Snapdragonは、クアルコムが開発した、無線通信でインターネット接続できる携帯デバイス用のチップセットプラットフォームです。スマートフォンや携帯ゲーム機など向けのQSDシリーズ、PND(Personal Navigation Device、簡易型カーナビ)など単機能なデジタル機器向けのQSTシリーズが用意されています。
Snapdragonを搭載した実際の製品としては、2009年2月に東芝の欧州法人から発表された欧州市場向けのスマートフォン「TG01」がSnapdragonシリーズの「QSD8250」を搭載しています。
クアルコム製のチップセットは、スマートフォン以外の一般的な携帯電話に採用されているMSMシリーズ、3G HSDPA対応エントリーレベル用シングルチップセットのQSCシリーズが存在しますが、これらの分野だけでなく、「ポータブルな携帯端末と高い処理性能を持つノートパソコンの中間に位置するデバイス」という市場を狙った製品がSnapdragonということになります。
■ 1GHz駆動のARMアーキテクチャCPUコア搭載
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欧州で発表された「TG01」
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ノートパソコン~携帯電話の間のデバイスとしては、たとえばスマートフォンやネットブック(ミニノートパソコン)などが挙げられます。このようなデバイス向けのチップセットとしては、IntelのAtomプラットフォームシリーズや、AMDのYukonプラットフォームなどがあります。また、NVIDIAのTegraシリーズなどもこのレベルの機器向けのプラットフォームです。
一方、今回紹介するSnapdragonは、他社製品と比べると、どちらかといえば組込機器・携帯電話寄りですが、ほぼ同様の市場を狙ったものと言えるでしょう。クアルコムでは、4~6インチのディスプレイを搭載した端末を「Pocket Computing Device(PCD)」、7~12インチの機器を「Mobile Computing Device(MCD)」と名付けていて、QSDシリーズはこれらのデバイス向けのチップセットとしています。
ただ、他社プラットフォームとは大きく異なる点があります。ひとつは、Snapdragonではチップセットにインターネット通信機能、音声通話機能という、携帯電話にも搭載されている機能をサポートしている点です。CDMA2000(1x EV-DO)やW-CDMA(HSDPA/HSUPA)に対応しており、Snapdragonシリーズを搭載するモバイル機器は、そのまま電話回線を使ったデータ通信や音声通話ができるのです。もともと携帯電話のチップセットに非常に強く、多くの3G携帯電話で採用されているクアルコムならではのメリットといえるでしょう。
Snapdragonをほかのクアルコム製チップセットと比較した場合、もっとも大きな違いはそのCPUパワーです。
Snapdragonでは、CPUコアとして1GHzで駆動する「Scorpion」が搭載されています。現在、多くのスマートフォンで採用されているCPUは500MHz前後のスピードであることを考えると性能は2倍近くとなり、これは大きなアドバンテージとなるでしょう。
また、SnapdragonはマルチメディアエンジンのVeNumを内蔵しており、CIFサイズ(352×288ピクセル、30fps)程度の動画を録画・再生する場合は、CPUパワーの20%程度しか使用しません。ちなみに、CPUコアのScorpionはクアルコム自身がデザインしたものですが、ソフトウェア的には、現在のスマートフォンなどで一般的に使われているARMv7アーキテクチャと互換があり、Windows MobileやAndroid、BREWなども利用できます。Snapdragonを搭載する東芝製の「TG-01」では、Windows Mobile 6.1が搭載されています。
また、2009年1月に米国ラスベガスで開催中された展示会「2009 International CES」では、米Wind River SystemsがSnapdragonチップセットとWVGAディスプレイを搭載した試作ハードウェア上でAndroidを動作させる技術展示を行っています。
競合チップセットではAtomやYukonのCPUがPCと同じx86アーキテクチャであり、デスクトップやノートパソコンと同じWindowsを利用できます。また、TegraはARMベースです。
Snapdragonシリーズでは、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)コアやグラフィックスコア、通信機能、ビデオデコーダー、ディスプレイコントローラーなどを搭載しています。DSPは、クアルコム基準で第6世代という製品を搭載し、600MHzで駆動させます。グラフィック性能は、XGA解像度まで対応し、720pの高精細(HD)ビデオデコードも可能です。
3DグラフィックスコアはAdvanced Micro Devices(AMD)のATI部門の技術をベースにしていて、最大毎秒2200万トライアングル程度の描画までが可能で、OpenGL 2.0に対応しています。また、1200万画素カメラもサポートします。
これだけの機能に対応しながら、Snapdragonは、チップの構成としてはMSMチップなどと大差はなく、設計はほぼ携帯電話並みのサイズに抑えることが可能で、高機能スマートフォンなどにはうってつけのチップセットであると言えます。ただし、Snapdragon自体は、前述の通り、最小ではスマートフォン程度、最大では12インチ程度の液晶ディスプレイを搭載した機器での使用も想定されています。
なお、さらに次期Snapdragonの上位チップセット「QSD8672」でCPUコアは動作周波数1.5GHzのデュアルコアとなります。このチップセットでは、下り最大28MbpsのHSPA+に対応するほか、画面解像度は1440×900(WSXGA)まで対応し、12インチまでの画面がサポートされます。また、機能的には、1080pの高解像度ビデオ、Wi-Fi、携帯端末向けテレビ放送、ワンセグ放送規格である(ISDB-T)やDVB-H、MediaFLOにも対応し、さらに無線LANや Bluetooth、GPSをサポートしています。「QSD8672」は、2009年下期にサンプル出荷が開始される予定です。
■ URL
Snapdragon 製品情報(英文)
http://www.cdmatech.com/products/snapdragon.html
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(大和 哲)
2009/02/17 12:48
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