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お尻が震える「未来型ライブビューイング」を大阪・関西万博で体験。これは新しい観戦スタイルか?
2025年10月6日 06:00
スポーツを離れた会場から楽しむライブビューイング。大規模なスポーツイベントなどでは、当たり前のように開催されるようになってきたが、5日、大阪・関西万博の会場で実施された「未来型ライブビューイング」と題した体験イベントでは、椅子に用意されたクッションがズンズンと震えるようになっていたのだ。
実際に体験してみると「お、これちょっと新しい」という新鮮さと同時に、バスケの試合を観戦しながらお尻の下から震えが伝わってくることに戸惑ってしまった筆者。ひとまずその模様を伝えられるかチャレンジしてみたい。
IOWNで繋がる試合会場、本番は「振動」にあり
今回のイベントの題材は、プロバスケットボールリーグチーム「神戸ストークス」の試合だ。新シーズンの開幕がギリギリ、大阪・関西万博の会期に間に合うということで、何かできないか探ったNTTドコモのエンタメ関連チームがイベントを仕立てた。
試合会場であるGLION ARENA KOBEは、今春開業した、神戸ストークスの本拠地。ドコモも運営に参加している。大阪・関西万博会場内の「フェスティバルステーション」とはIOWN回線で結ばれ、遅延を抑えて高精細な映像が送られた。試合直前、神戸側と万博会場側でやり取りをしていた藤崎マーケットも「えっ、いつもの中継で感じるちょっとした間がない!」と驚きをあらわにする。
離れた場所同士でやり取りするというインタラクティブな場面で、IOWNならではの低遅延性能が効果を発揮したことになる。これが当たり前になると、未来の子供たちに「2025年くらいには、テレビの中継で、相手とのやり取りも少しだけ間が空いていてね……」などと言うようになるのかもしれない。
とはいえ、ただ映像を送り、離れた場所で試合を見るというだけでは、遅延を小さくするIOWNの凄さも伝わりづらい。今回のイベントでIOWNの性能、そして人間の感覚を通信を軸に拡張しようとするNTTドコモの技術「FEEL TECH」がその本領を発揮したのは、いざ試合が始まってから。
14時ちょうどに試合が始まると、ライブビューイング会場(の一部)の椅子がほんの少し、震え出した。クッション型デバイスのその上に座っていると、クッションはひたすら震えまくっているのだが、音を立てるほどでもなく、目で見ても動いているかどうかわからない。だが、ズンズンズンとお尻の下で動いている。よくよく気を配ると、眼の前の大型ディスプレイで繰り広げられる神戸ストークスの試合となんだか合っている。選手のドリブル、ゴールにボールが触れた瞬間などに合わせて振動しているのだ。
「体育館で座っているとき、近くでバスケのドリブルしているような感じ?」と聞かれれば、「気持ちはわかるが、違う」と答えるだろう。音楽ライブでスピーカーからの大音量が体の芯から鳴るような感覚とも違う。だが、椅子に置かれたクッションが震え、選手たちの動きを震えて伝えてくる。わずかな動きながら、確実に振動が伝わってくる。
映画館の一部で、体験型のシート・作品が用意されているが、今回の体験はちょっとそれに近い。技術的に見れば、スポーツのライブ中継でシートが振動するという点は、リアルタイムで動きを生成するもので、遅延を減らすIOWNならではの特長と言える。この「振動」が未来型ライブビューイングと位置づけられる理由だ。
“振動”の正体はコート下の加速度センサー
では、どうやって振動を生み出しているのか。筆者が感じたように、クッションデバイスは試合にあわせて震えていた。つまり、試合会場で選手のドリブルなどを検知していたわけだ。
担当者によれば、動きの検知に用いられたのは加速度センサー。いわゆるアリーナは、興行内容によって床板を変更するようになっており、今回はバスケ用の床材の裏に加速度センサーが設置された。
それもコートを8分割し、8つのセンサーを配置。エリアを細かくして、選手やボールの動きをきちんと捉えられるようにした。また、仮に1つ不具合が起きても、周囲のセンサーで振動をキャッチできるよう冗長性を持たせることにもつながった。床に加えて、2カ所のゴールにも加速度センサーが配置され、シュートを振動で表現できるようにもしていた。
現地でも味わえない感覚?
選手たちの動きを全てキャッチできるよう配置されたセンサーだが、何の工夫もなければ、全ての選手の動き、つまりボールを持つ選手だけではなく、ディフェンスとオフェンスで駆け引きし、縦横無尽に動き回る選手たちの足の運びが全て振動に変換されてしまう。
そうなると、クッション型デバイスがひたすら震えるだけの存在になりかねない。そこで今回は、ボールを持つ選手の場所だけなど、「フォーカスするエリア」を現地スタッフが手動で調整する手法を採った。フォーカス外の動きは振動の対象外となるわけで、取捨選択することで試合に合わせた振動を体験しやすくしていたわけだ。実際、ゆっくりと攻め上がろうとする場面では、トントントンとボールの動きも緩やかで、クッション型デバイスから伝わる振動も映像とリンクし、非常にわかりやすく感じ取ることができた。
一方で、激しくスピーディに動くような場面では、振動が多すぎたのか、筆者の感じ取る力が鈍すぎたのか、どの動きがどの振動とリンクしているか認知はしづらかった。
ではバスケの試合と振動という工夫はそもそもマッチしていなかったのか? と問われると「それもちょっと違うな」と考えた。複数の選手による攻防が、振動として表現されたようにも感じられたのだ。
クッションがざわめいているような、体の外から震えてくる感覚は、これまで体験したことがないもの。音楽のライブ会場であれば腹から音が入り込むような感覚もあるが、それとも違う。お尻の下がずっとザワザワしている感じが、たまにボールや選手のステップ、ドリブルとドンピシャでシンクロして振動する。
バスケのライブビューイングの新しい体験として、椅子の振動は正解かどうかはわからない。だが、現地にいたとしても味わえない感覚ではないか。一種の拡張現実と言えそうだが、観客はもちろん、バスケコートで躍動する選手ですら感じていない振動となると、これはいったい何が生まれているのか……と深く考えそうになってしまうが、それでも体験した周囲の人たちからは「なにこれおもしろい」「揺れてるね」などといった声が聞こえてきて、目新しさや、身体を通じた新たな感触に好奇心を刺激された様子だった。
ドコモのエンタメ関連チームが関わる、万博での取り組みは渋谷で楽しめるようにしたイベントに続く2例目。通信サービスならではの特徴を活かしたライブビューイングをNTTグループの技術力でひと味、異なるものにした。
多くの人を熱中させた万博が終わる間際に、ドコモは未来への期待を示した格好だ。リモート会場でも没入感を高めるための試みはこれからも続くはず。「視覚や聴覚に加えて、別の感覚」がいつ実現するのか。どのような形で、より一般的な仕組み・ソリューションへ成熟していくのか、注目したい技術だろう。







