インタビュー

KDDI松田社長インタビュー、「Googleとの記事AI検索」や地方課題への取り組みを聞く

 28日、KDDIが自社のサービス・ソリューションを紹介するイベント「KDDI SUMMIT 2025」が始まった。

グループインタビューに応じる松田社長

 社長就任後、初めて基調講演の壇上に立った松田浩路氏は、「テクノロジー」「リアル」「循環」という3つの力を重視する考えを示し、地域の課題をいかに解決するか語った。

 さらには、基調講演の後半に、「無印良品」を展開する良品計画取締役会長の堂前宣夫氏を招き、店舗展開の考え方などが紹介された。

 本稿では、松田社長が基調講演後に応じたグループインタビューの内容をお伝えする。

基調講演の意図と地域への注力

――社長就任後、初のKDDI SUMMITであり、初めての基調講演です。1年前のKDDI SUMMITの基調講演では、髙橋誠氏(当時の社長)が日本全体を元気にしようというテーマで語り、対談相手もOpenAIの方でした。

松田氏
 1年前はCDOとして、テクノロジー寄りの話をしていましたが、技術畑だからこそ、よりリアル(現実社会)に目を向けなければいけないと思ったわけです。我々も勉強しなければならないと。

 リアルで事業を組み立て、それをさらに地域に落とし込んでいる方々のお話を聞きたいと思い、今回は堂前さんにお声がけしました。

良品計画の堂前会長

 僕らも(ローソンを通じて)リアルに取り組んでいますが、話をうかがってみると、まだまだ浅いと実感しました。

 たとえば、ドローンを配置することも先日発表しましたが、それで本当に地域が経済的に活性化しているのか、というとそうではない。実践されている方々から学びたいと考えたわけなんです。

――対談を終えて、特に面白いと感じられたことや気づきがあったことは?

松田氏
 今、次期中期経営計画を考えているんです。メインのコア事業が大きく成長していればいいのですが、そうではない場合もあります。

 一方、良品計画さんは、ど真ん中を成長させています。

 僕らとしては、ど真ん中の事業(通信事業)があるからこそ周辺事業ができるというのが、これまで掲げている「サテライトグロース戦略」という考え方でもあります。次に向けた動きを考えるなかで、対談を通じて、良品計画さんがどう事業を循環させたか知ることができました。

 たとえば、地域の店舗に予算をきちんと確保し、(施策を進めるための)裁量を持たせる。業績面ではすぐ伸びないかもしれませんが、堂前さんは「投資だ」と。その結果がメインのコア事業(良品計画では、無印良品の店舗を通じた売上)に返ってくる。

 そうしたサイクル、循環についてのヒントをいただいたと思っています。

AIサービスとGoogle Cloud連携:収益化戦略

――本日、Google Cloudとの提携でNotebookLMを活用する話がありました。どうマネタイズしていきますか?

松田氏
 AIによる情報収集と提供については、社会問題になっているところもあります。たとえばコンテンツの権利です。そこで何か、KDDIが役に立てるところがあるのではないかと。

 (4月の社長就任会見で方針を示した)AIマーケットの、焼き直しというわけではないんですが、僕らのAIサービスとして、ということになります。

 テクノロジーには光と影があり、影をいかに光に変えていくかが重要です。Web上には、良質なコンテンツをお持ちの方ががたくさんいて、そのなかで、今回のタイミングまでに合意していただけた企業さんをまず発表しており、今後、広げていきたいと考えています。

 収益化については、コンシューマー側は、「無料でインターネット検索できる情報なのにお金を払うのか」と思われるかもしれませんよね。ただ、生成AIのサービスに有料契約している方もいらっしゃいます。提供されるサービスやコンテンツが良質であれば、AIに関連してお金を払う意欲は出てくると思っています。

 とはいえ、具体的な提供方法は、これからです。何らかの形で頂戴するのか、料金プランに内包するのか。

 コンテンツホルダーの方々とは、レベニューシェア(収益分配)を考えています。KDDIだけではなく、コンテンツプロバイダー、ユーザーにもメリットがある、Win-Win-Winを目指したい。

 NotebookLMというわかりやすいテクノロジーが登場してきて、その裏に、インプットしたデータ・非構造化データを構造化するところを、双方のエンジニアが手掛けることになります。コンテンツをより多く集めなければ事業規模も拡大しません。

――NotebookLMに対してコンテンツを追加する仕組みなのか、あるいは、Webサービスの裏側にNotebookLMの仕組みを取り入れるのでしょうか。

松田氏
 NotebookLMは一つのサービスで、インプットデータとして対応コンテンツ、機能として取り揃える。ただ、あのUIじゃなくていいと。そこを我々が開発したい。

 カタログがあって、生活日用品に関する情報があったり、価格情報があったり、そこに質問していくというイメージでしょうか。

――Google Cloudとの取り組みは、メディアを作るよりも、裏側の仕組みを開発すると。

松田氏
 情報を整理するコンシェルジュというか、アドバイザーになると言いますか。自分自身で探すこととどう違うのかが肝になるでしょう。

 メディア側のWebページの構造も結構複雑ですよね。簡単にQ&A機能を導入したいというニーズもあるのではないかと思います。

 そこまで手が回らない方々のためにも、僕らがその仕組みの塊(かたまり)を一括して提供する、という側面があります。

――元記事にアクセスできるようにするのか。

松田氏
 信頼性を含め、そうした仕組みは整えていくと思います。

 50近く、声をかけています。今回は合意できたところで発表に至っており、まだ合意できていないところもあります。

AIサービスの位置づけと将来的な展開

――まずは「信頼できる情報源」という切り口で、記事などへのアクセスをイメージした内容ですが、対象は記事以外に広がるのでしょうか。たとえば、KDDIが各地で進めるサービスを使いたい、使ってもらいたいという場面でのユーザーインターフェイスにもなるのでしょうか?

松田氏
 基本的には、ユーザーインターフェイス(利用者とサービスの接点)にしていきたいと思っています。

 例えば、地方自治体はそれぞれの悩みをお持ちかもしれませんし、そこに旅行のコンテンツを持った方々との連携があるかもしれません。さまざまな課題解決に役立つユーザーインターフェイスになり得ると思っています。

AIマーケット構想からの変化

――以前の構想であったAIマーケットの焼き直し、というお話には驚きました。

松田氏
 どう着地させるのか、という点ですね。KDDIとしては「AIマーケット」として、AIサービスを集める役割を担おうと考えていました。ただ、持っていたのですが、サービスを提供するスタートアップ(新興企業)が思った以上に存在していない。

 「AIマーケット」のもともとの構想は、トークン(AI利用に必要な単位)の支払い料金が増大すると、支払額も増える、それが大変というので、我々がいったんまとめて支払うという形態を考えていました。

 ただ、今はグーグルやOpenAIなど各社で料金体系がかなり違ってきています。僕らも調達しきれないところがありました。

 それであれば、単に来ていただくだけなら、「サブスクぷらすポイント」の延長でいいのでは? という考え方もあるかもしれません。

――堺のAIデータセンターの話もありましたが、Google Cloudとの提携による取り組みは国内で自前で動かすものになるのでしょうか。

松田氏
 そうできるようにしている、というのが正しい表現です。

 もちろん、スケーラブルになればなるほど、彼ら(Google Cloud)のクラウドに依存する部分も出てきますが、環境は同じようにしていますので、堺のデータセンターで稼働できるよう準備しています。

コンビニ連携による地域展開

――展示コーナーでは、コンビニ関連のものが多いです。講演でも社会課題を地方から解決するとしていましたが、地方での、ローソンでの先進的な取り組みはどう進めていきますか。

松田氏
 現在のオフィスタイプ(現行の形)のローソンは、年内~年明けに広げていきます。

 うまく言っているのはサイネージです。高輪のローソンは、全国でも非常に優秀な成績を挙げています。

 KDDIのオフィスがあるからだろうと思われるかもしれませんが、社食もありますし、ほかのお店も増えました。それでも売上が大きい。

 効果があった取り組みは高輪以外でも広げていきたいです。ただ、地域(地方)という意味では、人手不足の話もあって、もう少し時間がかかりそうです。

auショップの役割の再定義

――地域経済へというお話の中で、従来のauショップのような店舗の存在意義についてはいかがでしょうか。

松田氏
 auショップについては、ある意味、当然連携先として考えている部分もあります。

 ただし、ローソンでの展開を重視しているのは、やはり人が行く動線(流れ)が多いからです。

 auショップは毎日行く場所ではありませんし、auのお客さんしか基本的に行きません。

 ローソンであれば、他社のユーザーさんも含めてみんなが立ち寄る場所となり得ます。そこで地域に貢献し、我々の取り組みを知っていただくという発想が大事だと考えています。

 地域に根ざし、地域の人に信用してもらい、「お前ら頑張っているよな」と思ってもらわなければなりません。

 本当に自然にお越しいただける場所で、我々が裏側でテクノロジー(技術)を用いて役立ったり、地域経済を潤す仕組みを作るのが最初のステップです。

――auショップを、例えばデジタル化の困り事相談所のような役割に進化させる考えは?

松田氏
 “よろず相談所”は置いていくべきだと思っています。

 自然な日本語で困り事が解決できるようになりますし、海外からのお客さまにも対応できるでしょう。

金融戦略について

――基調講演ではあまり触れられませんでしたが、金融方面は地方経済や人とのつながりにおいて大事な部分だと思います。現時点での考えは?

松田氏
 「何をやってるんだ」と思われるかもしれませんが、しっかりサービスとして打ち出していかないといけない時期に来ています。

 来年発表する次期中期経営計画では、金融事業をどのように伸ばしていくかという議論があります。

 業界全体が活性化しているのは良い話です。

 我々は、お客様が日々の生活の中でサービスを使っていただく中での、エンゲージメント(関係構築)を大事にしています。

5G SAとStarlinkに関する優位性

――Opensignalで3連覇とのことですが、5G SA(スタンドアローン方式。既存の4G設備に依存せず、5G専用のコアネットワークを用いる方式)ならではのコンシューマー(一般利用者)向けのサービスなどの考えは?

松田氏
 5G+と表示されるようになりましたが、昔のように、それで追加料金をいただくという形は考えていません。お客様にとって何が価値になるか、というところが重要だと思っています。そこで始めたのが「fastlane」です。

 5G SA(スタンドアローン方式)は非常に良い技術だと思います。通信の安定性を高め、レイテンシー(通信遅延)という点でもSAが優位です。ただ、なかなか普通に使っているだけではその良さが分かりにくい部分も実態としてあります。

 通信の速度や品質を増やすことで、こんなコンテンツ(情報や映像)が出せるようになった、という繰り返しがテクノロジーの歴史です。SAの優位性をアピールするためには、それに合ったコンテンツが必要となります。

――競合他社がStarlinkでのスマホと衛星の直接通信を、来年開始するという一部報道がありました。もし、そうなった時、KDDIとしてのアドバンテージ(優位性)はどこにありますか。

松田氏
 何をもってアドバンテージというかは難しいところです。スターリンクに限らず、新しい分野はパートナーさんと開拓したいと考えています。

 結果として、スターリンクは、新しい料金プランとセットにできました、この改定は本当に大きなことです。

 どの業界でも、他社が参入したり追随したりすることは当然、起こり得ますので、それがどうこうする前に、先手必勝が重要です。

 私たちは、技術の確からしさ、つまり「いつ(技術が)出るか」を非常に大事にしています。3年後のものを今言っていても仕方ない。技術をしっかり見て、お客様にお届けできたのが今回(のスターリンク)です。

――料金体系の例を挙げていただきましたが、既にデータ通信の実現やアプリ事業者との関係構築もアドバンテージですか。

松田氏
 そうですね。と言いますか、(衛星通信でもアプリで通信できるようにする仕掛け作りは)誰かがやらないといけない話だと思っています。

 そのことが終着点ではありませんし、ほかの技術が登場してくるかもしれません。何にせよ、循環をまわしていかないといけないです。

――ありがとうございました。