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ナイアンティックの「Ingress」、アニメ制作陣に聞く

現実×ゲーム×アニメがシンクロ? 新基軸の作品目指すその舞台裏は

 ナイアンティックのAR(拡張現実)スマートフォンゲーム「Ingress」を題材にしたアニメ作品「イングレス」が今年10月に放送される。

左からナイアンティックの須賀氏、監督の櫻木氏、クラフターの石井氏、ナイアンティックの川島氏

 4月7日、福岡で開催された「Ingress」公式イベントにあわせ、同作品のプロデュースを担当するクラフターの石井朋彦氏、監督の櫻木優平氏、そしてナイアンティックのアジア統括本部長である川島優志氏にインタビューした。

 インタビュー直前、公式イベントの閉幕式では作品作りにあたり、スタッフは京都など現実世界でロケハンを実施したことを紹介。また石井氏はレベル13のエージェントとなり、撮影総監督はレベル16になるなど「Ingress」をかなりプレイした様子。今回3人のメインキャラクターを紹介するとともに、ゲームで登場する2つの陣営のどちらにするか迷い、ストーリー上ではバランスをとって構成することにした。これにハンケ氏も「まるで夢を見ているようだ」と満足げに語っている。

2年前からスタート

――まずはアニメ化の経緯から教えてください。

川島氏
 もともとIngressは、スマートフォンアプリだけではなく、YouTubeやSNSを活用してストーリーを展開してきました。現実世界との接点で盛り上げてきたのです。石井さんとは以前から仕事をきっかけに知己となっており、今回、お願いすることになりました。

――アニメ化の話はいつごろ決まったのですか。

石井氏
 渡米したときにスタバで話をしたのって2年ほど前でしたっけ……。

川島氏
 そうですね。

石井氏
 アニメ化するにあたって、川島さんからは単なるアニメではなくゲームや現実とシンクロしたものにしたいということをリクエストされました。世界に通じるエンターテイメントにすることも。

――その上で櫻木さんを監督に指名したと。

石井氏
 最初に話をしたときは喜んでいましたよ。ちょうどその頃、櫻木監督は宮崎駿さんらと仕事が続いて巨匠からの無茶ぶりが続いていたので(笑)、新たな枠組みの「イングレス」が新鮮だったのかもしれません。

 櫻木のユニークなところは、デジタル技術の活用です。一見して手書きに見えるキャラクターも実はフル3DCG。非常に新しいのです。今回も7日の福岡での舞台挨拶でアニメキャラクターがARで登場するという試みを披露しましたが、こういうことも実現できます。そうしたところから真っ先にオファーしました

川島氏
 アニメの2Dには少し違和感があるのではと当初は不安がありましたが、試写を目にしてすごく心を動かされました。須賀(ナイアンティックの須賀健人氏)もアニメファンですが、満足していますね。

須賀氏
 今回、シナリオにはナイアンティックで「Ingress」のストーリーを手がけるメンバーも加わっています。いわば日米共同プロジェクトで、「Pokémon GO」に似た構図です。過去にもいくつかアニメ化の打診はいただきましたが、今回、クラフターさんとフジテレビさんとの組み合わせでしかできないようなエンターテイメントの作り方が実現できたと思います。

櫻木氏
 もともとストーリーがある作品で、実際にプレイされているエージェントによる勝負がゲーム展開に反映されることもあるなど、「Ingress」はかなり珍しいタイプのコンテンツだと思っています。

エージェントの活動も

須賀氏
 ナイアンティックとして、世界中のエージェントが活躍するところは描いてほしい、とリクエストはしましたね。

――ロケハンは現実の場所だけではなく、エージェントのこれまでの活動も対象に行われた、ということですか?

石井氏

石井氏
 企画を進めている間、実は、2017年春の「Ingress」のイベントにあわせて、日比谷公園を訪れたのです。当時は、シャードと呼ばれる破片をゴールに届けるというバトルを両陣営で繰り広げていましたが、このときエージェントの本気度を目の当たりにして、櫻木とともに「これはすごい」「こんな人たちを相手に作るのか」と焦りましたね(笑)。

川島氏
 アニメ版のスタッフの方々には、一度、大きめのコントロールフィールド(ゲーム中、3つの場所を繋ぐと三角形のフィールドが完成する。Ingressはそうして陣取りゲームを繰り広げる)を作成したことがあります。「(フィールドの邪魔になる)ブロックリンクを壊して」とか言いながら(笑)。

石井氏
 成功したんですが、30秒後に壊されてそれもまた驚きました。そうした感覚もまたアニメに活かしたいなと。

櫻木氏

櫻木氏
 まずはゲームの世界観を一番大事にしたい。とはいえ、アニメ版はゲームと表現力などが違います。悩ましいのは、「Ingress」は言葉(で説明する内容)が多いのです。アニメはプレイしていない方も目にします。どこまで入りやすくするのか。エージェントだけではなく、Ingressをプレイしたことがない人にとっても面白いと感じていただけることを目指しました。

――アニメ版では、何を達成すれば、成功と思われますか?

石井氏
 目指したいのは、日本のアニメをグローバルで楽しんでいただけるようにすること。アニメ版を目にしたらすぐにでも外へ出てプレイするということが世界中で起きてほしいですね。

川島氏
 「Pokémon GO」の原点となるゲームです。アニメを拡張する試みとも言えます。アニメやゲームのファンだけではないところまで、波紋を投げかけられるようにしたいです。

須賀氏
 技術は今後も進歩しますが、待っているだけでは実現しません。ARの総合的なエンターテインメントを推し進めたいですね。

櫻木氏
 日本のアニメーションはなかなかサブカルチャー(という立ち位置)から抜け出せていません。ここで世界に通じるエンターテイメントとして勝負できるフィールドを目指したいですね。演出面では、たとえば日本の作品は、現実そのままではなく、いわば良くも悪くも“ウソ”をつきます。コマを飛ばして演出すると日本の視聴者はスピーディな移動と捉えてくださいますが、海外の中にはそのままコマが飛んだ(描画されなかった)と捉えることがあります。そのあたりへの配慮を踏まえた演出をしていきます。日本の良さを内包しながら世界中でどこでも楽しんでいただける形です。

須賀氏
 試写を目にして、本当そこで描かれている世界が美しく感じたんです。Ingressでも同じように、世界は本当に美しいと感じることがある。アニメでも同じ感覚が伝えられるのだと。

川島氏
 アニメの公式アカウントを公開しており、今後、情報を提供していきます。まだ放映前ですが、キャラクターたちは現実でどこかで何をしているか……もう始まっているんです。ゲームを通じてエージェントたちはその動きを探っていくかもしれません。それがアニメに影響をするような、そういうチャレンジですね。

須賀氏
 ジョン・ハンケも7日の閉幕式で口にしていましたが、DarkXMの脅威は続く、ということです。

石井氏
 アニメを制作している中で、現実に世界でXM(Ingressのゲームストーリー上で語られる未知の物質。人類に影響を与えるとされる)が本当にあるんじゃないか、と思うような瞬間がいくつもあります。アニメと現実がどんどんシンクロしている感覚です。

――なるほど、今日は寒い中(7日の福岡はみぞれなども降った)ありがとうございました。

アニメ版「イングレス」キャラクターデザインとスタッフ

 4月7日には、ゲーム版「Ingress」の世界大会が福岡市博多で開催。その閉幕式にあたるアフターパーティの席上、アニメ版に登場するキャラクター「Makoto」「Sarah」「Jack」が初めて明らかにされるとともに、ARで舞台に登場し、舞台挨拶を行った。

Makoto
Sarah
Jack

 監督は「ソウタイセカイ」(脚本・監督)、「新世紀いんぱくつ。」(脚本・監督)、「花とアリス殺人事件」(CGディレクター)などを手がける櫻木優平氏。またスタジオジブリで「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」のプロデューサー補を担当し、Production I.Gで「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 2.0」などをプロデュースした石井朋彦氏がプロデューサーを務める。このほか音楽や脚本など主要スタッフも明らかにされた。

アニメ版「イングレス」主要スタッフ
担当
原作Niantic, Inc.
監督櫻木優平
脚本月島総記 / 月島トラ
音楽カワイヒデヒロ
キャラクター原案本田雄
副監督入川慶也
CGディレクター古川厚
美術監督加藤浩(ととにゃん)/坂上裕文
美術監督補佐新井帆海
モデリングディレクター宮岡将志
アニメーションディレクター小林丸
撮影監督野村達哉
アニメーション制作クラフター