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第406回:DC-HSDPA とは
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大和 哲 1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。 (イラスト : 高橋哲史) |
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「DC-HSDPA」は、HSPAという通信方式を高度化する仕組みの1つで、HSPAで利用していた通信帯域を二重化することで倍速通信を行う技術です。W-CDMA方式の規格標準化団体「3GPP」が、3GPP Release 8という規格の一部として2009年6月ごろの標準化を目指して検討を行っています。DC-HSDPAの“DC”とは、“セル二重”を意味する英語「Dual cell」の略です。
国内の携帯電話は、第2世代のPDC方式を経て、NTTドコモとソフトバンク、イー・モバイルがW-CDMA方式を、auがCDMA2000 1x方式を採用しています。いずれの方式も通信速度を向上させた発展版が存在します。今回紹介する「DC-HSDPA」は、W-CDMA方式を進化させたものの1つとなっています。
DC-HSDPAは、Release 8の主な追加規格として「Dual-Cell HSDPA」という名称で公表されており、「Dual-Cell HSDPA」、もしくは「DC-HSDPA」と表記するのが一般的ですが、W-CDMA方式の進化版「HSPA」をさらに高度化させたもの、ということで「DC-HSPA」と表記する場合もあるようです。
ちなみに「HSPA」は、高速パケットアクセスを意味する「High Speed Packet Access」の略で、W-CDMAの規格に則った高速通信規格です。基地局→端末方向となる下りのデータ通信を速くしたものはHSDPAと呼ばれ、逆に端末→基地局の上りで高速にする規格をHSUPAと呼びます。
日本では、HSDPA方式のサービスは、ドコモが「FOMAハイスピード」、ソフトバンクモバイルが「3Gハイスピード」という名称で、HSDPAとHSUPAによるサービスはイー・モバイルが「EMモバイルブロードバンド」という名称で提供していますが、このうち、イー・モバイルがDC-HSDPAの採用を検討する方針です。
■ 2倍の帯域を使い、通信を倍速で
技術的に見ると、DC-HSDPAは、基地局と端末が通信する際に、これまでHSPAで使っていた搬送波を2つ同時に利用することで、通信速度を倍にします。
DC-HSDPAという技術が開発された背景には、各国で携帯電話事業者に割り当てられている、3G携帯電話用の帯域幅の特徴があります。
もちろん国によって事情は多少異なりますが、もともと3Gでは通信速度が向上するため、データ通信利用が爆発的に増えると見込まれ、多くの国で事業者に対して10MHz幅や15MHz幅単位、あるいはそれ以上の単位の帯域幅で割り当てられています。
一方、現行のHSDPAでは、1つの端末が基地局とデータをダウンリンクするために一度に使う帯域は5MHz幅単位です。つまり基地局自体は隣り合った5MHz幅単位の帯域を複数管理していますが、一度には帯域本数分の端末に割り当てることしかしません。
もともと携帯電話で“通話”することを目的にW-CDMAの規格は作られ、HSDPAの規格もその影響を深く受けているわけですが、HSDPAが扱うのは主にパケットデータです。
データ通信では、たとえば携帯電話からのWebサイト閲覧や、動画視聴、ゲームのダウンロード、あるいはパソコン接続でのネット通信など、短時間に大量の受信が要求される用途がほとんどです。時間をかけて、少しずつデータを流し続けるのではなく、最高速度を大きくとり一度に短時間にデータをドンと転送できる技術のほうが、現在では都合がよくなっているわけです。
そこで、考えられたのが、DC-HSDPAです。DC-HSDPAは、従来のHSDPAでは、5MHz幅単位で利用していた帯域を、通信のピーク時には隣り合った2つの帯域を使うことで最大2倍の速度で通信できるようにします。HSDPAでは2ミリ秒、あるいは10ミリ秒という単位で基地局は端末と通信を切り替えることができるので、この単位でデータ転送量が増加したときに、隣り合った2つの帯域を同時に使用するわけです。
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DC-HSDPAは、1つの端末に対して、隣り合った2つの帯域を同時に使用することで、ピーク時従来比2倍の転送スピードでデータ通信が可能にする技術だ
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DC-HSDPAのメリットは、ダイナミックな帯域管理以外は、現在使われている現行のHSDPAの技術がそのまま使えることにあります。つまり、もし10MHz幅や15MHz幅という帯域が割り当てられているHSDPAサービス事業者であれば、現在の基地局の設備などは既存設備からの高度化のみで対応できるので、早期に展開することが可能で、コスト的にも有利なのです。
商用化されているHSPAだけでなく、HSPAの進化版規格「HSPA+(HSPA Evolution)」でも利用できます。
日本で提供されているHSDPAサービスは、下り最大7.2Mbpsか下り最大3.6Mbpsとなっています。HSPA+になれば、下り21Mbps程度までスピードアップできると予想されていますが、DC-HSDPAと同様の規格を用いれば、42Mbps程度まで増速できるかもしれません。
このため、現在HSPAを導入している事業者にとって、3.9G(第3.9世代、LTEと呼ばれる規格が主流)のサービス提供を始める、ひとつ前のステップとして、「HSPA+」と「DC-HSDPA」の導入を検討するのではないかと見られています。
ちなみに、日本では3.9Gの移動体通信システムとしては、LTEが主流になる見込みですが、LTEでは最大100Mbps以上という通信速度で、DC-HSDPAは半分以下のスピードということになりますが、2009年度に商用化されるモバイルWiMAXや次世代PHS(WILLCOM CORE)とは互角、あるいはそれ以上の速度になる規格と言えるでしょう。
現在標準化の過程にあるRelease 8では、同一基地局で、同一帯域の隣接する2つの下り搬送波を利用するものに限定されていて、隣接する2つの下り搬送波が使える状態であれば下りのみ倍加されます。
技術的には、隣り合わない帯域での組み合わせや、異なる基地局間の複数の搬送波も利用して速度を向上させたり、上りでも高速化したりできそうですが、Release 8では対応されず、将来的にサポートされるかもしれません。
■ URL
3GPP
http://www.3gpp.org/
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(大和 哲)
2009/01/28 12:35
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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