石川温の「スマホ業界 Watch」

iPhoneの「App Store」に規制は必要か、パブリックコメントから見える懸念点

 政府の「デジタル市場競争会議」は10月12日、iPhoneのApp Storeにおける独占状態に対応するために検討している規制案に寄せられたパブリックコメントを公開した。

 政府が6月にまとめた報告書に対して、8月までにパブリックコメントが公募されたが、寄せられた意見は500件以上にもなった。これまで、総務省による端末割引への規制に対するパブリックコメントは数十件に留まったりしたことを考えれば、世間の関心は相当、高いと言えそうだ。

アップルは規制案に猛反発

 今回のパブリックコメントで特に言及されているのが、アップル・App Storeへの規制だ。政府ではApp Storeが、アップルによって独占的に提供されている事を問題視。アプリを開発者が自由に配布できず、アップルが提示する手数料を拒否できない。政府としてはアップル以外のアプリストアを可能にするように義務づける方針を盛り込んでいるのだ。

デジタル市場競争会議(第7回)資料より

 しかし、この規制案に対して、アップルが猛反発。アップルは、App Storeだけを流通網とすることで、アプリをしっかりと、ユーザーの個人情報を脅かさないか、セキュリティ的に問題ないかなど厳しく審査することが可能だとしている。これが、アップル以外のストアができてしまうと、ユーザーの個人情報を抜き取るようなアプリが流通してしまうと懸念しているのだ。

 アップルは今回の規制案に対して「アップルは、私たちが事業を展開するすべての市場において、イノベーション、雇用創出、競争のエンジンとなっていることを誇りに思う。日本だけでも、iOSアプリの経済は約100万人の雇用を支え、大小のデベロッパが世界中の顧客にアプローチすることを可能にしている。私たちは、本報告書に記載された多くの提言に謹んで反対する。これらの提言は、Appleのエコシステムがアプリ開発者の方々に利益をもたらし、消費者にプライバシーとセキュリティを保護する選択肢を提供しているアップルのしくみを危機的な状況に追い込むものだ。私たちは、これらの懸念に対処するため、これからも建設的に関わり続けていく」と声明を発表している。

パブリックコメントの内容は?

 では、実際のところ、一般からどんなパブリックコメントが寄せられているのか。

 インターネットユーザー協会からは「スマートフォンは一番身近な情報端末として、幅広いユーザーが利用していることに強く注意すべきだ。子どもたちだけでなく、情報リテラシーが必ずしも高くない人たちの生活に密着するツールであり、濫用や悪用を防ぐ機能や仕組みが取り入れられてきたことに注意する必要がある」とApp Storeにおける悪用を防ぐ仕組みを維持すべきだとしている。

 特に「子どもを守る」という点においては、サイドローディングのように別ルートでのアプリダウンロードができてしまうと厄介だ。

 「無料で音楽や映像を楽しめる」といったアプリがサイドローディングで入手できるとなれば、子どもたちはこぞってダウンロードするだろう。しかし、当然、著作権的にもアウトであるとともに、子どものデータが大量に抜かれる危険にさらされかねないのだ。

 iOSコンソーシアムからは「GIGAスクール構想は成功事例となっているが、今回のアプリ代替流通経路を契機としたトラブルが頻発すれば、その功績は暗転しかねない。それによって教育領域でのICT活用が大きく後退した場合、その影響を受けるのは他でもない子供達だ」と警鐘を鳴らす。

 やはり、スマートフォンにはユーザーの個人情報が大量に含まれているため、きちんと保護する仕組みを残すべきというのは多くの人や団体が感じているところだろう。

 特に最近ではスマートフォンだけでなく、スマートウォッチなども連携し、身体の情報も保存され、病気を防ぐ取り組みなどに利用されている。

 東京都医師会は「iPhoneのプラットフォームには、将来健康情報などがPersonal Health Record(PHR)として搭載されたり、健康保険証やマイナンバーすらも表示されることが見込まれている。(中略)外部からその体勢を崩そうとすることは望ましいことではない」と指摘する。

 規制案ではアップルなどに対して「OSで提供されている機能と同等の機能との相互運用性やそのためのアクセスをサードパーティに認めることを義務づけるべき」としている。

 いわば、セキュリティをしっかりと確保する機能を第三者が無償で使えれば、App Storeとは別のアプリ配信プラットフォームが出てきても安全だというわけだ。

 しかし、ここに噛みついたのが、電子情報技術産業協会、いわゆるJEITAだ。

 「ビジネスモデルを鑑みることなく、企業努力により開発されたサービスやソリューションを無償で提供することを強制する政策の方向性は、自由な企業活動を萎縮させる可能性もある」

 確かにアップルが独自に作り上げてきたApp Storeと同等の機能を他社に無償で開放しろというのは、無茶振りもいいところであり、国による企業への恫喝とも言えなくもない。

 また、規制案では「アプリ開発者がしっかりと自分たちでアプリの安全性を証明すべき」と、ややアプリ開発者にさらなる負担を強いるような、丸投げな提案もある。

 その点について、サイバーセキュリティに詳しい八雲法律事務所は「既にアプリデベロッパーには膨大な量のガイドラインが示されており、十分な量のセキュリティに関する情報は開示されている。新たにガイドラインを設けてもセキュリティ上の効果は限定的となる可能性が高い。そればかりか、むしろアプリデベロッパーの負担が増加することになりかねない」と危惧している。

規制案に賛成の声を上げる団体もあるが、反対は9割近く

 もちろん、規制案に賛成の声を上げる団体もある。

 楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が代表理事を務める新経済連盟は「アプリ代替流通経路を実効的に利用できるようにすることを義務付ける規律を導入すべきであるとした点に賛同する。(中略)決済・課金システムに係る手数料がアプリ開発事業者にとって納得感のある水準・内容となり、ひいては消費者利益を確保するとともに我が国のスタートアップ振興にもつながることを強く期待する」としている。

 ただ、500以上のコメントが寄せられている中、当事者であるアップルとグーグルの意見、さらに黒く塗りつぶされて公表された意見を除く549件を分析すると、賛成が7%、中立が5%なのに対して、反対が88%と9割近くを占めていることになる。

 政府関係者は「アップルによる組織票だ」と怒りをあらわにしているようだが、パブリックな意見の多くが明確に反対を表明している事実について、政府はキチンと耳を傾けるべきだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。