石川温の「スマホ業界 Watch」

iPhoneで「App Store」以外のアプリストアは必要なのか

 モバイルOSの寡占が世界中で問題視されている。

 いま、メインとなるモバイルOSはアップルの「iOS」とグーグルの「Android」に二分されている。ファーウェイの「HarmonyOS」もあるが、中国市場が中心だ。

 モバイルOSの寡占に関しては欧州を中心に議論されていたが、日本でも内閣官房デジタル市場競争本部が「モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告」として4月26日にパブリックコメントを募集し、6月10日に締め切られた。

 モバイル・エコシステムに対する提言においては「モバイルOS」「アプリストア」「ブラウザ」「検索サービス」という4つのレイヤーで分けられている。その中でも注目を浴びているのが「アプリストア」だ。

 ここ最近、「iPhoneでサイドローディング(正規のアプリストア以外からアプリをダウンロードすること)を認めさせろ」という議論が盛り上がりを見せている。iPhoneで、アプリを入手するには「App Store」からしかダウンロードできない。

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 これがアップルが独占的にアプリ市場を牛耳っているという批判につながり、「他の場所からもダウンロードさせろ」という圧力につながっているのだ。

 App Storeから有料アプリを配信しようとすると、アップルに30%の手数料を徴収される。これも「高すぎる」という批判につながっている。アップルではサブスクリプションのサービスに対しては15%、さらに2021年1月からは手数料を引いた分の収益が100万ドルに満たない小規模デベロッパーに対しては手数料を15%に引き下げるようになった。

 それでも「Apple税が高すぎる。別のアプリ配布方法を」という声が大きく、政府を巻き込んで「サイドローディングを認めさせろ」という論調につながっているようだ。

 なぜ、アップルはApp Storeからしかアプリのダウンロードをさせないのか。それは「ユーザーを守るため」に他ならない。

 アップルでは、毎週、10万点以上のアプリがApp Storeに提出されている。これらを24時間体制、80を超える言語に対応できるよう、500人以上のエキスパートが審査を行っている。

 ブラウザ経由でアプリを配信するというのは技術的は可能だが、それでは悪意のあるアプリがiPhoneに混入する危険がある。iPhoneに危険なアプリが混入しないよう、アップルがすべてのアプリを審査し、合格したものだけがApp Storeで配布できるような体制を組んでいるのだ。

 実際、提出されたアプリのうち、6割は通過するが、4割はバグなどが発見されて却下されているという。

 また、ユーザーに著しく悪影響を与えたり、体験を損なうもの、スパムなどがあった場合には、容赦なく、アップルはApp Storeからアプリの登録を却下している。必要以上にユーザーのデータを集めたり、収集したデータの取り扱いが不十分だった場合も同様で、2021年には34万3000本を超えるアプリが却下されているのだ。

 アプリの手数料はこうした審査体制を維持するために使われている。実際、App Storeで流通している8割以上のアプリは無料だ。当然のことながら、無料アプリであれば、手数料はかからない。つまり、アップルは無料アプリであれば、一円の収入を得ることなく、審査だけを行っていることになる。また、無料アプリからはホスティング料や配信料などの手数料も徴収していない。

 無料アプリを世界のiPhoneユーザーに配信しようと思えば、配信コストは限りなくゼロに抑えられるというわけだ。

 また、App Storeでは、様々なアプリを紹介する特集記事が組まれている。この記事作成はアップル自身が行っているが、アプリ開発者が宣伝費を払うといったこともない。特集記事により、ユーザーにアプリが認知され、ダウンロードが増えていく。こうした活動にも手数料が使われているのだ。

サイドローディングが認められたらどうなる?

 iPhoneは2007年にアメリカで発売されたが、当時、App Storeは存在せず、2008年からApp Storeによるアプリ配信が始まった。そのころから、これまで何百というアプリをインストールしてきたが、iPhoneでのマルウェアの被害やデータを盗まれたといった被害は一度も合っていない。

 Windowsパソコンの場合、ウィルス対策ソフトなどを入れるようなことがあるかもしれないが、iPhoneの場合、そうした対策をする必要は一切ない。キャリアがやたらと「安心パック」みたいなものを勧めてくるが、iPhoneであれば、そんな誘いは無視して構わない。

 iPhoneで「サイドローディング」を導入するとなると、セキュリティ面で一気に不安となるだけに、こうした対策が必要となる。つまり、ユーザーは自分を守るために有償のサービスに入る必要が出てくるのだ。

 サイドローディングを認めると言うことは、結果として、我々ユーザーが危険な目に遭う可能性があり、身を守るための出費を余儀なくされるということにつながる。

 15年近く、安全に使えてきたiPhoneをなぜいま、危険にさらす必要があるのか。

 欧州でGAFA叩きが盛り上がっているからと言って、日本も一緒になって、サイドローディングを導入させようと動く意味は無い。

 サイドローディングを導入するということは、日本のiPhoneユーザーを人質に出すのと一緒なくらい危険な目に合わせることにつながる、ということに気がついていないのだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。