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第179回:モバイル放送 とは
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大和 哲 1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。 (イラスト : 高橋哲史) |
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モバイル放送は、移動中の車や屋外などでも鮮明に映像を受信できる新しい衛星放送サービスです。日本でのサービスは、東芝、トヨタ自動車、横河電機、NTTデータ、日本テレビ放送網などが出資する「モバイル放送株式会社」が、韓国のSKテレコムと共同保有となるモバイル放送衛星(MBSAT)を使って行ないます。
一般には受信用の機材が出回っていないため、メーカーによるテストなどが行なわれているのみですが現在、試験放送が行なわれています。7月1日からは、
・独自のミュージックチャンネルや、海外・国内のFM放送の再送信、経済ニュース、英語講座もある「音声チャンネル」(初30チャンネル)
・総合、スポーツニュース、公営競技が放送されるプレミアムチャンネルもある「映像チャンネル」(当初7チャンネル)
・ニュース天気予報、生活情報、占いなどのデータが送られる「データ放送」(当初13メニュー)
の3カテゴリ、約40チャンネルの放送が一般向けにスタートする予定です。
放送エリアは日本全国で、山や街だけでなく、再送信設備(ギャップフィラー)による電波の再送信を行なうため、ビルの谷間や地下など衛星からの電波が届かないエリアでも受信が可能になる予定です。現在、東京メトロ(旧帝都高速度交通営団)などで受信実験が行なわれています。
受信には専用の受信端末が使われ、携帯端末や車載用端末といったモバイル端末が7月以降発売される予定になっています。将来的にはPDAや携帯電話、カーナビなどと一体化された端末なども予定されています。
サービスは有料で、利用料はパッケージの種類により月額1,000~3,000円程度が予定されています。
■ パラボラがいらず、車でも見られる衛星放送
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パラボラアンテナなしでも放送を受信できるというモバイル放送の端末。これは2003年5月に発表されたもの
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このモバイル放送の特徴は、パラボラアンテナなしでも衛星からの受信が可能となるため、移動体向けとしての衛星放送が可能となることです。
モバイル放送では、送信機材として、開口径12mの大口径送信アンテナと高出力のアンプを搭載した人工衛星を利用し、2.6GHz帯の電波を使って放送します。
従来の衛星放送では11~12GHzの周波数帯を使っていたため、空気や雨などによる電波の損失が大きいという問題がありました。また衛星の出力がそれほど大きくなかったため、弱い電波を拾って信号を回復するためにパラボラアンテナのような大きなアンテナを一定の方角に固定して設置しておかないと放送を受信することができませんでした。このため、自動車や鉄道などで移動しながら受信をするには大きな困難が伴っていたのです。
モバイル放送で利用する2.6GHz帯の電波は、11~12GHz帯の電波に比べて電波の損失が少なくて済みます。衛星側で大口径な高利得アンテナを使用しているおかげで受信機のアンテナは携帯電話のように無指向(方向を定めなくても受信できる)なアンテナを利用することができるようになりました。
そのため衛星放送でありながら、パラボラではなく、たとえばカーナビゲーションシステムのGPSアンテナのようなサイズ形状のパッチアンテナなどや、携帯機器内蔵アンテナなどが利用できるようになり、人工衛星のいる東経144度の位置に常に向けておく必要もなくなったために、携帯機器や移動体通信で使えるような放送とすることが可能になったのです。
ちなみに、音声放送のコーデックにはMPEG-2 AAC、映像放送のコーデックにはMPEG-4が使用されています。1つのチャンネル当たりのデータ転送レートは可変ですが、過去のデモでは音声放送でのデータ転送レートは60kbps程度、映像放送のデータ転送レートは380kbps、QVGA(320x240)画面となっていました。
なお、海外のモバイル放送としては、アメリカで、同様に衛星を使った移動体向けの放送「サテライトラジオ」が、シリウスサテライトラジオ、XMサテライトラジオの2社によって行なわれています。
ただしアメリカでのサテライトラジオは、衛星からの移動体向け放送を行なう意味では同じものの、技術的には、日本の一波CDM変調方式ではなく、複数周波数/TDM&OFDM併用とするなど異なる方式となっています。
■ URL
モバイル放送
http://www.mbco.co.jp/
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(大和 哲)
2004/05/18 16:07
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