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「Ingress」が「Ingress Prime」へ進化

ナイアンティックのフラッグシップ、新バージョンの狙いとは

 米ナイアンティックが、位置情報を使い現実世界を舞台にするスマートフォンゲーム「Ingress」の次世代バージョン「Ingress Prime」をリリースした。

 「Adventure on foot with others(誰かと一緒に冒険に出かけよう)」というミッションを掲げる同社にとって、「Ingress」は人気スマートフォンゲーム「Pokémon GO」の土台となった作品であり、フラッグシップの位置づけ。

 現実世界に存在する企業とのコラボレーションを実現するなど、スマートフォンを軸に、現実と別のレイヤーを融合させてきた中、新作となる「Ingress Prime」では、グラフィックや操作面を一新させ、新たな体験をもたらそうとしている。ナイアンティック プロダクトマネージャーの廣井隆太氏と、UXデザインを担当した石塚尚之氏は「これでようやくスタートに立った」と語る。

廣井氏

Ingress PrimeはUnityベース

 2012年にベータ版として登場した「Ingress」は今年で6周年を迎える。2017年12月に「Ingress Prime」の開発が発表された際、5年以上の時が経過したことで、サーバーサイドやグラフィック面で時代の進化をキャッチアップすることが課題に挙げられていた。

 たとえばアプリ側では「Unity」を採用。開発はやりやすくなったと廣井氏。今回リリースされた「Ingress Prime」は、従前の「Ingress」よりも遙かに美しいグラフィックに仕上げられ、ゲーム内での表現力がアップ。

 陣取りゲームでもある「Ingress」では、街中にあるスポット(ポータルと呼ばれる)を巡り、陣(コントロールフィールド)を形成していくが、ポータルとポータルを結ぶリンクや、コントロールフィールドは、高さがある形で表現され、「エージェントにとって、より高い没入感が得られるようにした」(石塚氏)という。ポータルの姿も、もともとIngressのコンセプトビジュアルで示されていた、フレアが出ているような姿をそのまま再現することを目指した。

より操作しやすく

 ビジュアルの向上を図りつつ、開発中、実際にプレイしてみると、画面上では情報が必ずしも満足に表示できていないことに気づいたと石塚氏。そこで取り入れられたのが、ズームレベルによって表示する範囲を変化させる手法。

石塚氏

 たとえばユーザーの目線で観るような形で、近い場所にクローズアップすると、先述したように没入感を高めた表現を楽しめる。ただそのままでは、周囲の状況がまったくわからない。

 そこで、ズームレベルを変えて行くと、俯瞰的な視点になり、最終的には真上から観るような視点でプレイできる。従来版よりも広範囲の状況を確認できるようにして、プレイしやすくなるよう配慮した。

 また片手でマップを回転させたり、重要なボタンは画面下部へ集約させることになった。特にボタンの配置については、「Pokémon GO」の経験を踏まえたのか、ボタンのタップで表示されるメニューはフリックだけでアクセスできるようにした。

 ポータルをタップするだけでMod(ポータルを強化するアイテム)が表示されるようになったこと、アイテム欄を整理してポータルキーを別ページに分けたことも改善点のひとつ。一方で、従来版でできたことが一部実装されていないが、こうした点は今後、改善が図られる見込みだ。

声優の津田健次郎がゲーム内ボイスに

 これまでの「Ingress」でも、ユーザーが何か行動するたび、「Excellent work」などと音声が再生され、日本語訳されたものは、声優の緒方恵美がその声を担ってきた。

 「Ingress Prime」では緒方に加え、俳優・声優の津田健次郎が“ジャービス”というキャラクターの声を担当。プレイしはじめると、津田健次郎による音声ガイダンスでチュートリアルが始まる形になっている。

【レベル16のエージェントの初回起動時に表示されたもの(周囲の環境音を含む)】

 「Ingress Prime」では声優の追加のみならず、さまざまな場面で、新たな効果音や音声が追加されている。最近では周囲の環境音と一緒に音楽などを聴けるイヤホンが登場しているが、そうしたグッズを活用しつつ、音声付きで楽しむと、さらにその世界観を深く味わえそうだ。

最高レベルのエージェントに向けた「プレステージモード」

 Ingressでは、ユーザー(エージェントと呼ばれる)のレベルは最高で16(アイテムの強さは最高で8)という状況が続いてきた。プレイすることで経験値が貯まり、実績が上がっていく仕掛けだが、レベル16に達してしまうと、そこで満足してしまう人は少なからずいる。

 そこで今回用意されたのが「プレステージモード」だ。プレステージとは英語で「prestige」、つまり名声といった意味のワードで、レベル16の人だけが利用できる。実績画面の最下部に生まれ変わりを意味する「リカージョン」というボタンが表示され、タップすると、レベル1にリセットされる。

 そもそも今回のプレス向け説明会でプレステージモードを紹介するかどうか迷ったほど、詳しい仕様はエージェント自身、プレイしながら感じて欲しいと語る廣井氏は、「これまで楽しんできた熱心な方に、もう一度、新しいIngressの世界を味わえるものを用意した。ファクション(陣営)チェンジができるほかレベル1に戻って特典も得られる。特別なビジュアルエフェクトも登場する」と説明する。

 プレステージという名前を採用したのも、「レベル16を最初に導入したとき、ナイアンティック社内では誰も達成できないと思ったほどだった。Ingressを本当に楽しんで、プレイしてくださっている方々に向けて、その名にした」と語る。

ストア機能、武器やシールドが購入可能に

 Ingress Primeの正式ローンチにあわせ、6日からは、アプリ内ストアで購入できるアイテムが拡充された。レベル7のバースターや、シールド、パワーキューブ(体力回復アイテムのようなもの)などが有料で購入できるようになったのだ。

 かつてナイアンティックでは、そうしたアイテムの販売を否定するスタンスを表明していたこともあったが、廣井氏は「Ingressは基本的には歩いていただくゲーム。そこでアイテムも実際に獲得していただく」としつつ、サステナブル(持続可能)な方法でIngressを提供できるか検討を進めた結果、課金アイテムを拡充することにしたという。

 Pokémon GOでは、有料アイテムを得るためのゲーム内貨幣は、課金せずともジム戦をプレイする中で入手できることもある。現在のIngress Primeにそうした仕様はないが、廣井氏は「良い指摘をありがとうございます」と述べ、前向きに検討することを示唆していた。

ARマップ実装へ

 ゲームとしては従来版を踏襲し、グラフィックや操作面の変更となったIngress Prime。将来についてはほぼ語られることはなかったが、ひとつだけ報道陣へ紹介されたのがARマップ機能。これは、スキャナ(Ingressのアプリ)内で、ユーザーがいる場に周囲のマップを表示するもの。

 現実空間の平らな場所を検知して、そこにマップを重ねて表示するような形で、実装時期は未定ながら、周囲の状況を把握しながらプレイするときに役立つ機能として提供される。

今後の展開は

 一般的なスマートフォンゲームでは、日々のログインで何かしらアイテムがプレゼントされるなど、「ログインしたくなる」「プレイしたくなる」要素が工夫されることが多い。リテンションなどと呼ばれるそうした取り組みについて、Ingress Primeはどうなるのか、廣井氏は「日々、盤面が変化することそのものが、エージェントにとって新しい発見を提供できていると思う」としつつ、現状はまだ正式版をリリースしたばかりであり、フィードバックを得たいと説明。今後の検討課題のひとつとする。

 初めてプレイするプレイヤー向けには、これまで通り、プレイ方法を学べるチュートリアルがIngress Primeでも導入されているが、従来版と比べると「レベルが早く上がりやすくなっている」と石塚氏。低レベルのままでは、相手陣営のポータルを破壊することがかなり困難なため、チュートリアルの改善で、初心者が定着しやすくなるよう工夫した格好。またナイアンティックでは、従来から継続するイベント(アノマリー、ミッションデー)に加え、初心者育成のユーザー主催型公認イベント「ファーストサタデー」も強化したいという考えという。

 10月中旬からアニメ版「Ingress」の放送も始まり、配信から6年を経て今なお、熱心なファンに支えられている同作。アニメ版との何かしらリンクすることは、個人的にはやりたいと思っている、と語る廣井氏は、「やっとスタート地点に立った」と感慨深げ。

 同社内では、創設者兼CEOでありIngressの生みの親でもあるジョン・ハンケ氏自身が「みなさんが思っている以上に、すごく細かいところまで関わっている。ゴーサインを出すだけといった形ではない」(廣井氏)とのことで、ユーザー規模としてはPokémon GOに大きく差が付けられているものの、依然として重要なプロダクトという位置づけ。

 昨今では、スマートフォンやゲームそのものの中毒性を危惧する声が高まり、iOSやAndroidに使いすぎを注意する仕様が盛り込まれているが、「Adventure on foot with others(誰かと一緒に冒険へ出かける)」というミッションを掲げるナイアンティックにとって、Ingressで提供しようとする価値は、現在指摘されるゲーム/スマホの中毒性や依存症とは異なるものという見方をしている。

 新たな実績メダルの導入や、ガーディアン(ポータルを一定期間保持することで得られる実績)の復活など、社内で検討中ながら、今回はノーコメントに留められた仕様もいくつかある。

 既存ユーザーにとっては、かなり荒削りな部分もある「Ingress Prime」。廣井氏は「ナイアンティックの設立から7年が経って、スキャナを通して、より楽しく、現実世界を感じていただきたい」と呼びかけていた。