石川温の「スマホ業界 Watch」
ドコモの完全仮想化にLeminoのインフラ――AWSがAIで変える“通信事業者の常識”
2026年4月17日 00:00
NTTドコモは、2026年3月末をもって3Gサービスを終了した。通信事業者にとって古い世代の技術を動かすための設備を維持するのは重荷でしかない。NTTドコモは専用ハードとソフトで動かしていた3Gサービスを終了させたことで、結果として、汎用サーバーで運用する完全仮想化にシフトすることができた。
通信事業者の経営にはスピード感が求められている。アップルやグーグルがスマホのプラットフォームを提供するなか、アプリが快適に動くネットワーク品質が必要不可欠だ。
自社でも経済圏を広げるなか、スマホ決済やコンテンツサービスなどのアプリを自社で提供していかなくてはならない。
レガシーシステムからの脱却とAI導入
そんな経営にもスピード感を求められる通信事業者に対して黒子的な存在として活躍しているのがAWSだ。3月にバルセロナで行われたMWC26の会場においても、世界で展開するさまざまなソリューション展示を行っていた。
いま、AWSが通信事業者に対して訴求しているのがAIだ。AIの力を活用することで、通信事業者の負担を減らし、事業成長につなげるサポートをしている。
これまで、ネットワークの運用は「職人技」と言われていた。3Gネットワークなどは長年、通信事業者が培ってきたレガシーなソフトウェアが動いており、「秘伝のタレ」のように属人的に扱われてきた。
AT&Tが仮想マシンなどレガシーなIT資産をAWSに移行する際、AWSではAIエージェントを活用する仕組みを提供。大規模なシステム移行は時間がかかり、投資対効果が見えにくい中、AIエージェントによって、移行期間を半分に短縮することができたという。
また、既存のコードを一度読み込み、仕様に落とし込み、新たにコードを書き直したことで、レガシーな資産を、利益を生み出すソフトウェアに変換することができたとのこと。
日本では、ようやく5G SA環境が整いはじめ、一部ではネットワークスライシングによる、用途に応じたネットワークを提供する取り組みが始まりつつある。ただ、用途に合わせて、スライシングを設定するというのもエンジニアにとっては大変な作業になる。
そのため、AWSではノキアとともに「Agentic Slicing」というソリューションを提供。AWS上で動作するAIエージェントに対して「下り50Mbpsを設定するにはどうしたらいいのか」といったように自然言語で指示を出すことで、リアルタイムデータを元に最適な設定ができるようになる。
AIエージェントはRANからコアネットワークに至るまでの設定を自動的に行うため、設定作業の迅速化や運用コストの削減が期待できるという。フランス・Orangeやアラブ首長国連邦・duはすでに実ネットワークでパイロット導入を開始している。
AIエージェントによるネットワーク監視はすでに実用化が進んでいる。AWSジャパン 情報通信・メディア・エンターテイメント・ゲーム・スポーツ・戦略事業統括本部の恒松幹彦統括本部長は「オペレーションの自動化、高度化が業界のテーマになっている。国内での取り組みも1年ほどで商用レベルに持っていくことができた」と振り返る。
NTTドコモではAIエージェントを活用して複雑なネットワーク運用での異常を短時間で検知・特定して、解決案を提示・実行する仕組みを整えている。対象となるネットワーク装置は基地局からコアネットワークに至るまで100万台以上にもなる。
NTTドコモは5GコアをAWS上で動かす取り組みも行っている。恒松氏は「3~4年、PoCを行ってきたが、ようやく商用化にこぎ着けた。AWS上で5Gコアを動かせることで、ネットワークの安定性、強靱化を図ることができ、選択肢が広がる」と胸を張る。
AWSジャパン 技術統括本部 通信・メディア技術本部 通信第一ソリューション部の川崎一青部長は「通信事業者向けのソリューションにはすでにAWSの生成AI基盤である『Amazon Bedrock』や自社設計プロセッサ『Graviton』が組み込まれている」という。
サービス展開と収益化も支援するAWS
ネットワーク運用だけでなく、通信事業者がコンシューマー向けサービスを提供する際にもAWSが活用されている。
実は、AWSと日本の通信事業者の付き合いはスマートフォンが世に出始めた2008年ごろからのもので、「AWSは創業して20年になるが、AWSが日本でサービス提供を開始した当初から、最も早く使っていただいたと言っても過言ではない」(恒松氏)という。
当時、スマートフォンでどんなアプリが市場で成功するか予測が難しい中、AWS上で新しいアプリをいち早く開発し、試行錯誤していく環境として重宝されたという。恒松氏は「コンシューマー向けサービスはいかに早く開発し、運用を高速に回せるかが重要と言える」と語る。
現在、AWSはNTTドコモの動画配信サービス「Lemino」などで活用されている。Leminoでの配信や数百万人規模の接続があっても落ちないボクシング中継において、AWSのメディア配信用サービスやCDN(コンテンツ配信ネットワーク)などが提供されている。
ノルウェーの通信事業者であるTelenor向けには、スポーツ中継の動画をいち早く縦型のショート動画にしたり、パーソナライズして配信することで、収益を上げる取り組みが行われている。
アマゾンは今年、全体で2000億ドルのインフラ投資を計画している。AI時代において、AWSを安定的かつコストパフォーマンス良く提供する狙いがある。
恒松氏は「自社設計チップを進化させ、コストと性能における選択肢を増やしていく。企業において、どのAIを使うのか、コストと性能のバランスが求められる。100以上のLLMを選択できる環境を提供し、必要な時に必要なLLMで企業の成長に寄与できる」と語る。
先行きが全く予想できず、ネットワークへの設備投資が重たい通信事業者にとって、AWSは頼りがいのある存在になっているようだ。



