インタビュー

衆院議員 小林史明氏に聞くモバイル業界のあれこれ、違約金1000円議論~楽天の参入まで

 違約金1000円議論や、楽天の参入に行政主導の完全分離プランの導入と何かとモバイル業界に動きがある昨今。2018年秋まで政務官を務め、モバイル業界へのつながりも深い 小林史明衆議院議員(自民党)にモバイル業界を揺るがしている問題への意見を聞く。

違約金1000円は手続き的に正しかったか

――この夏の政策方面の動きを見ていると、2018年に検討された話の優先度が下がり、政策の優先順位が変わった印象も受けます。実際はどうなのでしょうか?

小林史明氏

小林氏
 (政策は)“緩やかに立ち上がった”という印象でしょうか。私が政務官になってから、モバイルの検討会を立ち上げようと動き出し、2017年12月からスタートして一定の結論は出しました。(政務官へ就任した)2017年8月から、立ち上がるまでは4カ月かかりました。総務省の中でどういうところからやっていこうかというところから始めたので時間がかかりました。

 そこから立ち上げて、MVNOが不遇の扱いを受けているというところをきっちり整理した。たとえばMNPの手続きがネットでできないとか、4年縛りってどうなの? だとか料金の話も出てきましたし、楽天の新規参入の話も後から出てきました。

 モバイルの改革の論調は立ち上がってからずっと出てきましたし、さらにもうちょっとできることはないのか、というところですね。そういう意味では空気が出来上がってきたと思います。

――官房長官の「4割値下げ発言」には驚きましたが、その間にも改革は粛々とすすめられていたのでしょうか?

小林氏
 そうですね、どのような改革をするかある程度形になってきて、そこに楽天も入ってきて(利用者が)横移動しやすくなる。そうなると競争しやすい環境ができる。そこへ官房長官の「4割値下げ発言」は、政策の扉が開きかけているところに、後ろからどーんと押したという印象ですね。

 通信と端末の分離はまた少々別軸の話になります。たとえばアップルと各キャリアとの契約の関係は不公平なものになっていないかという部分です。それによって通信料金の値下げ分が端末の値下げに使われているんじゃないか? というところに論点が移りました。

――違約金1000円という話もありました。手続きとして正しいものだったのか違和感を抱きます。

小林氏
 違和感があるのは、きっと意思決定の方法としてどうなのか? という部分と根拠がどうなっているのかという部分ではないでしょうか。

 1000円にすれば2年契約の割引額が減るということですね。割引幅が大きい代わりに、今までは9500円だったわけですから。

 私がこの話を聞いたときには1000円ということはそういうこと(割引幅は減る)ということなんだなと解釈しました。

 問題なのは、その根拠ですが、やはりあのアンケートを根拠にするというのは少々厳しいのではないかと思います。はっきりと「決めました」と言うべきなのではと。そして結果的に、値段はこうなりますと周知されるべきですね。

――そもそも料金を行政が決めるべきなのでしょうか? そして1000円という料金は妥当なのでしょうか?

小林氏
 端末の値引き額や違約金の金額を政治や行政が決めるのは、本来であれば異常な状況です。なるべく、やらないほうがいいでしょう。

 ただし、マーケットだけにまかせていくと、やはりそれは異常な状況になってしまう。そこでテコ入れを図るというのも政治と行政の役割でもあります。

 マーケットに全部任せてきた結果、9500円の違約金や4年縛り、熾烈な端末値下げ合戦などの均衡点にいる。しかし、国民の話を聞いても、他国を見てもやはりこれは異常な状況なのではないかと。この均衡点をずらしにかかる必要はあると思いますし、それを政治行政がやるのは適切なアプローチだったと思います。

 あとの問題は、「なぜそこにいったのか?」という目的が共有されることが大事だと思います。なるべく利用者が自由に横移動し選択できるマーケットをつくる、その上で値段はゼロに等しい1000円にしたということです。さすがに、本当に0円で「まったく違約金を設定してはいけない」というのも異常な状況なので、ほぼゼロである1000円に落ち着きました。

 たしかに、国が値段を決めることについてどうなのかという部分もあるかもしれませんが、国が値段を決めているものはほかにもあり、今回については非常事態的アプローチということですね。

 しかし端末の割引制限については、2年限定です。2年後に是正されていれば、割引制限は撤廃します。国が制限を設けるというのはやはりない方がいいですからね。

――正直、そこまで異常なマーケットであるということに気づいていない部分もありました。是正しなくてはいけない状況なのかもしれませんが、ユーザーからすると完全分離にすると、やはり端末が高くなったり、通信料金が高くなったりするのでは? という不安があります。

小林氏
 マーケットを見ていく必要はありますが、私としては、(価格・料金は)下がるのではないかと思います。というのも、(キャリア間の)横移動が増えることで、圧倒的に競争が激しくなるからです。さらに4キャリア目(楽天)も出てきます。新しいプレイヤーが出てきて選択肢が増えたときに選択しやすくなる。それが端末と通信が別れていて、2年間で総額いくらなのかがわかると比較は非常にしやすくなると思います。

――端末割引の制限は2年間だということですが、今回の政策の成果は、2年あれば結果が出るということでしょうか?

小林氏
 そうですね、端末の割引規制は2年で見直そうということになっています。その2年間でどういうマーケットができあがったかという総括は、そのタイミングがちょうどいいと思います。

――本当にキャリアを乗り換えやすくなるでしょうか? 現状でも解約料をMNP先のキャリアが負担するということもあります。お金以外のハードルが高いのでは、という気もします。

小林氏
 課題はさまざまです。MNPでコールセンターに電話しなければならないというのもまたひとつのハードルですし、値段が分かりづらいだとか、広告が正しいのかもわからない。まずは、解約料1000円でお金のハードルを下げることで、続いて全体のハードルを下げることにつながるんじゃないかな、と思います。

 加えて、この議論をするときは携帯電話に詳しい人たちが議論しますが、普通に暮らしている分には携帯料金にはなかなか詳しくはならない。新機種に替えようとショップに行ったけど2カ月前が更新日だった、というのがユーザーの実態でしょう。それを更新月が過ぎてしまったけど1000円なら、と考えると心理的なハードルはかなり下がるのではないでしょうか。

端末価格は下がるのか?

――官房長官も端末は安くなると発言していましたが、メーカーは日本市場だけに向けて端末を売っているわけではありません。そうした中で本当に端末価格は安くなるでしょうか?

小林氏
 私は安くなると考えています。日本の携帯市場は特殊で、基本的にはキャリアが導入しない限りはその端末は日本市場に導入されません。キャリアはここ数年で(ハイエンドモデルだけではなく)廉価なモデルも導入するようになってきました。この流れはこの先も加速すると思います。ユーザーにとって選択肢が増えていくでしょう。

 後は、グローバルなメーカーがどう動くかです。Appleにとって日本は重要なマーケットです。自社の端末の横に廉価なモデルが並ぶという状況で彼らがどう判断するかです。

――これまでは、ハイエンドモデルが人気です。今後は先端機能を貪欲に取り入れたモデルが市場から減ってしまうことになると、今後の社会の発展という面でも影響が出てしまいそうに思えるところはあります。

小林氏
 なるほど。しかし、国が国民に対してハイエンドを押し付けるのもおかしいし、ローエンドでも同じことです。選択肢があって選べるマーケットでなければいけません。日本の市場はハイエンドモデルばかりです。それを分離して見やすくすることで安い端末も入ってくるマーケットにしましょうということです。(ハイエンドとローエンドの)どちらかに寄せるということではありません。

 私は、自由に選べるという状況は3つのポイントにあると思います。それは、「選択肢があること」「選択がしやすいこと」「選択するためのわかりやすい情報があること」の3つです。今までは選択肢が狭く、選択のハードルが高く、選択するときにも分かりづらかったと思います。

 日本国民の目はとても厳しいと思います。足りうる選択肢と足りうる情報があれば、しっかりした選択がなされるでしょう。その中で適切な競争が起きるのではないかと思います。官房長官は「4割下げられる」と言いましたが、「下げる」というよりは競争が起きて結果的に下がっていくでしょう。

――選択肢が用意される大切さは、確かにその通りですね。ただ、ハイエンドな機種でも気軽に手にできる世の中でもあってほしいな、というのも正直なところです。

小林氏
 割賦払いもありますし、高級な端末がまったく手に入らなくなるということはないでしょう。私もガジェット好きとして端末自体の進化も面白いと思っていますが、それ以上に今後発展していくのは、端末の先にあるネットやソフトウェアの世界だと思っています。そこで何をしていくか、という思考になるようにこの国も変わっていく必要があるのかもしれません。

 すごくキレイなカメラを持っているだけではなく、それで何をするか。たとえば、ローカルなおみやげを売れるようにするだとか。そういうのも面白いと思います。こうした利活用の先には開発もあると思います。こうした話は、1つ前のモバイル検討会から、端末や料金プランの競争から使って何をするかという世界に入っていこうという話はしていました。5Gの時代になるし、そういう流れにしようと。

――既往契約についてはどうでしょうか。10月に新しい法律ができても実効性が出てくるのはもう少し先になってしまいそうです。

小林氏
 これについては、もうどんどんチェックをかけるようにします。2年契約が終わるタイミングの人たちに対して(キャリアが)ちゃんとアプローチしているかどうかをチェックします。どれくらい移行しているか、ちゃんとマイグレーションの話をしているかという内容です。これが根幹的な対策です。

――システム上は、改正法施行もキャリア側へ報告を促すことで、移行してもらえるということですね。しかし実際にそんなに上手くいくのかとも思ってしまいますが……

小林氏
 (このような問題は)ルールを変えるタイミングで必ず起こることだとは思います。そういう意味では、政治や行政が法律に乗っ取らずに何かをやるというのはおかしい状況になる。それを誰がどう判断するかというと、利用者です。そういうことをやる会社は嫌だと思うのか、価値基準で判断することになります。

 しかし、その価値基準をつくるひとつの基準は報道です。どの会社がどんな対応をとっているかを可視化されるのは重要なことだと思います。それをもって国民がどう判断するかです。特に楽天もキャリアとして参加してきます。(いまのうちに)2年契約するか、新しいキャリアが入ってくるのをちょっと待つかと。

5Gの普及に向けて

――では、その5Gの時代は今回の法改正、省令といったルールで大丈夫でしょうか?

小林氏
 世の中の5Gに対する期待値は、日本全国どこでも高速通信で低遅延というイメージで端末も20万円台の高級機、といったようなイメージのような気がしますが、それは違うでしょう。電波の特性上、どうしても用途は局所的なものに限られます。開始から3年くらいは体育館や工場内での利用といったところです。その間にマーケットの適正化を進めていくことになります。その間にも5Gはより日本へ広がっていくための助走期間になるでしょう。

――2年後には、端末割引などが見直されて5Gスマートフォンがもっと購入しやすくなるなどの可能性はあるのでしょうか?

小林氏
 5Gの普及はハンドセットの普及とイコールにはならないかもしれません。5Gの世界というのは、IoTやセンサーなどが普及し、日本中どこにいても不便を感じない世界じゃないでしょうか。それをハンドセットの普及よりも(5Gを利用した)サービスの普及や、IoTのサービス、アプリケーションの普及だと思います。

 我々が取りうるアプローチは、この前の技適の緩和があったように規制緩和です。そういったもので新しいチャレンジをやりやすくするしていきたい。電波にしても国が持っている周波数帯を民間に放出して、それで今回楽天が入ってきたわけですが、そうしたアプローチですね。

――なるほど。

小林議員から見る今後の課題

――今の携帯電話業界に残る課題はなんだと思いますか? 小林さんがふさぐべきと思っている穴があれば教えて下さい

小林氏
 1つは広告ですね。テレビでも店舗でもそうです。特にマス広告というのはパンチがありますから、国民に選択するための情報を正しく提供できているかどうかはしっかりチェックしないといけません。

 加えてSIMロック解除までの期間は現在100日までですが、これで本当にいいのかというところです。グローバルにいろいろな人が移動する中で、SIMロックの解除までの期間は適切なのか。(ほかのキャリアに)逃げやすくなってしまうから値段を上げるかという話にもなりかねないです。どっちがいいということではなく、論点としては残ります。

 さらにサービスですね。料金以外のサービスです。普通の電話からスマートフォンになったわけですから、それでどんな体験を得られるかというところです。各キャリアとそれに伴うさまざまなプレイヤーを国民に提供できるかというところがもっとも大きいです。

――多くの基地局の設置を必要とする5Gでは、地方において設備の共用化が図られています。こうした取り組みは、地方に限った話だとしても、通信品質での競争に影響を与えていかないか、懸念はありませんか?

小林氏
 通信の世界には電気通信事業法があってこれはすごく厳しいものです。品質、人口カバー率が定められ、事故が起きたらすぐに指導が入ります。新しいキャリアが出てきてもこの基準はクリアしなくてはなりません。それがこれまでの品質を支えてきている部分があります。

 一方で、これが(新規参入の)チャレンジするために邪魔になるものがあるのであれば先回りして外しておく必要があります。いろいろなビジネスモデルができるようにしたほうがいいです。国によってはたしかにタワー会社(通信設備を提供する会社)がいるところもありますが。そこは通信サービスの成り立ちの違いですね。

楽天の参入、ドコモとの関係はどうなるのか

――まもなく参入する楽天のエリア品質はどうなるでしょうか? 楽天はauとローミングすることになっていますが、その一方でMVNOとしてドコモのネットワークを使っています。

小林氏
 MNOになる際には、周波数の割当にあたって、事業計画を提出する必要があります。失敗した場合は事業ができなくなります。むろん、ずっと(ドコモと)相乗りはできません。ただし、新しい事業者がチャレンジをしたいというときにゼロから始めろ、というのもマーケット的にはよくありません。チャレンジしやすい状況を作りつつ、永久に相乗りもできないというのが実際のところです。

――とはいえ、楽天が最初からエリア品質を高いレベルにするのも難しい部分がありそうです。

小林氏
 そうですね、でもその計画で勝算があると考えられたのでしょうから、それで(競争に)チャレンジしてほしいですね。

 それに、入り口の段階でどうこう言うよりは、(事業に)入ってきて、出した成果でチェックしたほうがいいのではないでしょうか。日本全体がそういう方向にいってほしいですね。

――楽天に限らず、auやソフトバンクのグループ会社で、ドコモのネットワークを利用している状況もあります。この点について、ドコモ側は疑念を抱いているといった話もあります。

小林氏
 もし、ドコモがそう思っているのであれば、オープンに言ったほうがいいですね。ただ、今のところは我々(政治側)にはそうした声は来ていませんね。

 通信業界では、政治や行政が万能だと思われているような気がします。(国が決めたルールに)不備があったとしたら、それは言ってもらったほうがいい。なんらかの対立が起きているにしても、双方の考えを理解して議論を進められます。楽天が参入することも、総務省の責任として捉えられているところがある気がします。もちろん、審査までは責任を負っているのですが……。

――確かに民間の立場からすると、正直、政治がミスをしない存在だと思っているフシはあるかもしれません。

小林氏
 もちろん、ミスをしてはいけないので、そう思われるのも仕方がない部分はあると思います。ただし、時代が変わりました。民間はチャレンジして、行政はそれを応援する。失敗したらまたやり直しという社会のほうがいいのではないかと思います。

――かつて、ソフトバンクは1.5GHz帯でサービスを提供していましたが、900MHz帯をプラチナバンドと呼ぶなど、1.5GHz帯の厳しさをアピールしていました。楽天は1.7GHzでスタートします。通信品質がはたしてどうなるかわかりませんが、当初は競合他社よりもどうしても繋がりにくいとみられてしまうと、その結果として競争も働かないことになりませんか。

小林氏
 確かに楽天にとって険しい道のりになるかもしれません。ただ、モバイルの業界は新しいゾーンに行こうというチャレンジをしています。これまでは携帯各社が端末値引きばかりに精を出す時期がありました。しかしそれは健全ではありません。

これから目指す世界が、正解かどうか、誰にもまだわかりません。しかし、動かなくてはならないのは確かでしょう。

――なるほど、その通りですね。ありがとうございました。