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NTTドコモ21年度決算は減収増益――NTT Comを含めた組織改革で営業体制とコスト体質の改善を目指す
2022年5月13日 00:00
NTTドコモは、2021年度の決算を発表した。営業収益は5兆8702億円(前年比-107億円、-0.2%)、営業利益は1兆725億円(同+126億円、+1.2%)となった。NTTコミュニケーションズ(NTT Com)を除く旧ドコモグループの営業収益は4兆7138億円(同-114億円、-0.2%)、営業利益は9279億円(同+147億円、+1.6%)となった。
どちらも減収増益の形となったが、成長領域のスマートライフ事業が好調で、業績予想よりも高い営業利益で着地した形となった。
決算説明会には、NTTドコモ代表取締役社長の井伊 基之氏が登壇し、2021年度の決算内容と2022年度以降に向けての方針を説明した。
ドコモの値下げとスマートライフ事業が成長した1年
2021年度について井伊氏は、ドコモについては、通信料の「戦略的な値下げ」を行った影響による減収減益効果が非常に大きかった一方、成長領域やコスト削減でカバーすることで増益に着地できたと分析。
NTT Comについては、ボイスサービスの減収があり1年にわたってソリューションやコスト削減でカバーするよう働きかけてきたが、計画未達となったと説明した。
成長のドライバーは法人とスマートライフ
事業を「法人」「スマートライフ」「コンシューマー通信」に分けた場合、成長のドライバーとなるのは「法人」と「スマートライフ」事業だと井伊氏は説明する。
井伊氏は「ドコモを総合ICT企業として成長させる」変革を実施するとし、法人事業についてはドコモとNTT Comを組織的に融合させ中期的に成長するような構造を作り上げるとした。これにより、新たなサービスの創出や大企業だけでなく中小企業や政府、自治体などすべての法人にリーチし、セグメント特性に合った営業体制を組むように構造を構築し直す方針を示した。
また、スマートライフ事業については「成長ペースを加速し、事業分野を拡大していかなくてはならない」との考えを示し、金融経済の事業領域だけでなく、マーケティングソリューションにも領域を広げ、収益面で1200億円以上の増額を達成したいとコメントした。
一方、コンシューマー通信は、5Gや5G SA(Stand Alone)などの新サービスも拡大しつつ、チャネル改革とネットワーク構造の改革に取り組み、収益とコスト両面で改革していくと説明した。値下げによる影響が大きい一方で、新規ユーザーを獲得しており、顧客基盤が拡大していると分析。井伊氏は、減益の幅を最小限にとどめるような取り組みを実施していきたいとした。
法人部門はモバイル・クラウド・ソリューションを強化
2022年度は対21年比+550億円を目指す法人部門は、クラウドソリューションの拡充と、ドコモとNTT Comそれぞれのアカウントをクロスセルさせ、減少傾向にあった旧来のサービスから新しいサービスへポートフォリオの入れ替えを行うことで増収傾向に持って行くという。
また、ドコモとNTT Comの統合とバックヤードの標準化を実施しコスト効率を高めるなどのシナジー効果により、営業利益も対21年比で+274億円を目指していく。
新体制では、2社の強みを活かし、モバイル/固定/クラウドを融合させたサービスをワンストップで提供する。
このほか、顧客の規模や層に分けたサービスも展開する。
大企業には、先進ソリューションをパートナー企業と共創する「Smart X/BBX」ビジネスを拡大し、社会や産業のDX化に貢献する。
中小企業や自治体に向けては、課題として残るDX化を支援できるサービスを展開する。地方においてもデジタル化を推進し、地方創生や分散社会の実現に貢献していきたいと井伊氏は説明する。
地方での営業活動強化に向け、全国の営業体制を7月に強化するという(後述)。
スマートライフ事業は新規領域へ拡大へ
スマートライフ事業では、対21年度比で+13%(1200億円)の増益を目指している。
増益のカギとなるのが、マーケティングソリューションや金融決済、ドコモでんきだと井伊氏は話す。
マーケティングソリューションや金融決済は利益にも非常に貢献するとしながらも、今後の事業を拡大させて行くには、数年間にわたって先進的な取り組みによる新しい分野への投資費用を使わなくてはいけないと説明。新規事業への取り組みを差し引いても増益になるようにしたいとした。
マーケティングソリューションに欠かせないのは、会員基盤が非常に重要だと井伊氏は分析。ドコモの8900万人の会員基盤について、行動履歴を分析し、dカードやdポイントによる仮想の顧客データベースなどでメーカーや加盟店の顧客行動を可視化し支援していく。
たとえば、このマーケティングソリューションを活用し、広告を出していけば、ヒット率の高い広告が打てる仕組みになるという。
これは、ドコモの会員プログラムの変更にも現れており、従来の「契約年数によるランク設定」から「dポイントの利用が多いユーザーを優遇」することで、全体の戦略を進められている。
ドコモでんきに関しては、顧客基盤の強化や再生可能エネルギー由来のカーボンニュートラルを実現するプランなどで中期的に取り組んで行く姿勢を示した。一方で井伊氏は「燃料費の高騰で厳しい事業環境」とし、様子を見ながらアクセルを踏みたいとやや慎重な構えを見せた。
新規領域の強化として、「ヘルスケア・メディカルケア」と「XR」を井伊氏は取り上げた。
ヘルスケア分野では、オンライン診療から服薬指導、EC事業までを一気通貫でサービスを提供する。
XR分野については、XR事業の企画会社を10月に設立し、ドコモの強みを使った「サービスからデバイスまでの一体提供」に向け事業化していきたいとした。
コンシューマー通信
通信量の値下げによる影響が大きいコンシューマー通信事業だが、2021年度の5G契約数は1153万人となった。2022年度は約2倍の2250万契約に持って行きたいと井伊氏は説明する。
5Gに関する新サービスにも取り組んで行くと共に、井伊氏は「チャネル改革」として、ドコモショップなどを含めて一体的に顧客接点を改革していくと説明した。
具体的には、リアルとオンラインを融合させ、ドコモショップを運営している代理店や地元企業と共にオンラインのチャネルを広げていくというものだ。
井伊氏は改革の理由について「かなりオンラインでの手続きが増加していることに加え、端末購入サイクルも長期化している。ドコモショップへの来店頻度も減少効果が続いている」とコメント。ドコモショップやコールセンターという括りだけではなく、オンライン接客などを取り入れたハイブリッドなものにしていくとした。
井伊氏はドコモショップについて「エリアごとに適切な数とか店舗規模をもう一度再設計したい」とコメント。コールセンターについても「コール数がそもそも減少しているため、拠点集約して生産性を上げていきたい」とし、オンラインシフトを加速させ、コスト体質にメスを切り込んでいく姿勢が示された。
また、ネットワークについて井伊氏は「4Gの周波数を活用し、5Gを2年間かけて全国すべての市町村に展開し、人口カバー率90%以上を実現していく」とコメント。
また、経済的かつ信頼性の高いネットワーク実現に向け、効率的な設備運用やDXによる生産性の向上などに取り組んで行くという。
なお、2021年の通信障害について井伊氏は「大変重く受け止めている」とコメント。これを踏まえ、NTT Comのネットワークをドコモに寄せるタイミングで、ネットワーク工事の作業をする部署とは別に工程管理をする組織を作るという。ベンダーや専門家を入れた第三者に手順書や工程をチェックしてもらい、問題がないかを確認しながらしっかりと体制を作っていくとした。
2030年カーボンニュートラル達成への取り組みを強化
2030年のカーボンニュートラル達成に向け、データセンターや5G関連設備に使用する電力について、再生可能エネルギーの導入を加速するという。
また、ユーザーコミュニティを開設し、ユーザーも巻き込んだグリーンの世界を一緒に進めたいと井伊氏は説明する。
このほか、ドコモオンラインショップでドコモ認定リユース端末の取り扱いを開始するなど、ユーザーとうまく組みながら進める方法も行っていくとした。
事業運営体制の強化
成長を加速させるため、組織改革を実施する。
スマートライフ事業では、サーボスごとの主管機能に加え横に横断する営業体制やデータ基盤を構築する機能を配置する。
地方への営業拡大を図るべく、地域マネジメント体制を強化させる。
ドコモでは、新たに首都圏と関東信越をカバーする支社を開設し、全国の10支社を5ブロックに分けるブロック制を導入する。
NTT Comでは全国に8支社を新たに設置するほか、ドコモビジネスソリューションズを創設し、地域中小企業向けの営業体制強化を図る。
5Gネットワークなど、主な質疑
質疑では、5Gネットワーク整備に関する質問があった。
――ドコモは周波数転用について積極的でなかったと思う。「なんちゃって5G」と呼んで警戒していた部分があったと思うが、今回4G周波数を転用することになった背景や理由を教えてほしい。
井伊氏
おっしゃるとおりで、(これまで)5Gの本来のスピードが出せるSub-6の周波数で2万局まで開設してきた。結果的に第三者の方々からも「やっぱり5G純粋だと早いよね」と評価を頂いていた。
一方で全国のデジタル田園都市構想を国が掲げており「5Gの拡大をもっと加速してほしい」という要請があった。その目標が23年までに90%ということで、我々としてはそこまで加速するのであれば、4G周波数の再利用を組み込まないと間に合わないという考えでございます。
ですから、いわゆる純粋な5Gも投資を続けますが、4Gの周波数も活用していくということです。
――5Gの投資金額が若干下がっているようだが、今後の設備投資の考え方を教えてほしい。
井伊氏
5Gは数年間かけて構築していくという本来の計画は変えていませんので、設備投資も全体の3分の1くらいが5Gネットワークへの投資になっていると考えています。この水準は、このまま維持していきたいと考えています。
――楽天モバイルがプラチナバンドをメガヘルツ分くれというようなことを主張されていますが、この点についてどう考えているのか?
井伊氏
総務省をはじめこういった議論をしているが、周波数の最大利活用については我々も賛同しています。しかし、既存のお客様をどういう風に移行していくのか、具体的な道筋やコストをどうするのかといったリアルな話を進めていかないといけないと。
1つのキャリアが周波数を独占するのではなく(期間を)有限にするという発想は世界でも取られていると思いますけれども、実際の移行方法ということを真剣に議論して、その道筋をつけないと、この問題についての結論はなかなか出ないのではというふうに思っています。
――今後の通信料値下げについて落ち着くタイミングがあるのか、考えを聞きたい。
井伊氏
2019年に行ったギガホ/ギガライトの値下げを含め、さまざまな施策を含めると値下げによる影響が2700億円ぐらいです。この影響は、ずっと続くわけではございませんので、ある程度下げ止まる時が来ると思っています。
今年来年はまだ影響が残ると思っています。その分を成長領域のサービスとコスト削減でどうカバーできるかという経営はしばらく続くと考えています。
ahamoなど10~20代の狙っている中大容量ユーザーについて、この値下げによって獲得できましたので、全体の数としては基盤の数が増えています。その分の収益が大きくしなったと言うことですが、ずっと続きますと大変苦しい状況となるので、25年までに法人とスマートライフを成長させていきたいという考えです。
コンシューマー通信事業については、水平もしくは少し上向くくらいを25年までに維持していきたいと思います。
――ahamoで20~30代のユーザーを獲得できたとあったが、スマートライフ事業への送客実績など21年度の評価や見通しを教えてほしい。
井伊氏
ahamo全体の半分以上が20~30代で、もちろん40~50代もいらっしゃいますが、60~70代の方はあまりいらっしゃいません。20~30代の方は我々が狙っていたものですが、ドコモからの移行はもちろん外から新規の方も結構取れています。
ただ、彼らは回線だけでは満足しなくて、せっかく使い放題に近いわけですから、大容量コンテンツをできれば有料の映像コンテンツをしっかり見てもらえるように我々はそこに努力しないといけないと思います。まだまだ力が足りないと思っています。
ahamo大盛りをリリースしましたが、分析してみると一人暮らしの方では光ファイバーやWi-Fiルーターを持っておられない方が結構いらっしゃるようです。そうすると、+1980円くらいで100GBまで使えるのであれば、Wi-Fiルーターや光回線を入れるよりも彼らのハードルは非常に低いわけです。6月からのサービスですので、それに見合うコンテンツやサービスを用意しないと「容量だけ売っている」だけでやっている意味がないと思っています。
まだまだソリューションが追いついていませんが、Netflix(ネットフリックス)のような他社のサービスに通信環境が利用される可能性もあり、ここを新しいスマートライフの映像事業のところで取り返して行きたいと思っています。
このほか、スマートライフ事業の金融決済分野については「22年度も21年と同じくらいのペースで伸ばしていきたい」と今後の見通しを示した上で、競争相手には負けているとし、ドコモのほかのサービスとの連携でユーザーを獲得していきたいとした。
なお、決算説明会について「年2回では回数が少ない、(上場廃止前の)毎四半期ごとにお願いしたい」という要望が参加した記者から出たが、井伊氏は「私が決められることではないので、要望を承ったということで……」とコメントした。
【追記 2022/05/13 17:34】
初出時、井伊社長の発言で、5Gの投資を「全体の半分」としておりましたが、ドコモ広報部より修正の案内があったため、記載を「全体の3分の1」に改めました。