石川温の「スマホ業界 Watch」

スマホ業界に「値上げ」の波、ahamoと楽天モバイルの“どちらが先”に踏み切るか

 スマホ業界に新たな「値上げ」の波はやってくるのか。

 昨年、NTTドコモとKDDIが相次いで値上げした新料金プランを投入。KDDIは既存プランも値上げした。

NTTドコモの前田義晃社長

 ソフトバンクはなんとか持ちこたえていたものの、この6月に新料金プラン、さらに既存プランの値上げを行う。

 同社の宮川潤一社長は「値上げによる影響も考え、ギリギリまで値上げしないようにしてきたが、世の中の物価が上がりすぎており、限界まで来てしまった」と告白。値上げプランの投入は苦渋の選択だったことを明かした。

 ただ、既存プランを値上げすることで、収益構造が大きく改善するのは明らかだ。

 昨年、既存プランを値上げしたKDDIは新規契約者数の伸びは止まったが、通信料収入を大きく伸ばすことができた。

 今回、値上げを行うソフトバンクも「来年度は1000億円規模の増収効果が見込める。今年度は期中から値上げ実施となるため、数百億円に留まる見込み」(秋山修CFO)という。

 既存プランを値上げすることで大幅な増収につなげたKDDIとソフトバンク。その様子を指をくわえてみているのがNTTドコモだ。

 2025年度の決算ではモバイル通信料サービスの収入が299億円減と全体の足を引っ張る状況となっている。

 昨年、投入したデータ使い放題の「ドコモMAX」は2026年3月末で315万件を突破。

 直近の決算資料を見ると、ハンドセット契約数、いわゆるスマートフォンを使うユーザーの契約数が5297.1万契約となっている。そのうち、ARPU(1契約者あたりの月間平均通信料収入)が高いとされるデータ使い放題プランを契約しているのは31%(筆者注:およそ1621.1万人)で、2024年第1四半期には25%だったことを考えると、大容量プランの割合が大幅に伸びていることがわかる。

 NTTドコモとしては小・中容量のユーザーを大容量プランに移行させる一方、既存プランをうまく値上げすることが、目下の経営課題と言えそうだ。

 既存プランの値上げについて、前田義晃社長は「ドコモには現在、25の料金プランが存在する。コストが上昇しており、全体としてどのように料金を改定していくか。それぞれの料金プランで提供条件が異なることもあり、お客様にどう理解してもらうか、相当、考えていかないといけない。(値上げは)検討中と理解して欲しい」とした。

 既存プランを値上げする上でNTTドコモとして特に悩ましいのが「ahamo」だろう。

 ahamoは30GBで月額2970円、5分の無料通話が可能だ。

 2021年3月に登場して以降、5年が経過するが、800万を超えるユーザーを抱えるまでになった。

 前田社長によれば「新規契約者の半数強が選んでいる」といい、NTTドコモの主力商品になっているのだ。

 5年前、ahamoが登場したのは、当時の菅義偉政権からの値下げ圧力、さらに新規参入した楽天モバイルの存在が大きかった。実際、楽天モバイルは3000円程度でデータ通信が使い放題のプランを投入していた。

 NTTドコモとしては「オンライン専用」という建前にしつつ、3000円を切る料金設定が不可欠であった。

 結果、カード払いや光回線のセット割、家族割引など面倒な条件が一切なく、とにかくシンプルでわかりやすい料金設計はターゲットであった若者だけでなく、幅広い世代に受けた。

 ただ、この「シンプル」という特長が、値上げする上で逆に大きな足かせとなる。

 KDDIやソフトバンクは、新料金プランだけでなく既存プランを値上げする際、衛星との直接通信や海外ローミングサービスなど「付加価値」を載せることで、値上げへの批判をかわそうと努力してきた。また、ゴールドカードの支払いをすれば、従来と同じ支払額で済むなど、「わかりにくい仕組み」を導入することで、直接、値上げとは感じにくい施策が随所にちりばめられている。

 ahamoの場合、シンプルでわかりやすいというのが売りであったため、「付加価値を載せるから値上げを許してもらう」という雰囲気になりにくそうだ。

 ahamoを値上げするには単純に金額を上げるしかなく「分かりやすいシンプルな金額上昇」となってしまい、ユーザーに値上げがダイレクトに伝わってしまう。

 NTTドコモにとって既存プランを値上げする上で悩ましいのが「ユーザーの理解を得られるか」という点に尽きる。

 やはりSNSの反響を見ても「通信品質をなんとかしろ」という声が本当に多い。

 KDDIとソフトバンクが値上げをしても、ある程度、理解されたのはユーザーがネットワーク品質に満足しているという点は大きいだろう。

 一部では「ahamoは特に遅い」という声があったが、これに対して前田社長は「それはない。その噂はどうにかならないかと思っている」と明確に否定した。

 キャリアとして他の料金プランとahamoにおいて、ネットワーク品質の差をつけるのは無理に近く、結果として「どのプランでも遅い」ということになっているようだ。

 「値上げしない宣言」から一転し、値上げの方向性を探り始めているのが楽天モバイルだ。

 先日、行われた決算会見で三木谷浩史会長は「値段については戦略的な部分があり、言及は避けたい。後発で市場シェアもそんなにないため、総合的、かつ長期的に考えていきたい」とした。

 楽天モバイルは1000万契約を突破したものの、年間の売上は4000億円台である一方、今年度は2000億円規模の設備投資を予定するなど、厳しい状態であるのは変わらない。

 4キャリアの中で、最も余裕がなく、すぐにでも値上げをしたいのは楽天モバイルなのは間違いない。

 ただ、楽天最強プランの3278円という料金設定は、やはりahamoがライバルとなるだけに、ahamoの前に値上げしてしまうのはかなり厳しい。

 一方で、ソフトバンクのLINEMOもベストプランVは月額2970円で30GB、5分の国内通話定額というahamoと同じ料金プランとなっている。

 宮川潤一社長はLINEMOについて「値上げは考えていない。他社が一社で頑張っているので牽制になると思う」と、楽天モバイルを意識した発言をしていた。

 ahamoと楽天モバイル、どちらが先に値上げに踏み切るのか。

 両社とも、ネットワーク品質が必ずしもいいとはいえないだけに、まずは早期にユーザーにネットワークが改善していると実感してもらってでないと、値上げはなかなか理解してもらえないのではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。