法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

進化と改良のiPhone 14シリーズはどれを選ぶ? 見送り? それとも?

 今年もアップルからiPhoneの新ラインアップiPhone 14シリーズが発表され、国内では9月16日から販売が開始された。昨年のiPhone 13シリーズに引き続き、今年も画面サイズやカメラの仕様などが異なる4機種がラインアップされたが、各機種の仕様の差異や内容は、例年と違う構成となっている。

 旧モデルの併売や中古市場の拡大などもあり、ユーザーとしては最新のiPhone 14シリーズが気になる一方、ほかの選択肢も含め、どの機種を買えばいいのか、いつ買い換えるのがいいのかなど、悩ましい状況になりつつある。iPhone 14シリーズについては、すでに発表時の速報記事をはじめ、白根雅彦氏の連載「iPhone駆け込み寺」などでも詳細な情報が伝えられているが、今回はiPhone 14シリーズのどれを選ぶかなど、筆者から見たインプレッションをお送りしよう。

半数近いシェアを保持し続けるiPhoneだが……

 この数年で大きく様変わりした国内の携帯電話市場。2020年3月から各社が順次、提供を開始した5Gサービスを利用するため、5G対応端末への買い換えは急増しているが、2019年10月の電気通信事業法改正で端末購入補助が制限されたことで、端末購入価格が高騰し、売れ筋はハイエンドモデルから、お手頃なミッドレンジへのシフトが進んだ。

 折りたたみデザインのモデルなど、一部の機種を除けば、スマートフォンの機能的な進化は、やや停滞気味であるためだとする指摘もある。同時に、ユーザーが同じ端末を継続して利用する期間も延びる傾向にあり、端末価格の高騰の影響で中古端末への関心も少しずつ高まりつつある。かつてのように、最新機種が発表されてもすぐに飛び付かず、ひとまず情報をチェックしながら、じっくりと検討するユーザーが増えているようだ。

 そんな中、今年もiPhoneの新ラインアップiPhone 14シリーズが発表され、9月16日から販売が開始された。あらためて説明するまでもないが、ここ数年、iPhoneは国内市場において、半数近いシェアを保持し続けている。しかし、そんなiPhoneも最新のハイエンドモデルが一気に売れるという状況にはなく、「iPhone SE(第2世代)」や「iPhone SE(第3世代)」など、普及価格帯のモデルが占める割合が増えている。その一方で、昨年来、一部の家電量販店などで「iPhone 12 mini」や「iPhone 12」などの旧機種を中心に、端末購入補助の制限額である2万2000円を超える割引で販売されるなど、iPhoneならではの乱売も見受けられるようになってきた。

 iPhoneに対する評価や捉え方は、ユーザーによって、さまざまだが、統一された世界観とユーザビリティに対する評価は根強く、国内での半数近いシェアを支えている。しかし、最近は『高付加価値&高価格路線』に対する否定的な意見も聞かれ、機能面やスペックなど、端末としての進化に物足りなさを訴える指摘も多い。そういった意味からも今後、アップルがiPhoneをどのような方向性に展開していきたいのかも注目される。

ラインアップ構成が変わったiPhone 14シリーズ

 今回発表されたiPhone 14シリーズは、昨年に引き続き、4機種がラインアップされているが、冒頭でも触れたように、2020年のiPhone 12シリーズ、2021年のiPhone 13シリーズの各4機種とはラインアップの構成が異なる。具体的には、5.4インチディスプレイを搭載したコンパクトな「iPhone 13 mini」の後継モデルがラインアップから外れ、新たに6.7インチディスプレイを搭載した「iPhone 14 Plus」が追加された。

9月16日から販売が開始されたiPhone 14シリーズの3機種。左から順に「iPhone 14 Pro」「iPhone 14 Pro Max」「iPhone 14」の3台。

 2020年に発売された「iPhone 12 mini」は、「iPhone SE(第三世代)」や「iPhone SE(第二世代)」よりもコンパクトな64.2mmというボディ幅で仕上げられ、コンパクトな端末の人気が根強い国内市場でも支持されるのではないかと期待されたが、市場の反響は芳しくなく、すでに昨年のiPhone 13シリーズが発表される前から「次期モデルにはminiがないかもしれない」と噂されていた。結局、昨年の「iPhone 13 mini」は発売されたが、今年のiPhone 14シリーズでラインアップから外れる形となった。「iPhone 12 mini」や「iPhone 13 mini」の反響が芳しくなかった背景には、発売当時の価格が最少容量モデルでも7万4800円(iPhone 12 mini/64GB)、8万6800円(iPhone 13 mini/128GB)と、やや高めだったことが少なからず影響している。

 そして、今年、『mini』と入れ替わる形でラインアップに加わったのが「iPhone 14 Plus」になる。『Plus』は2017年の「iPhone 8 Plus」以来、5年ぶりに付けられたネーミングで、スタンダードモデルの「iPhone 14」よりも大画面の6.7インチディスプレイを搭載したモデルになる。

 ここ数年、国内でも動画視聴の拡大により、大画面ディスプレイを搭載したモデルが注目されているが、グローバル市場ではもう何年も前から大画面モデルが非常に高い人気を得ている。国と地域によって、差はあるが、たとえば、アジア圏などでマーケット(市場)に出向くと、店番をしながら、スマートフォンで映画やスポーツ中継などの動画を楽しんでいる人を何度も見かける。こうしたユーザーを中心に、大画面モデルへのニーズが高いわけだ。

 iPhoneについては、2018年のiPhone XS/XRシリーズ以降、大画面ディスプレイを搭載したモデルがは『Pro Max』の名を冠したProモデルのみが展開されてきたが、価格が一段と高いため、一般的なユーザーのニーズに応えることができておらず、今回の「iPhone 14 Plus」で軌道修正することになった。ただし、「iPhone 14 Plus」はほかのiPhone 14シリーズの3機種と違い、発売が10月7日と遅いため、今回は試用することができていない。実機を入手次第、改めてレポートをお送りしたい。

進化の内容が異なる4機種をラインアップ

 ラインアップの構成が変わったiPhone 14シリーズだが、4機種の仕様をチェックすると、「iPhone 14」「iPhone 14 Plus」がスタンダードモデル、「iPhone 14 Pro」と「iPhone 14 Pro Max」がProモデルに位置付けられる。こうした区分は従来のiPhone 13シリーズやiPhone 12シリーズを継承しているが、今年は「iPhone 14 Plus」の追加以外に、少し内容の異なる点がある。

 これまでのiPhoneは「iPhone SE(第三世代)」などの普及価格帯向けのモデルを除けば、チップセットや対応周波数などの基本仕様を世代ごとにほぼ共通化したモデルを展開してきた。違いがあるとすれば、ディスプレイのサイズやバッテリー容量など、ボディサイズなどに起因するものに限られていた。

 これに対し、今年のiPhone 14シリーズは従来モデルと比較して、進化の内容が少し違っている。たとえば、iPhoneの心臓部とも言えるチップセットをチェックしてみると、Proモデルの「iPhone 14 Pro」と「iPhone 14 Pro Max」には最新のA16 Bionicが搭載されているのに対し、「iPhone 14」と「iPhone 14 Plus」には昨年のiPhone 13シリーズと同じA15 Bionicチップが搭載されている。

 ちなみに、A15 Bionicは組み込まれているCPUコアとGPUコアの違いなどにより、複数の種類が存在するが、「iPhone 14」と「iPhone 14 Plus」には昨年のProモデルに搭載された「6コアCPU/5コアGPU」のA15 Bionicが搭載されている。つまり、昨年のProモデルと同等のチップセットを今年のスタンダードモデルに継承したことになる。こうした構成にした理由は明示されていないが、当然のことながら、単価も違うため、コストを抑えたいという考えもあるのだろう。

 その一方で、A16 BionicチップとA15 Bionicチップの性能差は、CPU性能で十数%、GPU性能で20%程度という指摘もあり、一般的な利用シーンでは明確な性能差をなかなか実感できそうにない。もちろん、チップセットがすべてではなく、後述するカメラやディスプレイなどもスタンダードモデルとProモデルで違うため、一概に比較できないが、例年に比べると、機種によって、旧機種からの進化に差があることを理解しておく必要がありそうだ。

スタンダードモデルとProモデル

 さて、スタンダードモデルとProモデルは、旧機種からの進化の内容に差があるものの、それぞれの区分や方向性は、基本的に昨年のiPhone 13シリーズと大きく変わらない。

 まず、スタンダードモデルはインターネットやSNS、メール、カメラ、エンターテインメント、ゲームなど、一般的な用途を幅広いユーザーが楽しむために作られたモデルになる。ゲームについてはタイトルによって、求められる性能が違うが、「iPhone 14」は「iPhone 13」から内部の設計を見直し、熱管理性能を向上させているため、高負荷のゲームをプレイしたときの発熱は、「iPhone 14」の方が抑えられているようだ。ちなみに、この内部設計の見直しにより、背面ガラスを外せるようになったことで、修理時の整備性も向上させているという。

 スタンダードモデルの本体はアルミフレームを採用し、「iPhone 14」は従来モデルとほぼ同じサイズで、重量が1g軽い172g、厚さが0.15mm厚い7.65mmで仕上げられている。ボタン位置や各部のレイアウトは変わらないが、カメラ部の大きさが1mm程度、大きくなっているため、アップルの純正ケースは互換性が区別されている。サイズを少し緩く作っている市販のケースなどは流用できるものがあるかもしれない。

 スタンダードモデルのストレージは、従来と同じで、128/256/512GBの3種類。背面カメラはメイン(広角)と超広角のデュアルカメラで、画素数も同じ12MP、カメラを対角に配したレイアウトも同じだが、メインカメラには従来よりも大きい1.9μmのイメージセンサーを採用しており、カメラ部や円筒形のレンズ部分のサイズはわずかに大きくなっている。レンズもF値1.6からF値1.5に向上させており、ナイトモードでの露光が明るくなり、暗いところでの撮影を強化している。フロントカメラがオートフォーカスに対応したことも「iPhone 13」と大きく異なる点のひとつだ。

 一方、「Pro」の名を冠した2機種は、撮影した写真や動画を端末内で編集したり、AppleProRAWによる写真、Apple ProResによるビデオなど、よりプロフェッショナルかつクリエイティブなユーザーが活用できることを狙ったモデルになる。

 Proモデルの本体は、「iPhone 13 Pro」などと同様に、ステンレスフレームを採用する。ボディサイズは「iPhone 14 Pro」「iPhone 14 Pro Max」でそれぞれに従来モデルと違う。「iPhone 14 Pro」は「iPhone 13 Pro」に比べ、高さで0.8mm増、厚さで0.2mm増、重量で3g増。「iPhone 14 Pro Max」は「iPhone 13 Pro Max」に比べ、高さで0.1mm減、幅で0.5mm減、厚さで0.2mm増、重さで2g増となっている。ちなみに、従来の「iPhone 13 Pro」は「iPhone 13」と外寸がほぼ同サイズで、ケース類も共通で扱われていたが、今回の「iPhone 14 Pro」は「iPhone 14」とも「iPhone 13 Pro」ともサイズが違う仕上がりのため、ケース類はそれぞれ専用のものを利用する必要がある。

 Proモデルのストレージは、従来に引き続き、128/256/512GB/1TBの4種類になる。1TBが必要かどうかは使い方次第だが、AppleProRAWやApple ProResによる撮影で、写真やビデオを多く撮影するユーザーは検討する価値はあるだろう。カメラはメイン、広角、超広角のトリプルカメラで、メインカメラについては従来の12MPから48MPに変更されている。カメラ部のレイアウトは「iPhone 13 Pro」「iPhone 13 Pro Max」を踏襲しているが、イメージセンサーが変更されたことで、レンズ部の大きさなどが違う。48MPイメージセンサーを採用したメインカメラは、ほかのスマートフォン同様、4つの画素を1つの画素として、より多くの光を取り込む『ビニング』により、暗いところでも明るく撮影できるようにしている。ちなみに、「iPhone 14 Pro」「iPhone 14 Pro Max」のカメラは基本的に共通仕様となっている。フロントカメラのオートフォーカス対応はスタンダードモデルと同じだ。

 昨年のiPhone 13シリーズのレビューでも触れたが、スタンダードモデルとProモデルは仕様と方向性の違いが徐々に明確になっており、それが価格差にも表われている。スタンダードモデルは一般的な利用シーンに適したモデルであるのに対し、Proモデルはクリエイティブなユーザーのニーズに応えられる仕様へと進化を遂げている。

 ただ、この「クリエイティブな~」という表現は、人によって解釈が違うため、少し注意が必要かもしれない。たとえば、AppleProRAWで写真を撮影したり、Apple ProResでビデオを撮影し、これらのデータをiPhoneやiPad、MacBookを使い、露出やホワイトバランス、カラーなどを調整したり、編集するのであれば、Proモデルが視野に入るが、カメラで写真やビデオを日常的に撮影し、写真の切り出しや調整など、ちょっとした加工をしたうえで、SNSなどに投稿するのであれば、スタンダードモデルで十分なはずだ。

 もちろん、予算が許せば、Proモデルがベターだが、カメラやチップセットのスペックが高いからと言って、最新のProモデルを選ぶのは人によって、やや「Too Much」な印象も残る。このあたりの見極めは人それぞれだが、自分が利用する期間や予算、求める機能などを十分に考慮したうえで、じっくりと選ぶ方が賢明と言えそうだ。

iPhone 14シリーズの共通仕様をチェック

 iPhone 14シリーズの各機種を説明する前に、4機種の共通仕様について、チェックしてみよう。くり返しになるが、「iPhone 14 Plus」は10月7日発売のため、明らかになっている範囲での比較であることをお断りしておく。

 まず、4機種はそれぞれのボディサイズが異なるものの、基本的なデザインは従来の流れを踏襲しており、共通化されている。前後面はフラットで、側面もほぼ垂直でフラットな仕上げになっており、かつてのiPhone 4sなどを彷彿させるデザインとなっている。

 ボディ周りの仕上げについては、スタンダードモデルとProモデルで明確に分かれている。「iPhone 14」(おそらく「iPhone 14 Plus」も共通)は側面のアルミフレームをマットに仕上げ、背面のガラスを光沢に仕上げている。

 これに対し、「iPhone 14 Pro」と「iPhone 14 Pro Max」のProモデルは、ステンレスフレームを光沢で仕上げ、背面ガラスをマットに仕上げている。この対照的なデザインは従来モデルから続くものだが、スタンダードモデルの背面やProモデルの側面の光沢仕上げは、いずれも指紋や手の跡などがかなり目立つうえ、落下時などに傷が付くことも予想されるため、カバーを装着した方がベターだろう。欲を言えば、このデザインもそろそろ見直して欲しいところだが……。IP68準拠の防水防塵、FeliCa搭載のApple Payなどの仕様は、全モデル共通となっており、これまでのiPhoneと同じように利用できる。

iPhone 14シリーズ3機種の背面。従来モデルに引き続き、左から順に「iPhone 14 Pro」「iPhone 14 Pro Max」「iPhone 14」の3台。背面はProモデル(左の2台)がマット仕上げで、スタンダードモデル(右の1台)は光沢仕上げ

 ディスプレイは「iPhone 14」と「iPhone 14 Pro」が6.1インチ、「iPhone 14 Plus」と「iPhone 14 Pro Max」が6.7インチの2種類で構成され、いずれもSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)と表記されている。ただし、「iPhone 14 Pro」と「iPhone 14 Pro Max」は最大120Hzのアダプティブリフレッシュレートを持つProMotionテクノロジーに対応し、なめらかな表示が可能なほか、待機時に情報を表示する常時表示ディスプレイが利用できるなどの違いがある。こうした機能差は実使用時になかなか体感しにくいものが多いが、リフレッシュレートと常時表示ディスプレイはいずれも実感できるレベルの差異であり、スタンダードモデルとProモデルの差別化要因のひとつなっている。むしろ、スタンダードモデルの60Hzというリフレッシュレートがほかのライバル機種と比べても物足りないというのが本音だが……。

「iPhone 14」と「iPhone 14 Pro」
同じ対角サイズの6.1インチディスプレイを搭載した「iPhone 14」(左)と「iPhone 14 Pro」。ディスプレイ上部のノッチと楕円パンチホールが大きく異なる

 カメラについては、前述の通り、スタンダードモデルとProモデルで仕様が異なるが、共通仕様として、画像の高度化技術「Photonic Engine」を搭載する。スマートフォンのカメラはイメージセンサーから取り込んだ光を電気信号に置き換え、画像処理をすることで、最終的な写真や動画を生成しているが、複数の画像データを合成する技術であるDeepFusionを使い、圧縮前の情報を組み合わせることで、高品質な写真を撮影できるようにしている。こうした複数枚の画像データの処理はスマートフォンのチップセットの性能によって、大きく左右されるが、iPhone 14シリーズではA16 BionicやA15 Bionicの高い処理性能によって、実現しているわけだ。

従来モデル同様、ポートレートで撮影した写真は照明の加工などができる。縦画面と横画面のどちらでも操作しやすいユーザーインターフェイス

 また、もうひとつカメラ周りの共通仕様として、新たに搭載されたのが動画の手ぶれ補正「アクションモード」だ。動画撮影と言えば、子どもやペットなどの動きを撮影するシチュエーションを想像しがちだが、撮影者がある程度、早く動くと、どうしてもカメラが動いてしまい、ぶれの大きな見づらい映像になってしまう。

 そこで、iPhone 14シリーズのアクションモードでは、手ぶれ補正と画像処理を加えるにより、本体と撮影者が動くことによるぶれを抑えられるようにしている。発表イベントでもアクションモードをON/OFFした映像を並べて見せていたが、ジンバルにセットしたときのような安定した映像を撮影できている。実際の利用シーンとiPhoneの持ち方(手に持って、何キロも走れない)次第だが、iPhone 13シリーズ以前とは明確に違うポイントなので、動きながら動画を撮りたいユーザーにとっては、要チェックの機能と言えそうだ。

 また、生体認証については、iPhone 14シリーズにおいても「Face ID」が継続して、採用された。コロナ禍の環境においては、マスクの着用が必要なため、顔を立体的に捉えるFace IDは認識されないことが多く、ユーザーからは画面内指紋センサーや電源ボタン内蔵指紋センサーの採用を期待する声が挙がっていた。

 これに対し、アップルは2021年4月公開のiOS 14.5でApple Watch着用時に画面ロックを解除できることを可能にし、今年3月公開のiOS 15.4ではiPhone 12シリーズ以降を対象に、マスクを着用したまま、Face IDで画面ロックを解除できるようにしている。これらのソフトウェアの改良によって、ユーザーの利用環境の改善ができたため、当面、iPhoneのナンバリングシリーズにおいては、Face IDの採用を堅持していくことが予想される。

 ただし、Face IDはインカメラ単体で動作しているわけではなく、ドットプロジェクターや投光イルミネーター、赤外線カメラなどのセンサー類を組み合わせたTrueDepthカメラシステムとソフトウェアに実現されている。そのため、部品数も多く、ディスプレイ上部にノッチ(切り欠き)を作り、そこに収める形で対応してきた。このノッチは全画面表示時にコンテンツが途切れるため、違和感を指摘する意見も多かったが、ほかのスマートフォンがインカメラのノッチを小型化したり、パンチホールに切り替えてもアップルは切り欠きデザインを維持してきた。

 ところが、今回はProモデルにおいて、ディスプレイ上部に楕円型のパンチホールを開け、そこにTrueDepthカメラを収めるデザインを採用している。しかも楕円パンチホールの部分をうまく活かしながら、通知などを表示する「Dynamic Island」と呼ばれる機能を実装している。Face ID認証時にアニメーションを表示したり、着信時に連絡先をポップアップ表示をしたり、バックグラウンドで音楽を再生しているときにジャケット写真やイコライザーのアニメーションを表示するなど、パンチホールを意識させず、むしろユーザーを楽しませるような方向性で実現されており、アップルらしさを感じさせる。ちなみに、スタンダードモデルは従来通りのノッチにTrueDepthカメラが収められており、この部分のデザイン変更はない。

Proモデルの2機種に搭載された楕円パンチホール「Dynamic Island」は通知などが表示されるほか、着信時には連絡先がポップアップして表示される。パンチホールを意識させないユーザーインターフェイスはアップルらしい仕上がり

 ネットワークについては従来に引き続き、iPhone 14シリーズも国内各社の5Gネットワークに対応する。ミリ波への対応は米国とプエルトリコのみのため、国内各社のネットワークを利用するときは、Sub6をはじめ、4G LTEからの転用周波数などでも利用できる。NTTドコモが9月に提供を開始した「SA」(StandAloneモード)については、従来モデルを含め、対応機種に含まれていないため、現時点では非対応ということになる。

 SIMカードについては従来同様、nanoSIMカードとeSIMのデュアルSIMでの利用が可能で、デュアルeSIMの利用にも対応する。eSIMについては機種変更時などに、古い端末から新しい端末にeSIMの情報を移すことができる「eSIM クイック転送」がiOS 16で実装されている。すべての事業者で利用できるわけではなく、国内ではau、UQモバイル、povo 2.0、楽天モバイルが対応しており、KDDIの3ブランドについては物理SIMカードからeSIMへの変換も提供される。

 先般のKDDIの大規模障害でデュアルSIMや複数回線の利用が注目を集めたが、iPhoneについてはeSIMの利用環境が充実することで、今後、eSIMでの利用が拡大するかもしれない。ちなみに、米国向けモデルはSIMカードスロットが廃され、eSIMのみで利用するという、かなり思い切った仕様になっており、将来的に米国以外で販売されるモデルにも拡大するかどうかが注目される。

SIMカードスロットも従来同様、nanoSIMを1枚のみ、装着可能。eSIMにも対応しており、povoなど、一部のサービスはnanoSIMからeSIMへの転送にも対応する

 バッテリーについては各モデルごとに容量が違うものの、いずれも1日中、利用できるとしており、「iPhone 14 Plus」については発表イベントでも『iPhone史上最長のバッテリー駆動時間』とアピールされていた。

 実使用時間は用途によって異なるが、アップルが示した連続使用時間によれば、従来のiPhone 13シリーズに比べ、3~5%程度はロングライフ化を実現している。今回はカメラ撮影や動画視聴などを一定時間、試したが、これまでのiPhone同様、バッテリー残量の減りは緩やかだった。

 充電は本体下部のLightning端子、背面に装着するMagSafe対応充電、Qi対応のワイヤレス充電を利用する。パッケージにはUSB Type-C - Lightningケーブルが同梱されているのみで、電源アダプター(充電器)は含まれないため、市販のものを購入する必要がある。Lightning端子による充電は最大20Wの高速充電(急速充電)に対応し、標準サイズの「iPhone 14」と「iPhone 14 Pro」は約30分で最大50%、大きいサイズの「iPhone 14 Plus」と「iPhone 14 Pro Max」は約35分で最大50%まで充電ができる。基本的にはiPhone 13シリーズと同レベルだが、ほかのプラットフォームでは今やエントリークラスのモデルでも30W程度の急速充電に対応しており、シャオミやOPPOの上位モデルでは100Wオーバーの超高速充電も実現していることを鑑みると、iPhoneでももう一歩、進んだ充電環境が欲しいところだ。

「iPhone 14 Pro」のパッケージ内。電源アダプタ(ACアダプター)の同梱はなくなり、USB-C - Lightningケーブルのみが同梱される。ほかのiPhone 14シリーズも同様

 ちなみに、iPhoneの今後の充電環境を考えるうえで、重要なのが外部接続端子だ。iPhoneは最初期のモデルでDock端子を採用し、2012年発売の「iPhone 5」以降は独自規格であるLightning端子を採用している。Lightning端子を採用した背景には、サードパーティ製の充電器やケーブルなどで発火などのトラブルが相次いでいたことが関係しており、Lightning端子対応製品はMFi(Made for iPhone)認証を取得し、対応チップを内蔵した製品のみ、利用できるようにしている。安全性を重視するアップルらしい取り組みと言えるが、ほかのスマートフォンやパソコン、タブレット、電子機器など、デジタル製品市場全体を見渡してみると、すでにUSB Type-Cが主流になっており、充電器ひとつで多様なデバイスを充電できる環境が整っている。これに加え、EUの執行機関である欧州委員会では、スマートフォンなどの電子機器の充電方法をUSB Type-Cに統一する法案を提出し、2024年にも施行される予定となっている。

 これにより、iPhoneのLightning端子は排除される形になるため、アップルとしては何らかの対策を打ち出さなければならない状況だが、もし、USB Type-Cへの移行が強制されれば、今回のiPhone 14シリーズが最後のLightning端子対応のiPhoneになるかもしれない。USB Type-C外部接続端子そのものは、すでにiPad miniなどで採用済みだが、今後、「iPhone 15シリーズ」(仮)など、次期iPhoneで外部接続端子がUSB Type-Cに変更されれば、急速充電をはじめ、パソコンなどへのデータ転送速度は大きく改善することになるかもしれない。

各機種の特徴をチェック

 iPhone 14シリーズのスタンダードモデルとProモデルの区分やシリーズの共通仕様に続いて、それぞれの機種の項目別の特徴について、チェックしてみよう。

標準的な位置付けの「iPhone 14」

 iPhone 14シリーズのラインアップにおいて、もっとも標準的な位置付けになるのが「iPhone 14」だ。「iPhone 12」や「iPhone 13」の流れを継承するデザインで、アルミフレームに光沢仕上げの背面ガラスで構成するデザインとなっている。

 前述の通り、本体の内部設計は見直され、放熱効果も改良されているが、側面のボタン類やスイッチの位置は「iPhone 13」から変更されていない。厚みは0.15mm増のため、市販品のケースは製品によって、利用できない可能性がある。背面カメラはイメージセンサーのサイズが変更されたため、カメラ部がわずかに大きくなっている。重量は172gで、ここ数年のiPhoneで初とも言える1gの軽量化を実現している。カラーはミッドナイト、パープル、スターライト、(PRODUCT)RED、ブルーの5色展開。

アップル「iPhone 14」、約146.7mm(高さ)×71.5mm(幅)×7.80mm(厚さ)、約172g(重量)、ミッドナイト(写真)、パープル、スターライト、PRODUCT RED、ブルーをラインアップ
「iPhone 14」の背面は光沢仕上げのガラスを採用。指紋や手の跡が目立ちやすい
「iPhone 14」の側面はアルミフレームのマット仕上げ。左側面には分割式の音量キー、 着信/サイレントスイッチ、ピンで取出すタイプのSIMカードトレイを備える
「iPhone 14」の右側面には電源キーを備える。マット仕上げのため、指紋や手の跡は目立ちにくい
本体下部にはLightning外部接続端子を装備。今後、iPhoneの外部接続端子がどうなっていくのかが気になるところ

 ディスプレイは引き続き、6.1インチSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)を搭載する。解像度は2532×1170ドット表示で、ノッチ部分の大きさも「iPhone 13」と共通。True Toneディスプレイや広色域表示、200万対1のコントラスト比、最大輝度800nit、ピーク輝度1200nitの明るさなども「iPhone 13」と共通で、基本的にはほぼ同じのディスプレイを採用していると推察される。リフレッシュレートも60Hz固定のため、後述する「iPhone 14 Pro」と「iPhone 14 Pro Max」と違い、常時表示ディスプレイが利用できず、画面ロック時に何も表示されない。昨年の「iPhone 13」の記事でも指摘したが、他社ではミッドレンジクラスの製品でも可変リフレッシュレート対応のディスプレイを採用し、滑らかな表示や省電力を実現していることを鑑みると、進化の物足りなさが残る。

「iPhone 14」と「iPhone 13」を並べてみたところ。パッと見で、見分けが付かないほと、外観の差分は少ない
「iPhone 14」(左)と「iPhone 13」(右)のノッチ部分の比較。基本的にはサイズなども変わらない

 バッテリー容量は公表されていないが、海外の分解サイトなどの情報によれば、「iPhone 14」は3279mAhのバッテリーを内蔵しており、「iPhone 13」の3227mAhよりもわずかに容量を増やしている。iPhone 13シリーズではProモデルの「iPhone 13 Pro」よりもスタンダードモデル「iPhone 13」の方がわずかにバッテリー容量が大きかったが、今回もその傾向が引き継がれており、「iPhone 14 Pro」の3200mAhよりも「iPhone 14」の方がわずかに大きい。もっともこの程度の差であれば、実用上の差はそれほど大きくないとも言える。

 今回のiPhone 14が従来モデルと比べ、もっとも進化した点のひとつがカメラだ。メインカメラの画素数は「iPhone 13」などと同じ12MPだが、ピクセルサイズが1.9μmと大きく、レンズのF値も1.5に向上している。ピクセルサイズはイメージセンサーのひとつの画素のサイズを表わすもので、これが大きければ、より多くの光を取り込めるため、暗いところでも明るく写真を撮ることができる。最終的な仕上がりは画像処理などによって、変わってくるが、イメージセンサーの対角サイズ(AQUOS R7の1.0型センサーなど)と同様に、カメラの性能を大きく左右する。前述のPhotonic Engineによる画像処理の効果とも相まって、実際の撮影でも非常にバランスのいい撮影ができており、いつもの薄暗いバーでも美しく撮影ができている。

「iPhone 14」の背面に備えられたメインカメラ。画素数は従来と同じだが、イメージセンサーのサイズが大型化している
「iPhone 14」(左)と「iPhone 13」(右)の背面カメラの比較。イメージセンサーが大きくなったこともあり、カメラ部やリングのサイズもわずかに異なる
「iPhone 14」のポートレートで撮影。モデル:あさみん(Instagram)/(ボンボンファミン・プロダクション
「iPhone 14」のポートレートを使い、横ワイドで撮影。背景だけでなく、手に持っている「iPhone 14 Pro」も少しボケが効いていながら、人物にはしっかりとピントが合っている

 価格はストレージ容量(128GB/256GB/512GB)と取り扱いルートによって違うが、いずれのモデルも11万円を超えており、1年前のiPhone 13発売時に比べると、3万円前後の値上げとなっている。各社が提供する端末購入プログラムでは、もっとも安価な128GBモデルでも月額3000円以上の負担になり、2年後に端末を返却したとしても実質負担額は約7~8万円になってしまう。iPhone 13に比べれば、カメラ性能などが向上したものの、それ以外は今ひとつ進化に物足りなさが残るだけに、価格差はかなり悩みどころかもしれない。

新しい世代へ動き出した「iPhone 14 Pro」

 iPhone 14シリーズのラインアップにおいて、標準サイズのProモデルが「iPhone 14 Pro」だ。前述のように、Proモデルは世代を重ねるごとに、クリエイター指向を強めているが、今回の「iPhone 14 Pro」は「iPhone 13 Pro」以前のモデルからディスプレイ周りのデザインを変更するなど、新しい世代へ一歩を踏み出したモデルとも言える。

 本体はステンレスフレームを採用し、ボディ幅は「iPhone 14」や「iPhone 13 Pro」と同じ71.5mmだが、高さは「iPhone 14」や従来モデルよりも長い147.5mm、厚さもこれまででもっとも厚い7.85mmとなっている。カメラモジュールの仕様が変更されたこともあり、カメラ部の突起も増え、実測値で11.9mmとなった。従来の「iPhone 13 Pro」が「iPhone 12 Pro」に比べ、カメラ部の厚みが0.6mm増の10.9mmだったため、「iPhone 14 Pro」はさらに1mm増という計算になる。イメージセンサーが大きくなれば、レンズも大型化し、焦点距離を稼ぐため、厚みが増す傾向にあることはしかたないが、カメラ部の突起は落下時や衝突時にも影響が懸念されるため、もう少し工夫が欲しいところだ。ユーザーとしてはカバーなどを装着して、対処するしかなさそうだ。

アップル「iPhone 14 Pro」、約146.7mm(高さ)×71.5mm(幅)×7.85mm(厚さ)、約206g(重量)、ディープパープル(写真)、スペースブラック、シルバー、ゴールドをラインアップ
「iPhone 14 Pro」の背面はマットなガラス仕上げ。中央のアップルのロゴマークは光沢仕上げで、それぞれのボディカラーに合わせたカラーが採用されている
「iPhone 14 Pro」の側面はステンレスフレームの光沢仕上げ。左側面には分割式の音量キー、 着信/サイレントスイッチ、ピンで取出すタイプのSIMカードトレイを備える
「iPhone 14 Pro」の右側面には電源キーを備える。側面は光沢仕上げのため、指紋や手の跡がかなり目立ってしまう。ケースを装着して、あまり目立たないようにしたい
「iPhone 14 Pro」のカメラ部は、イメージセンサーの大型化に伴って、全体が少し大きくなったため、ケース類はほぼ流用できない
本体下部にはLightning外部接続端子を装備

 また、ボディ周りでは重量も増え、「iPhone 14 Pro」は従来に比べ、3g増の206gとなった。各社のハイエンドスマートフォンでも200g級のモデルは数多く存在するが、「iPhone 14 Pro」と同程度の6インチ級のディスプレイを搭載したモデルで比較すると、170~180g程度に抑えられており、今回もProモデルは結構なヘビー級であることがよくわかる。この点も毎回、指摘しているが、やはり、スマートフォンは常に持ち歩くものであり、多くのユーザーがカバーなどを装着することを考えると、もう少し軽量化を検討して欲しいところだ。

 ディスプレイは「iPhone 14」と同サイズの6.1インチSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)を搭載する。解像度は「iPhone 14」よりもわずかに広い2556×1179ドット表示で、True Toneディスプレイや広色域表示、200万対1のコントラスト比などは「iPhone 14」と共通仕様となっている。明るさについては標準で1000nit、HDR表示時に1600nit、屋外時に2000nitと、「iPhone 13 Pro」よりも明るくなっている。

 「iPhone 14 Pro」のディスプレイで注目されるのは、常時表示ディスプレイと楕円パンチホールをうまく活かした「Dynamic Island」だろう。常時表示ディスプレイは前述の通り、新たに可変リフレッシュレートに対応したことで実現できた機能で、待機中も時刻や通知などが表示される。iPhone 13シリーズ以前のモデルも画面オフの状態で、画面をタップすれば、すぐに画面がオンに切り替わったが、有機ELディスプレイを搭載した多くのスマートフォンはすでに常時表示に対応しており、iPhoneも「iPhone 14 Pro」と「iPhone 14 Pro Max」でようやく追随したという見方もできる。ちなみに、iOS 16ではロック画面のカスタマイズ性が強化されているため、常時表示ディスプレイをより活用することができる。

 Dynamic Islandはディスプレイの上部に開けられた楕円形のパンチホールを活かした表示機能で、iOSからの通知などを表示するほか、Face IDの認証時などにアニメーションを表示する。ホーム画面やロック画面では楕円パンチホールの黒いエリアが気になるが、[ミュージック]アプリなど、対応アプリでは画面エフェクトなどによって、視覚的に楽しむ方向に仕上げられている。Dynamic IslandのAPIはサードパーティにも公開されているため、今後、多くのアプリでDynamic Islandを活かした表示が可能になるかもしれない。

TrueDepthカメラのエリアは、「iPhone 13 Pro」(右)のノッチ(切り欠き)から、楕円形のパンチホールに変更された。外観にも少し新鮮さがある
「iPhone 14 Pro」(左)と「iPhone 13 Pro」(右)を並べたところ。TrueDepthカメラを収める部分がDynamic Islandに変わったことで、前面からの印象も異なる

 バッテリー容量は非公開だが、分解サイトなどの情報によれば、3200mAhのバッテリーが組み込まれている。iPhone 14シリーズの4機種の中で、もっとも容量が小さいが、チップセットのプロセスルールの違いやディスプレイの可変リフレッシュレート採用の影響もあってか、「iPhone 14」に比べ、ビデオ再生時間が10%以上長く、オーディオ再生時間はわずかに短くなっている。「iPhone 13 Pro」との比較ではほぼ変わらない仕様で、実使用上はほとんど差がないと見て良さそうだ。

 カメラは従来の「iPhone 13 Pro」同様、メイン、超広角、望遠のトリプルカメラで構成されるが、メインカメラは48MPのイメージセンサーを採用する。ほかのスマートフォンでは一般的となりつつあるが、4つの画素をまとめて、1つの画素として使い、より多くの光を取り込むビニングによって、2.44μm相当のピクセルサイズで撮影する。レンズのF値は1.78になり、「iPhone 13 Pro」よりもわずかに暗くなったが、センサーそのもののサイズも違ううえ、ビニングでの撮影が標準となるため、暗いところでも明るく撮影することができる。屋外の明るいシーンでも非常にくっきりとした撮影が可能だ。

「iPhone 13 Pro」(左)と「iPhone 14 Pro」(右)を重ね、カメラ部を比較したところ。一見、同サイズのように見えるが、各カメラのレンズ部分がまったくの別物であることがよくわかる
「iPhone 14 Pro」(左)と「iPhone 13 Pro」(右)を並べ、背面から見ると、ほとんど変わらないように見えるが、カメラ部が少し大きくなっている。レンズ部分の径も少し大きい

 超広角カメラと望遠カメラは画素数こそ、従来と同じ12MPだが、超広角カメラはピクセルサイズは1.4μmと従来よりも大きく、より多くの光を取り込むことを可能にしている。望遠カメラもメインカメラの3倍に相当する焦点距離77mmとなり、光学手ぶれ補正にも対応する。実際の仕上がりも良好で、ポートレートだけでなく、薄暗いシーンでの撮影でも被写体をしっかりと捉え、自然で高品質な写真を撮影できるように仕上げられている。

「iPhone 14 Pro Max」を手に持ってもらい、撮影。背景だけでなく、端末がわずかに前ボケになりながら、人物にはピントが合っている
「iPhone 14 Pro」の超広角カメラで撮影。右端のビルなどもあまり歪みがなく、きれいに撮影できている
「iPhone 14 Pro」のメインカメラで撮影。曇り空で夕刻だったため、水面は少し暗めになったが、陽が当たっている中央奥の建物は明るく撮れている
「iPhone 14 Pro」のメインカメラを2倍に切り替えて撮影。中央の建物も左側の観覧車もきれいに撮れている
「iPhone 14 Pro」の望遠カメラで撮影。建物の窓の中、明暗がある樹木の付近もきれいに撮れている

 価格はストレージ容量(128GB/256GB/512GB/1TB)と取り扱いルートによって違い、もっとも安い128GBモデルで約15万円、最高値の1TBモデルは22万円を超えるという強気の設定だ。「iPhone 13 Pro」の発売時の価格に比べ、3~4万円の値上げとなっている。各社の端末購入プログラムでは月額4000円程度からの負担になり、2年後の端末返却時の実質負担額は9万円から14万円程度。スタンダードモデルの「iPhone 14」と比較すると、Dynamic Islandや48MPカメラなどが3万円の価格差に表われているが、これらの新機能は今後のiPhoneの進化の方向性を指し示すアドバンテージであり、これらをいち早く体験したいのであれば、出費を覚悟するしかないだろう。同時に、金銭的な負担だけでなく、『端末重量』も30gほど、負担が増えるので、その点も留意しておく必要がありそうだ。

新しい方向性と最高峰を狙う「iPhone 14 Pro Max」

 iPhone 14シリーズの中で、大画面ディスプレイを搭載したProモデルが「iPhone 14 Pro Max」だ。Proモデルとしての仕様は、ディスプレイやバッテリー容量を除けば、基本的に「iPhone 14 Pro」と共通で、48MPイメージセンサーを含むトリプルカメラ、Photonic Engineによる画像処理など、カメラの仕様も共通のため、それらの部分は「iPhone 14 Pro」の説明をご覧いただきたい。

 本体はステンレスフレームを採用し、ボディ幅は「iPhone 14 Pro Max」よりも5mm減の77.6mmで、高さは0.1mm減の160.7mm、厚さは0.2mm増の7.85mmとなっている。従来の「iPhone 13 Pro」はその前の「iPhone 12 Pro Max」に比べ、厚さを除けば、幅や高さが同じだったが、今回はディスプレイがわずかに縦長なった影響か、幅が狭く、高さが長く、厚さが増す変更となったようだ。カメラ部の厚みは従来モデルに比べ、実測で0.7mm程度、増えているため、ボディとしては厚みを抑えたが、48MPイメージセンサーを採用したカメラ部が焦点距離などを稼ぐ関係上、厚みが増してしまった格好だ。

アップル「iPhone 13 Pro Max」、約160.7mm(高さ)×77.6mm(幅)×7.85mm(厚さ)、約240g(重量)、シルバー(写真)、スペースブラック、ゴールド、ディープパープルをラインアップ
「iPhone 14 Pro Max」は背面のガラスがマット仕上げ。中央のアップルのロゴマークは光沢仕上げなので、指紋や手の跡が残りやすい
「iPhone 14 Pro Max」の側面はステンレスフレームの光沢仕上げ。左側面には分割式の音量キー、 着信/サイレントスイッチ、ピンで取出すタイプのSIMカードトレイを備える
「iPhone 14 Pro Max」の右側面は電源キーを装備。背面はマット仕上げだが、側面は光沢仕上げなので、指紋や手の跡がかなり目立つ
本体下部にはLightning外部接続端子を装備

 重量は2g増の240gと、かなりのヘビー級になる。筆者は従来の「iPhone 13 Pro Max」を使っていたため、ほとんど印象は変わらないが、「iPhone 12 Pro Max」以前のユーザーは10g以上の増量になるため、かなりずっしり来るかもしれない。同クラスのディスプレイを搭載したモデルに比べても重く、折りたたみデザインのモデルなどを除けば、もっともヘビー級のスマートフォンと言えそうだ。もちろん、機能的にも内容的にも充実しているので、この重量はしかたがないのかもしれないが、常に持ち歩くデバイスとしては、重量も重要な『スペック』のひとつであり、もう少し軽量化を検討して欲しいところだ。

 ディスプレイは従来の「iPhone 13 Pro Max」などと同じ対角サイズの6.7インチSuper Retina XDRディスプレイ(有機EL)を搭載する。ただし、共通なのは対角サイズのみで、解像度は「iPhone 13 Pro Max」よりもわずかに広い2796×1290ドット表示となっている。ちなみに、同じ6.7インチディスプレイを搭載する「iPhone 14 Plus」は、「iPhone 13 Pro Max」などと同じ2778×1284ドット表示なので、「iPhone 14 Pro Max」はこれまでのiPhoneでもっとも高解像度のディスプレイを搭載していることになる。

 ディスプレイの仕様としては対角サイズと解像度が異なるものの、「iPhone 14 Pro」と共通で、True Toneディスプレイや広色域表示、200万対1のコントラスト比、標準で1000nit、HDR表示時に1600nit、屋外時に2000nitの明るさといった仕様を持つ。常時表示ディスプレイにも対応し、Dynamic Islandによる表示も可能となっている。「iPhone 14 Pro」とはディスプレイサイズが違うが、Dynamic Islandのサイズは同じなので、アニメーション表示などの見え方は変わらない。

「iPhone 14 Pro Max」(左)と「iPhone 13 Pro Max」(右)を並べたところ。見慣れた影響もあるのだろうが、ノッチに比べ、楕円形パンチホールは新鮮な印象

 非公開のバッテリー容量は、分解サイトの情報によると、4323mAhのバッテリーが組み込まれているという。バッテリー容量としては同クラスのディスプレイを搭載した「iPhone 14 Plus」の方が大きいが、チップセットのプロセスルールの違いやディスプレイの可変リフレッシュレート採用の影響もあってか、バッテリーでの利用時間には若干の違いがある。ビデオ再生は最大29時間ともっとも長いのに対し、オーディオ再生時間は「iPhone 14 Plus」よりもわずかに短い最大95時間となっている。

 カメラの仕様も「iPhone 14 Pro」と共通で、ユーザビリティも基本的には変わらない。ただ、「iPhone 14 Pro」に比べ、ボディ幅が6mm大きく、重量も34g重いため、撮影時の取り回しには多少、気を遣うことになりそうだ。もし、画面サイズを優先しないのであれば、「iPhone 14 Pro」を選ぶのも手だ。

「iPhone 14 Pro Max」(左)と「iPhone 13 Pro Max」(右)を並べ、背面から見たところ。ボディサイズはほぼ同じだが、カメラ部がわずかに大きい
「iPhone 14 Pro Max」(左)と「iPhone 13 Pro Max」(右)のカメラ部の比較。同じサイズに見えるが、それぞれのカメラのリングなども含め、各パーツが少しずつ大きくなっている
「iPhone 14 Pro Max」の背面カメラ部はイメージセンサーが変更されたことで、一段と存在感を増している
「iPhone 14 Pro」のメインカメラで撮影。ビニングが有効になっているため、写真の解像度は3024×4032ドット
「iPhone 14 Pro」のメインカメラで被写体に寄って、撮影。背景のボケ具合いが強くなり、一段と人物が際立って見える
「iPhone 14 Pro」のTrueDepthカメラを使い、セルフィーを撮影。オートフォーカス対応の効果か、人物にしっかりとピントが合い、背景の建物や観覧車が輪郭を残しながら、ボケている
「iPhone 14 Pro」のメインカメラを使い、いつもの薄暗いバーで撮影。実際の見た目以上に明るく撮影できる

 価格はストレージ容量(128GB/256GB/512GB/1TB)と取り扱いルートによって違い、もっとも安い128GBモデルで約16万円台、最高値の1TBモデルは約24万円に達する。「iPhone 13 Pro Max」発売時の価格がギリギリ20万円を切る程度だったため、「iPhone 14 Pro Max」では20万円を超えるとは予測していたが、結局、20万円台半ばに設定されることになった。しかし、20万円台半ばに近づいてしまうと、手を出せるユーザーは限られ、販売も苦戦することになるかもしれない。ちなみに、各携帯電話会社が販売する「iPhone 14 Pro Max」の1TBモデルは、30万円弱の価格が設定されており、およそスマートフォンとは言えないレベルに達している。同時に、アップルの販売価格との差額が4~5万円もあるということも注目される。

 各社の端末購入プログラムでは128GBモデルが月額4000円台からの負担になり、2年後に端末を返却したときの実質負担額は10万円前後になる。これが1TBモデルになると、月々の負担は6000円を超え、端末返却時の実質負担額は15万円前後になってしまう。「iPhone 14 Pro Max」はiPhone 14シリーズの中で、もっともハイスペックなモデルであり、これからのiPhoneの方向性を指し示す新機能なども搭載されているため、一定の価格上昇はしかたがないのかもしれないが、ユーザーとしては年を追うごとに、『買いにくい』製品になっている感は否めない。ユーザーとしては必要とするストレージの容量と価格を見比べながら、じっくりと選ぶことをおすすめしたい。

iPhone 14シリーズ、買うなら、どれ? 今回は待ち? それとも?

 さて、最後にiPhone 14シリーズを買うなら、どの機種か、それとも待つのか、あるいはほかの選択肢を検討するのかを考えてみよう。

 まず、iPhone 14シリーズで共通のアドバンテージとしては、Proモデルとスタンダードモデルで仕様が違うものの、カメラが挙げられる。昨年のiPhone 13シリーズはシネマティックモードやフォトグラフスタイルなど、撮影時のエフェクトなど、ソフトウェア的な進化が中心だったのに対し、iPhone 14シリーズはセンサーサイズの大型化や画素数の向上など、カメラの基本仕様そのものを強化し、新たにアクションモードなどの機能を搭載している。インカメラのオートフォーカス対応は自撮りだけでなく、配信などに利用するユーザーにとって、魅力的な進化だろう。

 Proモデルはこれらに加え、Photonic Engineなどで画質の向上を図り、全体的なカメラ性能を高めている。特に、48MPイメージセンサーの採用は、現在のスマートフォンのカメラで主流となりつつある「ビニング」機能を取り入れ、従来モデルではライバル機種にやや遅れを取っていた暗所での撮影などにも強みを発揮できるようになった。

 これらを考慮すると、カメラ機能を重視するユーザーにとっては、やはり、Proモデルの2機種が狙い目になるが、ポートレートや風景、食事など、一般的な撮影であれば、スタンダードモデルの2機種でも不足を感じることはなさそうだ。

 もうひとつの選択ポイントは、ディスプレイだろう。iPhone 14シリーズでは従来モデルにラインアップされていた「mini」がなくなり、6.7インチディスプレイを搭載した2機種がラインアップされた。これまで大画面モデルが欲しいユーザーは、高価格の「Pro Max」を選ぶしかなかったが、「Plus」がラインアップに復活したことで、少しはリーズナブルな価格で大画面モデルを手にすることができるわけだ。とは言うものの、最低容量のモデルでも価格は13万円を超え、各携帯電話会社が販売するモデルも15万円前後以上に設定されており、ユーザーの負担は相変わらず大きい。

 また、ディスプレイについてはスタンダードモデルとProモデルで2種類の対角サイズをラインアップしているが、機能的にはDynamic Islandと常時表示ディスプレイという大きな違いがあり、新機能を求めるユーザーは、「やっぱり、iPhone 14 Proとか、iPhone 14 Pro Maxを選んだ方がいいのかな? でも、高いなぁ」と悩んでしまいそうだ。

 確かに、この2つの新機能は、実用面や体験面でも違いを生み出す要素だが、昨年の「iPhone 13 Pro」の多くの機能や仕様が今年のスタンダードモデルの「iPhone 14」に受け継がれたことを踏まえると、2023年に発売が予想される「iPhone 15シリーズ」(仮)のスタンダードモデルには、Dynamic Islandが搭載され、常時表示ディスプレイも継承されるのではないかと推測される。端末購入プログラムなどで、2年以上の利用を前提として考えるなら、現時点でどのモデルを使っているのかにもよるが、必ずしもスタンダードモデルを選ばなくても今年のProモデルの機能を継承する次期モデルを待って、購入するという手も考えられる。

 最後に、価格についても少し触れておきたい。iPhone 14シリーズの発表を受け、SNSなどには新機能に期待する投稿がある一方、「iPhone、高すぎる」という投稿も数多く見かけた。国内外で販売されるスマートフォンは半導体不足や中国のロックダウン、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、全般的に高騰する傾向にあるが、国内で販売されるモデルは『円安』という直接的な追打ちによって、さらに販売価格が高騰し、iPhone 14シリーズではここ数年の『高付加価値&高価格路線』が極まってきた印象すらある。

 これに加え、常に持ち歩くiPhoneでは加入がおすすめされる「AppleCare+」も今年7月に値上がりしており、ユーザーの負担はさらに増える傾向にある。円安の影響から料金を見直したと伝えられているが、多くのユーザーが利用する製品だからこそ、為替の差額をサービス提供側が吸収できないのだろうか。各携帯電話会社が提供する端末購入プログラムも自動車の残価設定ローンやカーリースに倣ったものだと言われているが、それなら、定期点検や整備の費用を取り込んだカーリースのように、端末購入プログラムで購入したユーザーにはAppleCare+を一定期間、無料で付加するくらいの踏み込みがあってもいいはずだ。こうしたユーザーの不満を意識したのか、NTTドコモでは従来の「ケータイ補償サービス」をベースにした「smartあんしん補償」を9月から提供している。同サービスではAppleCare+の半額近い月額料金で、水濡れや紛失、全損などのトラブル発生時に1年に2回まで交換電話機の提供を受けられるようにしている。補償サービスでもこうした『競争環境』を起こし、ユーザーの利用環境をもっと快適なものにして欲しいところだ。

 こうしたiPhoneの高価格ぶりを書くと、必ず「日本の給料が安いからだ」といった指摘が挙げられるが、他ジャンルの製品と販売価格を比べてみて欲しいのだ。一般消費者が購入する商品で比べてみると、iPhone 14シリーズの価格帯は、冷蔵庫やエアコンといった10年か、それ以上の単位で利用できる家電製品と変わらないのだ。かつて、「89万8000円~♪」と低価格をアピールする軽自動車のCMが流れていた当時、Windowsパソコンで同じくらいの価格帯の商品が発表され、「軽自動車並み? 高すぎません?」と随分とやり玉に挙げられたことがあったが、iPhone 14シリーズの11万9800円から23万9800円という価格は「エアコン並み?」「冷蔵庫並み?」と言われてもしかたがないほどの高価格だ。

 もちろん、「スマートフォンは毎日、何時間も使うのだから、可能な限り、高機能かつハイスペックなものを!」というのであれば、何も迷うことはないだろうが、一般的なスマートフォンと変わらないスレート状(板状)のデザインで、メカニズムなどの変化もないモデルがパソコン並み、もっと言うなら、最新のM2プロセッサを搭載したMacBook Air(16万4800円~)を超える価格が設定されていることは、製品群のラインアップとして、バランスを欠いているように見えてしまう。毎年、同じようなことを指摘している気もするが、iPhoneは完成度が高い商品ラインアップであるだけに、一連の価格設定には疑問符を付けざるを得ない。

 今年も長い内容になってしまったが、iPhone 14シリーズはこれまでのiPhoneの流れを受け継ぎつつ、新しい方向性を踏み出したシリーズとして、非常に高い次元で完成されている。価格面などを除けば、多くのユーザーを満足させるシリーズに仕上がっている印象だ。ぜひ、各携帯電話のショップ、Appleストア、家電量販店などで実機を手に取り、iPhone 14シリーズの進化と改良を体験していただきたい。