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総務省が携帯業界の競争促進に向けた報告書案、端末販売拒否やスイッチング円滑化への取組みなど

 総務省は9日、「競争ルールの検証に関するWG 第22回」を開催した。

 同日発表された「競争ルールの検証に関する報告書2021(案)」が共有される場となった。

 報告書案では、中途解約の違約金で1000円以上になる契約はまだ大手3社の半分以上、端末購入プログラムに関する課題、音声通話料金に変化がないこと、そして乗り換えをスムーズにするための取り組みなどについて、現状の課題がまとめられている。

二大臣会合の成果

 会合では、携帯電話料金の低廉化に向けた二大臣会合の取組みの成果についても言及された。

 二大臣会合の下に共同検討チームを設置。検討事項の進捗共有や新たな課題への対応方針についての調整が行われ適宜、二大臣に報告されるかたちが取られた。

 成果の一例としては、広告表示の是正がありこれまでは、各種割引適用後の価格が強調されていたが、割引前の本来の価格を大きく表示するようにあらためられた。このほかにも、携帯電話料金の低廉化、乗り換えの円滑化や低廉な料金プランへの移行などが挙げられた。

不適切な販売に指導

 同報告書では、2019年10月の改正法が施行されて以降、一部の事業者および販売代理店における端末販売で、電気通信事業法第27上の3に反する不適切な端末代金値引きがあったとして、行政指導を行った旨を記載。

 2020年版の報告書の公表以降、同様の違反事例は確認されていないものの、覆面調査の結果では上限を超える値引きや非回線契約者への端末単体販売の拒否といった違反が疑われる事例が確認されているという。

 こうした違反行為についての確認を行いながら、必要な制度整備が求められるとしている。同時に、事業者間の解釈の相違で公正な競争が損なわれることがないよう、ガイドラインの随時見直しなど対応が必要とした。

既往契約

 改正法施行前に提供されていた違約金1000円超、2年超の期間拘束などがあるプランの契約は、5300万契約が残っており、当時プランを提供していたNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社いずれも全体の半分ほどという。

 また端末の購入を条件とする通信料金の割引きは、620万件が、回線契約の継続が条件とされる旧端末購入プログラムは1405万件が残っていると報告されている。

 SIMロックの原則禁止やeSIM促進といった流れでスイッチングコストの低減が進められる中、囲い込み効果が高い既往契約を多く抱えながら、新規事業者やMVNOと顧客獲得を争うのは、対等とは言えないとして、こうした既往契約については、できるかぎりゼロにすべく関係者が必要な取り組みを進めるべきである、と事業者に対して対応を促す。

 現在の法基準では認められない内容のプランであっても、法改正前に締結された契約であれば、違法とは言えない。そのため、解消に向けた取り組みは各事業者に自主的に取り組むよう求めるとしつつも、報告書は、総務省がプラチナバンドの再割当て含む、周波数割り当ての際に、それらの取組みへの対応を審査内容へ盛り込むなどするべきとした。

端末購入プログラム

 現行の端末購入プログラムについて、ユーザーに対して十分な告知がされていないと指摘。回線契約の有無に関わらず、プログラムを利用できるという事実が浸透しておらず、非回線契約者による端末購入プログラムの利用が低迷しているとした。

 これにより端末購入から回線契約に誘引するという潜脱行為の意図が疑われるとも推定した上で、一括購入よりもプログラム利用時に条件を満たすと残債が免除され、端末価格が安くなるため、長期契約による囲い込みにつながることを指摘。

 これらは、あくまで端末購入における囲い込みで通信市場における行き過ぎたものとして直ちに問題ではないとしつつも通信端末の分離の趣旨に反しており、改正法全体の趣旨に反したものであると言及している。

 対応として、回線契約者と非回線契約者の形式的な条件の差異については2022年6月を目処に撤廃、また非回線契約者であってもプログラムが利用可能なこと、非回線契約者へのサービス提供拒否の撤廃などが最低限、求められるとした。

 このほか、楽天モバイルが提供する同様の端末購入プログラムにおいても、同様に問題が発生していないか確認していくことが適当としている。

モバイル契約数は増加

 モバイル市場全体の契約数は引き続き増加しており、2021年3月末時点で1億9512万契約で前年同期比4.6ポイント増だった(PHS、BWA含む)。

 シェアの内訳はドコモが36.9%、KDDIグループが27.1%、ソフトバンクが21.1%、楽天モバイルが1.5%だった。

 MNO各社から中容量帯のプランが発表される中、MVNO各社でもこれに対抗してさらに低廉な小容量帯のプランの充実が図られた。一方で、MNOの新プランはMVNOが公正に対抗できないのではないか、という指摘も寄せられており、データ接続料金の算定時には新料金プランの導入と行った直近の状況変化を踏まえた、より一層緻密な予測に基づいた算定の養成が総務省からMNO各社に行われた。

 報告書2020の公表以降、MNO各社のオンライン専用プランやMVNO各社の新プランの発表が続々と続いており、この状況について報告書で「事業者による料金競争が活発化してきている様子がうかがえる」としている。

音声通話

 音声通信について、報告書では20円/30秒のまま10年以上も値下がりしていないことを指摘。固定電話と携帯電話の接続料が近い水準にある一方で、両社の従量制小売料金の格差が大きい点を問題視。音声通信において競争が十分に機能していないとした。

 携帯電話における音声通信は、無料アプリなどの登場でトラフィックが減少する傾向にある一方で、10年間で10%減と大幅な需要低迷には至っておらず、事業者の売上高から見ても、移動通信市場全体の3割程度を占めており、MNO3社の収支上でも微増しているとして、いまだ基本的なサービスであることを説明。

 MVNO各社では、専用アプリなどからの発信でプレフィックス番号を付与。10円/30秒での従量制サービスや順定額制サービスなどを提供しており、特に日本通信などでは完全かけ放題プランの提供に至っている。

 料金やオプションの設計は各社のサービス戦略の中で決定されることが原則として、さまざまなニーズに事業者が応えるとともに市場全体の料金の低廉化が望まれるという基本的な考え方を示した上で、そうした競争が働くためにはその前提条件として、MVNO含めて市場全体として公正な競争条件が整っている必要があると指摘。

 一方、これまではMVNOにとって音声サービス提供の前提となるMNOからの音声卸料金が引き下げられてこなかったため、専用アプリでの準定額サービスなどを用いなければ、料金を引き下げられない環境にあったと分析。

 MNO3社をのぞき、従量制料金を引き下げる事業者が基本的に存在しない中、MNO3社が横並びで従量制料金の単価を維持し続けたことで値下げが不可能な状態だったと指摘する。MNO3社が実質的な小売り料金を上回る料金水準でMVNOに音声卸料金を請求していた可能性は、公正な競争条件という視点から見ると非常に問題が大きいとした。

 音声卸料金について、実質的に小売り料金を上回る設定を行うことは、業務改善命令の対象となるおそれがあり、速やかに是正が図られるべきものだったと評価。こうした状況は、MNO3社による接続メニューの追加や音声卸料金の見直しにより解消しつつあるものの今後、同様の状況が生じないよう検証を要すると考えられるサービス領域においては、接続料や卸料金の妥当性を検証すべきとした。

スイッチング円滑化

 このほか、スイッチング円滑化に向けた取り組みについても言及。

 スイッチング円滑化タスクフォースでは、スマートフォンにおけるeSIM普及に向けた取組みを行っており、MVNOがMNOと同じ時期に機能提供できるようにすることや物理SIM同様のセキュリティが担保できることなどを踏まえて2021年夏頃を目途に実現するとしていた。

 このほかにも、SIMロック解除のより一層の推進やキャリアメールの持ち運び実現に向けた検討などが行われている。

 また、オンライン解約手続について利用者が望む時間・タイミングで解約できるようオンライン解約手続きの推進。契約する事業者とは関係なく、端末の販売元から端末保証サービスを受けられるような取組み、MNO3社が販売する端末の対応周波数帯について、スイッチングコストになっていないかを注視する必要があるとした。

 加えて、同一事業者内のブランド間乗り換え時のコスト撤廃にも触れつつ、モバイル市場だけでは完結しないような課題については公正取引委員会など関係省庁とも連携して見当が求められると言及。

 そのほかにもスイッチングコストになるおそれがあるものについては、事業者の自主的かつ積極的な取組が求められるとした上で、総務省はこれまで、これからの各社の対応状況や今後の対応予定、その可否などについて合理的な説明があるかを確認したうえで、事業者の自主的・積極的な取組みが進まない場合、「対応を促すインセンティブ」を与える仕組みを考えることが必要とした。