石川温の「スマホ業界 Watch」

Appleが「iPhoneでプライバシーを保護しよう」セッションを実施、その内容は?

 アップルは1月28日により、全国のアップル直営店において、プライバシー保護に関する無料講座を週2回ペースで開講する。この取り組みは日本のみならず、全世界522店舗で行われる。

 アップル直営店ではiPhoneやMac、アプリなど、同社製品の使いこなし術などを学べる「Today at Apple」という無料講座を連日、開催している。その中の一つとして、「iPhoneでプライバシーを保護しよう」というセッションが追加となった。

 ちなみに1月28日にはヨーロッパやアメリカ、日本において「データ・プライバシーの日」として定められており、世界的にデータ保護に関する啓蒙活動が行われているとされている。

 1月28日12時。実際にアップル丸の内で行われたセッションを取材してきた。

 セッションの開催告知自体は3日ほど前だったにもかからず、20名近い参加者が集まるなど、一般ユーザーでもプライバシー保護に関しては関心が高いようだ。

 30分ほどの短いセッションではあるが「パスワードとパスキー」「メールプライバシー保護」「位置情報サービス」「アプリのトラッキングの透明性」「個人情報安全性チェック」といった機能の説明、さらには設定のやり方などが解説された。

 比較的、誰でも知っているような初心者向けのプライバシー保護をについて語られるかと思いきや、最新のiOSで搭載されたものもあり、個人的にも参考になるセッションであった。

 「パスワードとパスキー」に関しては、iCloudキーチェーンに加えて、まもなくパスキーでログインできるサイトが増えるようになる、という。また、「個人情報安全性チェック」は、「設定」から「プライバシーとセキュリティ」の項目に入り、一番下のほうにメニューがある。

 「個人情報安全性チェック」は、今後、接続を希望しない人が出てきたときに、アプリやデバイスからの接続を解除できるという機能だ。「今後、接続を希望しない人」に関して、具体的な説明はなかったが、おそらく、「DV夫から逃げるために関係性を一切遮断したい人」といった人向けの機能と思われる。

 一時期、そうした関係性になってしまったとしても、スマートフォンのつながりが切れないことが問題視されたこともあったが、iOSではきちんとそのあたりの配慮も行き届いているというわけだ。

 セッションとしては、あくまで「ユーザーがプライバシー保護のオンオフを選べる」というスタンスを貫いている。アプリをまたぐトラッキングに関しても、現在では拒否と許可を選べるようになっており、ユーザーが自分でどちらかを選べるようになっている。もちろん、許可から拒否、拒否から許可というオンオフも設定メニューから変更することが可能だ。

 一概に「すべてのプライバシーを保護すべき」ではなく、アップルとしては「プライバシーを保護する機能を提供しますが、使うか使わないかはご自身の判断ですよ」というスタンスになっている。

 ユーザーとしては、スマートフォンでWebサイトを見て、メールマガジンを開き、アプリをまたぐことで、自身のデータがどのように利用されているのか、といった情報を知った上で、プライバシー保護の機能をオンオフできるのが利用なのだが、そこまでリテラシーが高いと言う人はそうそう、いないだろう。おそらく、こうしたプライバシー保護の取り組みは、アップルだけでなく、本来であれば、学校などで教えるのが理想なのだが、そこまで危機意識を持った教育現場というのはなかなかないのかも知れない。

 アップルとしては、iPhoneを販売する企業として、iOSを強化し、さらにはショップで講座を開催するなど、ユーザーのプライバシー保護に向けた啓蒙活動に余念がない。「プライバシー保護は基本的人権」という考え方は創業者であるスティーブ・ジョブズのころからアップルに根付いている。

 ただ、こうしたユーザーを保護できる仕組みも、アプリが、アップルが提供する「AppStore」のみで提供しているから、と言う点は無視できないのではないだろうか。

 最近では「サイドローディング」の議論が世界的に盛り上がっており、スマートフォンに対して、自由にどこからでもアプリをインストールできるようにすべき、という声が強くなっている。

 おそらく、アプリ配信の仕組みをアップルが独占していることで、手数料が高止まりして下がらないというのが理由のようだ。

 ただ、アプリをスマートフォンに自由にインストールできるようになると、個人情報が簡単に抜き出すなどの悪さをするアプリを配信する輩も出てくることが懸念される。

 パソコンなどはかつては自由にソフトをインストールできたからこそ、ウィルスやマルウェアなどが広まり、個人情報が流出したりするなどのトラブルが相次いだ。ウィルス対策ソフトを入れるのが前提の使い方になってしまった。

 iPhoneに関しては、アプリはすべてアップルが人力でチェックし、悪さをしないかを精査。審査を通ったものだけが流通している。「パスワードとパスキー」「位置情報サービス」「アプリのトラッキングの透明性」「個人情報安全性チェック」なども、アップルが審査したアプリだけしかiPhoneにインストールされていないという前提条件があるからこそ、きちんと機能している。

 日本ではマイナンバーカードをスマートフォンに内蔵させようという準備が進んでいるが、これもスマートフォンがマルウェアなどに犯されないという安全性が担保されているからこそ実現にむけて動き出しているのだ。これが、サイドローディングで悪さをするアプリがインストールされる可能性が出てくると、マイナンバーカードの信頼性すら脅かされることになる。

 せっかく誰もが安心して、プライバシーがきちんと保護されているiPhoneを使えているにもかかわらず、なぜ、いまさらサイドローディングを始めて、iPhoneを危険にさらすようなことをしないといけないのか。

 ユーザーのプライバシー保護という観点からも、サイドローディングの議論は慎重に進める必要があるだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。