インタビュー
フルMVNO目指すmineo、”なぜ”過去最大の設備投資を決断したのか
2026年2月6日 00:00
オプテージが、携帯電話サービス「mineo」において、国内初となるau回線を用いた「音声フルMVNO」事業への参入を発表した。
2027年度下期の開始を目指すもので、これまでMNO(大手キャリア)に依存していた音声・SMS通信の制御やSIM発行、電話番号管理を、新たに導入する設備を活用して、自社で担う。
これまでと比べ、サービス設計の自由度が劇的に向上すると期待されており、「mineo」、そして法人向け事業のさらなる進化に向けた取り組みに位置づけられる。
自由度を増す一方で、フルMVNOには多額の設備投資が必要とされる。はたしてオプテージはどういった考えで「フルMVNO」化を決断したのか。同社モバイル事業戦略部長の松田守弘氏と、モバイル事業統括チームマネージャーの合田慎氏に聞いた。
フルMVNOって何が違う?
――まず「フルMVNOとは」という点から教えてください。説明会で示された資料では、ライトMVNOとフルMVNOの大きな違いとして、音声交換機や加入者管理装置を自前で持つ点が一番わかりやすいです。
松田氏
はい、音声交換機とSMS交換機、加入者管理機能、SIMの発行機能といったところが、これまでとの大きな違いになります。そのなかでも、やはり「音声」が一番大きな違いでしょうか。
これまで、音声の交換機がなかったということは、mineoで提供してきた音声通話は、実は自分たち(オプテージ)のサービスではなかったということです。
つまり、大手のキャリアさんから音声サービスとしてそのまま卸していただいて、私たちの値付けで提供してきた。
今回、音声の交換機を自分たちで持つことによって、音声通話サービス自体を私たちが、mineo自身が提供できるようになる、という点が、一番大きな違いかなと思います。
――なるほど。その音声通話については、1月の説明会で、「品質」の担保が難しいという話でした。サービス開始まで時間がかかる要素としても、試験がかなり必要だと。
松田氏
オプテージとして、家庭向けの光回線(FTTH)といったサービスで、固定電話を提供しています。その固定電話を提供するための設備も保有しています。
でも、モバイルで、お客さまが求める水準をきちんと実現できるかは、かなりのハードルなのかなとは思っていますね。
合田氏
固定通信でのノウハウはあるものの、モバイル特有の要素、つまり携帯電話が移動する前提での制御や、あるいはスマートフォンやIoTデバイスとの通信といった点も含めて、「固定で実現できているから、モバイルでもすぐできる」とはいきません。
そのあたりの検討も踏まえて、フルMVNO化のための設備を持とうという決断に至りました。
――フルMVNO化で先行していた他社は、加入者管理やSIMの発行という点を大きな要素と挙げてきました。
松田氏
これまでのMVNOからすると、端末は、MNOから発行された電話番号で識別できていました。
加入者管理の設備の導入・保有とセットになるお話がやはり「SIM発行」という点です。加入者管理装置(HLR/HSS)でIMSI(識別番号)を制御して、自分たちでSIMも発行することで、ひとつのネットワークを持つ事業者になるというイメージです。
そうすることで、なんというか、たとえれば、世界の隅々と繋がるようになる。世界の通信事業者のネットワークから認識される。そのことで、たとえば海外ローミングのようなサービスも初めて実現できるようになるのかなと思います。
――どういった設備を導入されるんでしょうか。仮想化されたものですとか。
合田氏
クラウドベースかオンプレベースかなど、具体的な構成は控えさせてください。もちろん、可用性や拡張性、運用面も考慮した上で、比較的、現代的な技術を導入したものを前提に導入を進めてます。
自社開発かどうかという観点で言うと、基本的には自社開発は行わずにベンダーの製品を導入します。いろんな設備を導入する際に、その組み合わせや運用体制、あるいはどこまで制御するのか、といった点を設計して、作っていっているところです。
「できる範囲を広げる」
――フルMVNOとは何か、これまでと何が違うのか、という点をここまでお話いただきました。では、フルMVNOを目指す際、どんな価値の提供を重視したのでしょうか。
松田氏
利用者像を考えると、個人のお客さま向けであれば、しっかり私たちのものを使っていただくという意味では音声通話というのは欠かせません。
法人のお客さまは、音声通話もあるでしょうし、IoTをはじめとして、通信となにかの組み合わせが必要です。
つまりは音声とデータ通信は、当たり前ですが、両輪として絶対必要ですよね。
今回、法人にフォーカスした「MVNO Operation Kit」をあわせて発表しました。ここでは、データ通信のイメージが大きいでしょう。
一方で、いわゆる「B2B2X」のようなサービスもあり得ますので、最終的な利用者が法人のお客様もあれば、個人のお客さまもありえます。ですので、自分たちで提供できる音声通話サービスがあれば武器になるというわけです。
――では、そもそもの話ですが、フルMVNOを目指す理由は? ここまでの話では「音声通話」を重視したようなお話が多い印象です。
松田氏
やっぱり独自性が高いサービスを作りたいという思いがまずあります。
といっても「料金面でむちゃくちゃ安い」という軸で他社さんと争うかどうか。それはmineoがやるべきことではない。違う軸で戦っていきたい、独自性を出したい。
そのためには何が必要なのか……というところがまずフルMVNO化を考えたスタート地点です。
そこで、mineoの資産だけではなく、オプテージという会社全体での資産・ノウハウを見ると、音声通話がひとつの解のような考え方はありました。
もともと(オプテージは関西電力グループであり、関西地区では光回線で多くのユーザーに利用されていることから)通信の中でもインフラに近い事業をやってきました。
ですから、フルMVNO化のための設備を保有することへの抵抗感は、社内では少ないです。自分たちの良さを活かすという意味では、一番取り得る手だったかなと思います。
――「料金で安さ競争はしない」という話は、これまでのmineoでも取り組んでこられたことだと感じます。となると、「もう実現しちゃってるのでは?」と。
松田氏
ありがとうございます。でも、これまでの“ライトMVNO”ですと、なんと言いますか、「範囲」というべきものがやっぱり限られてるな、という感覚はどうしてもあって。
具体的に「これができないから」っていう一つひとつの何かというより、思考がその「範囲」に限定されるっていう感覚があります。
それを解き放ちたいことがまずひとつあります。
その上で、私たちのノウハウ、これまで積み上げてきたものは、フルMVNOになることで、「できる範囲が広がる」のではないかなと。
5G SAについて
――かつては、5G SA(スタンドアロン)方式がMVNO向けにも開放されることもフルMVNO化の検討材料とするといった話もありました。
松田氏
「5G SAでなければ実現できないこと」って意外と少ないという感覚はずっとありますね。それは今も変わりないです。
――MNOですと、5GでもNSA(ノンスタンドアロン)方式の場合、スマートフォンは一度4G経由じゃないと5Gネットワーク・機能を使えないという形です。4Gが混めば“パケ詰まり”のような体感をユーザーへ与えてしまうという話があります。もし5G SAがMVNOに開放され、フルMVNOになるのであれば、こういう点はフルMVNO化と5G SAのメリットのひとつになるんでしょうか。
松田氏
フルMVNOになって、できる範囲が広がるとしても、無線部分はやっぱりどうしても見えない部分でもあります。
どの程度まで私たちが機能として使えるのか。そこはまだこれからの議論だと思います。どこまで何ができるのか、MVNO側にも使えるようになるのかは、まだ見通せないというのが正直なところです。
もし、そのあたりの詳細がわかってきて、「欲しい」となれば、キャリアさんと交渉することになるんでしょう。
――ネットワークスライシングも含めて、そういう未来がやってくる状況にも、フルMVNOであれば備えやすいということにもなりますか。
松田氏
5G SAでのネットワークスライシングもそうですね。そういったところを見据えた時に、いずれ(自分たちで)コントロールする機能が必要だ、という考え方はあります。
とはいえ、フルMVNOについては、「今やるべき」と考えて決断したわけですから、なるべく早くやりたい、っていう思いですね。
――MVNOのビジネスモデルは、これまでMNOから回線を借りてサービスを提供する仕組みでした。しかしSIMを発行する、場合によっては端末もセットに、と事業の発展を見据えるとフルMVNOが必要ということもありますか。
松田氏
はい、そのためにも、「MVNO Operation Kit」は必須だと思っています。自分たちだけでやるのではないという。
――ちなみに、ここ最近、オプテージとしてデータセンターの構築も進めていますが、フルMVNO化とは関わりはあるのでしょうか?
松田氏
そこは直接的には関わってはいません。企業としての成長に向けた事業として、データセンターはそのひとつです。また、フルMVNOもまたオプテージの成長のための事業のひとつということになります。
2021年ごろから検討
――フルMVNOを実現するための設備への投資は高額になるということですが、オプテージの成長方針に向けた取り組みのひとつという意味では、ゴーサインが出やすい状況だったのでしょうか?
松田氏
いえ、そういうわけではないですね。mineoに限ると、例えば5年前と比べて、安定的に利益を生み出せる形になったタイミングであり、大きな投資ができるようになったということでしょう。
――フルMVNO化を決断するまで、検討はどれくらい時間がかかったのでしょうか。
松田氏
一般的にどうなのか、というのはわからないのですが、今回のケースですと、2021年くらいから検討は始まりました。私が着任した時にも、「これをやっていこうと思ってるんだよ」と引き継ぎがあって、そのとき「あ、これはおもろい」と感じた記憶があります。
その段階で、「MVNO Operation Kit」も含めた構想、イメージは、今よりももっと曖昧なレベルでしたが、そういう考え方はありました。
少人数ですけれど、そういう「班」といいますか。専門で考えるチームの発足がそれくらいの時期でしたね。
――2021年の、検討を始める段階である程度の将来像は出ていたんですね。では、ゴーサインを出す、フルMVNOになろうと決断できた要素は?
松田氏
投資額の大きさは初期の段階から判明していました事業としてやるからには投資を回収し、事業として成長させなければいけません。そのための事業計画をどれだけ設計できるのか。
たとえば10年間といったスパンで見ると、「これがこう変わっていく、この中で、この基盤があるからこそできること」といった話を詰めていった。このあたりは社内でもすごく議論をしたところですね。
それで「これならいけるだろう」と導き出して。
その話をさらに社内でまた揉んで、ようやく決定できました。ここまでの期間はやっぱり長かったなというふうには思いますね。
――その頃のプレゼン資料とかめっちゃ拝見してみたいですが、どの会社でもあるお話ですよね。とはいえ、mineo事業の中で、フルMVNO化のインパクトの大きさはどれくらいなのでしょうか。
松田氏
間違いなく過去最大だと思っています。立ち上げの時よりもたぶん大きいでしょう。
――それをうかがうと、緊張でドキドキしますね、やっぱり。
松田氏
それもあって早くフルMVNOをやりたいです(笑)。通信業界の進化も速いですから。
一方で設備を作って運用する立場としては、しっかり確実なものにしたい気持ちもあります。できるだけ早く、品質もしっかり保つというバランスでフルMVNO事業の立ち上げを目指しています。
――ちょっと変な質問かもしれませんが、たとえば大阪城周辺だけ、mineoが基地局を設置して、そのエリアだけMNOになり、それ以外のエリアはフルMVNO……ということは実現できるんでしょうか?
松田氏
それはローカル5Gのような概念に近いかもしれませんね。ローカル5Gについては、過去にも検討していますので、なくはないのかな、という気がしますね。
「まだ具体的な姿は見えていない」
――フルMVNOでは、APIやSDK(ソフトウェア開発キット)も提供されますか。提供されるとすれば、世界のMNOが取り組むネットワークAPIに沿うのでしょうか。
松田氏
はい、提供するもののひとつになると思います。
APIを用意する際には、世の中の標準にはしっかり従うことが絶対必須だと思っています。独自APIを提供しても使いにくくなるかなと。
――そうなるとある程度APIとして「こういう機能があります、これができます」というのは開示されていくので、その機能がサービスがmineoに実装されたり、あるいはOperation Kitを通じて提供されると。
松田氏
どういうやり方がベストかは、これからイメージしていきます。具体像は、まだまだこれからですね。
――説明会では、サービス例として「音声通話のかけ放題」などが挙げられていました。
松田氏
単純な「かけ放題」のメニューを増やすというよりは、mineoらしさを活かしたいです。
合田氏
たとえば特定の相手との通話をより手厚くするようなメニューだったり、そういうことも考えていきたいなと思っています。
mineoのコミュニティ関連では、余った通話を分け合えることもできるのかもしれない、といった考えも検討している最中です。
松田氏
まだまだアイデアベースで、どうやって実現させるんだろう、という話ですけども。
合田氏
1月27日に(フルMVNO参入を)発表した日の夜に、ユーザーの皆さん向けに生配信でお知らせをしました。そこが(ユーザーに直接伝えた)最初になるんですけども、その生配信の中でも、ユーザーさんからいろんなアイデアや期待の声が出てきました。
松田氏
「アンテナのピクト(表示)がmineoになるんですか?」という質問とかもありました。 やっぱり「ピクトがmineoになる」っていうのは、ファンの方からすると少し盛り上がりがあるというか、コミュニティ的にも「あ、自分たちの(ネットワークだ)」という愛着がさらに増すポイントなのかな、というのは、お話ししていて感じましたね。
――細かいところですけど、iPhoneのAPNプロファイル設定とかeSIMのクイック転送って実現できるのでしょうか。
合田氏
具体的にどういう仕組みでこれが実現されているのか、まだ見えていないところもあって。
ただ、フルMVNOでコントロールできる範囲が広がれば、APNの自動設定であったり、eSIMのクイック転送といったところに対応できる余地というのは、もちろん広がるかなと思っています。
多分それだけではなくて、利便性向上については、現在のライトMVNOでは、できていないことがいくつかあろうかと思いますので、そういうところにはどんどんチャレンジしていけるのかなと思っています。
――そういう技術面、仕様は実際に実験繰り返してやってみないとわからないということになりますか。
合田氏
結構やってみないとわからないところもあるでしょうね……。今、我々が準備している設備だけでは、もしかしたら、ちょっと実現できないなというところも見えつつあって、ちょっと別の設備も置きつつやっていかなければいけないというところもあります。
松田氏
ひとつずつ剥いていけば剥いていくほど、「あ、こういうところもか」っていうのはやっぱり出てくるなとは思いますね。
合田氏
できるだろうと言いたいところですが、やってみないとわからないところもありますね。
――ちょっと楽しみですね。この取材のタイミングでは、まだどういうサービス像になるかはわからないとのことですが、いざ事業が始まって「これができました」というものをまた見てみたいです。
松田氏
私たちも(フルMVNOで実現できる/するサービスが)見えていないところはまだまだあるな、と思っています。そういう意味でも、なるべく早くやりたいです。輪郭が見えることで、新たに集まるアイデアも出てくるでしょうし、法人向けでもお話しやすくなるでしょう。
――フルMVNOでのコンシューマー向けの料金は、いつ発表になりますか? 事業開始と同時ですとか。
松田氏
そうしたいですね(笑)。やはり魅力あるものを作らないと「ご利用ください」とも言えませんから。がっかりされないように頑張ります。ただの料金にはしたくないと言いますか、「驚きと納得」を感じていただけるようにしたいです。
――ありがとうございました。












