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クアルコム、Oryon採用の最新スマホ向けチップ「Snapdragon 8 Elite」発表
2024年10月22日 04:00
米クアルコム(Qualcomm)は、フラッグシップスマートフォン向けのチップセット(SoC)「Snapdragon 8 Elite」を発表した。
3nmプロセスの「Snapdragon 8 Elite」は、2つのプライムコアと6つのパフォーマンスコアで構成されるCPUだけではなく、GPU、AIを処理するNPU、画像処理エンジンなどを備える。さまざまなアプリを効率的に処理し、その一方で画像処理を追求。さらには性能の最適化も図られている。
特にCPUについては、新たに「Oryon(オライオン)」と呼ばれるCPUを採用する製品となり、ASUS、Honor、iQOO、OnePlus、OPPO、RealMe、サムスン、Vivo、シャオミなどから、今後、数週間で「Snapdragon 8 Elite」搭載デバイスが登場するという。
“Elite”という名称は約1年前にパソコン向けで発表された「Oryon」コアのチップセット「Snapdragon X Elite」などでも用いられており、同社によってもっとも先端的なプロダクトに与えられるという。
前モデルの「Snapdragon 8 Gen 3」と比べ、シングルコアとマルチコアの処理能力は45%、ゲーミングは40%、レイトレーシングは35%、生成AI処理は45%、それぞれ向上する。また、消費電力はCPUで44%、GPUで40%、AI処理で45%、全体で27%の削減を達成する。
CPUコアを一新
クアルコムのスマートフォン向けチップセットのCPUは、ここ数年、Armの技術をもとにした「Kryo(クライオ)」と呼ばれるものが採用されてきた。
今後もKryo搭載のチップセットは提供されるとのことだが、フラッグシップ向けに採用される今回のOryonは、2021年にクアルコムが買収したNuvia(ヌヴィア)社の技術をベースにしたもの。さらに「Snapdragon 8 Elite」へ搭載されるものは「第2世代」とされ、約1年前にパソコン向けに提供された「Oryon」コアのチップセット「Snapdragon X Elite」から進化した。
プライムコア(最上位のCPUコア)は最大4.32GHzで駆動し、パフォーマンスコアは最大3.53GHzで駆動する。
クアルコムでは、「プライムコアは、モバイル業界のどのコアよりも高速」とアピール。さらに最大周波数(駆動クロック)は向上できるという。モバイルでの利用に向けて、個々のコアの頻繁な電源のオン/オフに対処すべく、別のハードを用いてシーケンスに必要だった過程を省略する「Instant Wake」という新たな仕組みを導入した。
また、パフォーマンスコアでは、電力効率が高く、負荷の高いアプリを実行するよう調整されている。
一方、これまでのスマートフォン向けのチップセットのCPUでは負荷が低い場面で処理を担う「高効率(エフィシェンシー)コア」が含まれている。
しかし今回の第2世代Oryonでは高効率コアが省かれている。クアルコムでは、高効率コアを減らしてパフォーマンスコアに置き換え、電力消費と処理能力の最適化を目指してきたとのことで、第2世代Oryonの「2つのプライムコアと6つのパフォーマンスコア」という組み合わせが、新たな基準になるとアピールする。
メモリーでの進化
このほか、Oryonでは、メモリー関連の技術でも従来から改善をはかる手法が導入されている。CPUごとに12MBのL2キャッシュが用意されており、計24MBのキャッシュを備える。
生成AIがメモリーを大量に用いることから、DDR5規格をサポートし、シームレスなマルチタスクと先端的な生成AI機能に貢献するという。
物理エンジンをサポート
ゲームプレイ時には、電力効率の向上で、Snapdragon 8 Gen 3よりも2時間半、長くプレイできる。
Adreno GPUは、モバイルゲーミングを想定して開発されたとのことで、より高いフレームレートに対応するほか、Unreal Engine 5のネイティブソリューションや、Unreal Engineの「Chaos」物理エンジンをサポート。ゲーム内で物理学に基づいた動きを再現できる。
独立したシェーダープロセッサーベースのコアで、処理を分散させつつ、同時に実行できるようにした。複雑なシーンをレンダリングする場合、12MBまでのデータをGPUへ直接保存して処理できるとのことで、DDRメモリーへデータを送る手間を省く。
レイトレーシング(光の再現)もより鮮明になり、パフォーマンスの向上を実現した。
Snapdragon 8 Eliteユーザー向けに、今後、カーレースゲーム「GRID Legends」が独占提供される予定も明らかにされている。
生成AIでの特徴は
Snapdragon 8 Eliteでの生成AIは、マルチモーダル(テキストだけではなく、画像、動画などを扱えること)をサポート。スピーディに、電力消費を抑え、なおかつプライバシーを守りながらデバイス上で処理する。そこで鍵となるのが「Qualcomm AI Engine」となる。
Oryon CPUが負荷の高い処理を担いつつ、NPU(Hexagonプロセッサー)や「Qualcomm AI Engine」がAI固有のタスクに集中する。
Hexagonプロセッサーはスカラーアクセラレーターとベクトルアクセラレーター、どちらもコアが追加された。推論処理も高速化されている。
これまでのチップセットでは、たとえば音声でAIアシスタントとやり取りする際、音声認識プロセス(音声をテキスト化して言語モデルが理解できるようにする流れ)が必要だったが、「Snapdragon 8 Elite」のマルチモーダルモデルは、このプロセスが不要になる。
カメラ×AIの進化
また、スマホのカメラで捉えている被写体も、AIアプリが認識できるようになり、ユーザーとの対話などで、より自然なやり取りが可能になるという。
写真を処理する場面では、たとえば解像度が低い写真に対し、超解像で高精細にする場合、従来よりも、美しくディティールや鮮明さを反映させる。これは、トリプルコグニティブISPACEで実現されている。
Hexagonプロセッサー(NPU)と連携する、新たな画像処理プロセッサー(ISP)「AI ISP」も採用された。画像処理のパイプラインの多くをRAWで進め、精度などが向上している。
「オートフォーカス」「オートホワイトバランス」「オート露出」という“3A”に対してもAIの適用が強化される。
このほか、ピクセルスループットが35%向上し、4.3ギガピクセル/秒となった。48メガピクセル(4800万画素)のセンサー3つのデータを、30fpsで、同時に記録できるという。
AI ISPではこのほか、AI処理へのデータ接続が高速化され、NPUが直接、RAWデータにアクセスできる。
クアルコムでは、「クラウドでのみ利用可能だったAI写真機能をデバイスで処理できる」としており、1400p、60fpsの映像でもリアルタイムにAIで処理できる。
風景の前に立つ人の写真を撮る場面では、250を超えるレイヤーで被写体を識別。肌の色合いや空模様をAIで処理して、照明条件が厳しい環境でも、美しく撮影できる。
AI処理により、逆光の場面での撮影も、よりクリアに顔を記録することもできる。
動画撮影では、不要な被写体を削除できる機能もオンデバイスで実現できる。撮影後、処理したい場面を選んで消したい物体を選んで消す、という流れが想定されている。
X85モデムを採用
モデムシステムは、「Snapdragon X80 Modem-RF System」が用いられる。衛星との通信や、6つの周波数帯域を束ねる6CA(キャリアアグリゲーション)などがサポートされる。
Wi-FiはFastConnect 7900で処理される。通信性能の向上に加えて、消費電力が40%削減される。