石川温の「スマホ業界 Watch」
「iPhoneならヘルスケアデータもきちんと守る」、アップルが注力するプライバシー保護の4原則とは
2023年5月24日 23:13
スマートフォンにおける差異化が難しくなる中、アップルがここ最近、熱心にアピールしているのが「ユーザーのプライバシーを徹底的に守る」というスタンスだ。
アドレス帳、メール、メッセージ、スケジュール、写真や位置情報など、スマートフォンは個人情報の宝庫と言えるが、そんな個人情報が漏洩するようなことがあっては絶対にならない。
そこで、アップルではここ数年、いかにiOSが個人情報を保護しているかのアピールに余念がない。
5月下旬からテレビCMや交通広告で展開されているのが「iPhoneならヘルスケアデータもきちんと守られている」というメッセージだ。
スマートフォンを持ち歩いていれば、当然のことながら歩数や消費カロリー、睡眠時間などが記録され続ける。最近はスマートフォンにつながる計測機器も増えており、たとえば体組成計や血圧計、体温計と連携することで日々の体重や血圧、体温なども記録しておくことができる。
また、iOSでは服薬情報を記録しておき、毎日、薬を飲むタイミングを知らせてくれるような設定をしておける。
つまり、スマートフォンには自分の身体に関するかなりのデータが詰まっているのだ。
アップルが流し始めたCMでは、そうしたスマートフォンに記録した身体に関するデータが流出していると警告する。しかし、iPhoneであれば、そうしたプライバシーに関するデータはキチンと守ることができるというメッセージでCMが終わる。
実際、iPhone以外のプラットフォームでヘルスケアデータが流出しているのか、アップルからの言及はないが、いずれにしても、ちょっと不安になるCMだったりする。
4つの原則を掲げる
アップルではiPhoneでユーザーのプライバシーを守るために4つの原理原則が設けられている。
ひとつは「データの最小化」で、iPhoneがアクセスするデータをできるだけ最小化するような技術が導入されている。
2つ目が「デバイス上の処理」で、基本的にユーザーのヘルスケアデータはiPhone上だけで処理されている。iColudにデータを上げる際はエンドツーエンドで暗号化され、アップルですら中身を見ることができないとされている。
3つ目が「透明性と自主性」で、ヘルスケアデータを共有することができるだけでなく、共有するか、しないか自分の判断で決めることができる。
4つ目が「セキュリティ」で、パスコードやTouch ID、Face IDといったロックを解除しないことにはデータにアクセスできない。もちろん、デバイス上でもデータは暗号化されている。
サードパーティアプリへのデータ共有は?
ヘルスケアで気になるのが、サードパーティーアプリがヘルスケアデータにアクセスできてしまうのではないかという点だ。
アップルでは、ユーザーが自分で明確な許可を与えた場合のみ、アプリと情報が共有されるようにしている。もちろん、デフォルト状態ではすべて共有できないようになっている。
ユーザーは「歩数のデータは共有を許可するが、血糖値へのアクセスは認めない」といった細かな設定ができるのだ。
また、アプリがこうしたデータにアクセスするには健康とフィットネスに使うという目的がなければならない。また、開発者はユーザーがアプリをダウンロードする前に、どのようなデータを使うのかの説明文を用意しなければならない。
さらに、こうしたデータを広告やマーケティング目的で、第三者に転売することは禁止されているという。
確かにユーザーのヘルスケアデータを元にすれば、身体の悩みに対する広告を表示することで、薬の販売につなげたり、ダイエット商材を売るといったビジネスにつなげることができるだろう。
スマートフォンのなかにあるヘルスケアデータは、ターゲティング広告としては最強のデータかも知れない。だからこそ、狙われるデータであることは間違いない。
ただ、アップルがこうしたデータを元にしたビジネスに無関心なのは、やはり基本は「メーカー」であり、iPhoneと、デバイスに向けた音楽や動画配信、ストレージが売れれば御の字だからだろう。
このあたりがほかの大きなテックカンパニーとは異なる立ち位置と言える。実際、アップルはヘルスケアデータだけでなく、マップ検索による位置情報やメール、スケジュールなど、ユーザーの個人情報はすべて先述の原理原則に基づいて管理されており、「ユーザーのデータには興味がない」というスタンスを貫いている。
ただ、この「ユーザーの個人情報を徹底的に守っている」というアップルの考え方は、正直いって、なかなかユーザーには伝わっていないというのが現状だ。
確かにスマートフォンを選ぶときに「プライバシー保護がしっかりしている」という理由が優先されることはほとんどないだろう。
しかし、アップルとしてはここ数年、地道な啓蒙活動を続けている。
テレビCMや交通広告などで、なんとか創業者であるスティーブ・ジョブズ氏の理念であった「ユーザーのプライバシー情報保護」の姿勢を知って欲しいと腐心しているようだ。