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ナイアンティック開発中のゲーム「Neon」を体験、「ハリポタ」コラボにも活用へ

創設者のハンケCEOがこれからのARを語る

 世界的大ヒットゲーム「Pokémon GO」を開発した米ナイアンティック。同社のゲームアプリ「Ingress」を題材にした新作アニメが17日深夜から放送されるほか、2019年には「ハリーポッター」とコラボレーションした新作アプリの投入を予定している。

ジョン・ハンケ氏

 そんな中、創設者のジョン・ハンケCEOが来日、報道関係者との会見に臨み、同社のビジョンやこれからのARについて語った。

 さらには、17日から六本木ヒルズで体験できる「Neon(ネオン)」も一足早く体験できたので、その内容もお伝えしたい。この「Neon」に用いられる技術は、2019年の「ハリーポッター」コラボ作品にも取り入れられるという。

Neon

ARでシューティングバトル

 「Neon」は、ナイアンティックがテスト的に開発したゲーム。今年2月に買収したスタートアップのエッシャーリアリティ(Escher Reality)社のメンバーが手がけた。

Diana Hu氏(中央)らエッシャーリアリティからナイアンティクへジョインしたメンバー

 ゲームとしては、スマートフォンやタブレットのカメラで周囲を捉えつつ、画面上に表示される白い点の近くまで行くと弾を補給、周囲のプレイヤー(自分以外は全員ライバルというルールだった)を撃っていくというもの。

【プレイの流れ】

 補給すると白い点はなくなっていき、どんどん動かなければ、すぐ弾切れになってしまう。相手からの攻撃を避けつつ補給をしつつ……と自然とエリア内を動き回ることになる。端から見ると、スマホを凝視する人々がふらついているように見える。これまでのナイアンティックのゲームも、プレイしていない人にとっては不審に思われることが少なからずあったはずだが、“不審者度”は「Neon」のほうが圧倒的に上だ。

【プレイしている人を端から見ると……】

 現時点ではあくまでテスト的に開発されたものであり、そのまま商用化されるわけではないようだ。素人目にも、そのままであれば、バッテリーの消費や、プレイ会場の安全性などの課題があることは容易に推察できる。もし商用化するならば、ヘルメットや膝などへパットを付けつつ、会場を遊園地やゲーム施設など限られた空間、あるいは人の少ない広大な野原にする……といった形なら現実味を帯びそう。

 もちろんPokémon GOでARモードのON/OFFが切り替えられるように、カメラを使わないモードでプレイするのであれば、より広く利用できるかもしれないが、このあたりの最適化は今後のナイアンティックの手腕に期待したい。

 「Neon」の特筆すべきユニークな点は、一見すると特別な装置を用いずに、多人数が、同時に、AR上で同じ空間をシェアすることにある。一般的にVRにしろARにしろ、デジタルコンテンツで複数のプレイヤーが同じ場所にいるというシチュエーションを作り上げるには、たとえばQRコードやNFCといった何らかのマーカーを使い、その場でいることを照合するといった手段があり得る。しかし、「Neon」ではそうしたマーカーはなく、周囲からユーザーの動きを捉えるようなカメラも設置されていない。

【プレイ中の様子】

 技術的な詳細は明らかにされていないが、今回、体験中にスタッフの手順を観ていたところ、「Neon」をプレイし始めるときにはデバイス間で同期を図ることが必要なようだ。彼らはそのままイニシャライズ(初期化)というワードを使っていたが、その際にはデバイスひとつひとつのID(名前)を設定し、さらにそれぞれのデバイスのカメラで、その場の空間を捉えている。

 これはどうやら、カメラで捉えたオブジェクトの特徴点らしきデータを照合しあって、同じ空間にいるかどうか、マッチングしているよう。といっても特徴的な形状のオブジェクトは必要なく、今回はただ足下のフラットな面を捉えるだけ、という手順であった。周囲の風景そのものがマーカーになる、といった印象を与える技術で、これまでにない着眼点のように思えた。

 今回手にするデバイスはスマートフォンやタブレットだったが、メガネタイプのARアイウェアや、腕などにバイブレーションを伝えるデバイスなどを組み合わせることで、デジタル版の“サバゲー”は実現できそう。かつて光線銃のような玩具も登場したが、モバイル通信と画像認識/機械学習で、新たな体験がもうすぐユーザーの手元へ届くことになるかもしれない。

 「Neon」の体験は10月17日~21日まで、毎日12時~20時まで。六本木ヒルズの大屋根プラザで提供される。

新AR技術、ハリーポッターとのコラボにも導入へ

 ナイアンティックでは、今年6月、AR技術「Niantic リアルワールドプラットフォーム」を発表した。その場に何があるか判断し、ARオブジェクトを現実の物体の配置にあわせて表示する。イスの裏にピカチュウが回り込む、といった表現が可能になるという。

 先述した「Neon」は、まさに「Niantic リアルワールドプラットフォーム」を用いたゲームとして試作されたもの。ナイアンティックのジョン・ハンケCEOによれば、2019年にもローンチする「ハリーポッター」とのコラボレーション作品「Harry Potter : Wizards Unite」など、ナイアンティックの他のサービスにも取り入れていきたいという。

 ハンケ氏は、「Niantic リアルワールドプラットフォーム」は、同社が積み重ねてきた技術の集合体と説明し、その特徴を二つあげる。

ハンケ氏の隣に座るのは今回通訳役となった、マーケティングマネージャーの須賀健人氏

 ひとつは、人々が起こすアクションを処理して、その結果、同じ状態のものを反映する、というもの。いわば世界中で起こしたアクションを集約して、多数のユーザーが同時に同じ世界/シチュエーションを楽しめることになる。ハンケ氏は、IngressでもPokémon GOでも、ひとりでプレイするよりも友人らと共有するからこそ楽しい、と“多人数同時参加型AR”の価値をアピールする。

 さらに同社では、最大で1秒あたり100万回のリクエストを処理できるとのことで、大規模な形でサービスを提供できるのは、おそらくナイアンティックのエンジンしかない、とハンケ氏を胸を張る。

 またコンポーネントとして、フレンドリストを管理する、ギフトを互いに渡し合う、チートや位置偽装といった不正プレイを防ぐ、イベントの同時性を実現するといった技術が含まれる。

河合氏

 Niantic リアルワールドプラットフォーム」は将来的に、一般への開放も検討されている。ナイアンティック副社長で、プロダクト本部長の河合敬一氏は、「今すぐ使えるかと言えば、まだそうではない。しっかり作っていきたい」と説明。パートナーを公募する予定で、近日詳細を明らかにするとして、日本からも参加して欲しいと説明。

 さらに「Niantic リアルワールドプラットフォーム」について河合氏は、「コンピューターにとって、写真は色の付いた点の集まり。しかし機械学習により、そこのシーンに、イスや机など、何が写っているかわかるようになった。光源の場所にあわせて影がどうなるのか、計算できる。よりリアルに表現できるようになる」とその意義をあらためて語る。

Ingress Primeは11月提供開始へ

 ナイアンティックにとって、ユーザー数はPokémon GOよりもかなり小規模ながらも、熱狂的なファンに長く支持される「Ingress」はフラッグシップに位置づけられている。

 ただ、その開発技術は6年前のものであり、Unityなどを取り入れてブラッシュアップする新バージョン「Ingress Prime」が予告されてから10カ月以上、ようやく2018年11月にローンチすることが案内された。

 ハンケ氏は、いつごろPrimeが登場するのかという質問に「難しい質問。我々の開発者を追い詰めたくないが、来月(2018年11月)、Ingressは6周年を迎える。Ingress Primeをその付近にリリースできたらと思う」と語る。

 会見翌日夜の10月17日深夜からは、Ingressを題材にしたアニメが放送されることになっている。アニメにプロデューサーとして携わったアジア統括本部長の川島優志氏は「Ingressには重厚なストーリーがあるが、それをより多くの人へ届けることは課題のひとつだった」と説明。

川島氏

 ナイアンティック内部でも、たとえばもともとジョン・ハンケ氏や、デザイナーのデニス・ホワン氏は「攻殻機動隊」のファンとのことで、日本のアニメを使って、うまく伝えられないかと考えていたところへ、河合氏がフジテレビからの出資という案件を持ちこみ、フジテレビの大多常務取締役とハンケ氏の間で話が盛り上がったという。

 ハンケ氏は「Ingressのアニメは、世界中を旅する。さまざまなポータル(ゲーム内のスポット、歴史的な名所などが登録されている)に出会うが、高品質なCGのなかで、どうやって美しいポータルを表現するかとういう点で、世界中のエージェントに協力してもらった」と舞台裏の一端を明らかにする。

報道陣へ自己紹介の場面で、茶目っ気を効かせて、背筋を伸ばし写真撮影に備えるハンケ氏

 ゲーム内のストーリー展開でも、Ingressのユーザー(エージェントと呼ばれる)のプレイ結果が影響を与えてきたが、そのエージェント同士のコミュニケーションの場として愛されてきた、グーグル提供のSNS「Google+」が来夏終了する。これにハンケ氏は「グーグルを離れたので、フランクに語る」と前置きしつつ、同サービスはユーザー数が減少しており、「死につつあった。どうすることもできなかった」と表現する。

 ハンケ氏は、「Google+内にエージェントがコミュニティを築いている。コミュニティは一度生まれた場所でずっと生活していく。いわば(今回のGoogle+終了は)家から追い出されることになる。何かしなくてはいけないと思っている」とコメント。今後、何らかの対策を取ることを示した。

子供向けの仕組み

 今年8月、ナイアンティックとポケモン社は子供向けのログインプラットフォーム「Niantic Kids」を発表した。

 SuperAwesome社とともに開発しているもので、親が子供の遊ぶアプリを管理するための一歩という位置づけ、機能として提供される。

 ハンケ氏は「どのゲームを遊んでいいか、というだけではなく、将来的には、ゲームのどの機能まで使っていいか、コントロールできるようになればいいと考えている」とその将来像を描く。

ハンケ氏が信じるテクノロジーの力とARの未来

 カメラで捉えた現実に、コンピューターで作り出したグラフィックを重ねたり、テキスト情報などを沿えるといった形でイメージされがちなAR(拡張現実)。

 Pokémon GOにもそうしたモードはあるが、一方でPokémon GO内では、川など水辺周辺では「みずポケモン」が多いなど、カメラを用いない“AR”を実現してきた。

 Ingressでは「あなたを取り巻く世界はその目で見たままとは限らない(The world around you is not what it seems)」というテーマを掲げているが、今回、ナイアンティックでは、六本木でのイベントで「聴覚を使ったAR」も用意した。

 ハンケ氏は「ARは始まったばかりの技術」として、黎明期の現在は、収益化に結びつくコンテンツとしてはゲームが主軸になるものの、ナイアンティックはあくまでARをリードする企業であり、ゲーム専業の開発会社というわけではない、と説明。CGもゲームで飛躍的に発展し、その他の分野で成熟したように、ARも似た経緯をたどると信じている、と語る。

 ハンケ氏は「ARの未来を予想するのは難しいが、革新を持っているビジョンがある」と切り出す。

 現在、ARと言えば、スマートフォンで活用されることが多く、そのディスプレイサイズは5~6インチ程度が主流。しかしARで扱える内容は、そのサイズ感にはおさまらない、と語る。バッテリーなど技術的なハードルは多いものの、全てを乗り越えられれば現実世界の全てに情報を付与できる、とハンケ氏。

ハンケ氏
「世界に情報を付与していく、色彩を与えるのが我々の究極のゴールになる」

 ナイアンティックのゲームをプレイしていない人に向けて、何か伝える方法はあるか、と問われたハンケ氏は、Twitchやニコニコ生放送といったゲーム実況サービスを例に挙げ、「協業することで、ゲーム内を外部へ見せられる技術はある」と説明。今後の開発次第ながら、プレイヤー以外の人にも伝える方法を模索する姿勢を示した。

 究極のゴールまで100mという競争で言えば、ナイアンティックが開発してきたAR技術はまだ15m程度、とハンケ氏。それでも今回披露する「Neon」は、同社が成し遂げた結果、と自信を見せていた。