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第97回:IEEE802.11b とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


無線LANの代表的規格

 「IEEE802.11b」は、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers=電気電子学会)という米国の学会でLAN技術の標準を策定している「802委員会」の中にある「ワーキンググループ11」の「タスクグループB」が策定した、無線LANの規格です。2.4GHzのISM(Industrial Science Medical)帯と呼ばれる、免許不要で扱える周波数帯域を利用しています。日本を始めとする多くの国々では、無線免許なしにこの規格に対応した機器を入手するだけで、最大11Mbpsの通信速度を持つ無線LANが利用可能になります。

 企業や家庭内で、ルータからパソコン、あるいはパソコンからパソコンへのデータ通信用にイーサネットを利用した「LAN」がよく組まれますが、この無線LANを利用することで、ケーブルなどを使わずにルータやモデムから、あるいはパソコン同士でデータをやりとりすることができます。

 また最近では、それだけでなく家や会社の外でも、例えばNTTコミュニケーションズの「ホットスポット」や、MIS(モバイル・インターネット・サービス)の「Genuie」などで、この無線LANを利用したインターネット接続サービスが提供され始めていて、都内では街角や駅、ホテル、展示会場、喫茶店など公共の場所で無線を用いたブロードバンドインターネットが手軽に使えるようになりつつあります。


 NTTドコモでもつい先日、7月1日からIEEE802.11b規格に準拠した公衆無線LANサービスを始めることを発表しています。ドコモでは、2002年4月から公衆無線LANのモニターサービスを実施しており、技術面での検証が終了したことから、7月より「Mzone(エムゾーン)」というサービス名称で商用サービスが開始されることになっています。伝送速度は最大11Mbpsで、Wi-Fi準拠の対応端末で利用可能です。

 これらの無線LANでは、多くの場合IEEE802.11b規格に準拠した機器が使われています。現在、パソコンやPDA用機器として販売されている無線LANカードなどはほとんどがこの規格に対応したもので、非常に手軽に、また安価に入手することができます。今日では、無線LANの規格としてIEEE802.11bは非常にポピュラーなものとなり、単に「無線LAN」と言った場合には、この規格のことを指したり、あるいは“ドットイレブンビー”という言葉が無線LANの代名詞的な使われ方をされることさえあります。

 なお、“IEEE802.11b”の呼び方ですが、「IEEE」は「アイトリプルイー」と読みますので、「アイトリプルイー・ハチマルニ・テン・イチイチビー」や「アイトリプルイー・ハチマルニテン・イレブン・ビー」と呼ぶことが多いようです。この読み方は長いので省略して、会話中では単に「ドットイレブンビー」と呼ばれることもあります。


互換性は「Wi-Fi」ロゴをチェック

 前述の通り、IEEE802.11b対応の機器はさまざまな国内外メーカー、例えばメルコ、アライドテレシス、コレガ、プラネックスコミュニケーションズ、アイ・オー・データ機器、スリーコム ジャパンなどから対応カードやアクセスポイントが安価に提供されています。ちなみにIEEE802.11bの対応機器向けには、Lucent TechnologiesやIntersilなどからチップが供給されていているので、これらを利用して作られた機器が多いようです。

 ところで、さまざまなメーカーから機器が発売されていると、その互換性が気になるところですが、これに関しては、「Wi-Fi(Wireless Fidelity)」と呼ばれるロゴがある製品同士ならば、互換性が保証されているので安心です。このWi-Fiは、Cisco、3Com、Lucent Technologies、Nokia、富士通、ソニーなどが参加して設立された、IEEE802.11b規格による機器の相互接続性を保証するための業界団体「WECA(Wireless Ethernet Compatibility Alliance)」によって、機器間の互換性についてテストが行なわれた証です。認定された製品に対し、Wi-Fiのロゴマークが発給されています。


仕組みには「スペクトラム拡散通信」を採用

 このIEEE802.11bの仕組みは、2.4GHz帯の電波を使い、直接拡散方式(スペクトラム拡散通信)「DSSS」を利用してパケットデータ通信を行なうという規格になっています。直接拡散方式とは、データの冗長度を上げて広帯域を利用するスペクトラム拡散通信の中でも、信号データにある帯域幅をもった擬似乱数系列を乗算し、データ列自身の周波数帯域を広げ、それを変調して送信する方法です。携帯電話のcdmaOneやCDMA2000 1xなど、CDMA(CodeDivision Multiple Access)方式と同様の原理を利用しています。

 データの伝送速度は、最大で11Mbpsのパケット通信が行なえます。この通信速度は電波の受信状況などにより異なり、例えば安定してデータ通信が行なえない場合は11Mbps→5Mbps→2Mbps→1Mbpsと遅くなっていきます。通信できる範囲は屋内で30~60m、屋外では60~120mです(いずれも障害物のない場合)。

 通信の仕方は、アクセスポイントを中心にデータをやりとりする「インフラストラクチャモード」と、端末同士で通信する「アドホックモード」が使えます。通信する相手は「ESS-ID」という識別番号で変えられますが、これにはどのアクセスポイントでも通信をする「ANY」というモードもありますので、セキュリティとしての役割は果たしません。セキュリティとしては、特定のキーでデータを暗号化する「WEP」が使われます。


ほかの無線LAN規格には……

 なお、IEEEでLAN技術の標準を策定している802委員会が定めた無線LANの規格としては、他にも「IEEE802.11a」や「IEEE802.11g」、「IEEE802.11h」などといった規格もあります。

 IEEE802.11aは、5GHz帯を使った高速な無線LANで、伝送速度は36~54Mbpsです。変調方式にはOFDM方式、MAC層はIEEE 802.11と同様にCSMA/CAを採用しています。IEEE802.11gはIEEE802.11bと互換のあるさらに高速な規格で、IEEE802.11hはIEEE802aを発展させて使用する周波数を動的に変更し、混信のないチャネルを自動的に選択するDCS(Dynamic Channel Selection)技術や、802.11bよりも格段に電力消費の多い802.11aで消費電力を必要最小限のレベルに押さえ込むTPC(Transmit Power Control)などの仕様を追加したものです。


・ IEEE P802.11. The Working Group for Wireless LANs
  http://grouper.ieee.org/groups/802/11/index.html
・ Wireless Ethernet Compatibility Alliance(WECA)
  http://www.wirelessethernet.com/

ドコモ、公衆無線LANサービス「Mzone」を7月1日開始
第90回:ホットスポット とは


(大和 哲)
2002/06/25 13:05

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