インタビュー

クアルコムのマクガイアCMOインタビュー 日本市場への投資拡大、Snapdragonブランド構築へ

 スマートフォン向けのチップセットなどを手掛ける米クアルコムのCMO(チーフマーケティング・オフィサー)であるドン・マクガイア(Don McGuire)氏が来日し、報道陣によるグループインタビューに応えた。

 マクガイア氏は、同氏にとって10年ぶりという今回の訪日は、Snapdragonというブランドの認知度向上が目的だと説明。グローバルでスマートフォンだけではなく、パソコン、IoT、そして自動車に注力する現在、「日本は今、非常に重要な市場だと認識している」と語る。

ドン・マクガイア氏。Spring PCS、京セラワイヤレス(Kyocera Wireless)、インテルなどを経て2016年にクアルコム入社。2021年7月から現職。

 これまでは中国、東南アジア、ラテンアメリカ、インドで「Snapdragon」ブランド」構築に注力してきた。その結果、たとえば中国市場では、スマートフォンに搭載されるチップとしての認知度が高まり、PC市場でも良い影響をもたらしたという。

 日本や米国などでもPC市場でSnapdragonブランドを構築する必要があり、ほかの製品群にも影響を広げ、「Snapdragonを搭載するデバイス」を選んでもらいやすくすることを目指す。2025年は、日本においてSnapdragonのさらなる認知度の向上、そして製品として選ばれるために投資していく時期だと位置づけた。

グループインタビュー

――日本のPC市場についてどう考えているのか。

マクガイア氏
 日本で成功するためには独自の機能、独自の差別化が必要です。キーボードのレイアウトが異なりますし、アプリのエコシステムも違います。

 周辺機器も、エプソン、ブラザー、キヤノンなど、ほかの市場と異なっています。ユーザー体験をカスタマイズし、日本市場にあわせて提案する必要があります。まだ着手したばかりで、2025年前半で、日本市場向けの価値の提案をひとまず完成させるつもりです。

 法人での利用という観点でも日本のPC市場は興味深く、収益性の高い市場です。日本は活況を呈しており、今後も非常に強力で魅力的なPC市場であり続けるでしょう。

――では、クアルコムのアドバンテージはどういった点になるのか。

マクガイア氏
 視点によって異なります。ユーザー数という点で、クアルコムが強みを発揮しているのは、スマートフォンと自動車でしょう。

 自動車では、日本のメーカーと当社のソリューションにおいて強力なビジネスを展開しています。

 シャープやソニーといったスマートフォンメーカーとの歴史もあります。

 これまでの歴史ではスマートフォン、最近では自動車。そしてPCは大きなチャンスだと考えています。Lenovo傘下ですが、NECのようなローカルブランドもありますし、富士通といった事業者もいます。

 長期的には産業向けを含めたIoTにも機会があるでしょう。まだ小規模ですが、大きな成長の可能性を秘めています。ウェアラブル、ゲームデバイス、スマートホーム、ロボット、ドローン、産業用カメラなどです。

――IoTビジネスソリューションに関する日本市場のトレンドの特徴的な点は?

マクガイア氏
 小売業は、クアルコムのIoTビジネスにおいて重要な分野です。POS端末から物流監視、産業用カメラ、ロボット、センサー、輸送、商品の追跡、在庫管理までソリューションを提供しています。

――2023年、デバイスの垣根を超えて利用できるようにする「Snapdragon Seamless」が発表された。

マクガイア氏
 スマートフォンからPCへ、イヤホンからPCへ、イヤホンからスマートフォンへとデバイス間の体験を向上させるものです。徐々に利用できるようになってきています。

 中国のお客さまの中には、すでに導入済みのところもあり、オフィスでシームレスな環境を構築しつつあります。自身のデスクから会議室まで移動したあと、シームレスに作業の続きをできるといったかたちです。

――日本のスマートフォン市場では、次のステップとして、どういった投資を考えているのか。

マクガイア氏
 まず一般的な話として、私たちクアルコムは、スマートフォン分野における健全なAndroidエコシステムを強く信じています。

 市場によっては、その地域だけの力学というものも存在することがあります。たとえば中国市場は米国市場とは大きく異なっています。

 米国や英国は2極化しています。基本的に2つのブランドしかない。私たちは、その一方のサイドです。

 一方で中国はオープンな市場で、複数のプレーヤーが存在し、活況を呈しています。そうしたなかでクアルコムは中国のパートナーと大きな成功を収めています。

 さて、日本市場は、Androidともう一方で分かれています。あるブランドが行った、いくつかの不自然な事柄もありましたが、私たちはAndroidエコシステムを100%、サポートします。

 そうしたなかで、すべてを変えることになるのは、AIです。新たなユーザーインターフェイスになりますし、エージェント化されるとAIアシスタントと会話したりするようになる。アプリのアイコンをタップすることなく、音声でもテキストでも、どのような方法ででもAIとやり取りし、アプリの存在を意識せずにAIがインターフェイスとなっていく。

 こうしたモバイルでの新たな体験が構築されていくことになります。

――消費者との関係づくりとして、Snapdragon Insider(ファンコミュニティ)という仕組みがある。日本では今後どう取り組むのか。

マクガイア氏
 冒頭に申し上げた通り、PC分野で日本でのブランド構築に取り組みます。それがほかの製品ジャンルにも波及していくでしょう。

 PCカテゴリーは激しい競争環境にありますが、ブランドの認知度や親近感などを高めるための投資が必要です。

 その上で、日本におけるInsiderを拡大できます。現在、世界中に1900万人の会員がいます。しかし日本では、わずか6000人です。まだ着手したばかりだからです。ちなみに中国には800万人います。インドは500万人、ラテンアメリカは400万人のInsiderがいます。これも先に申し上げた通り、ブランド構築活動をそれらの市場で先に進めてきたからです。

 そして、これも繰り返しになりますが、いま、我々は日本を重要な市場と認識しています。リソースと投資を進めて、認知度を高め、Snapdragon搭載デバイスを選ばれるようにしていきます。

 マンチェスター・ユナイテッドやF1のようなグローバルパートナーシップも活用します。例えば、日本グランプリでのメルセデスとのパートナーシップを通じて、Snapdragonを活性化させていきます。日本ではマンチェスター・ユナイテッドのファンが多いので、それを活用します。

 2年前には、eスポーツの世界選手権を東京で開催しました。私たちは、そうした機会をすべて活用すると同時に、日本に適した施策を進めます。

――話は変わって、自動車産業への取り組みについて教えてほしい。

マクガイア氏
 Snapdragon Summitで、Snapdragon Ride Elite(自動運転をサポート)とSnapdragon Cockpit Elite(車内エンターテイメント向け)を発表しました。

 クアルコムは、それらのソリューションを組み合わせて提供しています。単独で導入することもできます。自動車業界に、最も柔軟なデジタルシャーシソリューションを提供しているというわけです。自動車メーカーは、オープンなプラットフォームの上で開発できるわけです。

 パートナー企業と連携して、自動車メーカーにサービスレイヤーでのソリューションも提供します。自動車業界がデジタル変革を進め、車がデジタルリビングスペースとなり、ハードウェアでの定義ではなくソフトウェアベースの自動車へ変化する中で、クアルコムは最も完全で総合的なソリューションを提供できています。

 今後の成長も、自動運転において見込めます。レベル2~4までありますが、成長の機会はレベル2、レベル3にあると見ています。つまりは完全な自律走行ではなく、運転支援です。将来的には完全な自律走行も(クアルコムの事業機会として)ありますが、現時点では運転支援でしょう。

 そこでの我々の強みは、性能の高さ、低消費電力、そしてコネクティビティ、ADAS(先進運転支援システム)全体での相互運用性です。

 我々のオープンなプラットフォームの上に、自動車メーカーは独自のAIやユーザーインターフェイスを構築できます。AIは、クアルコムの優位性を示すもうひとつの分野でもあります。

 レベル4の自律走行もユースケースのひとつです。米サンフランシスコで、AIが運転するタクシーの「Waymo」にも乗車したことがあります。ロボットタクシーのようなサービスは今後、成長する可能性があります。もちろん法規制や、安全上の課題はあるでしょう。

 完全自律走行はタクシーや大量輸送といった場面でのニーズはあるでしょう。私個人としては、やはり自分のクルマを運転することが好きです。コントロールしているという感覚が好きなんですよね。

――オーディオサウンドソリューションについても聞きたい。今後の展開は?

マクガイア氏
 Snapdragon Soundソリューションは、私たちのすべての機能をパッケージ化したものです。多くの点で、それらは最先端であり、高品質なオーディオを実現します。ワイヤレスイヤホン、オーバーイヤー、車内、スマートスピーカー、あるいはスマートフォン本体と、その全てで高品質なオーディオを実現します。

 ただ、それは、たとえばDolby Atmosに取って代わるものではありません。むしろ組み合わせて利用されます。Dolby Atmosなどと競合するわけではなく、連携して動作します。

――ありがとうございました。