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KDDI髙橋社長、楽天モバイルへの新ローミングは「互いに効率高めたい、WIN-WINだ」

 KDDIの髙橋誠代表取締役社長は11日、決算説明会の質疑応答において、同日午前に発表した楽天モバイルとの新たなローミング協定について語った。

KDDI髙橋氏

 髙橋氏は、楽天側にとっても、KDDIにとっても、4Gよりも5Gの投資を進めたい状況にあると指摘。この点で、4Gエリアは充実し、さらに5Gへ展開したい、いわば4Gネットワークに余裕が出てきたとみられるKDDIから、4Gの人口カバー率を98%にしたものの都市部の屋内などで細かな点での整備に課題があるとみられる楽天モバイルへの4G回線の貸し出しが、双方にメリットがある枠組み、ということになる。

 また、KDDIにとっては、ローミング収入が一気に減少することは業績への影響が大きく、長期にわたる関係に仕立て直した格好にもなっている。

ローミングに関する一問一答

――楽天モバイルとのローミングについて、以前は楽天側が都市部において自前でやっていく方針であり、今回は大きな方針転換だと思う。楽天モバイルの現況をどう分析しているのか。

髙橋氏
 他社のことは語りづらいが、足元の競争状況や、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)の状況から、楽天さんは、今、加入者が増えてるわけではないなと思っているんです。

 一方で。設備投資の面があります。我々(KDDI)、ローミング開始時から、定期的にローミングエリアについて、楽天さんと協議をしてきました。

 そういうなかで、楽天さんからしても、実は5Gの方に投資は傾注したいのでしょう。「開設指針」(周波数割当時に事業者側から示すエリア展開計画)達成に向けて進めなければいけませんので、そちらの方(5Gの計画)を優先したいって思いはあられるんでしょう。

 我々も4Gネットワークよりも、5Gが競争領域になります。できるだけ4Gをお貸ししたほうが、効率的でありがたい。

 今期(2023年度)は、楽天さんからのローミング収入だけで600億円ぐらいマイナスになります。楽天さんのご都合もあるでしょうが、一挙にせず、緩やかにされたらいかが、足りないところはお貸ししますよという話をしながら、今回の合意に至りました。

 2026年3月期で終わるローミングを延長しましたが、その後も、両社の合意でさらに延長できるようになっています。

 また、今回の決算では、ギリギリのタイミングだったため、来年度の業績に新たなローミング契約は含まれていません。ローミング収入の減少はもう少しゆるやかになるでしょうから、追ってお話したいです。

――楽天側は以前、ローミング料金が高いと不満を漏らしていた。今回の新たな取り組みでは条件面で変更した上で合意したのか。

髙橋氏
 契約内容の話については、お互い、細かい話を言うのやめようね、となっているので、ご容赦ください。

 ただ、我々からすると、一気にローミングによる収入が減ると経営にも大きなインパクトがあります。

 楽天さんからすれば4Gより5Gへの投資に傾注したいでしょう。ドーンとローミングを減らすという方針だったものの、設備投資よりもローミングのほうが優位だとたぶん、思われたのでしょう。

 両社でいいバランスを取ったということで、大幅なディスカウントといった話ではありません。

――ドコモは通信品質が下がったということで先日説明会もあった。楽天へのローミングはKDDIのプラチナバンドを活用していると思うが、ネットワークへの負荷は大丈夫か。

髙橋氏
 楽天さんのローミングトラフィックは、徐々に減りつつありますので、あまり考慮しなくても大丈夫かと思っています。

 一方で、NTTドコモさんの件は、我々もすごく気にしています。

 昨日、宮川さん(ソフトバンク社長の宮川潤一氏)も決算会見で触れていましたが、やはり4Gから5Gへのマイグレーション(移行)は相当難しい。ものすごく警戒しながら対応を進めています。

 具体的には、ビッグデータを駆使しています。これまでは、お客さまの情報に基づいて対応していましたが、今は、いち早く検知をして対応、見つけたらすぐ直していくという繰り返しです。これは、パラメーターの変更も含めて実施しています。

 また、ドコモさんは、当社と違い、Sub-6(6GHz帯以下の周波数)での5G展開を一気に進めて、その後NR化(より電波が届きやすい4G用周波数を5Gへ転用すること)でエリアを広げるという手法です。

 KDDIは、700MHz帯や1.7GHz帯で5Gを提供してエリアを整備してからSub-6にしています。まだ、KDDIもキレイに5Gエリアを作れているわけではないので、警戒しながら整備していきます。

――楽天とは、ローミング以外での提携はどの程度進んでいるのか。

髙橋氏
 2018年の段階で、au PAY加盟店拡大のために、楽天ペイの加盟店のリソースをうまく使わせてほしい、と話していて、ここは三木谷さん(三木谷浩史氏、楽天モバイル会長)に本当によく対応いただいて、感謝しています。物流もコマース分野で順調です。

 今回はローミングだけの話で、これ以上の拡大については特に議論していません。

――なぜKDDIが楽天に救いの手を差し伸べるのか。ローミング収入が大きいので、それを緩やかにするのはわかるが、それ以外に見返りはないのか。

髙橋氏
 業績改善もひとつの要素です。一方で、真面目な話、日本は人口減少で、(携帯電話料金の)値上げは難しいです。そしてデジタル田園都市国家構想で、5Gは広げるという(政府からの)要望が示されています。

 そして、最近話題のChatGPT(生成AI)のように、競争レイヤーが(インフラよりも)上のほうになっていて、クラウドも含めて、投資がそっち側に変わってくるわけです。

 すると、(KDDIも楽天も)4Gを通じて、お互いに効率性を高めたいのは当たり前だと思います。

 楽天さんにとっては5Gへ注力しなければいけないし、4Gも整備しなければいけない。我々も、急に楽天ローミングによる収入がなくなるのはもったいない。我々からすると、長期間、ご利用いただいた方がいいだろうと。

 つまり4Gの設備投資効率をより上げたいと、両社はウィンウィン(win-win)の関係だというふうに思います。なにかそれ以上の見返りがあるというわけではありません。

――楽天の競争力が少し落ちてるので、こういうことになったのかな? とも思ったのですが。

髙橋氏
 皆さんがご判断いただければと。とはいえ、たとえばMNPで楽天さんに我々が負けていることはありません。