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第283回:マルチキャスト とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


4月の「CTIA Wireless 2006」クアルコムブースで披露されたEV-DO Rev.Aのマルチキャストデモ

4月の「CTIA Wireless 2006」クアルコムブースで披露されたEV-DO Rev.Aのマルチキャストデモ
 マルチキャスト(multicast)とは、通信用語で「同じネットワーク内で複数の相手に対して同じデータを送信する技術」のことです。

 携帯電話は、通信技術を利用しており、電話をかける場合は、一人の相手を指定して回線を繋ぎ、通話をしています。このように、同時に相手1カ所とデータをやりとりする通信のことを「ユニキャスト通信」といいます。

 マルチキャスト通信では、同じデータを複数の相手に対して、同時に送受信できます。特にインターネット回線やパケット通信回線で注目され、長く研究が続けられています。

 というのも、デジタル通信回線の通信速度は年々向上を続け、通信回線を使う機器もさらにリッチなメディアの端末としての用途が指向されます。ところが、回線が早くなっても、回線の帯域がそれに比例して増えるわけではありません。

 たとえば、現在の携帯電話では、データ量の少ない会話だけでなく、映像を送るテレビ電話機能があります。最近では、テレビ電話機能を使って、複数の人に同じコンテンツを送る、というようなサービスを行なうこともあります。実際にあった例では、宇宙ロケットの打ち上げの様子をテレビ中継したり、あるいはコンファレンスの講演の様子を映像で送ったりということもしています。

 ところが、ユニキャスト通信では、ロケット打ち上げの映像ソース配信元から、それを見る端末までは1対1で回線を接続しなければなりません。つまり、配信元は「1配信×配信人数分」の帯域が必要になってしまうわけです。これでは、回線の帯域がいくら大きくなっても、配信元に近い部分がボトルネックになってしまい、良質なサービスが期待できません。

 マルチキャストを実現する仕組みとしてはいくつかの方法が知られていますが、有線のネットワークの場合、ルーターを利用して、送信側がマルチキャストパケットと呼ばれる、複数の送信先を指定した1つのパケットをルーターに送ることで、そこから複数の端末に送ったり、あるいは途中のルーターで他のネットワークにもパケットを複製して送信したりします。

 なお、通信という概念に対して、同じく電波を使って人に情報を伝えるものに“放送”という概念があります。放送は、通信とは違って、電波を使ってネットワーク内全てに同じデータを送ります。ただし、「限定受信」という考え方もあり、送信自体はネットワーク内全ての端末に行ないつつ、制御信号などを使って特定の端末でしか受信できないようにすることもあります。

 放送では、マルチキャスト通信と同様に、複数の受信端末が同じデータを受け取ることができますが、情報の流れは送信側から受信側へ一方向になります。そのため、送った情報に対するレスポンスなどはやり取りできません。ですので、送信側が受信側の事情を考慮しないというのがマルチキャスト通信と放送の最も大きな違いといえるでしょう。

 なお、マルチキャスト通信と放送サービスを合わせて、BCMCS(Broadcast/Multicast Services)と呼ぶこともあります。


携帯電話向けのマルチキャスト技術

 携帯電話(移動体通信)では、有線のネットワークに比べて、マルチキャストを行なうにはいくつか不利な点があります。

 最も不利な点は、端末が受信中でも移動してしまうことでしょう。受信中に移動すると、別の基地局のエリアに移動してしまい、ネットワーク構成が変わってしまうことを意味します。ハンドオーバーによって端末の管理がどの基地局からどの基地局に変わったか判断してデータを送るルートを決めなくてはなりませんし、ハンドーオーバーの際のやりかたをうまくやらないと端末がデータを取りこぼす可能性もあります。

 あるいは、もっとも根本的な問題としては携帯電話は、電波でデータをやり取りするため、電波が届きにくい場所があったりするなど、回線が不安定でデータの取りこぼしが起こりえます。それでも、携帯電話向けのマルチキャスト技術はいくつかの手法が研究・開発されています。

 たとえば、第3世代の移動体通信方式である「CDMA2000」に属する高速なデータ通信規格の1つ「CDMA2000 1xEV-DO Rev.A」では、マルチキャストでのデータ送受信の方法が標準化されており、データを複数端末に一度に送ることが可能です。

 ユニキャスト通信と違い、EV-DO本来の高速なデータ通信は行なえませんが、一度に複数の端末にデータを送信して蓄積型マルチメディアコンテンツの配信などが可能になります。


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(大和 哲)
2006/07/25 11:01

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