ニュース

5G拡大を加速させる「インフラシェアリング」とは? JTOWERの取り組みや独自開発の装置を公開

 「シェアリングサービス」という言葉を聞いたことのある人も多いだろう。自動車や自転車などを複数のユーザーで利用する、といったサービスでよく使われている。たとえば、スマートフォンの電池残量が少なくなった時にモバイルバッテリーを借りたり、駅前に用意された傘を借りたりしたことがある読者も多いのではないだろうか。

 そんな「シェアリング」が、実は、スマートフォンの"基地局整備"にも広がっている。つまり、携帯電話回線のサービスエリアを拡充するために、複数のキャリアが同じ鉄塔・同じ装置を利用して通信エリアを確保するケースが増加しているのだ。

 今回は、基地局のシェアリング事業を手がけるJTOWERから、この「インフラシェアリング」や「タワーシェアリング」の内容やその意義について話を聞いた。

シェアリング事業について

JTOWER 代表取締役社長の田中 敦史氏

 JTOWER 代表取締役社長の田中 敦史氏は、同社が手がけるシェアリング事業は大きく「屋内インフラシェアリング」と「屋外タワーシェアリング」事業があると語る。

屋内インフラシェアリング

 「屋内インフラシェアリング」(IBS、In-Building Solution)事業では、建物内に基地局を設置し、エリア化する設備のシェアリング事業を行っている。

 これまでも、ビルや商業施設、病院など外からエリアカバーが難しい場所などで、建物内に基地局を設置し天井裏などにアンテナを備えて運用することで、エリア補完を行っていたが、キャリアごとに別々の装置で運用していることが多かった。

 JTOWERでは、複数のキャリアに対応した装置を開発し、1つの装置でエリア補完できるサービスを展開する。

 基本的には、2社以上のキャリアで建物全館を補完するものや、トラフィックが多い一部エリアまたは全部を5Gで補完するものを展開する。これ以外にも、すでにキャリア自身が屋内のエリア化を実施している装置の更新時期にあわせてJTOWERの装置でリプレイスを行う事業を展開する。

 これまでに多くの物件でインフラシェアリングを導入しており、2022年12月時点で、累計329件で4Gが導入されており88件で5Gが導入されている。また、76の物件で4Gが、32の物件で5Gが今後導入されるとしている。

 屋内インフラシェアリング事業では、平均で2.8のキャリアの電波が発射されており、田中氏は「多くの建物で3キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)が利用できる」と説明。また、楽天モバイルとの連携も進めており、導入物件のうち30件程度、楽天モバイルの電波も発射されているという。

 屋内インフラシェアリング事業は、海外でも進められており、ベトナム現地の屋内インフラシェアリング事業業者を傘下に収め、ホーチミンの商業施設で5Gインフラシェアリング事業の実証実験をKDDIと進めるなど、今後も事業を拡大していく。

 なお、キャリアによるシェアリングだけでなく、ローカル5Gと組み合わせたシェアリングも進めている。実際に、ローカル5Gの電波も発射できる装置が開発されている。

屋外タワーシェアリング

 国内の5G通信エリア拡大で注目されているのが、屋外の基地局を設置する鉄塔をキャリアに貸し出す「屋外タワーシェアリング」事業。JTOWERでは、2020年度に本格参入し、直近の数字で約6300本(田中氏)の鉄塔を運用している。自社での鉄塔建設に加え、ドコモなどから鉄塔を取得/移管することで、全国へ事業規模を拡大している。

 ドコモからは6002本の鉄塔を移管する予定で、そのうち2022年度内に546本、移管される。残りは2023年度中に完了する。

 NTT西日本からは71本、NTT東日本からは136本、局舎の上に設置されている鉄塔を取得する。2022年12月から移管が進められている。

 また、ユーザーが少ない地域に基地局を新設する鉄塔「ルーラルタワー」への取り組みを進めている。ルーラルタワーでは、鉄塔やコンクリート柱などの上に共用アンテナを設置したうえで、地上には各キャリアの装置を設置するための架台が用意されている。また、JTOWERで非常用電源を用意し、商用電源が喪失してから約3時間は稼働できるように対策を取っているという。

 田中氏は、トラフィックが低い場所での基地局整備において「キャリアごとに鉄塔を建てるのは非効率」とし、人口カバー率ではなく面的なエリア展開を求められているキャリア同士が共用で利用できる環境整備が今後加速される見通しを明かした。

中長期目標

 2026年度までの中長期目標として、屋内インフラシェアリング事業においては、累計1000の物件での導入を目指している。田中氏は、そのうち最低でも450物件は5Gの導入を進めていきたいとした。

 また、屋外タワーシェアリング事業では、合計1万本のタワー運用を進めていきたいとしている。

インフラシェアリングを支える独自機器

 JTOWERでは、独自に技術部門を持っており、使用する機器の仕様を策定し、メーカーの選定から量産までを行う体制を取っている。メーカー設計の機器では、4キャリア分を共用するような設計がなされていないことも多く、ニーズに合わせたサービス運営を行うために、国際標準規格なども加味しつつ装置を開発するという。

 また、技術部長の塩沢 真一氏は「自社で仕様を策定することで、トラブルがあった際に迅速に対応できるようになる」旨をコメント。

技術部長の塩沢 真一氏

 たとえば、複数のキャリア共用の基地局で問題が発生した場合、どの装置に問題があるのかを確認する際に、自社で仕様を決めていれば確認までの時間が短縮される。JTOWERの装置に故障がなく、キャリアの装置に故障が発生している場合でも、アドバイスをすることで早期に復旧できるようになる。

 JTOWERでも、運用基地局の監視を実施しており、全国に拠点を構えている。仕様を理解した技術者がすぐに駆けつけられる体制を整えていることが、他社との差別化の1つとなっていると田中氏も話す。

シーンで変わる機器構成

 塩沢氏によると、屋内インフラシェアリングではソリューションによってさまざまな機器構成でエリア補完を行っているという。

 4Gのみでのエリア展開においては、天井裏の装置をできるだけ少なくするような機器構成が取られる。RU(Radio Unit)など大きな機器をバックヤードに置いておき、そこから同軸ケーブルでアンテナまで信号を届けることで、メンテナンス性に優れたソリューションを展開。

 一方、5G基地局や4×4 MIMOで電波を発射する場合、先述の方法では同軸ケーブルの本数が多くなってしまうことからRUを天井裏のアンテナ近くまで光ケーブルで配線し、そこからアンテナで電波を発射する方式をとる。

 4Gと5Gの両方を展開する場合、これら2つの方式の合わせ技で通信を提供する方法もあり、物件やニーズにあわせてJTOWER独自の機器を配置し展開する。

アンテナは、天井裏や天井から露出して設置される場合もある
親機となるユニット、キャリアの乗り入れにすぐに対応できるようラック式になっている
アンテナと接続する子機(RU)、対応周波数や設置場所などニーズにあわせた装置を備える
透明なアンテナもラインアップしている

ミリ波共用無線機も新たに開発

 なお、JTOWERは台湾のFoxconn(フォックスコン)協力のもと、5Gミリ波帯域で利用できるアンテナ一体型の無線機を開発した。今後、キャリアとの接続試験などを経て商用化する。

 28GHz帯の周波数が利用できるもので、装置の容量が10L未満、重さが10kg未満と小型軽量を実現し、天井裏や信号柱など屋内外の幅広い場所に設置できるO-RAN準拠のデバイスだという。

 これまでのインフラシェアリングでは、設置場所のシェア、アンテナまでシェア、中継装置までのシェアが実現できていたという。この装置を使えば、RUまでを複数キャリアで共用できるようになるため、さらに上位でのシェアリングを進めることができる。

ミリ波共用無線機の実物、4社分の接続端子が備えられている