検知して、最適な作業にアサインしていく、といったDXは、もっと進められるかなと考えています。

 近い将来、南海トラフ巨大地震も予想され、その被害がかなり大きなものとされるなかで、今回の能登半島地震での体験から、有益な教訓がたくさんありますので、きちんと反映させていきたいです。

 北市がお伝えしたように、外部との連携、たとえば自衛隊や自治体との連携はもっともっと進めたいです。これまでも合同訓練は重ねていますが、能登では活かしきれていないところもあります。

 他社さんでは、自衛隊のホバークラフトで現地に向かった事例もあるので、当社もさまざまな場面を想定して準備を進めたい。特に手続き関係には時間を要します。しっかりと確認し、訓練しておく必要があります。

 そのほか、NTTさんとKDDIさんが運用された船上基地局も、南海トラフ巨大地震への対策を想定すると、海からアプローチするソリューションの必要性を強く感じましたので、社内でも急ぎ検討することになっています。

――なるほど。本当にありがとうございました。