■ 高速な赤外線通信
「IrSimple」は、赤外線を用いた通信方式で、NTTドコモ、シャープ、ITXイー・グローバレッジ、早稲田大学が共同で開発しました。
赤外線通信の業界標準化団体「IrDA」(Infrared Data Association、赤外線データ通信協会)で、国際標準規格として採用されることも決定しています。IrSimple向けの評価用キットや、携帯電話試作機も作られています。幕張メッセで開催された展示会「CEATEC JAPAN 2005」では、同方式を利用したデータ転送デモが披露されていました。
IrSimpleの特長は、これまでの赤外線通信と比較して、非常に速いデータ送受信が行なえることにあります。同一の赤外線ハードウェアを利用する場合、実効データ転送速度は従来比で4~10倍以上が実現されます。
開発各社のプレスリリースによれば、遠赤外線を利用した「最大4Mbps」を謳う通信方式同士で比較すると、従来のIrDAであれば約4~約11秒かかる通信(200万画素カメラで撮影した約500KBの画像を転送)では、IrSimpleであれば約1秒で完了することができる、とされています。
IrSimpleと従来方式との比較 (約500KBの画像伝送時の転送時間比較)
IrSimple-4M方式 |
IrDA-4M方式 |
IrDA-115K方式 |
約1秒 |
約4~約11秒 |
約50~100秒以上 |
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■ ハードウェアは従来のもの、プロトコルの変更で高速化
光や電波を使って、データ通信を行なうには、データを送る機械、受ける機械がそれぞれ一定の手順に従って相手の存在を確認したり、実際にデータを送ったり、また送ったデータの正当性を確認し合ったりします。この手順を「プロトコル」と言います。
特に電波や光を使った通信では、さまざまな理由で通信相手との接続が切れてしまったり、ノイズや妨害によってデータ内容が化けてしまうことがあり得ます。ですので、通信相手や通信内容を確認する手順は非常に重要です。しかし、やりかたによってはデータを送ることができるはずの時間を確認作業に費やしてしまい、本来のデータ速度より実際のデータ通信速度が低下する原因にもなってしまいます。
従来のIrDAの手順は、相互に通信ができることを確認するという作業が繰り返されるオーバーヘッドによって、赤外線通信が本来実現できるデータ速度よりもかなり低いスピードでのデータ通信しかできませんでした。IrSimpleは、この手順を効率化することで、データ通信を高速化しています。
携帯電話での赤外線通信は、画像の転送や、個人データの交換などによく使われますが、IrSimpleを利用すると、データサイズの大きい画像データの転送では、特にその速度の差を体感できることになるでしょう。また、お互いに通信可能にするための時間も短縮されるため、個人データの交換など、実際にはデータ通信速度はさほど変わらなくても、体感的に多少手早く通信ができるようになったと感じるかもしれません。
このほか、IrSimpleの大きな特長としては「ハードウェアは従来のIrDAと同じものがそのまま利用できる」いうことも挙げられます。
携帯電話やパソコン上のアプリケーションが赤外線通信を行なうには、アプリケーションから、通信手順を司る「プロトコルスタック」、その下の論理構造やハードウェアの制御を行なうソフトウェアである「OS」、そして「デバイスドライバ」が動き、最終的に機器に搭載されているハードウェア、つまり赤外線デバイスが動きます。
IrSimpleは、手順の効率化によってデータ通信の高速化を実現するため、プロトコルスタックを置き換えるだけで高速なデータ通信を可能にします。つまり、ハードウェアなどは従来のものを利用することができるわけです。また、プロトコルスタックに、従来のIrDA相当の機能があれば、互換性を保った通信も可能で、アプリケーションが対応していれば、従来互換と高速なデータ通信のどちらも可能になります。
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IrSimpleは、ハードウェアなどは従来と同じ物で、プロトコルスタックの置き換えによって実現される。プロトコルスタックに、従来のIrDA相当の機能があれば互換性を保った通信も可能となる
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■ URL
Infrared Data Association(赤外線データ通信協会)
http://www.irda.org/
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(大和 哲)
2005/10/11 12:17
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