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AI前提社会で問われる「体験価値」とは、KDDI松田社長が語る新時代の戦略

 KDDIは27日、同社のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2026」を開催した。基調講演には同社の松田浩路社長やユニバーサル ミュージックの藤倉尚CEOが登壇した。

AI前提社会におけるKDDIの新戦略と体験価値の重視

KDDI 代表取締役社長 CEO 松田浩路氏

AI前提社会における「カスタマーイナーシャ」と体験価値

 KDDIは5月にブランドメッセージを「Spark Your Journey」へと刷新し、顧客の挑戦を後押しする姿勢を明確にした。

 通信とAIが高度に融合する「AI前提社会」では、AIエージェントが購買や各種サービスを客観的かつ網羅的に比較検討する時代が到来する。しかし、AIエージェントだけに任せると、価格やスペックの合理的な比較によって、たとえばファンクラブのログイン率が落ちているという理由だけで解約されてしまうなど、企業と顧客が長年培ってきた信頼や愛着といった「カスタマーイナーシャ(顧客の情動的慣性)」が一瞬でリセットされる懸念があると説明する。

 松田氏は、合理的な比較をAIが担う時代だからこそ、最終的に人の決断を左右するのは理屈を超えて心を動かされる「体験」そのものだと強調。さらに「お客様は体験を選び、体験に入る」というコトラーの言葉を引用し、AI時代であっても顧客の心を揺さぶる体験価値の提供が不変の法則だと説いた。

店舗接客とエリア品質向上における「AIでバフをかける」取り組み

 実店舗でスマートフォンを機種変更する際、上位プランへアップグレードする顧客の割合は、オンラインと比べて約3倍高いという。これには人ならではの温かみがあるからだという。

 同社は全国2000店舗のauショップに「AIセールスサポート」を導入している。専門知識の検索や状況に応じた最適な応答をAIが補うことで、回答到達時間を8割から9割削減した。また、現場から寄せられるサポートへの問い合わせ件数は、20万件から半減したという。

 さらに、AIアバターを活用した接客ロールプレイングツール「KDDI Avatar Canvas」を開発し、11月2日より法人向けに提供を開始する。

 エリア品質の向上においても、基地局のパラメーター最適化にAIモデルを導入し、従来2年を要していた作業期間をわずか1カ月弱へと大幅に短縮した。

 2026年10月のOpensignal社の調査では「一貫性」「信頼性」部門で国内評価1位を獲得し、「つながる体感No.1」として国内5連覇を達成したと語った。

 同氏は、AIの活用によって人間の能力や業務精度を引き上げるアプローチを「AIでバフをかける」と表現する。

リアルな「場」での社会実装とアライアンスパーク・プロジェクト

 熱量を持った人々が集い挑戦を加速させるため、同社はリアルな「場」における社会実装を進めている。高輪を「未来への実験場」と位置づけ、JR東日本とのAI・ロボット活用やローソンとの「Real×Tech LAWSON」を含め、70社超のパートナーと実証を行っている。

 山口県では、半世紀以上の衛星通信実績を基盤に9月に同県と連携協定を締結し、「宇宙の玄関口」として宇宙産業の開拓を推進する。

 大阪府堺市ではシャープの液晶工場跡地をAIデータセンターへ転換し、1月に稼働を開始した。2027年度にはNVIDIAの最新GPU「Rubin」を導入し、現行のBlackwell世代からスループット性能を最大10倍に拡張する計画。

 また、堺でnewmoのタクシー車両を活用して走行データを収集・学習させ、2027年度の商用走行データ収集を経て、2028年度にはレベル5自動運転タクシーの商用運行を目指す。

 フィジカルAI事業を行う新会社「ELYZA Robotics」も立ち上げ、2030年度までに研究開発費300億円と300人の専門家を投入し、1000台のロボットを現場へ届ける。

 さらにアルファベット傘下のWingとの提携により、2027年中にローソンの商品や日用品のドローン配送を開始する。これらを統合する実践の場として「アライアンスパーク・プロジェクト」を立ち上げた。

ユニバーサル ミュージックが語る「音楽の変遷」と人間ならではの価値

ユニバーサル ミュージック 社長兼最高経営責任者(CEO)藤倉尚氏

130年間変わらない役割とテクノロジーによるビジネス変遷

 ユニバーサル ミュージックでは、130年前のエミール・ベルリナー氏によるグラモフォン創業以来、蓄音機からレコード、CD、ダウンロード、ストリーミングへと音楽の「届け方」や消費スタイルが変遷を重ねてきた。

 同社は、従来の録音物を販売する一方通行のビジネスモデルから、SNSやYouTube、グッズ、ライブを通じてアーティストの価値を最大化し、ファンと長期的かつ深い関係を構築する形へと進化を遂げた。

AI時代における人間ならではの価値と才能発掘

 ビジネスの仕組みや届け方が変化する一方で、同社が130年間一貫して保ち続けてきた役割は「新しい才能を探し、共に育て、世に届けること」だという。

 藤倉氏は、AIの登場により制作やマーケティングにかかる時間と距離は大幅に短縮されたが、人間ならではの価値は決して損なわれないと主張する。Mrs. GREEN APPLEの事例を挙げ、当時はライブ実績もデータもない16歳の大森元貴の才能を、人間の直感と熱量で見出したエピソードを披露した。

データが存在しない状態からヒットを生むのは人間の情熱や意思であり、AIは人間がより輝くための作業を支える存在だと語る。「人を愛し 音楽を愛し 感動を届ける」という社訓のもと、日本の才能を世界へ発信し続ける意向を示した。

藤倉氏「信頼は過去で、ワクワクは未来」

松田氏と藤倉氏

異分野共創とリアルな体験が与えるエネルギー

 トークセッションでは、異分野のトップによる共創や「人を輝かせる」というテーマについて議論が交わされた。デジタル配信で手軽に楽曲を聴ける現代だからこそ、アーティストと直接会えるライブや原宿のポップアップストアといった「リアルな場」が持つ価値が際立つ。

 ライブはファンにとって「一生忘れられない場所」であり、日々の生きるエネルギーを与える存在となる。新規ファンを獲得し切磋琢磨する「フェス」と、温かい空間で愛を共有する「単独ライブ」の違いや、原宿の店舗でアーティストの分身を感じられる空間づくりの重要性が語られた。

松田氏

企業やブランドが選ばれる理由「信頼」と「ワクワク」

 企業が顧客から選ばれる条件として、藤倉氏は「信頼」と「ワクワク」の2点を挙げた。約束を守る誠実さを示す信頼が「過去から現在」を繋ぐ一方、誰も見たことがない未来を提示するワクワクがファンを魅了する。

 同氏は「『僕の心にワクワクがなくなったらどんな作品を作ればいいのか。自分が体感したことのない景色を体験させてほしい』と大森から言われた」と語った。

 グローバルなデータは参考にしつつも、最後はデータを超える熱量と「届けてつながりたい」という強い思いがヒットを生むと強調した。欧米と異なり、日本のファンは一度好きになると、邦楽・洋楽のジャンルを問わず長期間にわたってアーティストを応援し続ける特徴があるという。

藤倉氏
松田氏と藤倉氏