ケータイ用語の基礎知識

第785回:NB-IoT(Narrow Band-IoT) とは

 「NB-IoT」は、スマートフォンなどで利用されるモバイル通信技術である「LTE方式」の中でも、IoT機器向けの規格です。LTEの標準を定めている3GPPが2016年に公開した「Release 13」仕様で新たに定義されました。

 NB-IoTの"NB"は、“狭い周波数帯”を意味する英語“Narrow Band”を略したものです。その名の通り、スマートフォンなどで使われるLTEが5MHz~20MHz幅という広い周波数帯を一度に使用するのに対して、NB-IoTが使う帯域は、わずか180kHz幅と非常に狭い帯域です。ちなみに1000kHz=1MHzです。180kHzは1.8MHzの1/10になります。

 LTEでは、どの規格で使えるかを「Cat.(カテゴリー)」「数字」と表現することがあります。NB-IoT対応端末は「Cat. NB1」になります。

LTEカテゴリー0よりさらに簡単・低速・低電力化

 低電力でIoT向けの通信としては、たとえば「第759回:LoRa とは」で紹介したLoRaなど、いわゆるLPWA(省電力で、なおかつカバーするエリアの広い無線)が徐々に利用されつつあります。

 Release 13で標準化されたNB-IoTもLPWAの一種と言え、通信速度は上り62kbps、下り26kbpsと、とても低速です。カテゴリー1と同じく、基地局と端末が同時には通信できない「半二重通信」のみがサポートされます。これにより電波に乗せた信号をデジタルな情報に代えるための装置やモデムの回路設計も非常に単純化されますので、低コストで対応機器を製造できます。間けつ受信の間隔は、基地局と接続した状態ではLTE カテゴリーMと同じく10.24秒ごとですが、アイドル状態では3時間ほどと、さらに間隔を空けて低電力化を推し進めました。

 IoT向けの規格としては、Release 12で、これまでのLTEの規格から大きく乖離しない範囲で狭帯域・低電力化を目指した端末カテゴリー「カテゴリー(Cat.)0」が規格化されましたが、NB-IoTはさらに低電力化を推し進めた規格です。

 たとえば、利用する電波は、先述したようにわずか180kHz幅です。LTEは下り通信の変調方式として「OFDM」を採用しています。OFDM方式ではサブキャリアと呼ばれる分割した搬送波を利用して信号を端末に送るのですが、1ミリ秒ごとに15kHz間隔で隣接する12個のサブキャリアをまとめ、180kHzをひとつのブロックとしてまとめて扱い、これをRB(リソースブロック)と呼んでいます。NB-IoTの帯域は、RB 1個分に納められているのです。

 LTEのRBをそのまま利用するのであれば、既存のLTE基地局の設備を有効利用できます。ただし、現実のLTE通信では、IoT機器だけが通信する状況はありえませんから、周波数利用効率は落ちてしまうことになります。そこで、NB-IoTでは、ガードバンドと呼ばれるLTEのすきま周波数帯を利用する「ガードバンドモード」や、GSMでかつて使っていた跡地周波数帯で運用する「スタンドアロンモード」も利用可能としています。

 LTEに限らず、一般的に通信では使用する帯域幅全部を通信に使うわけではありません。一定間隔の「ガードバンド」と呼ばれる電波を発射しない空白の周波数帯を設けて、隣り合う周波数帯域の通信と混信を避けています。LTEの場合、たとえば全体の20MHzの帯域幅を利用する場合、周波数帯の上端1MHzと下端1MHzはこのガードバンドとなっています。

 NB-IoTで使用する周波数帯域は非常に狭いですから、LTEのガードバンドの端から一定に間隔(200~245kHz程度)さえ空ければこのようなガードバンドに埋め込んで利用してしまうことも可能になり、LTE通信の邪魔もしないというわけです。

 また、スタンドアロンモードは、そのまま、欧州規格の2G携帯電話の規格として現在も使われているGSMの周波数帯を利用するというものです。GSMでは1搬送波の占有帯域は200kHzでしたから、利用者が減り使わなくなった周波数帯があるなら、ここを使えばNB-IoTの通信が可能になるというわけです。

 これだけ従来のLTE規格からLPWA側に踏み込んだ規格となったNB-IoTですが、IoT向けの規格として実用的となり、かつLTEで培われた技術や経験・設備を流用できるためか、先行して規格化されたLTE Cat.0などよりも携帯電話事業者による実証実験などが先に行われ実用化もこちらの方が早くされるという見通しもあります。

 たとえば、日本では、ソフトバンクが、2016年11月にNB-IoTの実験試験局免許を取得していて、屋外のスマートパーキングに取り付けたNB-IoTモジュールを使っての実証実験を千葉市美浜区で行っています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)