ケータイ用語の基礎知識

第901回:O-RAN とは

 今回ご紹介する「O-RAN」は、英語で「オープンな無線アクセスネットワーク」を意味する“Open Radio Access Network”から来ています。

 LTEでは、携帯電話の基地局に、無線の送受信装置のみを配置し、コントロールする制御部は収容局に集約するというC-RAN(集中型無線アクセスネットワーク、Centralized Radio Access Network)が採用されています。

 C-RANでは、集約ノードと分散ノード間のフロントホールインターフェイスとしてCPRI(Common Public Radio Interface)が広く用いられています。CPRIでは、データリンク層のフォーマットは標準仕様が決まっています。しかしネットワーク層で運ばれるデータや制御信号などはベンダーによって異なる実装となっていました。つまり、異なるベンダーの機器を組み合わせて利用するには、その都度、個別で調整する必要があり、手間がかかる形です。

 一方、5Gでは、マルチベンダーでのC-RAN構成を実現するために、この部分を標準化し、オープンにしたいという事業者の要望がありました。そこでO-RANアライアンスが組織され、アーキテクチャーの仕様の共通化やオープン化が進められることになりました。アライアンスは、2018年2月にAT&T、チャイナモバイル、ドイツテレコム、NTTドコモ、オレンジによって設立されました。

 オープンで柔軟なネットワークを構築するために、O-RANアライアンスでは、2つの原則を打ち立てています。

 ひとつは「オープン」です。サービスの俊敏性とクラウド規模の経済性をRANにもたらすためオープン化することを目指します。

 もうひとつが「インテリジェンス」です。ネットワークは自動運転でなければならず、新しい学習ベースのテクノロジを活用して運用中のネットワーク機能を自動化させます。RANアーキテクチャーのすべての層にインテリジェンスを組み込むために、新たなディープラーニング技術を活用することを目指しています。

 これに従い、O-RANアーキテクチャの一部である無線基地局(eNB、gNB)内部の集約ノード(CU)、分散ノード(DU)の間のインターフェイスである「モバイルフロントホール」の規格が統一されました。これが「O-RANフロントホール」です。

 賛同する各ベンダーは、O-RANフロントホール仕様に準拠した製品の開発に着手し、異なるベンダー間の相互接続試験を行います。また通信事業者も、それらの製品を用いた試験を開始し、5G商用ネットワークへの導入を目指します。

O-RANフロントホールが共通化されるとどうなるか

 O-RANフロントホールが共通化されると、事業者、メーカーにはどんなメリットがあるのでしょうか。

 5Gの商用ネットワークでは、各ベンダーは、O-RANフロントホール仕様に準拠した製品の開発に着手し、異なるベンダー間の相互接続試験も行われることになります。通信事業者は、2019年以降、それら製品を用いた試験を開始し、導入していく予定です。

 そしてO-RANフロントホール仕様が広がることで、マルチベンダー、つまりさまざまな企業が5G向けの通信ネットワーク機器を提供しやすくなると期待できそうです。

 たとえば、リモート設置型の基地局では、さまざまなベンダーの親局と無線で繋がる子局を組み合わせることもできるでしょう。マルチベンダーRANでは、展開シナリオに応じて最適な基地局装置を活用し、柔軟にネットワークを構築しやすくなります。

 5G、特にNR(新電波帯)では電波の出力、出す範囲などを柔軟に調整してネットワークを構成する局面も多くなる可能性があるでしょう。そのようなときに1メーカーのものだけでなく、さまざまなメーカーの部材を調達するチャンスができるというのは、エリア構築のしやすさや、機器調達のコストの低廉化などが期待できるかもしれません。

 ベンダーからしてみても、特定の通信事業者だけと取引するのではなく、世界中のさまざまな事業者へ売り込むチャンスが増えていくのかもしれません。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)