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第410回:TransferJet とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


auの春モデル発表会でデモが行われた

auの春モデル発表会でデモが行われた
 「TransferJet」は、機器同士をかざすことで、300Mbps以上という通信速度でデータを転送できる、非接触データ転送技術です。

 現在、ソニーを中心とし、ソニー・エリクソンや日立製作所、東芝、カシオ計算機、KDDI、NTTドコモなど、18社(2009年2月現在)が創設プロモーターとして参加する団体「TransferJetコンソーシアム」によって仕様策定が進められています。予定では2009年春に最初のバージョンの仕様が策定・公開され、プラグフェスタ(通信互換テスト)の開催、互換検証システムの策定が行われ、それから製品実用化が進められる見込みです。

 2009年1月19日に行われた、KDDIの2009年春モデル発表会では、ソニー・エリクソンが開発した試作機も公開されました。auショップなどで、携帯電話をかざすことで、プロモーション動画をダウンロードしたりするといった使い方が想定されています。

 「TransferJet」は、利用周波数が携帯電話やFeliCaと大きく異なるため、内部のアンテナなどに干渉が置きにくく、携帯電話への搭載しやすい技術とされており、応用例がさかんに考えられているようです。

 携帯電話以外では、研究所レベルですが、「TransferJet」を内蔵したUSB接続型の通信アダプタを利用し、無線によるUSBエミュレーションといった応用も考えられているようです。


4GHz帯の電波をつかった「かざす」超高速通信技術

 「TransferJet」は、技術的に簡単に言えば、4GHz帯の電波を使った近接高速無線通信技術です。

 無線データ転送技術としては、無線LAN(Wi-Fi)やBluetooth、おサイフケータイで使われているFeliCaなどがあります。これらとTransferJetの違いは、簡単に言えば「TransferJetは“超近接”でのやりとりを前提にした超高速通信技術」ということでしょう。

 たとえば、Bluetoothは1m~数m程度は電波を飛ばせますが、TransferJetの電波が届く距離は、最大でも3cm程度とされています。つまり、実際使う時には、受信機を送信機に“載せる”くらい近づけることが前提になっています。

 「距離が近い」ということの最大のメリットは、電波の出力が低くということになります。電波の出力が低ければ、電波法関連の手続きなどが比較的簡便になりますし、送信される電力は(平均電力)-70dBm/MHz以下で、非常に低く抑えられます。これであれば電波法上、「微弱無線局」となり、設置に免許などが要りません。海外でも、この程度の出力では無線免許などは必要とされないのが一般的で、設置が非常に楽であると言えるでしょう。

 また、セキュリティ上の対策も比較的楽になることもメリットの1つでしょう。電波を使った無線通信の場合、ある程度の距離に届く出力の電波であれば、ちょっと離れた場所で信号を傍受できます。

 傍受を防ぐための手法はいくつか考えられますが、たとえばBluetoothでは「ペアリング」という機能を用意しており、暗証番号を使って送信機と受信機をリンクさせています。暗証番号が一致しないと通信ができないという仕組みになっているわけです。

 しかし、もしBluetoothで通信できなかった場合、電波が届いていないのか、ペアリング設定に失敗したのか、一般ユーザーや初心者にはわかりづらい仕組みという指摘もあります。

 一方、TransferJetの場合、受信機の上に置かなくてはならないため、このような心配をする必要がありません。基本的に事前の接続設定などは必要とせず、機器の上に置くだけでデータが転送されるようになっています。

 ちなみに、TransferJetの転送速度は、物理層では最大560Mbpsです。エラー訂正用の符号データなどが必要なため、実際に送ることができるデータの実効レートは、375Mbpsとなります。TransferJetコンソーシアムの発表資料によると、1時間のテレビ番組を録画したデータ(MPEG-4/約170MB)を数秒でダウンロードができるスピードとなっています。

 現在では、最大300MbpsとアピールするIEEE 802.11n方式の無線LANなども登場しており、TransferJetの転送速度は、それほど速くないように思えます。しかし、TransferJetの場合、超近接通信に限定されているので、通信さえできる条件であれば、ほぼどのようなときでも、375Mbpsで通信できるというメリットがあります。このことは、逆に言えば、送信機上に乗せる/かざす、といった行為をしなければ通信自体も行われない、ということになります。



URL
  TransferJetコンソーシアム
  http://www.transferjet.org/
  TransferJet開発発表(2008年1月、ソニー)
  http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200801/08-002/
  西田宗千佳の ― RandomTracking ―
「飛ばない」からできた高速無線通信 ソニーが提案する「TransferJet」(AV Watch)
  http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080314/rt055.htm

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(大和 哲)
2009/02/24 12:36

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