石川温の「スマホ業界 Watch」
クアルコム「Snapdragon 8 Gen 3」AI関連の進化でもっとも注目すべきポイントは?
2023年10月31日 00:00
クアルコムが10月24日、アメリカ・ハワイ州マウイ島で毎年恒例のイベント「Snapdragon Summit」を開催した。
今年の目玉はWindowsパソコン向けの「Snapdragon X Elite」であったが、もちろん、次世代のハイエンドAndroidスマートフォン向け「Snapdragon 8 Gen 3」もしっかりと発表された。
同チップを載せたスマートフォンは、すでにXiaomiが「Xiaomi 14」として、10月26日に発表済みだ。今後、例年通り、来年前半にかけて、サムスンやソニー、シャープなども搭載し、日本市場で展開することだろう。
今回のアップデートで注目はなんと言ってもAI関連の進化だ。
クアルコムでは「オンデバイスAI」として、クラウドにつながなくてもある程度のAI処理ができる点をアピールしていた。
実際にデモでは、機内モードにしてあるスマートフォンに対して「マウイから東京への行き方を教えて」と話しかければ、距離や飛行時間などを教えてくれた。
今後、製品化された際には、例えば、旅行で行くべき場所や人数、アクティビティなどをオンデバイスAIに相談しつつ、旅行のスケジュールが決まったら、あとはクラウドAIにつなぎ、予約手続きをネットでするといった使い方になってきそうだ。
オンデバイスAIであれば、反応が早く会話ができる。個人情報などもネット上にアップしないので、プライバシーがキチンと保たれるといったメリットが期待されるのだ。
もうひとつ、AIにおいてはカメラ関連での機能強化が期待される。
撮影できていない場所をAIが描いてくれたり、動画から余計な被写体を消すと言ったことが可能になる。ぶっちゃけて言えば、グーグルが「Pixel」で提供している「消しゴムマジック」的な使い方が、PixelではないAndroidスマートフォンでもできるようになるかも知れないということだ。
そんななか、「でかした、クアルコム」と褒めてあげたいのが、Snapdragon 8 Gen 3においてC2PAに対応してきた点だ。
C2PAとは、カメラで撮影した画像やAIで処理した画像に対して、撮影デバイスや場所、ソフトウェアなどの来歴情報を記録しておけるというものだ。
Pixelの「消しゴムマジック」や、集合写真でそれぞれの最高の笑顔だけを選んで1枚の写真できる「ベストテイク」などは、個人的に使う分には便利で楽しいが、「フェイク画像」とも言えなくもない。ニュースサイトの記事中に使われれば事実とは異なる描写にもなりかねない。
今後、スマホでAIによる画像加工が一般的になれば、インターネットはフェイク画像であふれかえることにある。
そんななか、Photoshopなどでおなじみのアドビやマイクロソフトなどが手を組み、CAI(Content Authenticity Initiative)という団体でC2PAという仕組みを作ったのだった。
これまで、ニコンやライカなどが来歴情報を書き込むカメラを開発、まもなく発売するということであったが、いずれも高価なカメラであり、すぐに普及するとはいえそうになかった。
スマートフォンによる画像生成AIが盛り上がりを見せる中、一刻も早くC2PA対応が求められていたが、端末メーカーではなく、クアルコム自身が手がけ、搭載してくれたことで、一気に広がる可能性が出てきた。
クアルコムのプロダクトマーケティング担当ヴァイスプレジデントのJudd Heape氏は「今回のイベントでは、AIについて多く語ってきたが、AIを使えば簡単に画像を手を加えることができるようになる。本物の写真なのか偽物なのか、その判断ができるようにC2PAを実装することにした。カメラで撮影した画像にはいつ、どこで、誰が何を使って写真を撮り、AIがどのように加工したのか信頼された実行環境によってC2PAが書き込まれる。写真を撮影するためにわざわざ5Gでクラウドにつなぐのではなく、ハードウェアで書き込めるようにしている」と語る。
もちろん、Snapdragon 8 Gen 3が対応したからといって、実際に情報が見られるのはGoogleの写真アプリや端末メーカーが提供するギャラリーアプリということになる。そのため、グーグルや端末メーカーが搭載するかしないかの判断するという可能性があるため、すぐに普及するとは限らないのかも知れない。
ただ、スマホの画像生成AIによるフェイク画像がネット上に氾濫すれば、それだけ「写真」に対する信憑性はなくなり、そもそもAIに対しての不信感も増してしまうことだろう。
画像生成AIを正しく便利に使っていくためにも、グーグルや端末メーカーは、積極的にC2PAに対応していくべきではないだろうか。