石川温の「スマホ業界 Watch」

KDDI髙橋社長から笑みがこぼれた理由――総務省で「NTT法見直し」巡る議論

 2023年12月13日14時頃。総務省の1階に現れた、KDDIの髙橋誠社長には笑みがこぼれていた。

 その20分ほど前、8階第1特別会議室で行われていた情報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会においてNTTの島田明社長から「NTTとして2025年のNTT法廃止を求めているわけではない」という言質を取ることができ、思わずニンマリしたようだった。

 12月5日に公開された自民党政調審議会の提言では「NTT法は2025年までに廃止すべき」という結論でまとめられていた。11日は岸田文雄総理大臣に手渡され、もはや「2025年の廃止は既定路線」とみられていた。

 しかし、この状況に待ったをかけたのが、有識者の一人である長田三紀委員(全国地域婦人団体連絡協議会幹事)だった。

 「自民党の議員だけでなく『NTT自身もNTT法はもういらない』と発言していることに、地方の人は不安を覚えている。NTTは(地方で)サービスを利用している皆さんにどうやって説明していくのか。国が決めれば、みんながついてくるとでも思っているのでしょうか」と島田社長に切り込んだのだ。

 確かに、NTTには全国あまねく電話サービスを提供するユニバーサルサービス制度が課されている。NTTとしては、固定電話事業は赤字が続いており、数年後には契約数も1000万を切るとされている。島田社長自身「固定電話事業のあり方を考える必要がある」と会見で述べていたりもするのだ。

 長田委員の質問に対して、島田社長は「私たちは音声のユニバーサルサービス制度がなくなればいいとは言ったつもりはない。(中略)離島を含めて、新しい技術を使いつつ、よりよい通信サービスを提供できるよう議論しているという認識で、マイナスの方向の議論をしているわけではないことは理解していただきたい」としたのだ。

 さらに長田委員は「個人的には、今回の議論はふって沸いたように思える。NTT法を2025年に廃するということ自体に、不安を覚えるユーザーの気持ちはどう思っているのか」と迫ったのだ。

 島田社長は「2025年に廃止するということは私たちが言っているのではなく、自民党の税務調査会が出した提言に書かれている」と、NTTが2025年とは言っておらず、あくまで自民党が言っているとしたのだ。

 そこにすかさず反応したのがKDDIの高橋社長だった。本来、キャリア側が主体となって発言するタイミングではなかったが、高橋社長は「私たちも発言したよろしいでしょうか」と手を上げ、委員長に了解を取ると、島田社長に「いま、NTTとして2025年(の廃止)を求めているわけではない、ということで、島田社長から前向きで良い話を聞けたと思う。ありがとうございます」と、しっかりと確認作業を行ったのだ。

 続けて高橋社長は「2025年にこだわらず、議論をすれば良いと考えますが、いかがでしょうか」と島田社長に念押し。

 島田社長は「私たちが2025年度に(NTT法廃止を)やると言っていないことは事実としてある。一方で自民党でそういう提言があったことも尊重すべきだと思う」と2025年という期限はあくまで自民党の提言からきているとしたのだ。

 さらにソフトバンクの宮川潤一社長は「今回、(島田社長から)NTT法廃止ありきではないという話を聞けて安堵した。2025年という年号も自民党のプロジェクトチームが勝手に言ったことも理解できた。そうであれば、NTTという会社がどうあるべきか、立ち止まって議論すべきだと考える」とダメ押ししたのだった。

会合後、囲み取材に応じるNTT島田社長

「2025年にこだわらない、いちばん良かった」

 審議会後のぶら下がり取材で、高橋社長はこの発言を振り返り「いちばん良かったのは島田さんが2025年にこだわらないと仰ってくれた。じっくりと議論していただける安心感。廃止にはこだわらないという言葉を聞けて本当に良かった」と喜んだのだ。

 ただ、これで終わりかと思えば、そうではなかった。このぶら下がり取材が終わった8時間後、NTT広報室のX(旧Twitter)アカウントが、プレスリリースを出したことをポストしたのだ。

総務省の通信政策特別委員会での議論を受け、一部の報道で「NTTは、2025年までのNTT法廃止は求めていない」との当社コメントが報じられていますが、一部、誤解が生じているおそれもあることから、改めて当社の見解をコメントさせていただきます。

 当該発言は、委員会において、「2025年にNTT法を廃止する」ことについて当社の考えを問われた際に、「2025年にNTT法廃止を求めているのは当社ではなく、あくまで自民党 政務調査会の提言である」事実を回答したものです。

 当社としては、自民党の提言を踏まえ、それらを実現するための様々な課題について議論を深めていくことが重要であると考えます。

 一方で、必要な見直しは、議論の結論を得た上で、可能な限り早期に行うことが望ましく、自民党の提言において見直し時期について、「2025年の通常国会を目途に」とされたことも含め、最大限尊重しながら議論を重ね、早期に結論を得ていくことが重要と考えています。
 当社としても、今後とも、積極的に議論に参加・協力していく考えです。

NTT(持株)12月13日付け「総務省 通信政策特別委員会(第10回)に関する一部報道について」

 島田社長が、帰社後、澤田純会長や柳瀬唯夫副社長にこっぴどく怒られたのか定かではないが、かなりのメディアが「NTTは2025年までのNTT法廃止を求めていない」という見出しを打ったことで、NTT広報室が火消しに回ったようだ。

 本来であれば、NTTの島田社長に対して、KDDIの髙橋誠社長、ソフトバンクの宮川潤一社長、楽天モバイルの三木谷浩史会長が直接議論すれば、実にスムーズに話が進むはずなのに、先日のX上でのバトル同様、なぜかNTT広報室のXアカウントがしゃしゃり出てきて、高橋社長や宮川社長、三木谷会長に絡んでくる構図が続いている。

 こんなことであれば、今後の総務省における審議会では、島田社長が登壇するのではなく、NTT広報室が出席すれば早く正確に議論が進むのではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。