インタビュー

「dポイントクラブ」大幅リニューアル目前! ドコモ伊藤氏に聞く刷新の狙い

 NTTドコモは、ポイントプログラム「dポイントクラブ」を6月3日に改定する。

 同社が「史上最高のたまりやすさ」とうたう新たなプログラムでは、これまで「ステージ」と呼ばれていた会員ステータスが「ランク」に変更される。3カ月間に獲得したdポイント数が、ランクの判定に反映されるしくみ。

 ランクが上がれば上がるほどポイントの付与倍率がアップする「dポイント倍率アップ特典」のほか、ドコモ回線ユーザー向けの「長期利用ありがとう特典」などが設けられている。

 今回は、ドコモ マーケティングメディア部 部長の伊藤邦宏氏が、本誌のインタビューに応じた。聞き手は、本誌編集長の関口聖とフリーライターの法林岳之氏。

伊藤氏

dポイントクラブの最新状況

――dポイントクラブについて、最新の状況を教えてほしい。

伊藤氏
 会員数は、3月末で8900万人まで伸びてきています。まもなく9000万という数字にはなっていて、順調に伸びていると思います。

――会員数が増えている要因について、どう分析しているのか。複数アカウントをひとりで所有するユーザーなどもいるのでは。

伊藤氏
 複数アカウントを持っている人も一定数いるとは思いますが、この一年はメルカリさんの影響でユーザー数が増えています。メルカリのなかでポイントが貯まったり使えたりするので。

 あとは、新しい加盟店が増えると、そこでの“かたまり”として会員数も増えます。

dポイントの強みとは

――ポイント事業について、どう考えているのか。

伊藤氏
 前提として、携帯電話事業とポイント事業はまったく異なります。携帯電話回線はひとりで複数の契約をすることはそう多くありませんが、ポイントカードはひとりで複数持てる、つまり“併存”ができます。

 ひとつの加盟店で複数ポイントカードが使えるとなったときに、dポイントを選んでもらえるかどうか。財布のなかに入れてもらったりアプリを入れてもらったりというのは前提で、メインのポイントカードとして使っていただくということを、私は非常に重要視しています。

――dポイントの強みについて、あらためて教えてほしい。

伊藤氏
 ユーザーの声を聞いていると、実店舗(での利用)が強いという認識です。たとえばコンビニでも幅広く使えるなど、リアルの加盟店が増えてきていることは強みですね。ですから、加盟店を増やしていくのは重要なポイントだと思います。

 逆に言うとECが弱いというのは皆さんからも言われていることだと思うので、メルカリさんなどのパートナー強化は続けていって、「リアルをベースにしながらネットにも強みを発揮する」というのは目指したいです。

dカードやd払いのチームとの連携

――今回のポイント改定について、dカードやd払いのチームとの連携はあったのか。

伊藤氏
 彼らとは相当連携しました(笑)。

 なぜなら、ポイントの価値が上がることによって、dカードやd払いなどの価値も上がると思っているから。クレジットカードが「単なるプラスチックの板」だったらどれを選んでも同じだと思うんですけど、ポイント自体の魅力が上がれば、dカードを選んでもらえます。

 あと、すごく生々しい話になりますが、実は僕、dカードやd払いの立ち上げをやっていた人間なので、そっち側の気持ちももちろんわかります。ポテンシャルもわかっているので、連携は強くしました。

――dカードやd払いのチームからのリクエストは。

伊藤氏
 「ポイントの価値をとにかく上げてよ」というリクエストでした。彼ら自身が勝つために、ポイント自体が魅力的でないといけない。ユーザーがためたくなるようなdポイントを目指すと同時に、利便性も上げてほしいということもひたすら言われました。

 dカードなどを使えばポイントがいっぱいたまることがユーザーに伝われば、カードの利用も増えます。ですから、正直言うと予算はかかっちゃうんですけど、そういった部分を組み込んでいった感じですね。

新プログラムの構想から準備まで

――今回のプログラム改定にあたって、どれくらいの準備期間を要したのか。

伊藤氏
 1年ちょっとですね。

 実は「スーパー還元プログラム」というキャンペーンを以前実施したのですが、それは正直に言って評判があまり良くなく、認知度もそれほど高くありませんでした。そのときに「次はこれに代わるプログラムを用意する」という考えがあり、そのときから検討はスタートしました。

――「スーパー還元プログラム」の当初の課題感は。

伊藤氏
 キャンペーンだったので、エントリー制(応募手続きが必要なしくみ)を採用していました。そうすると、キャンペーンのことを知っている一部の人だけが恩恵を受けることになってしまいます。

 当時はそのようなキャンペーンが、dポイントクラブと併存しているような状況でした。これをシンプルに統合して、エントリー制ではない今回の新プログラムのようなかたちで、本当に幅広いユーザーの方に利便性を提供していこうということになりました。

――これまでのプログラムと新たなプログラムを比べた場合、どのような部分が最も大きく異なるのか。

伊藤氏
 今までのプログラムは、特典という点で、「ためる」ということに対してモチベーションがわきにくいものでした。

 たとえばこれまでは、「ポイントをためると応募の権利があります」みたいな感じでしたが、新たなプログラムでは、ユーザーのステージに応じてポイントの付与率がアップします。

新たなプログラムを“わかりやすいかたちで広めていく”取り組み

――新プログラムをわかりやすいかたちで広げていくうえで、重要だと考えていることは何か。

伊藤氏
 アプリのなかで、ユーザーの現在のランクなどを、どれだけわかりやすく表現できるかどうかにかかってくると思います。

 新たなシステムとして「ランク」などを発表すると、書面上ではどうしてもわかりづらくなる。実際に使っていただくなかで、わかりづらい点をすぐに改善していくことが重要だと考えています。

――アプリのUI・UXに関する考えを教えてほしい。

伊藤氏
 dポイントの強みは、通信料金やカード払いなどで、「いつの間にかたまっている」ということにあると思います。

 そういう強みを発揮するという意味においては、アプリで「今どれぐらいたまりました」ということを伝えていけるよう、UI・UXを磨くことが大事になります。以前は、認知度が低かったのが最大のネックだったので。

dポイントアプリのトップ画面
ランクアップ時の通知画面

――認知度、というのは何に対する認知度なのか。

伊藤氏
 会員プログラムというか、自分が今どの位置にいて、何のメリットがあるのか、ということがほぼ理解されていませんでした。

 ですので、今後は「お得なプログラムがある」ということの認知度を高めていければと思います。

――今は「dポイント」「d払い」「dカード」と、3つのアプリが存在する。

伊藤氏
 アプリが分かれていることには、メリット・デメリットがあります。分かれていると、それぞれのアプリからユーザーが入ってきてくれるという意味で、チャンスにはなります。

 もちろん、複数使っている人には「1つにまとめて」という考えもあります。ただ、アプリ自体の連携をシームレスにしていくことで、「2つのアプリなのに1つのアプリのような使い勝手」ということも実現できるはずです。

 我々としては、ユーザーメリットを考えながらやっていきたいと考えています。

新プログラムにおける変化など

――今回のプログラムでは、「ステージ」→「ランク」というかたちで、会員ステータスのネーミングが変わったが、これにはどういう意図があるのか教えてほしい。

伊藤氏
 まず名前を変えることによって、“変わった感”を出すことにしました。そうでないと、変化に気づかれないということもあるので。

 あとは、「ゴールドやプラチナといった表現では、どっちのステージが上なのか下なのかわからない」という話もあると思います。ですから、今回は万人にわかるようなものを目指すという意味でも、数字によるランク制を採用しました。

 あとは、うち(ドコモ)の企業イメージとして、「あまり変わらない」イメージもたぶんあると思います。ただ、これはahamoなどにも当てはまりますが、ユーザーニーズに対して合わせていくということをシンプルにやっていきたい。そういう意図もあって、いろいろ変えてみたという感じです。

――3月から判定が始まったが、ランクの分布に変化はあるのか。

伊藤氏
 これまでと大きくシステムが変わったので、正直に言って分布は大幅に変わっています。今後、実際にランクというかたちで表に出てくると、ユーザーの動き方はずいぶん変わってくるんだろうと予想しています。

――新型コロナの影響は、購買活動にどのような影響をおよぼしたのか。

伊藤氏
 右肩下がりかと言うとそんなことはなくて、実際はネットの購買が伸びていたので、リアルの落ち込みをネットの動きがカバーするどころか上回るような感じでした。

今後について

――新プログラムでは、クーポンの配布方法も変わる。これについてもう少し教えてほしい。

伊藤氏
 これまでは上位ステージのユーザーにのみ配るクーポンがありましたが、たとえばイオンさんの映画クーポンなども、6月からは全ユーザーに提供する予定です。

 幅広く使っていただけるようなクーポンを用意して、「ポイント」自体に興味がないような人たちにも、dポイントクラブのお得さや便利さを広げていきたいですね。

――ポイント自体の使い道について、拡充の予定はあるのか。

伊藤氏
 それこそ社会貢献のようなかたちでポイントを寄付するとか、ポイントの使い道を増やしていきたいということは考えています。

 先ほどのクーポンを含めて、ポイント以外のお得感を充実させていきたいです。

――加盟店との関係についてはどう考えているのか。

伊藤氏
 加盟店さんにとって、「dポイントと付き合っているとメリットがある」という世界観をきちっと作っていきたいと思います。

 今回のプログラム改定も、加盟店さんにとってプラスになるようにしていきたいです。あとは、もちろんプライバシーには配慮しつつ、ユーザーに対してお得な情報を提供しながら、加盟店への来店へつなげるしくみは強化していきたいですね。

――ドコモ回線の長期利用者向けの「長期利用ありがとう特典」では、誕生月にd払いの還元率がアップする。iDなどが対象にならないのが少し寂しい気もするが。

伊藤氏
 iDは、うちにとっても結構な競争力のある、良いサービスだと思います。iDを長く使ってくださっている方もいらっしゃるので、そのあたりはユーザーの声を見ながら考えていきたいと思います。

――改善について、どのようなスパンで行っていくつもりなのか。

伊藤氏
 ポイント系のサービスについては、あまり頻繁に変えてしまうとユーザー側の混乱につながるので、そう簡単には変えられない部分もあります。

 ただ、今までみたいに2~3年かけるわけではなく、1年スパンで変えられるところは変えていったり、すぐ変えられる部分をすぐ変えたり……ということは大事かなと思っています。

――今回の改定を受けて、たとえば「長期契約者にとっては改悪なのでは」という声もあった。こうしたユーザーの声は、どう受け止めているのか。

伊藤氏
 そういった声があったのも事実かなと思っています。

 ただ、うちにとって、長期契約していただいている方は、大切なユーザーですし、その人たちを軽んじるようなことは絶対にしたくないという気持ちがあります。

 一方で、dポイントプログラムという部分で、うちとのエンゲージメントがすごく強い人たちもいっぱいいるので、このあたりを両方大切にしたいという気持ちがありました。

 このあたりを踏まえつつ、どうバランスをとってどういう設計をしていくべきかということが、本当に難しかったですね。

 結果、基本設計としては「会員ランクの設計見直し」や「長期利用ありがとう特典」というかたちになりましたが、両方のユーザーを大切にしたい気持ちがあって設計しました。

 実際に新たなプログラムがスタートしたあとも、「使ってみたけどわかりづらい」みたいな声も出てくると思うので、ユーザーの皆さんに寄り添いながら、積極的な改善は続けていきたいと思います。

――ありがとうございました。