石川温の「スマホ業界 Watch」

Appleが危惧する「欧州DMAの二の舞」、Appleがスマホ新法に放った“本音”と“釘”

 2026年1月30日、公正取引委員会は「第2回デジタル競争グローバルフォーラム」を開催した。

 昨年12月18日に「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」が全面的に施行されたのを受けて、ヨーロッパ、アメリカ、イギリス、オーストラリアに加えてインドなどの当局職員や学識経験者、企業や団体が参加してパネルディスカッションを行った。

 登壇者リストには、欧州委員会、米国連邦取引委員会(FTC)、マイクロソフト、Google、オープンAIなどそうそうたるメンツが並ぶ。

 特に注目なのがアップルで同社の競争法・規制統括シニアディレクターのショーン・ディロン氏がパネルディスカッションに登壇していた。

ショーン・ディロン氏

 ショーン・ディロン氏は実はスマホ新法の準備段階から、公正取引委員会と交渉を続けてきた張本人だ。

 普段から、メディアに対してもスマホ新法の懸念事項を説明するのだが、その際はすべて「背景情報」として語られ、名前が記事に出てくることは一切ない。何度もショーン・ディロン氏を取材してきた身とすると、公の場に登壇し、発言すること自体、驚きであった。

 アップルがスマホ新法に対して懸念していたのはユーザーのプライバシー保護やセキュリティ面であった。

 その点においては、当初、計画にあったサイドローディングに対しては相当な見直しが入った。公正取引委員会が一方的に考えていたルール作りからはかなり軌道修正が図られている。まさにショーン・ディロン氏による粘り強い交渉があったからだろう。

 ただ、ショーン・ディロン氏は今後、スマホ新法がどのように運用されていくか、心配のタネは尽きないようだ。

 「競争法の解釈がゆがめられると規制当局が製品設計まで口を出すようになる。ボタンの配置や操作体系まで政府が規定しようとしている危険がある」と警鐘を鳴らす。

 ショーン・ディロン氏が特に警戒しているのが「iPhoneのAndroid化」だ。競争を促進するという名目によって、アプリを自由にダウンロードできたり、OSの機能開放を行わせて、さまざまな周辺機器を自由に接続させるといったことを規制当局はアップル・iPhoneに強制しようとした。

 しかし、それではアップルが頑なに守ってきたユーザーのデータやプライバシーが犠牲になりかねない。ショーン・ディロン氏は「特定の技術やビジネスモデルを押しつけ、システムを収斂させることは避けなくてはいけない」と警戒した。

 ユーザーが自由に端末やサービスを選べるのがAndroidの良さであり、iPhoneはユーザーのデータを絶対に守る。この二つの選択肢をあえてなくす必要はないとわけだ。

日本のスマホ新法は”ヨーロッパ”と比べ現実的

 ただ、ショーン・ディロン氏はスマホ新法に対して目くじらを立てているわけではない。実際のところ、ヨーロッパのDMAに比べて、かなり現実的な解決点を見いだしている点を評価している。

 たとえば、ヨーロッパでは、App Store以外の場所でのアプリダウンロードを認めたことで、アダルトなど子どもにふさわしくないアプリが流通した。OSの機能開放によって、ユーザーのWi-Fi接続履歴が、他のサービス事業者に丸見えになるといったこともあった。

 しかし、日本のスマホ新法では、子どもの安全に対してかなりの配慮が盛り込まれている。日本の規制当局は「イノベーションへの対価」を認めており、アップルが自ら投資を行い、開発した技術を、他社が使いたいと申し出てきた際には、その使用に対して、課金する権利を認めている。

 ヨーロッパでは企業の料金設定や課金方法までも口出しをしており、イノベーションの否定から入るスタンスだという。

 ショーン・ディロン氏の発言を聞いていると、日本のスマホ新法は評価できるとしているものの、「ヨーロッパに比べればマシ」というレベルのようだ。アップルとすれば、それこそヨーロッパの考え方、法規制があまりにひどくて言葉にならないというのが実情のようだ。

 ただ、日本においても、スマホ新法の運用の仕方によっては、ヨーロッパの二の舞になりかねないとアップルは危険視しているようだ。

 ヨーロッパの後追いをしないよう、ショーン・ディロン氏としては、このタイミングでパネルディスカッションに登壇して、スマホ新法を正しく運用してもらおうと、釘を刺したかったのかもしれない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。