法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

ドコモFGはNTTドコモの新たな成長を後押しできるか?
2026年7月17日 00:00
7月9日、NTTドコモは同社傘下の「NTTドコモ・フィナンシャルグループ」(ドコモFG)の設立に関する記者会見を開催した。

ドコモFGはここ数年、NTTドコモが強化してきた金融領域の事業を統括する会社であり、自らはdカードやd払いなどの決済サービスを担当しつつ、傘下のマネックス証券やドコモSMTBネット銀行などとの連携により、これからのNTTドコモの成長を担う位置付けになる。
今回はこれまでの業界動向を振り返りながら、ドコモFGの発表内容を踏まえ、ドコモFGとNTTドコモとしての狙いについて、考えてみよう。
拡がる経済圏競争
各携帯電話会社は契約数の獲得競争とは別に、経済圏拡大の競争をくり広げている。
元々は各携帯電話会社が発行していたポイントを機種変更や携帯電話料金の支払い以外に利用できるようにしたり、月々の携帯電話料金の支払いで多くのポイントを還元するクレジットカードの発行などがはじまりだったが、今や映像配信やクラウドサービスなど、サブスクリプションサービスと連携したり、コンビニエンスストアなどのリアル店舗と連携も深めている。
こうした経済圏の拡大競争において、ここ数年、急速に増えているのが銀行や証券、保険といった金融サービスとの関わりだ。携帯電話会社と金融との直接的な関わりと言えば、2008年に開業した「じぶん銀行」(現在のauじぶん銀行)が挙げられる。
当時は携帯電話番号で個人間の送金ができることなどがメリットとしてアピールされたが、2015年にはオンラインで契約を完結できる住宅ローンの提供が開始され、本格的な金融サービスが展開されはじめた。
当時は住宅ローン期間の長さから「35年縛りだ」と揶揄されたが、実際には携帯電話の契約を他社に乗り換えても住宅ローンの契約は継続できたため、『縛り』というほどの制約はなかった。
とは言うものの、auをはじめとする各携帯電話会社は、関係各社と連携しながら、クレジットカードや銀行、証券といった金融関連サービスを提供することで、本業である携帯電話やインターネットなどの通信サービスのリテンション(契約の引き止め)を狙っていたことも事実だった。
風向きが変わりはじめた楽天モバイル参入
各携帯電話会社にとって、回線契約維持の手段のひとつとして活用されてきた金融サービスだったが、少し風向きが変わりはじめたのが2020年の楽天モバイル参入だ。
あらためて説明するまでもないが、当時の各携帯電話会社は通信サービスが主たる事業で、そこにショッピングやクレジットカード、銀行、証券などのサービスを付加サービス的に提供していた。
これに対し、2020年に携帯電話サービスに参入した楽天グループは、楽天市場や楽天銀行、楽天証券など、携帯電話サービス以外をほぼすべて保有しており、楽天ポイントを軸とした経済圏競争では、国内トップクラスの存在感を持っていた。
そこで、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは経済圏競争で楽天グループに対抗するため、クレジットカードや銀行、証券、保険といった金融サービスの拡充を図りはじめたわけだ。
たとえば、ソフトバンクはヤフー(現在のLINEヤフー)の持ち分法適用会社だった「ジャパンネット銀行」を2020年に「PayPay銀行」に商号変更したり、スマートフォンでの取引に特化していた証券サービス「One Tap BUY」を2021年に「PayPay証券」として再スタートを切るなど、PayPayを軸とした経済圏を拡充してきた。
KDDIは傘下のauフィナンシャルホールディングスがカブドットコム証券に対して、株式公開買い付け(TOB)を実施し、「auカブコム証券」をグループに加える一方、2020年に「じぶん銀行」を「auじぶん銀行」に改めた。
その後、KDDIは方針を変更し、2025年にauカブコム証券(現在は三菱UFJ eスマート証券)を三菱UFJ銀行に売却。三菱UFJ銀行が持つauじぶん銀行の株式を取得し、完全子会社化している。
楽天モバイルの参入で、各社が積極的に取り組みはじめた経済圏競争だったが、当初は楽天グループと楽天経済圏への対抗が意識されていたものの、その後、楽天グループ内での新参者である楽天モバイルがグループ内各社となかなか連携できなかったこともあり、KDDI、ソフトバンクとPayPayは、方針を変更しつつあるようだ。
具体的には自らの経済圏を拡大し、金融サービスを充実させることで、新たな収益の柱に育てようとしている。
この動きの背景には、国内の携帯電話サービスの契約数が2億3300万件(2026年3月末現在)に達し、すでに飽和状態にあり、料金収入の面でもコスト削減をしながらの料金プランの値上げ幅を抑える状況にあるからだ。
法人向けサービスなどはAIの活用などで、まだ大きな成長が期待できるが、個人向けサービスは副回線や二台持ちなどに限られ、頭打ちの状況にある。
そこで、各社の経済圏拡大をベースに、新たな収益源を確保するため、クレジットカードやローン、銀行、証券、保険といった金融関連の事業を拡充する方針を打ち出しているわけだ。
金融サービスの拡充に出遅れたNTTドコモ
こうした各社の動きに対し、NTTドコモは金融サービスの拡充で大きく出遅れてしまった。
ただ、これはNTTドコモが金融サービスに疎かったというわけではない。同社はiモード時代、携帯電話上でモバイルバンキング(銀行)やモバイルトレード(証券)を実現し、2004年にはFeliCa搭載によるおサイフケータイのサービス開始、2005年にはクレジットカードのDCMX(現在のdカード)発行など、他社よりも金融に関連するサービスをいち早く提供してきた。
ただ、銀行や証券、保険といった金融サービスを保有することについては、2020年のNTTによるNTTドコモの完全子会社化をはじめとするNTTグループ内の再編の影響やグループ内の混乱もあり、明らかに出遅れてしまった。
その巻き返しとして、2023年にマネックス証券と資本業務提携を締結。2024年からはdアカウントと証券口座の連携をスタートし、[d払い]アプリを利用したdポイントでの投資や口座開設などのサービスも提供している。今年2月からはドコモショップでの証券総合取引口座の開設や各種設定サポートを開始している。
マネックス証券は1999年創業で、ネット証券の先駆者と言われる存在だが、2025年10月に催された「ドコモとの資本業務提携経過報告会」では、dアカウント連携の口座数やdカード積立利用者数が順調に伸び、NTTドコモとの提携をきっかけに、投資未経験のユーザー層を開拓できたことを明らかにしている。
つまり、ネット証券として、二十数年の実績がある同社でも開拓できなかった新しいユーザー層を呼び込むことができたわけだ。
また、ローンの分野については、2024年にオリックス・クレジットと資本業務提携を結び、2025年には同社をドコモ・ファイナンスに商号を変更。オリックス・クレジットの時代から広く支持されてきた「VIPローンカード」をはじめ、経営者や個人事業主向けの「BUSINESS LOAN」など、各種ローンを提供している。
そして、NTTドコモの金融サービスにとって、最後のピースと言われた銀行については、2025年5月に住信SBIネット銀行の全株式を公開買い付けし、同年10月1日付けでNTTドコモの連結子会社化になった。
当初は「d NEOBANK」というサービスブランドが与えられ、今年8月からは「ドコモSMTBネット銀行」に商号を変更する予定だが、今回の設立会見では「d NEOBANK」というサービスブランドは他社ブランドで提供する「BaaS提携サービス」や法人向けサービスで使うものの、個人向けは「ドコモの銀行 ドコモSMTBネット銀行」というネーミングで展開することが明らかにされた。
これに伴い、アプリのアイコンなども変更される。おそらく金融サービスなどにあまりなじみがない個人ユーザーにとって、「d NEOBANK」というネーミングではどういう銀行なのかがわかりにくいことに加え、後述するドコモショップを活かす方針も考慮して、「ドコモの銀行」というネーミングを前面に押し出してきたと推察される。
ドコモFGは金融サービスでどう戦う?
証券、保険、ローンに続き、銀行を傘下に収めたことで、いよいよ本格的にスタートするドコモFGだが、今後、どのように事業を展開していくのだろうか。
まず、多くの人が思い浮かべるのがNTTドコモの回線契約者を対象にした『囲い込み』だろう。もちろん、NTTドコモとしては回線契約を維持して欲しいという意向があるが、前述のように、各携帯電話会社の解約率は長らく1%以下で推移しており、各社トップもMNPによる獲得競争には注力しない方針を打ち出しているため(と言いつつ、まだまだ戦っているが……)、回線契約の囲い込みが優先されることはなさそうだ。
むしろ、NTTドコモの回線契約をしながら、マネックス証券や住信SBIネット銀行(ドコモSMTB銀行)、ドコモ・ファイナンスが提供する各サービスを知らない、あるいは未経験のユーザーに対し、各社のサービスを紹介し、新たな市場を開拓していくことの方が優先されるだろう。
もう少し広義に解釈するなら、1億900万という巨大な会員数を持つdポイントクラブのユーザーに対しても同様の取り組みができるわけで、ドコモFGがアプローチできる顧客基盤はかなり大きく、成長も期待できる。
マネックス証券や住信SBIネット銀行の既存の顧客に対してのアプローチについても同様だ。
一見、両社の顧客に対し、NTTドコモ回線への乗り換えや拡販を目指すと捉えられそうだが、前述のように、各社の携帯電話サービスの契約数は飽和状態にあり、当面、積極的に取り組むことはなさそうだ。
「当面~」と表現したのは、auの「auバリューリンク マネ活2」などと違い、NTTドコモは銀行や証券といった金融サービスと連携した料金プランを提案できていないからだ。
今後、各社が連携する体制が整ってくれば、マネックス証券やドコモSMTB銀行の口座の有無や残高に応じて、「ドコモMAX」などの料金プランが割り引かれたり、dポイントが付与されたり、金融サービス金利や手数料が優遇される施策が組み合わせられるかもしれない。
今回の会見でもdカード、ドコモSMTBネット銀行、マネックス証券の連携特典が8月から順次、提供されることが発表されており、今後の展開が期待される。
これに対し、dポイントクラブの会員基盤については、すでに何年も契約する携帯電話会社に依存しない「オープン化」が進められてきたため、マネックス証券や住信SBIネット銀行の顧客に対して、他社回線を契約するユーザーも含め、dアカウントを作成してもらい、キャリアに依存しないNTTドコモの各サービスなどを提案することはあるだろう。
たとえば、NTTドコモが提供する「爆アゲセレクション」は、「Netflix」や「Spotify Premium」など、各社のサブスクリプションサービスを契約できるが、支払い額に応じて、dポイントの還元が受けられる。
還元によって貯まったポイントは、マネックス証券で投資に使うことができるため、親和性は高そうだ。もちろん、dカードやd払いとの連携でも同様のdポイントを貯めることが期待できる。
カギを握るドコモショップでの展開
そして、ドコモFGが各社のサービスを展開していくうえで、重要なカギを握っているのがドコモショップの存在だ。
NTTドコモは今年2月から、代理店のコネクシオが運営するドコモショップにおいて、証券外務員資格を取得したスタッフによって、金融サービスの仲介をスタートさせている。
これにより、ドコモショップでマネックス証券の証券総合取引口座やNISA口座の開設、dカード積立やdアカウント連携の設定、かんたん資産運用の操作や設定のサポートを受けられるようにしているが、今後はドコモSMTBネット銀行の口座開設をはじめ、ドコモFG各社のサービスもドコモショップを通じて、手続きができることになる。携帯電話サービスの契約獲得が頭打ちになってきた現状において、ドコモショップとしては新しいビジネスチャンスが得られるわけだ。
メガバンクをはじめとした既存の金融機関は、この十数年、次々と店舗を統廃合し、顧客との接点をオンラインにシフトしつつあるが、ドコモFGのマネックス証券と住信SBIネット銀行は元々、ネットを中心にサービスを展開してきた企業でありながら、NTTドコモという後ろ盾を得たことで、ドコモショップという『新しい店舗網』を展開できるようになったわけだ。どちらが正解という判断はないが、非常に対照的で興味深い。
ドコモFGで携帯電話会社の枠を超えられるか
まだスタートしたばかりのドコモFGだが、今回の会見では2025年に5965億円という収益を2030年には約2倍の1.2兆円に倍増させることを事業目標として掲げた。
グループ各社が持つ顧客基盤を活用すれば、十分に達成できる可能性はあるだろうが、ドコモFGの成長によって、NTTドコモは新しい収益の柱を確立し、携帯電話会社の枠を超える存在を目指すことになりそうだ。こうした企業としての進化は、多少の方向性に違いがあるものの、KDDIやソフトバンクも同様の姿勢を見せている。
そして、ドコモFGが成功するために必要なことは、グループ各社がそれぞれのサービスの連動性をどれだけ意識して、各社の顧客とユーザーに対して、わかりやすく提案できるかだろう。
前述の通り、楽天モバイルは楽天グループ内に強力な企業がありながら、グループ各社がなかなかモバイル事業の重要性を意識できなかったため、グループ内の連携を実現するまでに何年もかかってしまった。
ドコモFGとNTTドコモでは、こうしたことが起きないように、各社がお互いの事業内容を意識し、各社の顧客とユーザーに対して、アプローチすることが重要というわけだ。
ドコモFGは今回の会見において、「やさしい金融を、みんなの手に。」というキーワードを掲げた。
これは顧客とユーザーに寄り添った金融サービスを提供する姿勢を表わすものだが、ドコモFGとして、NTTドコモとして、各社間の連携に加え、難しそうな金融サービスの世界をどこまで本当にわかりやすくできるかが成功を左右することになりそうだ。これからのドコモFGとNTTドコモの取り組みに注目したい。






