インタビュー

「ギガらく5G」サービス開始しローカル5Gに注力するNTT東日本、その狙いは

通信事業者に聞く「ローカル5G」への取り組み

 5Gを活用したソリューションの本格稼働に向け、SAサービスの開始と同様、ローカル5Gにも期待が高まっている。そこで、ローカル5Gの支援サービスを提供する主な通信事業者の、これまでの取り組みや提供サービス、今後の展開などを探っていきたい。今回は、5月から「ギガらく5G」サービスを開始した東日本電信電話(以下、NTT東日本)にお話を伺った。

 今回、弊誌のインタビューに応じたのは、NTT 東日本 ビジネス開発本部第三部門 IoTサービス推進担当部長 増山大史氏、ビジネス開発本部第三部門 IoTサービス推進担当部長 渡辺憲一氏、ビジネスイノベーション本部ソリューションアーキテクト部先端技術グループ長 門野貴明氏、ビジネス開発本部第三部門 IoTサービス推進担当課長 野間仁司氏の4名。

ローカル5Gの導入から運用までカバーするマネージドサービス「ギガらく5G」

――今年5月からサービスを開始した「ギガらく5G」は、どのようなサービスでしょうか。

NTT東日本 増山氏

増山氏
 はい。「ギガらく5G」は、ローカル5Gのマネージドサービスとなります。ローカル5Gの導入から運用まで、トータルで提供させていただくものです。具体的には、事前の電波シミュレーション、アンテナの最適な置局、ネットワーク設計、免許の取得、構築作業、運用中のサポートなどがすべて含まれています。

 弊社では、お客様のプライベートなネットワークの部分で、LANやWi-Fiのマネージドサービスを従来から提供してきました。店舗やオフィス向けに、アクセスポイントを設置するだけで使えるマネージドサービス「ギガらくWi-Fi」などが代表的ですが、ローカル5Gもこの延長線上で捉えています。

 過去2年ほど、ローカル5Gに関する多くの実証実験を積み重ねており、その中で得られた知見と直面した課題への対策を凝縮して「ギガらく5G」サービスを作り上げました。

――実証実験を通じて、どのような課題が浮かび上がったのでしょうか。

増山氏
 まずはコスト面で、導入時の初期費用だけでなく、保守運用の部分でも大きな費用がかかります。あわせて、免許申請やエリア設計など、導入に多くの工数が必要となります。

 また、ローカル5Gは、まずは小規模というか、試験的に導入されるケースが現状では多いので、手軽に導入できるシステムや体制が求められています。一方で、トライアルから本格導入へとシフトできる仕組みも必要です。

 また、ローカル5Gは、まずは小規模というか、試験的に導入されるケースが現状では多いので、手軽に導入できるシステムや体制が求められています。一方で、トライアルから本格導入へとシフトできる仕組みも必要です。

 また、お客様は、既にLANなどプライベートネットワークを組まれている場合がほとんどで、ローカル5Gをどう追加していくかも課題として挙げられます。「ギガらく5G」は、このような課題やニーズに応えるサービスとなっています。

――今お話いただいた課題やニーズは「ギガらく5G」の特長といえますね。

増山氏
 そうですね。先ほどの課題を踏まえ、大きく5つの特長があります。

 まず、キャリアグレードの5G SA機能を、トータルのITアウトソーシングと組み合わせてパッケージ化している点。2つ目に、アンテナなど機器ラインナップを複数用意し、お客様の環境に合わせて利用していただける点。3つ目はコストで、これまで5年間で総額1億円弱かかっていたところを、5分の1程度の水準に引き下げています。4つ目は、一括払いだけでなく、月額サブスクリプション型も選べるようにした点です。最後に、実証実験での導入から柔軟に増設でき、既存ネットワークにもアドオンできる点です。

――導入に際しては、どのような機器を設置することになるのでしょうか。

増山氏
 大きく、サーバと無線子機(RU)を設置することになります。サーバには、CUやDUなどの装置が含まれますが、すべての機器をまとめて19インチラックにマウントできるコンパクトな設計となっています。お客様がお持ちのラックに収めることも可能です。

 「ギガらく5G」では、データをルーティングするUPFもお客様側の環境に設置する方式を採用しており、LANやWi-Fiなど既設環境との接続が容易になっています。

 なお、ローカル5Gのコアは顧客側には設置せず、弊社データセンタ内に構築するクラウド型となります。サーバとクラウドコアをつなぐバックホールのVPN回線も、パッケージに含まれています。

 RUは、インドアとアウトドアの2種類あり、インドアRUはアンテナが内蔵されています。アンテナも、360度電波が飛ぶ無指向のものだけでなく、少し角度を絞りつつ距離を飛ばしたいなど、設置場所にあわせて選択いただけます。

――機能面でのポイントは、どのあたりにありますか。

増山氏
 アップリンク速度を高速化する準同期にいち早く対応しています。アップリンク速度は理論値で最大466Mbpsですが、我々の実測値でも400Mbps超の速度を確認しています。本当にしっかり速度が出ており、例えば4K映像をサーバーにアップロードするといった活用方法があります。

――「ギガらく5G」の料金体系はどのようになっていますか。

増山氏
 サブスクリプション型で月々お支払いいただく方式と、一括支払型の2つの料金プランがあります。

 サブスクリプション型の場合の概算として、サーバやクラウドコアなどの基本利用料が279,000円、インドアRUが24,000円で、あわせて月額30万円ぐらいから始められます。この料金の中には、運用保守やサポートなどのトータルITアウトソーシングが含まれています。

 別途必要となる工事費も、通信会社としてできるだけコストダウンをはかり、アンテナを1つ付けるぐらいであれば120万円程度からとさせていただきました。

検証施設「ローカル5Gオープンラボ」では、国内外5社のローカル5G基地局環境を整備

――お客様がローカル5Gの導入を検討する際に、事前にローカル5Gの性能などを体験できるような環境はございますか。

NTT東日本 渡辺氏

渡辺氏
 はい。弊社では、国立大学法人東京大学と共同でローカル5G検証施設「ローカル5Gオープンラボ」(以下、ラボ)を設立しており、見学いただけるようになっています。2020年7月のリニューアルオープン以降、約200社の方々に来訪いただきました。

 またラボでは、国内外5社のローカル5G基地局環境を整備しており、ユースケースの検証も進めています。一例として、ラボが設置されているNTT中央研修センタの敷地を広くローカル5Gエリア化して自動運転車両の遠隔監視・制御の実証実験をしたり、敷地内にビニールハウスを建てて遠隔で営農指導に取り組んだりしています。

――ラボに足を運ばれた企業に、業種などで傾向はありますか。

渡辺氏
 当初から製造業や物流関係の方が多く、その傾向は続いていますが、最近では土木・建設、交通など、裾野の広がりを感じています。提供されるサービスが増え、価格も下がってきているので、様々な企業・団体の方が現実的なローカル5G導入を検討され始めていると強く感じています。

――ラボの今後の取り組みについては、いかがでしょうか。

渡辺氏
 NTT中央研修センタの敷地には、さきほど実証実験の例としてお話した自動運転や農業ハウスのほか、無人運営店舗、ドローン、eスポーツなど、地域課題解決のDXソリューションを体験できる「NTTe-City Labo」が開設されており、ラボも当施設の一部となっています。様々なソリューションの通信基盤として、ローカル5Gの活用を進めていきたいと考えています。

ローカル5Gの提供で、産業DXや地域の課題解決推進を加速

――「ギガらく5G」は、過去2年ほどに行われた実証実験によるノウハウを活用して商品化されたとお伺いしました。どのぐらいの件数、実際に構築に携わったのでしょうか。

NTT東日本 門野貴明氏

門野氏
 ラボでの取り組みなど自社利用を除いて、2020年度と2021年度は毎年10件前後の構築実績があります。総務省の開発実証に関するものや企業からのニーズの両面で、農業、製造、物流、教育、建設、医療、働き方、eスポーツなど多くの分野でお引き合いをいただいています。

――その中で、代表的な事例を教えていただけますか。

門野氏
 総務省の開発実証については、総務省が運営するウェブサイト「GO! 5G」にて具体的な内容が掲載されていますので、ここではそれ以外の事例の中から、東京都立大学様のケースをご説明します。

 Sub6とミリ波の2つの周波数帯で、南大沢と日野の2つのキャンパス全体、合計49万㎡をカバーする広域ローカル5Gネットワークを構築しています。基地局やアンテナの数、電波の到達範囲として、私が知る限り、国内最大級のローカル5Gネットワークになっていると思います。

 これまでの取り組みでは、お客様のご要望にお応えするため、案件ごとに最適なソリューションを提供するスタンスを取っており、結果として国内外のほぼ全ての主要なローカル5Gベンダーの機器を活用した様々な構築実績を有していると自負しています。

――最後に、ローカル5Gの今後の可能性について、お聞かせください。

NTT東日本 野間仁司氏

野間氏
 これまで「ギガらく5G」や構築事例のお話をさせていただきましたが、ローカル5Gの提供で、産業DXの加速や地域の課題解決を目指していきます。弊社単独ではなく、パートナー企業や自治体などの皆様と連携しながら進めていきたいと考えています。

 例えば「ギガらく5G」をパートナー様にOEM提供してサービスとして仕立てていただいたり、逆にパートナー様のソリューションとローカル5Gを組み合わせて弊社がセットで提供したりと、いろいろな方法が想定されると思います。

 また、ローカル5Gだけでなく、Wi-FiやLPWAなど、様々なアクセス手段を組み合わせ、多様なニーズに対応できるプライベートネットワークを提供して参ります。

――本日はありがとうございました。