インタビュー

ドコモが取り組む通信品質改善の今、なぜ基地局を「3倍」で整備するのか

 都心部を中心にユーザーから通信品質の低下に不満の声が上がるNTTドコモ。2025年11月の決算説明会では、これまでの取り組みで通信速度が向上したこと、そして2025年度下期~2026年度にかけて、基地局建設を拡充することが明らかにされた。

 2022年度後半ごろから指摘が増えた同社の通信品質。ドコモはこれまでも対策を進める方針を示しており、何も手を打たなかったわけではない。しかし、3年を経過してもなお、厳しい視線が向けられている現状にある。

 その一方で、2025年12月10日にソフトバンクが開催した通信ネットワーク関連の説明会では、ソフトバンク側から示された資料によって、ドコモの通信品質の改善が見られることもわかった。

 あらためてドコモの通信品質は今、どういった状況にあるのか。本誌ではエリア整備を担う担当者にインタビューした。

 応えたのは、NTTドコモネットワーク本部エリアマネジメント部エリア品質部門担当部長の福重勝氏、ネットワーク本部無線アクセスデザイン部無線企画部門担当部長の藤井昌宏氏、ネットワーク本部ネットワーク部技術企画担当部長の松尾充倫氏。品質、無線、技術という3部門で現場をリードする人物たちだ。

左から松尾充倫氏、福重勝氏、藤井昌宏氏

「電波は強いのに繋がらない」根本原因はキャパシティ不足

 無線担当でエリア展開をリードする藤井氏は、「ドコモが直面する通信品質の課題が変化してきたのか?」という問いに「根本的な課題は変わっていない」と語る。

 ドコモが直面している課題の根本は、都心部におけるトラフィックの爆発的な増加に対し、必要な設備供給が追いついていない点にある。

 東京で言えば、新宿駅や池袋駅、渋谷駅などで対策をしたことで、平均スループット(通信速度)が向上するといった結果につながった。基地局やアンテナを新たに配備した場所では、効果があったことになる。

 平均スループットが上がるということは、そもそも携帯電話がドコモのネットワークに繋がり、その上で品質の良い信号でやり取りできていることの証でもある。

 つまり、「対策した場所は良くなった」のだ。では、「設備が足りていない」とはどういうことだろう?

 藤井氏によれば「特に都心部で、コロナ禍以降、トラフィック(通信量)が増加し、それに対して必要な設備が足りていないということになります」という。

藤井氏

 ドコモとしても、ユーザーの声、あるいは「d払い」などのアプリを通じて通信品質に関する情報を集めている。現地にも当然、足を運ぶ。

 ユーザーからすれば「アンテナピクト(電波強度)は立っているのに通信が遅い、繋がらない」と感じるところだが、ドコモも動画の再生が始まるまで時間がかかったり、Webサイトの表示が遅れたり、あるいはSNSの送信で不具合があったりといった事象として把握している。

 たとえばゲームをプレイする際、タップするたびに通信しようとする場面がある。通信が滞ると、画面が切り替わらず、ストレスが溜まる人もいるだろう。

 その背景には、たとえば4G LTEと5G(Sub6)との切り替えに時間がかかるといったことがある。1つの基地局あたりのサービスエリアの端(セルエッジ)での対策はこれまでも実施されており、スムーズな切り替えを実現するためのチューニングもあわせて進められている。

 それらの根本が「必要な設備が足りない」ことにある。

「必要」を実現するための考え方に変化

 藤井氏は「ドコモの中でも、ネットワークやサービスエリアの作り方を変えなきゃいけないと考え、実際にこの数年で変化させてきました」と語る。

 同氏によれば、かつては、トラフィックを観測し、容量が足りていなければ、設備が設置されている場所に新たな設備を追加するといった手法だった。

 この手法自体は現在も通用するものだが、キャパシティ以外にも、先述したLTE・5Gの切り替えの調整といった手法も必要だ。つまりは「◯◯なら□□する」と、同じ手で対策しがちだった、という点が「かつての考え方」だと言える。

 あるいは5G用の周波数であるSub6(サブシックス、6GHz帯以下の周波数)にこだわりすぎると、カバーできる場所が限定されがちで、Sub6の電波が届きにくい場所も生まれてしまう。そこで、LTE用周波数を5Gに転用して、電波の届く場所を広げる。

 たとえば都内では、ドコモが保有する周波数のうち、700MHz帯については5Gへ積極的に転用を進めている。ちなみにまだまだユーザーの多い4G LTEでは主に2GHz帯、1.7GHz帯、1.5GHz帯、800MHz帯を活用している。

 画一的な手法ではなく、品質が低下した場所にマッチするアプローチを採る――これが近年、ドコモが進める新たな考え方になるようだ。

2025年度下期は「3倍」の猛アプローチ

 考え方を変え、実際に品質改善を遂げてきたドコモの通信ネットワークだが、冒頭に触れた通り、ユーザーからはまだ厳しい評価も少なくない。

 この状況を打破するため、ドコモは2025年度下期において、上期の3倍という規模で基地局構築を進める。突発的な施策ではなく、従前から準備してきた取り組みが実を結び始めた結果であり、2025年11月の決算説明でも前田社長がアピールした取り組みだ。

 基地局を増やす理由は、先述した通り「設備不足」を解消するためだ。

 品質担当の福重氏によれば、品質向上には「電波の強さ」「電波が届いたとしても収容力(キャパシティ)を向上させる」「電車など移動中でも接続性能を高める」という3つが重要だという。

福重氏

 具体的な対策としては、Massive MIMO(多数のアンテナ素子を持つ基地局設備)の導入加速が挙げられる。すでに新宿駅や池袋駅、中央線、総武線などの主要エリアでは対策が進んでおり、自社調べのスループット(データ転送速度)計測でも品質向上を確認している。

 これは、2025年11月の決算説明会でも披露されたもので、たとえば新宿駅も池袋駅も下りの平均スループットが2025年9月時点では2024年3月時点と比べ、約20%向上した。中央線快速の場合は約40%、総武線快速の場合は約50%の向上になった。

 「平均」ということで、もし繋がらない、あるいは通信がうまくいっていなければ下がる。「平均スループット向上」という結果は、改善をきちんと示すものと言える。

 ただ、それでも「改善した」という声が少ない理由のひとつは「要対策の場所」が増え続けていること、とドコモでは推測している。

 対策したところとは別の場所でトラフィックが増え、新たに「要対策」の場所になってしまう。問題なく使えることが当たり前のように捉えられてしまうのであれば、改善したこと自体を認知してもらいにくい。

 逆に「品質が悪くなった」ならば人は気づきやすい。改善が伝わりづらく、品質劣化の声が止まらない理由はこのあたりにありそうだ。

ビル屋上は限界、なりふり構わぬ「電柱・電話ボックス」作戦

 設備を増やそうとするドコモだが、都心部でのエリア対策を難しくしている最大の要因は、基地局を設置する「場所」の確保だ。

 既存のビル屋上や鉄塔はすでに各社の設備で飽和状態にあり、広告看板などのスペースも取り合いとなっている。

 特に新宿や渋谷の雑居ビル群のなかには、建物そのものの強度が不足しているケースもあり、新たに設備を設置したくともできないことがある。

 そこでドコモが打ち出したのが、構築手法の多角化だ。従来の鉄塔やビル屋上に加え、電話ボックスや電柱、ガラスアンテナといった「街中のアセット」をフル活用する。特に電柱については、NTTグループのアセットに限らず、電力会社保有のものも含めて「なりふり構わず」交渉し、場所を確保していく。

 これらは「スポット的な対策」と見られがちだが、福重氏は「FDD(周波数分割複信)方式の広域エリアと、TDD(時分割複信)方式のSub6(3.7GHz帯など)を組み合わせることで、面的なカバーと容量確保を両立させる」と説明。届きにくいとされるSub6の穴を、こうした小規模な基地局で埋めていく戦略だ。

5Gエリアを広げる周波数の使い方

 かつて5Gの展開において、4G LTEの周波数(電波)を5Gに転用する手法の是非が問われたこともあった。5G専用とされるSub6やミリ波は、利用されることがこれまで少なかったため、5G用では周波数をまとまって広く確保できることから、その分、高速大容量の通信を実現できる。

 一方で4G用の周波数はそこまで広くない。つまり、4G用の電波を5G用にしても速くならない……という指摘だ。

 そうしたこともあって、ドコモは5G用周波数でのエリア整備を目指した。しかし競合他社のKDDIとソフトバンクが転用による5Gのエリア拡充を進め、いち早く5Gエリアの拡充を進めた。

 結果として、街中にあるスマートフォンにとっては4Gと5Gという切り替えが発生する回数が減り、通信品質の向上の一助になった、という流れがある。

 周波数の転用では遅れを取ったドコモだったが、今では700MHz帯などの低周波数帯の5Gへの転用を積極的に進めている。もっとも、周波数転用だけでは、増加するトラフィックの根本的な解決(キャパシティ増)にはならないという。

 そこでドコモは、広帯域を利用できるSub6(3.7GHz帯/4.5GHz帯)やミリ波(28GHz帯)といった活用をあらためて進めている。9月にはSub6対応レピーター(中継機)も導入した。

 また、ソフトバンクがアピールする「基地局間の協調制御」などの技術についても、ドコモは3G時代からC-RAN(集中制御型無線アクセスネットワーク)構成を採用している。現在もキャリアアグリゲーション(複数周波数帯の同時利用)やデュアルコネクティビティ(4Gと5Gの同時接続)といった技術で、基地局間の連携制御をすでに実装済みだ。

AIによる自動化と未来のネットワーク

 2025年12月~2026年1月には、東北地方や山陰地方で地震が発生した。東北の地震では、津波警報も発令された。そうした天災は、台風なども含めて、日本各地において1年を通して発生し得る。そこで気になるのは、災害時に携帯電話が使い続けられるかどうか。

 たとえば停電への対策として発電機やバッテリーが携帯電話基地局に導入されて久しい。たとえば「復旧エリアマップ」は、普段使える場所を示す「サービスエリアマップ」と違い、災害時にのみ運用され、“使えない場所”を示す。2024年1月の能登半島地震では携帯各社が提供したが、もともとは2011年の東日本大震災直後にドコモが実装し、各社に広がった。

 「復旧エリアマップ」を実現するには、各地にある基地局の状況を把握する必要がある。どこで使える・使えないのか、いち早く把握することになり、その情報は災害時にメディアへも共有され「影響なし」といった報道に繋がることがある。

 災害時の携帯各社の情報も伝える本誌で記者を務める筆者は、かつて「災害時はドコモからの情報発信が一番」と感じていた。スピードも、量もダントツだった。

 しかし、コロナ禍を過ぎたころからか、「他社も追いついてきている」と感じるようになってきた。ドコモ以外の他社が、状況把握にかかる時間を短縮させたように思えるのだ。

 数字で示せるものではない肌感覚だが、この背景には各社のネットワーク運用のあり方が変わってきたことがあるような印象を持っている。

 各社がネットワーク運用の進化を図る中で、ドコモは今どういったことに取り組んでいるのか。

 その一例が11月に発表された、ノキア製SONシステムの導入だ。「SON」とは、Self-Organizing Networkの略、つまり自律調整型ネットワークといった意味の言葉。特定のベンダー(機器メーカー)に依存しない、いわばマルチベンダー環境で、AIが自動的にデータを収集・分析し、ネットワークを最適化する。

 将来的には、ネットワーク構築業務全体をデジタルツイン(仮想空間での再現)上で完結させる構想も描いている。トラフィック分析から基地局の最適配置シミュレーション、工事業務の管理、効果測定までをAIとデジタルツインで循環させることで、より迅速かつ効率的なエリア構築を目指す。

他社比較と今後の「体感」指標

 第三者機関の調査データなどで競合他社に後れを取っているという指摘に対し、担当者は「自社調べのデータでは勝っている場所もしっかりあり、負け続けている場所ばかりではない」とし、トータルでの評価改善に努める姿勢を見せた。

 問題がありそうなエリアを探す手法として、さまざまな場所で利用されるであろう「d払い」アプリに、ネットワークの遅延量や品質を測れる仕組みを導入済み。アプリからのダイレクトなデータは、ユーザーの体感に近い状況を示すものという位置づけ。

 たとえば他社が示す「接続率」「遅延時間(操作してから反応するまでの時間として表示)」といった指標も重視している。

 ドコモは2025年度末にかけて、上期の3倍のペースで基地局の増設を進める。工事スタッフも、必要な資材も揃い、これまでの準備が整った上での「攻勢」と言え、福重氏は「今春にはユーザーからの声に変化が訪れるのではないか」と自信を見せていた。