石川温の「スマホ業界 Watch」

短期解約制限は「乗り換え促進」と矛盾しないか? 総務省が進める新たな規制と、その穴を突く販売施策のいたちごっこ

 総務省は4月20日、有識者会議を開催。短期間でキャリアの契約を乗り換え、ポイントなどの特典を稼ぐホッピング契約を制限する方向を固めた。夏を目処にとりまとめを目指す。

 そもそも、総務省はこれまで20年以上に渡って各キャリア間の乗り換えを促し、料金競争につなげようと腐心してきた。

 2020年末にNTTドコモ「ahamo」が登場したのをきっかけに、各キャリアでオンライン専用プランが登場。日本の通信料金は一気に下がった感がある。

 しかし、これが「総務省による努力の結果」というわけでは全くなく、単に当時の菅義偉政権が各キャリアに圧力をかけた成果に過ぎない。

 これまで散々、乗り換えを促進する施策を展開しておきながら、ここに来て、総務省はホッピング契約をさせないという理由をひっさげ、乗り換えに制限をかけるという方向転換を図ってきた。端から見ている立場としては「何を今さら」という感が拭えない。

 2019年の電気通信事業法改正によって、ユーザーを契約期間で縛るといった行為にメスが入った。また、長期間、契約し続けるユーザーに対しての優遇も禁じられた。

 これにより、ユーザーがすでに契約しているキャリアを辞めやすくなり、他社に乗り換える心理的な負担が下がるメリットは確かにあった。

 しかし、期間拘束がなくなることで、契約特典を荒稼ぎするホッパーが登場するというのは当時からも予想できたわけで、いまになって「ホッパーはけしからん」という主張は無理がある。

 なぜ、当時から予見できたことを、その段階で塞いでおかないのか。

 そもそも「乗り換えを促進する」というのと「ホッパーを制限する」というのは相反する考え方だ。これらを両立させようという総務省の考え方にそもそも無理がある。

 この20年近く、総務省の政策を取材しているが、もはや総務省自身が自分たちで作った政策で自分たちの首を絞め、通信業界と国民から全く信用されていない立場に陥ってしまった感がある。

 総務省が端末販売や通信契約の規制を作ったのはいいが、あまりにザルであるため、キャリアには法の盲点を突く販売購入補助プログラムを作られ、一方で、一部のユーザーが契約特典などをかっさらっていくということが繰り返されてきた。

 総務省による「机上の空論」によってできた穴を埋めようと、新たな規制を作るが、またその穴を突かれてしまう。穴埋めを繰り返したことで、結果、政策は総務省でもコントロールが不可能になり、自縄自縛になってしまっていた。

 今回の有識者会議では、契約時に仮に2万円のポイントを付与する場合、継続利用を条件としつつポイント付与を契約時に一括で支払うのではなく、分割でユーザーに還元するという方法が検討されている。これであれば、短期解約を防ぐことができるというわけだ。

 ただ、この期間の設定に対しても、2年間ではなく、30か月や12か月といった期間にし、その期間に応じて上限額を変更するという意見もある。

 今回は、端末割引に関しても議論のテーマとなっている。

 現状、2万円以下の廉価端末に対しては1円まで値引きが可能という基準を見直そうというのだ。

 ただ、これに関しては「4万円程度に引き上げるべき」という意見と「2万円を維持すべき」という主張が分かれている。

 そんななか、メーカー関係者に話を聞くと「この2万円のルールは誰も得しない。いますぐ撤廃すべき」という。

 廉価端末で2万円という上限が設定されると、キャリアはメーカーに対して、2万円で売れる端末を発注する。もちろん、メーカーのキャリアに対する納品価格はもっと安い。

 昨今、部材費だけでなくメモリの価格も高騰。さらに円安基調もあって、2万円以下で端末を製造するというのは、メーカーの体力を奪うだけとなっている。

 一方、「安いから」と購入したユーザーにとっても決して、ハッピーなこととは言えないだろう。チップの性能もそれなりだし、メモリの容量も少ない。快適に使える性能とはほど遠く、つらいスマホ生活を送ることになる。

 スマホの使い勝手が悪ければ、ユーザーのネットへのアクセスは減ることになる。結果として、キャリアは通信料収入を上げることが難しくなる。

 ここ最近、各メーカーは7万円程度で使い勝手のいいラインナップを増やしている。

 2万円以下なんていう我慢を強いられる機種よりも、そうしたミドルクラスの端末を手軽に買える環境を整備した方が、ユーザー、メーカー、キャリアにとって喜ばしいことではないのか。

 筆者は総務省の規制について、常々「すべて撤廃すべき」と主張している。

 愚策によって市場の競争環境がゆがめられている。規制など無くしてしまい、キャリアを自由に競争させるのが健全ではないか。

 折しも、KDDIとソフトバンクは、販促費のかかる競争から距離を置き、既存顧客のロイヤリティを高める方針にシフトしつつある。一方、第4のキャリアである楽天モバイルは他社からの顧客を奪う戦略に変わりはないし、NTTドコモは通信品質が落ちている中、ユーザーに逃げられないように販促費を積み増している。

 総務省が中途半端な規制を続ければ、4キャリアは同じルール、土俵で戦わなくてはいけなくなる。結果、4社横並びになってしまう。

 4キャリアで戦略に違いが出てきたいまこそ、規制を撤廃し、自由に競争させた方が、市場が活性化し、顧客の流動化、さらには料金競争につながるのではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。