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第59回:MVNO(Mobile Virtual Network Operator)とは
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大和 哲 1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。 (イラスト : 高橋哲史) |
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ケータイ事業者の新しい形態、MVNO
MVNOは、日本語では「仮想移動体サービス事業者」などと呼ばれています。自分自身ではネットワークインフラを持っていないタイプの通信事業者です。回線を使う権利・MOU(Minutes Of Use)を、物理的な回線を使う権利を持っている事業者から買ってくることで通信事業を行う会社です。
海外では主に欧州で、GSMを主体としたこのタイプの事業者が多くあり、事業を成功させているようです。特に「Virgin Mobile社」はこのタイプの事業者の中でも特に有名で、英国、オーストラリアにおいてMVNO方式で携帯電話事業に参入し、米国やアジアでもいくつかの国で参入準備をしていると言われています。過去に日本でも、「ドコモ以外の数何と交渉中である」という報道があったようです。
日本では8月に、DDIポケットがインターネットベンチャーの日本通信へPHS網を卸売りすると発表したことで、このタイプの業者が注目されることになりました。日本通信はDDIポケットから借り受けたネットワークを使い、自社ブランド名で端末販売やインターネット接続サービスを10月から開始する予定、としています。
現在のところ、この日本通信が日本では最初にして唯一のMVNOですが、いずれはこの形態での事業者が、海外からの参入や国内企業でも多く現れるようになるかもしれません。
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MVNO事業者自身は通信回線などのインフラを持たない。すでに回線を持っている通信事業者や、他のMVNOから回線を借りる契約を結び、他社の回線を利用することでさまざまな通信サービスを提供する
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MVNOのメリット
MVNOのメリットは、なんといっても少ない費用で新たに通信事業に参入できることです。
携帯電話でも、たとえば基地局や交換機といったインフラ一式を用意するには膨大な費用がかかりますが、これらの設備投資を抑え、浮いた費用を加入者獲得のマーケティング資金やカスタマーセンターの充実、わかりやすい料金体系の構築などに当てることができます。
多くの国で、通信サービスを行なうための免許は3~4社しか取得できていませんので、そもそもインフラから整えるタイプの事業者としても参入は難しいのですが、MVNOであれば新規に参入できるチャンスがあるということで、この形態が選ばれるような事情もあります。
多くの費用をかける従来の事業者では、その分多くのユーザーを広く集めなければなりませんでしたが、MVNOではかける費用が少ない分、焦点をしぼったマーケティングができることもメリットのひとつです。
たとえば、先述のVirgin Mobileは、英国では基本使用料が無料であるなど、比較的通信費用が安く、また世界で初めてMP3対応携帯電話を販売するなどの特色を出していることもあって、英国では人気の高い携帯電話事業者のひとつになっています。
またMVNOでは、もっと利用者をしぼって差別化を図っているような企業も多くあります。たとえば、会社では社員一人一人が使える「内線電話」というものがありますが、これを携帯電話に変えて社員一人一人に持たせるとなると、そのためには多くの費用がかかってしまいますし、社内連絡の用途が中心であれば、会社で配る携帯電話に外線機能をもたせる必要もあまりないかもしれません。そのような場合には、従来の事業者やさらに大きなMVNOから社員専用の携帯電話回線として回線を借り受けてサービスを行なうMVNOの出番、というわけです。
単純な消費者向けの携帯電話事業の他にも、このような法人向けのフォーカスした業務、あるいはセキュリティ周りやASPサービスまで、ワイヤレス通信周りの管理も引き受けるなど、今までの通信事業者では小回りが聞かなかった分野まで視野に入れて差別化を図り、利用者を引きつけている事業者が多くあるのもMVNOの特徴です。
互いに補い合う従来型事業者とMVNO
従来の携帯電話事業者から見れば、MVNOは携帯電話で商売を行なうライバルですが、自分の回線にお金を払ってくれるMVNOは、従来型の通信事業者にとってもお互いを補い合う相手であるとも言えるでしょう。
また、先頃発表になったDDIポケットの場合も、新聞などでは「余裕のあるPHSの通信網を他社に有効利用してもらって通信料収入を確保する目的がある」などと報道されたようですが、このように余裕のある設備を有効に使うための大切な顧客ともなり得ます。
携帯電話、あるいは電話線やデータ専用回線などにしても、常にデータが満杯で流れているわけではなく、隙間が生じることが多くあります。しかし、回線というものは持っているだけで維持費がかかります。そこで、空いたままにしておくよりは、余裕を売ってしまった方がインフラを持っている事業者にしても助かるわけです。
余談ですが、この手の「隙間利用」でインフラを持っている会社と、そうでないサービス専業の会社がお互いに補いあうという図式は、通信以外でもインフラを必要とする業種には時々見られます。
たとえば、飛行機を使って乗客や荷物を運ぶ航空運輸業界などもそうです。航空会社は飛行機を持っているわけですが、時期や便によっては空席がでてしまいます。空気を運んで飛ぶよりは、と格安チケット業者などにチケットを卸売したり、旅行代理店に団体旅行用として売るなどということをしているのです。
・ KDDI、DDIポケットのPHS網を日本通信へ賃貸
・ 日本通信、DDIポケットの卸売り回線を使ったデータ通信サービス
(大和 哲)
2001/09/11 11:48
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