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OpenAIの「GPT-4」活用で注目の語学学習アプリ「Duolingo」、生徒のやる気を引き出す秘密はAI活用にあり

 米Duolingoは、グローバルで展開している語学学習アプリ「Duolingo」で、OpenAIの言語AI「GPT-4」を搭載した新サービス「Duolingo Max」を3月に発表し、現在米国とカナダでサービスがスタートしている。日本では、年内の展開を目指している。

 一方で、さまざまな言語の習得をサポートする「Duolingo」自体も、ユーザーを飽きさせずに短時間で多言語習得できるよう、AIを活用したさまざまな取り組みを行っている。

 今回は、Duolingoの日本カントリーマネージャーの水谷 翔氏と、AI部門トップのクリントン・ビックネル(Klinton Bicknell)氏から、DuolingoのAI活用や「Duolingo Max」について話を聞いた。

日本での「Duolingo」

Duolingo 日本カントリーマネージャーの水谷 翔氏

 「Duolingo」のサービスについて、日本では語学学習アプリ「Duolingo」と、ユーザーの英語力を確認できる英語能力認定試験「Duolingo English Test」の2つのサービスが展開されている。

 水谷氏によると、後者の「Duolingo English Test」では、米国の大学のほか日本の一部大学でも、受験者の語学力の指針として入学選考に取り入れられているという。

 一方の「Duolingo」アプリでは、日々10億以上のユーザーデータや言語学者の知見などを取り入れた仕組みを備えており、大学の4学期(約2年間)の授業で身につくレベルの語学力を、その半分程度で習得できるとしている。

 グローバルでの業績も好調で、2023年第1四半期の利益は、前年同期比で+42%増加の115万7000ドル(約162億円)で、日本市場でも2022年通期のアプリダウンロード数は、教育カテゴリーで第1位だという。

 「Duolingo」アプリでは、10年以上にわたりAIを活用しており、ユーザーの利用情報を分析し、どのような演習をすればユーザーの語学力が上がるかといったことや、ユーザーのやる気を引き出すために、演習の難易度やプッシュ通知のタイミング、内容に至るまでAIを活用している。

「Duolingo」のAI活用術とは

Duolingo AI部門トップのクリントン・ビックネル(Klinton Bicknell)氏

 次に、実際にどのようにAIを活用しているのか? クリントン氏から説明があった。

 まず、Duolingoの使命をクリントン氏は「世界で最高の教育を、だれもが普遍的に利用できるようにすること。テクノロジーやインターネット、モバイルデバイスの力で、すべての人々に等しく教育の機会を提供することを目指す」とした。

 その使命を果たす最善の方法は「素晴らしい先生や家庭教師をもつこと」とする一方、世界中のだれもが巡り会えるわけではないとし、Duolingoでは、それを達成するための最良の方法を提供するとコメント。

 続けてクリントン氏は、「優れた教師とはなにか?」について、重要な3つのポイントがあるとした。

 まず、1つめは「その分野の専門家で、学生の質問に応えることができる先生」、2つめは「生徒のやる気/関心を維持する方法を知っており、生徒が楽しく学習し、やる気を維持させられる先生」、3つめは「生徒が困っている/わからない点を理解し、同じように苦労した生徒を助けた経験を生かすことができる先生」と挙げた。DuolingoのAI技術も、これら3つの要素をもとに研究/開発されたという。

その分野の専門家で、学生の質問に応えることができる先生

 優れた教師は、教科書の内容を熟知している必要があり、Duolingoにおけるカリキュラムも、AIと人間の力でコースが作成される。

 実際の演習コンテンツを作成するのは、人間の専門家だが、コンテンツを作成する際に、AIを取り入れることで、生産性を向上させることができるという。

 たとえば、異なる言語同士では翻訳が1:1とはならず、1つの文章で複数の訳文が出てくる場合がある。AIは複数回答が出る可能性があるものに対し、どこまでを正解とするかをサポートするなど、より間違いを少なく、より早く作業できるようにする。

生徒のやる気/関心を維持する方法を知っており、生徒が楽しく学習し、やる気を維持させられる先生

 ユーザーのやる気維持のために、さまざまなAI技術を活用している。

 たとえば、Duolingoに登場するキャラクターに関して、キャラクター別に独自の声を、読み上げAIを使って実現させている。

 また、アプリからのプッシュ通知では、従来のアプリではすべてのユーザーに同じ内容を同じタイミングで送信していた。Duolingoアプリでは、これまでのユーザーの行動履歴を学習させたAIが「ユーザーのやる気が最大限持続させる」ために、数百のメッセージから“ユーザーに合わせた”内容とタイミングで通知を出しているという。

生徒が困っている/わからない点を理解し、同じように苦労した生徒を助けた経験を生かすことができる先生

 Duolingoでは、ユーザーの反復学習のために独自のAI技術「バードブレイン」を開発し、ユーザーのことを理解し、演習内容に反映させている。

 「バードブレイン」では、簡単にいうと「一度学習した内容を、ユーザーが忘れそうなタイミングで、再度演習させて、ユーザーの学習内容定着を図る」もの。

 具体的には「半減期回帰」と呼ばれる新しい統計モデルを導入し、「再演習時に正解なら、次の演習タイミングまで長く」し、「不正解なら次のタイミングまで短く」するといった形で、ユーザー一人一人にあわせた再演習タイミングを設計する。

 この技術を活用することで、ユーザーの学習内容がより難しいものになり(語学力が向上)、ユーザーの学習時間も増加(やる気が長期間維持できた)したという。

右上のグラフが、ユーザーの理解度(縦軸)と初回学習時からの期間(横軸)の関係を示している。グラフでは、正解(緑のチェックマーク)すると再演習までの期間が短くなり、不正解(赤の×印)だと再演習までの期間が長くなる

 さらに、ユーザーの学習内容を分析することで、簡単すぎず、難しすぎないユーザーそれぞれの「発達の近接領域」とよばれるレベルに演習を調整することで、ユーザーがこれまでよりもより多く、より難しい問題にチャレンジするようになったとしている。

右下の図、中央が「ユーザーが簡単だと思う領域」で、外側に行くほど難しくなる。外側に行きすぎると、いわゆる「難しすぎてやる気がなくなる」状態になるので、「飽きさせずかつ難しい問題にチャレンジできる」ほどよい加減調整が必要だとクリントン氏は説明する

 現行の「バードブレイン2」では、ニューラルネットワークモデルを取り入れ、ユーザーの学習内容をより深く把握し、継続的に更新し、より効果的な学習をすることができる。

バードブレイン1(先代モデル)
バードブレイン2(現行モデル)

GPT-4を活用した「Duolingo MAX」

Duolingo MAX

 国内で年内開始を目指している「Duolingo MAX」では、OpenAIの大規模言語モデルを活用し、ユーザーが間違いを理解できる「Explain My Answer」や、チャット形式で場面に応じた会話を学習できる「Roleplay(ロールプレイ)」が新機能として搭載されている。

Explain My Answer
Roleplay(ロールプレイ)

 Duolingoは、以前からOpenAIと緊密に連携していたこともあり、早期にGPT-4を使ったコンテンツをリリースできたという。ちなみに、GPT-4の開発支援として、DuolingoのデータをGPT-4の学習データとして提供していたことを明かした。リリース後の現在では、学習データとして提供はしていないが、DuolingoとOpenAIのAI技術を組み合わせることで、先述の2つの機能以外にも今後機能拡充を図るとしている。

 GPT-4の特徴についてクリントン氏は、「GPT-4が一部の言語でよりうまく(正しく)機能することは事実で、これが現時点で少数の言語でしか提供できていない理由の一つ。さまざまな環境でテストを重ねる必要があるが、とりわけ英語は非常に得意であることがわかっている」との見解を示した。

 一方で「間違いや幻覚を起こす可能性について、これまでの言語モデルよりGPT-4でははるかに少ない。以前のモデルでは、『Duolingo MAX』の機能は構築できなかった」とし、GPT-4の優秀さもアピール。その上で、今後もユーザーのフィードバックを通じて間違った文章や説明を修正し、間違いを減らす取り組みを続けていくとした。

 日本国内での「Duolingo MAX」リリースについて、クリントン氏は「年末までに日本市場での発売を検討している。楽しみにしてほしい」とコメントした。