石川温の「スマホ業界 Watch」
iPhoneを標的とした米司法省の提訴、Appleの動きはどうなる?
2024年3月29日 15:29
米司法省は2024年3月21日(現地時間)、アップル(Apple)を反トラスト法(日本の独占禁止法)違反の疑いで提訴した。標的はiPhoneで、司法省では「囲い込み」と「機能制限」を問題視している。
そのなかで具体的な例として5つの項目を挙げている。
まずは「スーパーアプリの排除」として、アプリ内にさまざまなミニアプリが動くことをアップルは規制していると指摘。また、クラウドゲームの配信を制限する規定や他社製メッセージアプリの排除、さらには複数のプラットフォームで稼働するデジタルウォレットの開発制限といった具合だ。
実際、Apple Watchを使いたくても、iPhoneを持っていないことには利用ができない。一方で、他社のスマートウォッチをiPhoneに接続することは可能だが、使い勝手がイマイチといったことがよくある。
また、米国では初めてスマートフォンデビューするような学生から親に対して「iPhoneの指名買い」を迫られるケースが圧倒的に多いという。iPhoneでなければ「友人とiMessageが送れない」「AirDropでファイルのやりとりができない」ということで、仲間外れにされる恐れがあるというのだ。このあたりは日本でも同様の話をよく聞いたりする。
アップルへの逆風、その裏側には政治的なパフォーマンスも?
ここ最近、アップルに対しては世界中で厳しい逆風が吹いている。
たとえば、欧州では「デジタル市場法」によって、サイドローディングなど、App Store以外の場所からのアプリダウンロードが強制された。
日本の政府も、欧州の動きをマルパクリし、サイドローディングの導入に躍起となっている。そして今回、米司法省が提訴に動き出した。
ただ、一連の動きにおいてはユーザーのニーズというよりも、「役人が手柄をあげたい」という動機が発端になっていることがあったりもする。
たとえば、今回の米司法省においても「バイデン政権が米総選挙をにらんで、巨大なITテックカンパニーに睨みを利かせるための提訴」という見る向きが強い。
欧州や日本においても「役人が出世するためのパフォーマンス」と揶揄する声もあるほどだ。
アップルやグーグル(Google)、マイクロソフト(Microsoft)、メタ(Meta)、アマゾン(Amazon)といった巨大ITテックをつるし上げることで、「仕事をしているアピール」につなげたい役人が世界中にいるということなのかもしれない。
実際のところ、米司法省による今回の提訴は、有耶無耶(うやむや)に終わってしまうことが予想される。
たとえば、クラウドゲームの配信やデジタルウォレット関連に対する指摘については、アップルでは欧州市場に向けて開放を約束しており、すでに公開済みのiOS 17.4で対応済みだ。
他社製メッセージアプリとの互換性についても、アップルでは今年中にiMessageにおいてRCSとの連携を図るとしており、iPhoneとAndroidで無料で送受信でき、ファイル交換などもやりやすくなると見られている。
司法省の指摘のうち、スーパーアプリとスマートウォッチの利用をしやすくするぐらいしか残っておらず、これくらいであれば、アップルとしても早期に方針を転換する可能性が極めて高い。
幅広いプラットフォーム展開には意外と寛容な一面も
アップルを取材していると、サイドローディングのように、対応するとセキュリティ面での不安が増し、ユーザーの個人情報などが脅かされるような問題について徹底的に反旗を翻すが、幅広いプラットフォーム展開については、比較的、寛容だったりする。
たとえば、Apple MusicやApple TVなどのコンテンツにおいては、アップル製品に閉じて展開するようなことはせず、Androidアプリや他社のテレビ接続デバイスにも展開するなど「ユーザーの拡大につながり、儲かる」とわかれば、マルチプラットフォーム展開に舵を切ったりもする。
かつて、マイクロソフトがWindowsで強大なシェアを持っていたときにも、米国では似たような提訴があったが、結局、決着するまでに10年近い年月がかかっていた。
確かに、サイドローディングのような、ユーザーを危険にさらすような悪手でアップルに迫るような日本の政府よりも「iMessageと他社メッセージアプリの互換性を持たせる」という指摘を持ってきた米司法省のほうが、よっぽど国民の需要を理解している点は評価できる。
ただ、今回の司法省による提訴は、論点が時代遅れであり、調査を進めていくうちに、アップルが機能開放を行ってしまい、結局、意味のない、無駄足に終わる可能性が極めて高そうだ。