|
|
|
第104回:ワン切り とは
|
|
|
|
大和 哲 1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。 (イラスト : 高橋哲史) |
|
電話を安上がりに使う知恵だった
ワン切り、ツー切りに関しては、これを読まれている皆さんのほうがよくご存知かもしれません。電話を相手が出る前に1度(ツー切りの場合は2度)だけ鳴らして切る、というものです。
固定電話や携帯電話では、発信しても相手が出ない限り課金されることはありません。また最近では、非通知発信にしない限り、呼び出し元の電話番号が着信履歴として記録され、電話を受けた側に呼び出し元の番号が簡単に分かるようになっています。
そこで、わざと相手が出ないようにワンコールだけ鳴らして、お金をかけずに自分が発信者であることを相手に伝える方法として一部では知られていたようです。(たとえば、国際電話の料金では日本→米国より米国→日本のほうが安いこともあり、このワン切りを利用して安く国際電話を利用するということがあったようです)。
しかし、一部の業者がこれに目をつけ、組織的にワン切りを行なうようになったことで問題がおきました。
クラッキング用として使われていたコンピュータのプログラムに「ウォーゲームダイアラー」「ウォーダイアラー」と呼ばれるジャンルのソフトウエアがあります。これは、コンピュータの高速な処理能力を活かして、ある範囲の電話番号に片端から電話をかけ、電話をかけた先の素性を知るためのソフトウェアです。これと同様の手法で、一部の業者が業務用の複数回線を利用できるISDN回線を契約し、コンピュータを使って多くの電話番号に対して、一斉にワン切りを行ないました。
相手が出ない呼び出しは「不完了呼」と呼ばれ、輻輳(ふくそう)や話中などで相手に繋がらなかった呼び出しも含まれます。ワン切り業者からの呼び出しも不完了呼とはいえ、相手の呼び出しであることに変わりなく、少なくとも呼び出し元から呼び出し先を管理しているまでは回線を使用します。
たとえば発信元がNTT西日本の大阪にある加入者線、相手がNTTドコモの携帯電話であれば、不完了呼であっても、大阪にある回線からNTTドコモの交換機までは回線が占有されてしまいます。そのため、ワン切り発信で一斉かつ大量に回線を利用されたNTT西日本では輻輳を防ぐために発信規制を行ったことで、2002年の7月には大阪府下やおよび兵庫県の一部で電話が非常にかかりにくくなってしまう、ということが起きたのです。
輻輳対策はされたが問題は残る
この輻輳問題が起きたNTT西日本では、特定の契約者回線から集中したワン切り呼び出しがなされ、輻輳が生じる恐れがある場合は、その契約者と結ばれた約款を「回線の利用を停止する」と変更することを総務大臣に認可申請しました。
これが認可されると、電話網上で特定の回線からワン切りアクセスが集中した場合は、NTT西日本の判断によって回線網からこの業者を切り離すことができるようになります。これによってワン切りのために市内の一般の電話回線に影響が及ぶ(たとえば電話がつながりにくくなる)というようなことはなくなるはずです。
ただ、これで業者によるワン切りがなくなったわけではありません。逆に言えば、回線に危険がないと判断されてしまうと、業者によるワン切りという行為自体を止めることはできないのです。
業者によるワン切り呼び出しによって携帯電話に記録される呼び出し元の電話番号は、多くの場合アダルト系サービスを行なっている電話番号になっています。このようなサービスの多くは、ユーザーから電話をかけなおし、電話番号を登録して利用する高価な有料サービスとなっているものが多いようです。このワン切りにかかってきた番号に電話をかけた事が発端となり、十数万円のサービス料を請求された、というような事例もあるそうですので、できるだけ関わりたくないという方が多いことでしょう。(ちなみに、以前無差別に迷惑メールを送っていた業者が、携帯電話事業者の対策などによって宣伝ができなくなり、ワン切りを利用するようになったというパターンもあるそうです)。
ワン切りへの自衛策
このワン切り被害に対する対策としては、着信履歴に記録されている呼び出し元が自分の知っている電話番号でない場合は、かけなおさないようにしたほうがいいでしょう。携帯電話の電話帳に電話番号と名前を登録しておくと、かかってきた相手の電話番号が登録されたものである場合、電話の着信履歴には登録した名前と電話番号が表示されます。このような名前の表示がない場合にはかけなおさない、というような工夫が必要でしょう。
他にワン切り業者の被害を被らないための方法としては、たとえば、検索サイトを利用して、かかってきた電話番号がワン切り業者のものであるかどうかを調べるという方法もあります。ワン切りに関しては非常に話題になったため、インターネット上のサイトにワン切り業者の電話番号一覧が掲載されていることがよくあります。
もしワン切りかもしれないと思った番号があれば、パソコンや携帯電話からgoogleなどの検索サイトで、履歴に残った番号を検索してしてみましょう。検索結果としてそのようなページに掲載されていたならば、それは明らかにワン切り業者の利用している電話番号である、というわけです。
自衛を助けてくれるサービスもある
他のワン切りに関しての被害としては「時を問わずに一度でも呼び出し音が鳴るのでうっとうしい」というようなこともあります。
たとえば、就寝中にアダルト業者のワンコールで起こされてしまうというのは不快極まりないことでしょう。
検索などで判明したワン切り発信の番号を着信拒否にするという対策法もありますが、たとえば、ワンコール分だけは携帯電話の着信メロディを無音にしておき、ワン切りがかかってきても気付かないようにする、というような方法もあります。
(ただし、この方法は普通に電話をかけてきた人の着信も少し無駄にしてしまいますので、そのことも考えて電話は早く出るように心がけなくてはならないでしょう)。
ちなみにiモードでは、このような着信メロディを試験配信しているサイトもあります。たとえば、ハドソンが同社が提供している着信メロディ配信サイト「取り放題\100」で対応着信メロディの配信試験サービスを行っています。内容としては、同サイトの人気ランキングで人気1位になった曲に、ワンコールに相当する1~1.5秒の無音データを追加したものを提供している、ということです。
|
ハドソンが提供する「ワン切り対応着メロ」は、着信メロディのデータ冒頭に無音部分を追加しているもの
|
・ ハドソン、ワン切りコールに対応した着メロ配信試験サービス
・ NTT東西、ワン切りによる輻輳への対応策を総務省に申請
・ NTT西日本、通話障害の再発で「ワン切り」業者の全使用回線停止
・ NTT西日本、大阪で発生した輻輳は「ワン切り」が原因
(大和 哲)
2002/08/13 12:22
|
|
|
|
|