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第291回:デジタルラジオ とは
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大和 哲 1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。 (イラスト : 高橋哲史) |
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KDDIが開発したデジタルラジオ対応試作機
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デジタルラジオとは、文字通り、デジタル変調方式を利用したラジオ放送のことです。現在のラジオ放送は、送りたい音の音波を、電波の振幅や周波数の変化としてアナログ的に載せて送る方式になっています。それに対して、音声を「0」と「1」で表現できるデジタルデータに変換し、電波に載せて送る方式を採用しているのがデジタルラジオです。
デジタルラジオのメリットは、いくつかありますが、その最も大きなものは音質が向上することでしょう。たとえば、受信電波の強度が周期的に強くなったり弱くなったりする「フェージング現象」が起きるような場合でも、デジタル放送では、ある程度の強度で受信ができている限り、再生する音の強弱が起きたりすることはありません。
また、アナログの場合と違い、放送する情報を大幅に圧縮して送ることが可能なので、チャンネル数の増大や、文字や静止画などのデータの同時送信なども方式によっては可能になります。ただし、デジタルラジオを聴くには、これまでのラジオではなく、専用のデジタルラジオに対応した受信機が必要となります。
テレビ放送と同様、ラジオでも、いくつかの規格が作られています。
地上デジタルラジオでは、世界でDAB(Digital Audio Broadcast)方式が最も多く使われており、英国、フランス、ノルウェー、カナダなどでは放送が始まっています。また、IBOC(In-Band On-Channel)という従来のAM,FM放送に多重しデジタル放送が受信できるエリアではデジタル、そうでないエリアではアナログ放送を受信できるというような方式もあります。
短波放送で使われるDRMという方式もあり、こちらは、ドイツのドイチェベレ、イギリスのBBC、中国の中国国際放送などヨーロッパの国営・公共放送が海外向けに放送・試験放送を行なっています。この放送では、国境を越えてFM放送並みのクリアな音声でニュースや音楽を聴くことができます。
日本国内ではISDB-TSB(integrated services digital broadcasting terrestrial for sound broadcasting)という方式を利用して、首都圏と関西で、デジタルラジオ放送の実用化試験放送が行なわれています。
ISDB-TSBは、日本の地上デジタルテレビ放送で採用されているISDB-T方式の音声放送向けの規格です。6MHzの帯域を14のセグメントに分割し、1つのチャンネルでは、1セグメント(432kHz)で330kbpsでの放送、または3セグメント(1296kHz)で990kbpsでの放送が可能です。
なお、現在、アナログテレビの「7チャンネル」の周波数帯を利用して試験放送を行なっており、アナログテレビ放送への影響を減らすために、14セグメントのうち、8セグメント分のみが利用されています。
現在、一般向けに販売されている地上デジタルラジオ受信機はありませんが、いくつかのメーカーが評価用として製造しています(衛星デジタルラジオ受信機は存在しています)。また、携帯電話では、KDDIがデジタルラジオに対応する、携帯電話型試作機を作っています。10月3日から幕張メッセで開催される展示会「CEATEC JAPAN 2006」では、この試作機がケース内展示されることが報じられています。
■ 本放送開始には紆余曲折も
技術的には順調に各種開発が進んでいる日本のデジタルラジオですが、そのほかの部分ではいろいろな問題が残っており、本放送開始までは紆余曲折が予想されます。
デジタルラジオ放送は、当初、2011年にテレビ放送がデジタル化し、現在テレビ放送に使われているVHF帯に余裕ができることになることから、その枠を利用して新たに開始することが計画されていました。
しかし、テレビ放送やインターネットなどメディアのデジタル化が進む中で、従来のアナログ放送だけではラジオ離れが進むと考えられることから、5年前倒しして2006年から実施されるという計画に変更されました。
そのために、ラジオ事業者各社はテレビのデジタル化で生じる周波数帯の空き領域の優先的利用を求めていましたが、総務省が周波数帯の割り当てを総合的に行なう方針を提示したことで、優先割当の見込みがなくなり、放送開始は延期されました。
周波数の割り当て作業を行っている、総務省情報通信審議会のVHF/UHF帯電波有効利用作業班には、デジタルラジオ放送と同様に、自営通信システムで公共事業用ブロードバンド無線、自動車のITS関連システム、モバイルWiMAX、Media FLO、DVB-H方式ラジオ放送など実に150近い電波割り当ての要望が寄せられており、アナログ放送がある以上、利用者にとってはメリットがそれほど大きくないデジタルラジオ放送に対して、優先的に割り当てるわけにいかなかったのも理解できるところです。
ただし、デジタルラジオの商業放送を開始するために、FM東京、TBS R&C、文化放送、ニッポン放送、J-WAVEが事業会社「マルチプレックスジャパン」を設立し、唯一の地上デジタルラジオ民間放送局を目指す予定でしたが、この割り当て問題などの影響もあり、9月19日には設立に向けた発起人会の解散が発表される、というような影響も出てきています。
実用化試験放送を実施している、デジタルラジオ推進協会(DRP)は、東京地区の試験放送の出力を増力する準備を行なうなど、本放送へのステップを踏んでいます。現在は、デジタルラジオが今後どうなっていくのか、やや不透明な時期と言えそうです。
■ URL
デジタルラジオ推進協会
http://www.d-radio.or.jp/
マルチプレックスジャパン
http://www.mpx-japan.co.jp/
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・ 第246回:ワンセグ とは
(大和 哲)
2006/09/26 12:05
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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