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【第1018回】なぜ「大きさそのまま」で大容量化できるのか? シリコンカーボンバッテリーの仕組みと課題

 スマートフォンは、今や生活に欠かせないアイテム。それ故に気になるのが「バッテリーの持続時間」ではないでしょうか。モバイルバッテリーが充実しているとはいえ、やはりスマホ本体のバッテリーはできるだけ長くもってほしいもの。

 ここ数年、スマホのバッテリーは5000mAhが標準的でした。しかし、直近では大きさ・厚さはそのままに、7000mAhを超えるものも登場しています。その大容量を実現している技術が「シリコンカーボンバッテリー」です。従来の「リチウムイオンバッテリー」とはどう違うのでしょうか? 今回はそのメリットとデメリットについてお伝えします。

驚異の大容量・次世代「シリコンカーボンバッテリー」

 最近、「シリコンカーボンバッテリー」を採用するスマートフォンが、いくつか登場し始めています。

OPPOの「Find X9」発表会より(2025年12月)

 日本でも発売されているモデルとしては、Xiaomiの「REDMI Note 15 Pro 5G/Pro+ 5G」が代表例でしょう。容量6300mAhという大容量に加え、6年間の長寿命、さらにマイナス20度の低温環境でも性能を維持するといった、なかなかインパクトのあるスペックを謳っています。

 また、OPPOの「Find X9」も同様の技術を採用し、7025mAhという超大容量バッテリーを、比較的スリムな筐体に収めている点が話題になりました。

Find X9。超大容量バッテリーを比較的スリムな筐体に収めている

 この「シリコンカーボンバッテリー」、あるいは「シリコンカーボンアノードテクノロジーを採用したバッテリー」とは、一体どのようなものなのでしょうか。

リチウムイオンバッテリーの“改良版”

 シリコンカーボンバッテリーは、まったく新しい方式の電池というわけではありません。基本的には、従来から使われているリチウムイオンバッテリーの改良型です。

 充放電の仕組み自体は同じで、リチウムイオンが正極(+極)と負極(-極)の間を行き来することで、電気を蓄えたり、取り出したりします。違いがあるのは「負極」に使われている材料です。

 従来のリチウムイオンバッテリーでは、負極にグラファイト(黒鉛)が使われてきました。一方、シリコンカーボンバッテリーでは、シリコンとカーボンを組み合わせた複合材料が使われています。これにより、従来よりも高いエネルギー密度を実現できるようになりました。

 ちなみに、放電時に酸化反応が起こる負極は「アノード」、還元反応が起こる正極は「カソード」と呼ばれます。「シリコンカーボンアノード」という表現は、ここから来ています。

 では、なぜシリコンを使うとエネルギー密度が上がるのでしょうか?

 炭素(グラファイト)は、理論上、炭素原子6個に対してリチウムイオン1個を取り込むのが限界とされています。

 これに対してシリコンは、ケイ素原子1個あたり最大で約4.4個ものリチウムイオンを取り込むことができます。単純比較でも、理論容量は炭素の10倍以上。この差こそが、シリコンカーボンバッテリーが高エネルギー密度を実現できる最大の理由です。

なぜ、シリコンだけを使わないのか?

 「それなら、負極をシリコンだけにすれば、もっと大容量になるのでは?」と、思う人もいるかもしれません。しかし、シリコンには大きな弱点があります。それが「体積膨張」です。

 シリコンはリチウムイオンを取り込む際、体積が最大で約4倍にも膨張します。この膨張と収縮を繰り返すと、電極構造が壊れたり、電解液との界面が不安定になったりしてしまいます。その結果、バッテリーの寿命(サイクル寿命)が極端に短くなり、実用に耐えなくなってしまうのです。

 この問題を和らげるために開発されたのが、シリコンとカーボンを組み合わせる「シリコンカーボン」技術です。

 現在は、

  • 多孔質カーボン構造で膨張の逃げ場を作る
  • 膨張・収縮に耐える高性能バインダー(結着材)を使う
  • カーボンが導電性を確保しつつ、クッションの役割を果たす

 といった工夫によって、実用レベルの安定性が確保されつつあります。

シリコンカーボンバッテリーでスマホはどう変わる?

 最大のメリットは、やはりバッテリーの大容量化です。同じサイズでもより多くの電力を蓄えられるため、バッテリー持ちは確実に向上します。充電回数が減るだけでも、日常の使い勝手は大きく変わるでしょう。

 また、同じ駆動時間を確保したままバッテリーを小型化できるため、スマートフォンの薄型化・軽量化といったデザイン面の自由度も高まります。さらに、設計次第では高速充電性能の向上にも寄与する可能性があります。

 一方で、課題も残っています。

 まず、製造コストです。シリコン系負極材は、グラファイトに比べて製造プロセスが複雑で、コストが高くなりがちです。その分、端末価格に反映される可能性もあります。

 もう一つは、体積膨張による寿命への影響が、本当に十分抑え込めているのか、という点です。設計によっては、従来型バッテリーより劣化が早まる可能性も否定できません。

 体積変化の制御が不十分な場合、内部短絡や発熱といった安全性の問題につながる恐れもあります。

次世代バッテリーの本命になるのか?

 現時点では、シリコンカーボンバッテリーを本格的に供給しているメーカーは、Amprius、CosMX、Sunwoda、CATLなどに限られています。しかし、各社がナノ粒子化や負極構造の最適化などに力を入れており、技術は着実に進歩しています。

 これらの課題がさらに克服されれば、シリコンカーボンバッテリーは、スマートフォンやガジェットの「充電の不安」を大きく減らす存在になるかもしれません。

 次世代バッテリーの有力候補として、今後も注目しておきたい技術と言えるでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)