インタビュー

OPPOの河野氏らが語る「Reno7 A」開発秘話、約150%の出荷増の要因は?

「OPPO Reno7 A」

 オウガ・ジャパンが6月に発売したAndroidスマートフォン「OPPO Reno7 A」。今回、同社専務取締役の河野謙三氏とプロダクト部 部長の李毅(リ・タケシ)氏が本誌のオンラインインタビューに応じ、「Reno7 A」の開発秘話などを語った。

 「Reno7 A」の開発や価格設定において、新型コロナウイルスや為替変動はどのように影響したのか? また、日本市場におけるOPPOの今後の動きは? 本稿では、インタビューの内容をお届けする。聞き手は、本誌編集長の関口聖。

河野氏

気になる「Reno7 A」の販売状況

――さっそくですが、「Reno7 A」の販売状況はいかがでしょうか。

河野氏
 おかげさまで、「Reno7 A」の発売以降、我々が集計できている範囲内で申し上げますと、前機種の「Reno5 A」に比べて約150%の出荷の伸びを記録しています。

――約150%という数字はすごいですね。

河野氏
 6月にオープンしたオンラインショップについても、どこでパーセンテージを切るかというところはありますが、150%~200%の伸びを記録しています。非常にありがたい話だと思っています。

――少し時期尚早かもしれませんが、好調の要因としてはどんなことが挙げられるのでしょうか。

河野氏
 それはもちろん、OPPOの社員が頑張ってくれたと思っています。

 あとは、日本市場に参入して以降の5年間、まったくブレずに同じ回答をしてきましたが、我々はお客さんのニーズを愚直に調査し、それに応えるような開発をしてきました。

 なおかつ、自社の利益のみを追求せず、パートナー企業さんとの共存共栄を常に意識してきた結果が、こういった数字につながっているのではないかなと思います。

「Reno7 A」の開発秘話

――「Reno7 A」の端末自体についてもお聞きできればと思っています。開発は、どのようなかたちで進められたのでしょうか。

李氏
 やはりユーザーニーズが大事ということで、そのニーズを満たすようなコンセプトにしました。「長く使いたい」「電池持ちがいい」「ストレスなく使いたい」というようなニーズを満たし、5万円以内の価格帯の端末を目指しました。

李氏

 ちょうど約1年前、2021年の7月ごろにやったことは、バッテリー容量の検討でした。「Reno5 A」のバッテリー容量は4000mAhでしたが、それを継続するのか、5000mAhに増やすのか、あるいはその中間の4500mAhなのか……ということは議論しました。

 また、ディスプレイなどの選択も、議論を重ねました。「このような構造だったらコストがいくら」というのは、河野さんにも報告しながら進めましたね。

 そのうえで、軽さと薄さも重視したかったので、「Reno5 A」よりも容量が大きい4500mAhのバッテリーを搭載したうえで、重さは180g以内、厚さは7.8mm以下にすることを目指しました。

 結果として「Reno7 A」は重さ約175g、厚さ約7.6mmとなり、当初の目標以下の数字になりましたが、それは開発側の努力だと思っています。

 本体カラーも、いろいろな候補があったんです。候補として「スカイブルー」のような色もあったのですが、日本のデザイナーさんの意見も入れて「ドリームブルー」というカラーにしました。

――そうしたコンセプトを実現しようとするうえで、チーム内での議論の対象になった点はありましたか。

李氏
 軽さと薄さを実現し、さらにバッテリー容量をアップさせるということについては、「そもそも矛盾ではないのか」という開発側の声もありました。

 加えて、日本市場に合わせた「Reno7 A」では、FeliCaのチップも載せないといけない。指先ほどの大きさのチップでも端末に入れるのが難しくなったりして、話し合いを重ねました。

――そのなかで、河野さんはどのような役割を担っていたのですか。

河野氏
 社員から「こういうものを作りたい」「こういう機能を盛り込んだスマホが来年は絶対に必要になる」という声が上がったとき、そういった要望をいかに叶えるのか、というのが私の仕事になってきます。もちろん、要望はスペック面にとどまらず、コスト面だったり、いろいろなものがあります。

 企業文化の一般論として、日本はボトムアップで海外はトップダウン、みたいな話があると思います。OPPOは海外企業ですので、トップダウンが非常に強いメーカーでは? とお考えになるかもしれませんが、実はまったく逆で、ボトムアップ色の強いメーカーなんです。

――河野さんが本社側にそういった要望を伝えるとき、それはすんなり聞き入れてもらえるものなのでしょうか。

河野氏
 いえ、実はOPPO(のスマートフォン)が初めて防水機能やFeliCaを搭載した数年前は、「日本でこういうニーズがあります」と本社側に言っても、まったく聞き入れてもらえない時期がありました。

 言葉を選んで話したいのですが、当時日本でものすごく売れていた海外製のスマートフォンは、防水やFeliCaに対応していないにも関わらず、国内で売れていました。

 ですから、我々が「こういうニーズ(防水やFeliCa)がありますよ」と本社側に伝えても、「他社はそれがなくても売れているのに、売れていないのは君たちの努力不足だよね」と言われてしまう。それに対して、トップマネジメントでニーズを強く伝えていく、ということは昔はやっていました。

――なるほど。

河野氏
 たしかに、そのときに関して言えば、(本社側の)データに基づいた判断では防水やFeliCaは不要ということになったかもしれません。

 しかし、OPPOがほかのメーカーと何が違うのかを考えたとき、一番大きく違うのは経営理念の「本分」です。儒教思想にも似ている部分もありますが、「自分たちが利益を得るような企業であってはならない。相手が使命感を持って言ってきたことには、なるべく応えましょう」ということを大切にしています。

 これは、中国本社のみならず、日本で販売をしている我々のような立場にも対等に存在する考え方。ですから、防水やFeliCaについても、本社側と交渉をするなかで、「わかった。日本でそこまで需要があるということなら、我々もその声に応えようじゃないか」となり、搭載に至りました。

――今は要求もだいぶ通りやすくなったのでしょうか。

河野氏
 はい、それ以降は、日本側のニーズを伝えても割とすんなり通るようになりました。

 それは、初代「Reno A」からの「Reno」シリーズが、右肩上がりで販売台数を伸ばしていることも大きな理由です。日本のチームが国内のニーズをしっかり読めているということが、数字というかたちで証明されています。

左から「Reno A」「Reno3 A」「Reno5 A」「Reno7 A」

「Reno7 A」の価格設定に関する考え方

――「Reno7 A」の価格設定について教えてください。

河野氏
 「Reno7 A」の開発が始まったのは2021年の7月ごろですが、そのときには日本での売価も当然考えていました。

 調査したところ、「Reno」シリーズに対して5万円以下の価格を希望している方がほとんどでした。そこで、5万円以下で、かつ「Reno5 A」とほとんど変わらない価格設定にしようという話はありましたね。

 結果として4万4800円という価格になり、「Reno5 A」から価格は若干上がりました。とはいえ、お客さんのニーズになるべく応えたいということで、企業努力と言ってしまえばかっこいいんですが、そういったもので決めた価格設定になります。

――先ほどの李さんのお話にあったとおり、「Reno7 A」ではスペック面もいろいろ考えられていると思いますが、価格とスペックのバランスはどう考えていたのでしょうか。

河野氏
 もともと想定しているスペックや価格はあります。想定している価格に対して、たとえばバッテリー容量を増やすとか、カメラのスペックを上げるといったいろいろな要素を加えていこうとすると、当然価格はどんどん上がっていきます。

 では、どこまでそういったことをするのか? という話に対して、我々はお客さんのニーズに向かって走ろう、というのが第一段階です。「Reno5 A」や「Reno3 A」を買ったお客さんからの声もたくさんいただいていたので。

 その次に、コストの問題が出てきます。今、我々の製造コストは20%上がっています。我々はグローバルのサプライチェーンを持っているので20%で済んでいますが、他社さんは30%~40%上がっているのかもしれません。

 「Reno7 A」を企画していた頃の為替が1ドル108円程度で、今はだいたい1ドル140円。会社が当初想定していた利益を達成するためには、価格も上げなければいけないところですが、そこをこらえようぜというのは経営判断でした。

――製造コストが2割増、為替が1.3倍~1.4倍になったことを考えると、それを「こらえよう」という精神論だけでは済まない話になりそうです。そのあたり、どのように工夫されたんですか。

河野氏
 一番大きいのは、サプライチェーンやパッケージなどを徹底的に見直したことです。0.1セント単位、日本円で言えば何銭というレベルで、コストを下げる取り組みは当然やっています。

中国でのロックダウンの影響は?

――コロナウイルスの感染拡大を受けて中国ではロックダウンなどがあったと思いますが、製品づくりでどういう影響があったのでしょうか。

李氏
 たとえばひとつ事例をご紹介すると、商品作りには試験が必要ですよね。試験には、商品のサンプルが必要になります。そのうえで、日本で商品を売るので、日本でフィールドテストをするというスキームがあります。

 日本でのフィールドテストに必要なのは中国からのサンプル機なのですが、そのサンプル機の手配などには苦労しました。

――なるほど。

李氏
 「Reno7 A」はキャリアモデルとして提供していますので、キャリアさんの納期や台数も守らなければいけません。

 開発をダラダラやってしまうと遅れにつながるので、「進捗はどうですか」というような確認は常にしていました。

――日本でのフィールドテストは、どのような場所で行われたのでしょうか。

李氏
 キャリアさんの場合、そのキャリアさんが指定する場所でしか試験ができません。

 ほとんど田舎で、試験場所は駅からだいぶ離れたところにあったりします。たとえば途中でパソコンの電源が切れたらいったん駅に戻るとか、現地が雨だったら天気の回復を待つ……というような対応は考えながらやっていました。

 私は新幹線に乗って行くような場所までは行かなかったのですが、東京の近辺、電車で1時間くらいの場所には行きましたね。

――スケジュールが予定どおりに進まないことは、開発コストにどう影響したのでしょうか。

李氏
 純粋にもの作りの観点で言えば、開発はそれぞれのレベルでコストが違い、上流であればコストが高い、下流であればコストが安いというのが一般論です。

 上流の開発が延びてしまうと、工数が増えてしまい、コストの増加につながります。ですから、いわゆる“NRE(Non-Recurring Engineering)”、設計や試作などの工数が増えるという意味では、影響を受けています。

 開発側としては現状をすべて報告しつつ、開発以外のところは会社の判断も必要になっていた、というのが裏側の話になります。

――なるほど。その報告を受けた河野さんが判断されるということですか。

河野氏
 「Reno A」シリーズは、日本でしか売っていない製品になります。

 開発期間にしても納期にしても私たちだけでは決められず、キャリアさん、いわゆるパートナーさんとの合意のうえで計画が動いています。

 もちろんバッファは持たせていますが、今回に関して言えば、バッファを結構使い切っちゃったかなというところはありました。

 しかし、我々OPPOとして見たときに、いちばん大事なのは、ブランドへの中長期的な信頼感をパートナーさんやお客さんに持っていただくかということ。

 ですから、バッファがあるにせよ、デッドラインに向けてなんとか動こうという感じでした。

――お話を聞いているだけで大変さが伝わってきます。

河野氏
 コロナウイルスが最も猛威を振るっていたとき、日本から中国へ行ったときの隔離期間は30日間だったと思います。あまり公には言わないほうがいいのかなと思いますが、そういうときにどうしても現地でしか話ができない場合は、実は我々が中国に行っていました。

 30日間の隔離期間があったとしても必ず行かなきゃいけないんだ、というのはもう、使命感だけでしたね。

――「Reno7 A」開発時の物流面での苦労を聞いていると、今販売されている在庫も気になりました。売れ行きが好調、ということでしたよね。

河野氏
 パートナーさんとのお約束ごとで、「いつまでに〇〇台を入れてください」というものがあるので、そこは必ず守るようにしています。

 キャリアさんの名前は控えますが、とあるキャリアさんですと、当初予定していた売れ行きの4倍は売れているということがあるようです。

 そうなると、商品がないからなんとかならないか、ということにはなります。そこからは別の話がスタートする感じですね。

広告戦略の変化

――今回の「Reno7 A」の発表会、今までとは違って、端末そのものにフォーカスしているような印象がありました。

河野氏
 その質問は、指原(莉乃)さんが出なかったよね、ってことで合っていますか?(笑)

 我々は、良いものをつくることに自信があるメーカーです。「R11s」(編集部注:OPPOが初めて日本市場へ投入したスマートフォン)のころは、良いものだけを作って、世間にその価値を問うということをやっていました。

 ただ、その“良いもの”を一般のお客さんに届けるには、我々だけの努力では足りないことがありました。ですから、メディアさんの力や、指原さんのようなアンバサダーの存在が不可欠でした。

 たまたま名前が「莉乃」と「Reno」で一緒だったというのもありがたかったんですけど、OPPOといえば指原莉乃さん、「Reno」といえばOPPOというような認知を持ってもらえたのはありがたいと感じています。

――なるほど。

河野氏
 コロナウイルスの影響もありますが、今年からは、ユーザーさんの情報源がデジタル寄りにシフトしているということを感じています。

 ですから、「Reno7 A」のプロモーション戦略を、アンバサダーという実際の人、つまりフィジカルなところから、バーチャルなデジタルメディア広告に切り替えてきた部分はあります。

二人が「Reno7 A」で気に入っているポイントは?

――お二人が「Reno7 A」で気に入っているポイントについて教えてください。

李氏
 いろいろありますが、常時オンにできるディスプレイ機能が気に入っています。バッテリー残量や時刻、通知が表示されるので、ユーザーさんの日常生活において実際に役立つ機能なのかなと思います。

 カスタマイズもできるので、私の場合は言葉などを表示させてモチベーションアップにつなげています。

河野氏
 「Reno7 A」というか「ColorOS」の機能にはなりますが、画面分割表示は結構使っています。たとえばカーナビアプリを開きつつ、別のアプリを同時に開くようなことはしていますね。

 あとは「Reno7 A」になってから良かったなと思うのは、画面のリフレッシュレートが90Hz対応になったことですね。“ヌルサク”で画面を表示できる点が気に入っています。

「Find X」シリーズも含め、今後の展望について

――ハイエンドモデルの「Find」シリーズについて、今年は登場しないということを聞いていますが。

河野氏
 他社さんも同じようなお悩みを抱えていらっしゃると思うのですが、10万円以上のAndroidハイエンドスマートフォンが売れなくなってきた、ということがあると思います。

 過去、「Find X3 Pro」「Find X2 Pro」はauさんに採用いただきましたが、今回は「Reno7 A」を採用いただいたものの、「Find X5 Pro」の採用は見送りとなりました。

 我々のようなメーカーには、キャリアさんに採用いただいて、より多くの台数を販売していただきたいという思いがあります。

 一方で、海外の製品を日本に持ってきて、日本で必要な認証を通して売るだけというのは我々の本分ではありません。多くのお客さんに使っていただき、パートナーさんに満足いただくことが大切だと思い、「Find」シリーズの投入は見送っております。

――6月の発表会では、タブレットの発表も予告されました。これについては、まだ何とも言えないですよね?

河野氏
 そうですね……ハードウェアの完成度は非常に高いんですけども、ご存知のとおり、Androidタブレットに最適化されたアプリケーションのUI(ユーザーインターフェイス)などをどう見せるか? っていうのは、我々だけではなくて他社さんも悩まれているところだと思います。

――スマートフォンの話に戻すと、先ほど「ハイエンドモデルが売れない」ということでしたが、これからも手ごろな価格帯の端末を中心に据えていく、ということでしょうか。今後に関する考えや、御社ならではの強みを聞かせてください。

河野氏
 今年に関して言えば、価格が5万円以下で、なるべく長く使いたいという要望が今年は非常に多かったですね。

 市場のニーズを読む力は、日本市場において、OPPOと他社さんとの最も大きな差別化要因だと自負しています。

 防水機能やFeliCaについて、周りはどこも採用していないなかで、我々はそれを採用しました。我々の製品の好調な売れ行きを見たほかのメーカーさんも、「防水機能やFeliCaを付けておけば売れるんだ」ということで同じ動きを見せましたが、実は我々はそれをあまり気にしていません。

 膨大にある市場のニーズのなかでどれが重要なのかを決めるプロセスやノウハウにこそ、我々の強みがあります。

 「Reno7 A」の発売後にTwitterでいろいろなアンケート調査をやっていますが、ニーズがもうめちゃくちゃ多いんですよ。そのなかから真のニーズは何なのか? ということを考えるとき、私が社員に言っているのは「空気はなぜ透明なのか考えよう」ということ。

 「空気がなぜ透明か」というのは私の比喩表現なんですが、たとえばトヨタでいうと、「“なぜ”を5回繰り返す」という言葉があったかと思います。「なぜお客さんがその機能を欲しているのか?」ということを5回繰り返すと、その真意に行き着く……というような訓練を、我々は(日本市場に参入した)6年前からずっとやってきているんですね。

 ニュートンが言った、万有引力の法則というものがありますよね。りんごが木が落ちるということはみんな知っています。で、他社さんは、この段階で止まっているのではないかなと思っています。

 「なぜ?」の繰り返しのなかでニュートンが本当に発見したのは、りんごもまた地球を引っ張った、地球とりんごがお互い引っ張り合うっていう法則ですよね。

 「りんごは木から落ちる」という事実だけを知っている人と、「なぜりんごは木から落ちるんだろうか?」ということを6年間ずっと愚直に日本で考え続けたメーカーの違い、そこが我々の製品開発力の強さに表れていると思っています。

――ありがとうございました。